「I want to live a second life with you.」カテゴリーアーカイブ

I want to live a second life with you.⑥

その夜。風呂から上がり寝室へ向かったトニーは、部屋に沢山の自分の写真が飾られていることに気づいた。そしてクローゼットには、自分が愛用していたTシャツやパーカーが収められ、ベッドには自分が使っていた枕が置いてあることにも…。
「あなたの匂いは消えてしまったけど、あなたが恋しくなったら、抱きしめて寝ていたの」
ベッドに座り込んだペッパーは、軽く枕を叩き整えた。そして隣にトニーが潜り込んでくると、ぎゅっと抱きついた。
「昨日、あなたが生き返ったと言われて一晩考えたの。今の私は本当の私かって。あなたといた時の私が本当の私。ヴァージニア・スタークなの。でも、ポールといる時の私は、ペッパー・ポッツを演じているだけだった。幸せな自分を演じているだけだった。天国にいるあなたに、私は幸せだから安心してと、見せようとしているだけだった。つまりね、寂しさからポールに甘えていただけで、彼のこと、本当に愛していたのではないって気づいたの」
トニーは黙ってペッパーの髪を撫でた。
「だから彼からプロポーズされても、すぐに承諾できなかった。そばにいてくれるのは誰でもよかったの。あなたの代わりなんて、誰も出来ないのに。だって、あなたは私の全てだったから。あなたが死んで私の半分は死んでしまったのだから。それでも私は、ただ誰かの温もりが欲しかった。あなたの代わりの温もりなんてあるはずがないけど、誰かの温もりが欲しかった」
胸元に顔を押し付けたペッパーは、小さく震えていた。

思っていた以上にペッパーの心にぬぐいきれないほどの深い悲しみを残していたことに、トニーは後悔した。
あの時、死を覚悟して準備をしていれば、ペッパーやモーガンにもっと色々なことを遺して逝けたのではないかと。いや、絶対に死なないように対策を練れたのではないかと。
「ペッパー、本当にすまなかった」
再び頭を下げたトニーに、顔を上げたペッパーは首を振った。
「トニー、お願いだからもう二度と謝らないで。あなたは何も悪いことはしていないわ。あの時、世界を救うのはあなたしかできなかったわ。あなたは命をかけて、モーガンの未来を守ってくれたんだから…」
「ハニー、すまな……」
謝りかけたトニーの唇を、首を伸ばしたペッパーはキスで塞いだ。
「また謝ろうとしたでしょ?」
可愛らしく睨みつけたペッパーは、トニーの身体の上に座ると彼の頬を撫でた。
「あなたとまた触れ合えるなんて、本当に夢みたい。夢じゃないわよね?」
「ああ、夢ではない。自分でもまだ信じられないから、君が信じられないのは当たり前だな」
苦笑したトニーは、ペッパーの腰に手を添えると、Tシャツの下に手を滑らせた。
「ん……」
小さく吐息を吐いたペッパーはトニーの頬を包み込むとキスをした。舌を絡ませ貪るようなキスを続けながらも、トニーの手はペッパーの背中を撫で回している。
唇を離したペッパーは潤んだ瞳で夫を見つめた。
ポールとキスをしても、その先が欲しいとは一つも思わなかったのに、トニーにキスされるだけで、身体中が彼を求めて疼き始めた。
「トニー……」
妻のTシャツを脱がせたトニーは、自分も服を脱ぐと、ベッドに彼女を組み敷いた。そして首筋から胸元に唇を這わせると、赤い花を幾つも散らした。その間にも、トニーの指は全身を這い回り、その繊細な指使いに、ペッパーは甘い声を上げ始めた。
(あぁ…早くトニーが欲しい……)
トニーの腕をギュッと掴むと、彼も同じ思いだったのだろう。
「ペッパー、愛してる」
とびっきり甘い声で囁いたトニーは、ペッパーの中にゆっくりと入っていった。

5年ぶりのお互いの温もりに、2人はどうしようもない程感じていた。
泣きながらトニーの名を叫んだペッパーが、一段と甲高い声を上げると、トニーも妻の身体を抱きしめ中で果てた。
その瞬間、ペッパーは幸せすぎてどうしていいのか分からなくなった。涙が止まらなかった。もう二度愛し合うことなど出来ないと思っていたのに、奇跡が起こり、最愛の男性に抱きしめられているのだから…。

5年間の空白を埋めるように、その夜2人は何度も求めあった。

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I want to live a second life with you.⑤

ペッパーとモーガンの家は、あの湖畔の家ではなかった。
「引っ越したんだな」
少しだけ寂しそうに笑ったトニーに、ペッパーは申し訳なさそうに瞬きをした。
「あの家は、あなたの思い出がありすぎたから。でも、あの家は手放してないのよ。あなたが恋しくなったら、モーガンと2人で泊まりに行っていたから」
そう告げると、トニーは黙ったまま小さく頷いた。
キョロキョロと辺りを見渡しているトニーに、モーガンは家の中を案内し始めた。その間にペッパーは手早くサンドイッチを作り、コーヒーとジュースを淹れリビングに戻った。するとトニーはモーガンを膝の上にのせて、楽しそうに話をしていた。5年前までは当たり前のように見ていた光景だが、モーガンは満面の笑みを浮かべていた。この5年間で見たことがないほど、モーガンは嬉しそうだった。それはポールといる時には決して見られなかった、心からの笑顔…。娘がようやく心の底から笑ってくれたことが、ペッパーは何より嬉しかった。

「出来たわよ。ペッパー特製サンドイッチよ」
頃合を見計らって声を掛けると、モーガンを下ろし立ち上がったトニーが、トレーを受け取ってくれた。
「相変わらず旨そうだな」
ペロリと舌で唇を舐めたトニーは、座り直すとサンドウィッチに手を伸ばした。
「美味い」
小さな涙を流したトニーは、幸せそうに目を細めた。

サンドイッチを食べ終わると、トニーは2人に話をし始めた。
「何故生き返ったのか、5年も経って生き返ったのか分からないが、まず言っておきたいことがある。モーガン、5年前、お前に何も言わずに死んでしまってすまなかった。ペッパー、あんな死に方をして、苦労ばかりかけてすまなかった」
頭を深々と下げたトニーに、ペッパーとモーガンは慌てて首を振った。
「トニー 、謝らないで」
「そうだよ、パパ。この間も言ったでしょ。パパは何も悪いことはしてないって」
2人からそう言われたトニーは、安心したのか顔を上げるとホッと息を吐いた。
「生き返った理由は分からないが、それはストレンジが調べると言っていたから、任せようと思う。だが、隠れて暮らす訳にはいかない。いずれ理由を付けて、生き返ったことは公表しなければならないだろう。だが、君たちはこの5年間、私のいない人生を歩んできた。だから私がその人生に再び戻って来てもいいのか、それが一番不安なんだ」
ペッパーとモーガンは顔を見合わせた。
『どうしてパパはそんな悲しいことを考えているの?』と言うように、モーガンが母親を見つめると、立ち上がったペッパーはトニーの隣に腰を下ろした。
「トニー、あなたはこの5年間、私たちの人生にずっといてくれたのよ。姿形は見えなくても、あなたはずっとそばにいてくれた。だから、そんなこと言わないで。あなたは戻ってきてくれた。こんなに嬉しいことはないじゃないの」
「ペッパー……」
泣き出しそうなトニーの頬を優しく撫でたペッパーは、そのままキスをしようとしたのだが、タイミング悪く携帯が鳴り始めた。断りを入れて画面を見たペッパーは顔を顰めた。
「ママ、どうしたの?」
モーガンの問いには答えず、ペッパーは何も言わずに部屋を出て行った。

目をぱちくりさせている父親に、モーガンは溜息を付いた。
「きっとポールおじさんからだよ」
「そうか…」
ペッパーには『ポールおじさん』がいるのだ。今の彼女の隣には、自分ではない他の男が…。
悲しそうに顔を歪めた父親に、モーガンは慌てて告げた。
「昨日ママに聞いてみたの。もしパパがそばにいたら、ポールおじさんとは結婚しないかって。そしたらね、ママ、言ってたよ。パパがいてくれるなら、そんな必要ないって。パパ、ママはね、パパのことを今でもずっと愛してるんだよ。パパじゃないと、ママはダメなの。パパが死んでからママは大笑いしなくなったんだから」
そこへペッパーが戻ってきた。
沈みこんでいるトニーと、慰めているモーガンに、ペッパーは首を傾げた。
「どうしたの?」
母親に向かってモーガンはわざとらしく眉をつり上げた。
「ポールおじさんからでしょ?」
「えぇ。夕食を食べに行く約束をしてたの。すっかり忘れてたけど。でも、トニーが生き返ったからとは言えないから、モーガンが熱を出したって、お断りしたわ」
不安げなトニーにペッパーはニッコリ笑った。
「だって、あなたがいるのよ。話したいことも沢山あるわ」
トニーの目の前に腰を下ろしたペッパーは、彼を安心させるように唇にキスをした。

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I want to live a second life with you.④

翌朝。
モーガンはペッパーを連れてストレンジの家に向かった。
ドアをノックすると、ストレンジがすぐに出てきた。
「待ってたぞ」
ペッパーに向かった頷いたストレンジは、2人を中に通した。
「トニーは…」
「いるぞ」
再び頷いたストレンジは、走って奥の部屋に向かったモーガンを見つめた。
「パパ!」
部屋に飛び込んだモーガンの声に続いて、男性の声が聞こえた。
「モーガン、よく来たな」
確かにトニーの声だ。
ペッパーはガタガタ震え始めた。夢物語のような出来事が、今すぐそばで起こっているのだ。
足がすくんで動けない。
こんなことがあるのだろうか…。死者が生き返るということなんて…。
トニーに会いたいという思いと同時に、少なからず恐怖も感じたペッパーは、ゆっくりと部屋に近づいた。
「今日はね、ママも来てるの!」
モーガンの嬉しそうな声に続いて、ガタっと大きな音がした。と、部屋から男性が飛び出してきた。
それは確かにトニー・スタークだった。ペッパーの愛する、たった一人の男性だった。
トニーの方も、離れた所に立っているペッパーの姿に、立ちすくんでしまった。
会いたくてたまらなかったはずなのに、これは夢で触れれば消えてしまうのではと…もしかしたら拒絶されるのではと、トニーは恐ろしくてたまらなかった。だが、会いに来てくれたのだから、きっとペッパーは受け止めてくれると考えたトニーは、やっとの思いで最愛の女性の名を口にした。
「ペッパー……」
トニーだ。本当にトニーが生き返ったのだ。
涙が次々と零れ落ち、カバンを落としたペッパーはトニーに向かって手を伸ばした。トニーも一歩一歩近づいて来た。が、距離はもどかしいほど縮まらない。ペッパーの歩みは次第に早くなり、ついには駆け足になったペッパーは、トニーの腕の中に飛び込んだ。

トニーに抱きついたペッパーは、すぅと息を吸い込んだ。
トニーの匂いだ。腕の温もりも何もかも、5年前と同じトニーのものだ。忘れるはずがない。間違えるはずがない。なぜならトニーは自分の一部だったんだから…。

「ペッパー…」
トニーの声に顔を上げると、涙で潤んだ琥珀色の瞳に見つめられた。
生涯でたった一人の最愛の男性の頬を両手で包み込んだペッパーは、確かめるように何度も触れた。
「トニー……トニー………」
泣きながら名前を呼ぶペッパーに、トニーは何度も頷いた。
言葉はいらなかった。
自然と唇を重ねると、ペッパーの耳の奥でドクドクと鼓動が鳴り響いた。
ポールとのキスは何も感じなかった。だが、トニーとのキスは、唇の温もりも柔らかな感触も全てを感じることが出来た。心にポッカリと空いていた穴が塞がり、ペッパーはようやく自分があるべき場所に戻ってきた気がした。

暫くして落ち着きを取り戻したペッパーは、トニーを連れて家へと帰ろうとした。自分は『死んだ』人間なのだからと、トニーは躊躇したが、ペッパーもモーガンも、一時もトニーとの離れていたくなかったため、半ば強引にトニーを連れて家へと帰った。

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I want to live a second life with you.③

その夜。
家の前で車を降りたペッパーにキスをしながら、ポールは尋ねた。
「明日の夕食、モーガンも一緒にどうだい?」
「えぇ、きっと喜ぶわ」
笑顔で答えるペッパーだが、ポールは顔を曇らせた。
「どうかな。モーガンは俺を受け入れてくれてない」
「時間が必要なの。きっと分かってくれるわ」
そう告げたペッパーは、ポールにキスをした。甘い口付けに、ポールはペッパーの身体を抱きしめると、耳元で囁いた。
「ところで、いつになったら君と朝まで過ごせる?」
と、ペッパーが身体を強ばらせた。
「もう少し待って…」
声を震わせたペッパーの背中をポールはスっと撫でた。
「婚約しているのに?」
「……」
いつもこうなのだ。ペッパーは決して一線を踏み越えようとしないのだ。いい雰囲気になっても、彼女は身を引いてしまう。その理由は分かっている。彼女には未だに彼の影がまとわりついているから…。
黙ったままのペッパーから身体を離したポールは、もう一度キスをした。
「いいさ。結婚するまで待つさ。愛してるよ、ヴァージニア」
「おやすみなさい」
そう告げると、ペッパーは足早に家へと向かった。

ポールは優しい。
だが、彼とキスをしても心はときめかない。
彼はトニーではないから。
いつまでも比べていてはいけないと分かっている。トニーはもうこの世にはいないのだから。トニーとキスをすることはもう二度とないのだから。

玄関の前で深呼吸をしたペッパーは、
「ただいま」
と明るい声で言うと、リビングへと向かった。すると真剣な顔をしたモーガンが待ち構えているではないか。
「ママ、話があるの」
「学校で何かあったの?」
いつになく真剣な娘に、ペッパーは首を傾げたが、モーガンは口をへの字に曲げたままだ。
「学校よりも、もっと大事な話」
これは本当に重大な話なのだと気づいたペッパーは、
「分かったわ。着替えてくるから待ってて」
と言うと、寝室に向かった。

服を脱ぎベッドに腰掛けると、『ハニー…』と、トニーの声が聞こえた気がした。
ベッドサイドのテーブルに置かれたトニーの写真を手に取ったペッパーは、愛おしそうに写真を撫でた。
「トニー………」

ポールとの関係を一歩踏み出せないでいるのは、やはりトニーのことを忘れられないからだ。トニーのことを心の底から愛しているからだ。
彼以上の存在は、永遠に現れることはないと分かっている。だが、いい加減、前に向かって歩かねばならない。トニーはきっと、人生を楽しめって思っているはずだから。

深呼吸したペッパーはクローゼットからトニーの古びたTシャツを出した。
トニーが死んだ後、思い出が詰まりすぎているあの家に住むのは無理だった。そこでここに引っ越したのだが、彼の物は何一つ処分することができず、あの家に全て置いてきた。あの家は、5年前のままだった。トニーの存在が5年経っても残っていた。そのため、ペッパーとモーガンは時折あの家に戻り、トニーの思い出と過ごしていた。
それでも毎日彼の存在を感じたくて、彼がよく着ていた洋服は寝室のクローゼットに入れてある。恋しくなるとトニーの服を着て、写真や動画を見て、彼の温もりを思い出していた。

Tシャツを被ったペッパーはもう一度深呼吸すると、モーガンの元へと向かった。

モーガンは恐ろしいほど真剣な顔をして待ち構えていた。
「話って?どうしたの?」
隣に座ってきた母親は、父親のTシャツを着ていた。ポールおじさんと過ごした日の母親は、いつも父親のものを身に付けていることに、モーガンはとっくに気づいていた。そしてその夜は、父親の思い出話をし始めるということにも。
そんな日だからこそ、父親が生き返ったという話を、生真面目な母親も信じてくれるかもしれないと、モーガンは心の中で気合いを入れた。
「ママ、私の話は信じられないかもしれないけど、ちゃんと聞いてくれる?」
首を傾げたペッパーは、不思議そうに娘を見つめた。
「ママはいつだってあなたの話を真剣に聞いてるわよ」
それはそうだけど…と、モーガンは気づかれないように目をくるりと回した。
「それは分かってる。でも、今からする話は、いつもよりも真剣に聞いて欲しいの。きっとママは信じられないって叫びたいって思う。私もそうだったから。でもね、嘘のような話だけど、本当の話だから……」
と、ペッパーがクスクス笑い出した。
「その言い方、トニーに…パパにそっくりね」
父親の話になり、モーガンはこれはチャンスと母親の話に乗ることにした。
「そうなの?」
「ええ。あなたは本当にパパにそっくりよ」
愛おしそうに娘の頬を撫でたペッパーは、トニーを思い浮かべた。
「パパはあなたという大切な存在を遺してくれたわ。パパにそっくりなあなたがいてくれたから…パパが命をかけて守ったあなたがいたから、ママは頑張ろうって思えたのよ」
モーガンがいたからこそ、トニー亡き後も生きてこられたのだ。娘がいなければ…トニーの生きた証がなければ、喪失感は何一つ埋めることが出来ず生きていただろう。
大きな琥珀色の瞳でモーガンは見つめてきた。その眼差しはトニーそのままで、娘に亡き夫の姿を重ねたペッパーは、笑みを浮かべた。
母親の表情は優しいが、少しだけ寂しそうで、ママは今でもパパのことだけを愛していると確信したモーガンは、単刀直入に尋ねた。
「ママはパパのことを愛してる?」
「えぇ。パパはママの全てだった。パパのことは今でも世界で一番愛しているわ」
「ポールおじさんよりも?」
娘の言葉にペッパーは一瞬黙ってしまった。だが、トニーと同じ瞳に見つめられ、娘に嘘をついても仕方ないと感じたため、正直に自分の気持ちを話すことにした。
「そうね。彼は…ポールはトニーとは違うの。トニー以上の人ってきっと現れないわ。でもね、モーガン。ママがいくらパパのことを愛していても、トニーはもう戻って来ないの。ママのそばにいてくれないの。ママもね、誰かそばにいて欲しい、そう思うことがあるの。だから………」
泣き出しそうになった母親に、早く父親のことを知らせたかったが、モーガンはもう一つ確認しておきたかった。
「じゃあ、パパがそばにいたら、ママはポールおじさんと結婚しない?」
と、ペッパーが眉をひそめた。
「もちろんよ。トニーがいてくれるなら、他の人と結婚する必要はないもの」
母親の言葉に、モーガンはようやく安心した。ママと生き返ったパパと3人で暮らしていけると感じたモーガンは、母親の手を握りしめた。
「じゃあ、ママ、ポールおじさんとお別れして!だって、パパが戻ってきてくれたから!」
ポカンと口を開けたペッパーは娘を見つめた。一体娘は何を言い出すのだろうかと、目を白黒させたペッパーは、何度も深呼吸をすると顔を顰めた。
「モーガン、大人をからかうのは…」
が、冗談ではなかったのか、モーガンは目を三角にすると怒鳴った。
「からかってない!本当の話なの!言ったでしょ!真剣に聞いてって!!」
頬を膨らませたモーガンだが、戸惑った様子の母親に、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。そして再び真剣な顔をすると、母親を見つめた。
「パパが生き返ったの」
ギョッとしたようにペッパーが目を見開いた。
「今朝ね、ストレンジおじさんが来たの。パパが生き返ったって教えてくれた。私も最初は嘘だって思った。でも、おじさんについて家に行ったら、パパがいた。パパに会ったの。本物のパパだったの」
父親に似て冗談好きな娘だが、今の娘は冗談を言っているのではなさそうだ。それにストレンジが絡んでいるとなると、本当の話なのだと、ペッパーはようやく理解した。が、生き返ったとは一体どういうことなのだろうか。あれから5年も経っているのに…。
「生き返るって……」
やっとの思いでそう言うと、モーガンは肩を竦めた。
「ママ、神様や魔法使いや宇宙人がいるんだから、パパが生き返っても不思議じゃないわ」
「そうだけど……」
娘はトニーに会ったからそう思えるのだろう。この目で確かめた訳ではないので、まだ半信半疑な母親に、これはちゃんと再会するまで信じてくれないと感じたモーガンは、提案した。
「パパに会いに行こうよ」
が、母親は黙ったままだった。そんな母親に、モーガンは悲しそうに顔を歪めた。
「パパに会いたくないの?」
「そんな訳ないわ!トニーは……ママの………」
思わず声を荒げた母親の目から零れ落ちた涙を拭ったモーガンは、手をそっと握りしめた。
「じゃあ、明日、パパに会いに行こう」

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I want to live a second life with you.②

翌日。トニーは決意した。このままここにいても、ペッパーとモーガンに会いたくなる一方だし、会えば迷惑を掛けるだけだ。だから、自分はどこか遠くに行こう。地球ではない、宇宙の果ての遠くの惑星か何処かに行き、そこで暮らそうと。
ストレンジに頼めばそれくらいの願いは叶えてくれるだろうと、彼の姿を探したが、ストレンジは何処かに出掛けているのか姿が見えない。家の中を探し回っていると、そのストレンジがひょっこり現れた。
珍しく顔をほころばせたストレンジは、トニーが言葉を発する前に口を開いた。
「お前に会わせたい人がいる」
そう言うと、彼はすぐ側にある部屋のドアを開けた。
部屋には一人の少女が立っていた。
それは…。
「…モーガン………」
見間違えるはずがない。少女はトニーの最愛の娘、モーガンだった。記憶の中にある娘より5年分成長していたが、一目見ただけで、トニーは娘だと確信した。
少女…いや、モーガンはトニーの姿に目を見開くと口を押さえた。が、すぐに大粒の涙が目元に浮かび、涙を堪えるように口を尖らせた彼女は、絞り出すように囁いた。
「パパ………」
駆け寄ってきたモーガンはトニーに抱きつくと、声を上げて泣き始めた。娘を抱きしめたトニーも涙が止まらなかった。
二度と会えないと思っていた娘が、今自分の腕の中にいるのだ。娘に会えないのならと、生き返ったことを恨んだこともあったが、今ばかりは感謝しかなかった。

しゃくり上げながら顔を上げたモーガンは、トニーをじっと見つめた。
4歳で突然父親と永遠の別れを迎えたため、声も温もりも正直あまり覚えていなかった。だが、こうやって父親に抱きしめられると、あの頃の父親との記憶が鮮明に蘇ってきた。温もりも何もかもが、大好きなパパのものだ。もう二度と触れ合うことが出来ないはずの父親が、目の前にいるのだから、モーガンは感無量で何を言っていいのか分からなかった。

「モーグーナ、大きくなったな」
愛おしそうに娘の頬を撫でたトニーは、涙を袖で拭き取ると、軽くキスをした。チクチクとした髭の感触はとても懐かしいもので、くすぐったそうに笑ったモーガンは、甘えるように父親の首に腕を回した。
モーガンをそのまま抱き上げたトニーは、ソファーに移動した。そして娘を膝の上に座らせると、もしもう一度娘に会えるなら言いたかったとずっと考えていたことを伝えることにした。
「モーガン、すまなかったな。急に死んで……」
トニーの言葉を遮るように、モーガンは首を振った。
「謝らないで、パパ。パパだってそんなつもりなかったんでしょ?だから謝ったらダメ」
その言い方はペッパーそっくりで、トニーは小さく笑みを浮かべた。つられるように笑みを浮かべたモーガンは、父親の手に触れると話し始めた。
「ストレンジおじさんが、パパが生き返ったって教えてくれたの。最初は信じられなかった。だって、人間が生き返ることなんてないでしょ?でも、奇跡が起こったって、ストレンジおじさんはパパの映像を見せてくれたの。本当にパパだった。だからパパに会いたいってお願いして、連れてきてもらったの。でもね、パパが生き返ったこと、ママはまだ知らないの。ママにはまだ言ってないから……」
何となく言いにくそうに口ごもったモーガンに、トニーはあのTVの映像を思い出した。
「ペッパーは………ママは元気か?」
そう言うのが精一杯だった。するとモーガンは悲しそうに頷くと、視線を伏せた。
「あのね、ママね…。パパじゃない男の人と……」
小さな涙をポロリと流した娘に
「モーガン、ママの人生だ。ママにもそばにいてくれる人が必要なんだ」
と、トニーはやっとの思いでそう告げたが、モーガンは顔を上げると首を振った。
「ママね、今でもパパのことだけを愛してるって言ってた。でも、寂しいって。誰かにそばにいて欲しいって、ずっと言ってたの。だからポールおじさんと出会って、ママはおじさんにそばにいて欲しいって言ったの」
『ポールおじさん』というのがあの男性の正体で、ペッパーとモーガンと共に暮らしているのだ…。そう考えると取り乱しそうになったトニーだが、娘の前だからと必死で我慢した。そんな父親の気持ちに気づいたのか、モーガンは肩を竦めた。
「パパ、安心して。ポールおじさんとママはまだ結婚はしてないのよ。私が嫌って言ってるから。私ね、おじさんのこと、『パパ』って言いたくない。私のパパはトニー・スタークだけだから。おじさんは私に『パパ』って呼んでもらいたいんだって。父親になりたいって。でも私……」
「モーガン……」
娘の思いにトニーは涙が出そうになった。死しても尚、娘は自分のことをこんなにも慕い愛してくれていたのだと、トニーは嬉しくて堪らなかった。娘を抱きしめると、モーガンも父親の胸元に顔を押し付けた。
「それにね、ママもなの。ママも婚約したけど、結婚はまだ待ってって言ってるの。どうしてって聞いたら、ママ、言ってた。ママはまだパパのことを愛してる。パパのことを忘れられない。パパはママの人生そのものだった。おじさんは良い人だけど、パパといる時みたいに楽しくないって…。ママ、よく泣いてるの。トニーに会いたいって……」
トニーは何も言えなかった。勿論ペッパーがそう思ってくれていることは嬉しい。だが、自分の存在は未だ彼女にまとわりついているのだ。せっかく自分の人生を歩もうとしているのに、ここで会えば、またペッパーの人生を掻き回してしまうのではと、トニーは途端に怖くなった。
そのため、
「パパ、ママに話していい?パパが生き返ったこと」
と、モーガンに尋ねられても、トニーは即答出来なかった。なかなか頷かない父親に、モーガンは何度も頼んだ。母親に話しても良いかと。
「パパ、お願い」
娘の縋るような視線に、トニーも会いたいという思いを抑えきれなくなり、彼は小さく頷いた。

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