久しぶりに2人きりの夜は、永遠に続いて欲しいと思うほど、最高の夜になった。
いつもはモーガンがいるから…と、声を抑え気味なペッパーも、今宵ばかりは感じるがままに思いっきり声を出した。妻の妖艶な声はトニーを駆り立て、2人は激しく求めあった。
結局、日付が変わるまで愛し合った2人は、ベッドの中で抱き合い、余韻に浸っていた。
「来週はモーガンを連れて来よう」
腕の中に閉じ込めたペッパーの髪を撫でながら、トニーはそう告げた。
「きっと気にいるわ」
頷いたペッパーは顔を上げると、トニーを見つめた。
「トニー、私たちの物語は、ハッピーエンドを迎えられそうね」
妻の言葉にトニーは一瞬目を見開いた。
『皆ハッピーエンドが好きだが、そうじゃないこともある』
あの遺言めいたメッセージに、そう吹き込んだ。あのメッセージを聞くということは、自分が何らかの形で命を落とすということだから、ハッピーエンドを迎えられないと、自分に言い聞かせるように吹き込んだ言葉だった。みんなハッピーエンドが好きに決まっている。ペッパーとモーガンも…。そしてトニー自身も、本当はハッピーエンドを迎えたかった。それなのに、あの時、あんな形で最期を迎え、ハッピーエンドを迎えられなかった。
あのメッセージを、ペッパーとモーガンはどんな気持ちで受け止めたのだろうか…。
「ハニー…」
何か言わねばと、言葉を続けようとしたトニーだが、何と言っていいか分からなかった。この先、本当にハッピーエンドを迎えられるかなんて、誰にも分からないのだから…。
トニーの気持ちを察したのか、僅かに目を潤ませたペッパーは、トニーの頬を両手で包み込むと、唇にキスをした。そして唇を離した彼女は、
「3000回愛してるわ」
と告げると、にっこり笑った。
その時トニーは確信した。
今度こそ、自分たちはハッピーエンドを迎えられると。
が、照れくささもあり、素直になれないトニーは、わざとふんっと鼻を鳴らした。
「君は600から900かそれくらいだと思っていたが」
「そういうあなたは12%くらいでしょ?」
お馴染みのセリフに、目をくるりと回したトニーだが、ハハっと笑い声を上げた。そしてペッパーの肩を抱き寄せると、ぎゅっと抱きしめた。
「3000回では足りないな。3億かもしれないし3兆かもしれない。君の言う通り、今度こそハッピーエンドを迎えられそうだ。君とモーガンがそばにいてくれるんだ。ハッピーエンドに決まってるさ」
すっきりとしたトニーの声に安心したペッパーは、彼の胸元に顔を押し付けた。
5年前、葬儀の後、彼の象徴のような存在であったリアクターを湖に流した。ずっとそばにいて欲しいという思いもあったのだが、リアクターが必要ない世界で彼がゆっくり眠れますようにという思いもあった。
奇跡が起こり、彼は戻ってきてくれた。彼の胸にあるのは、リアクターではなく、大きな傷跡だけ。
リアクターの必要のない世界で、彼は今度こそハッピーエンドを迎えることができるのだ。そしてそのそばに、自分と娘がいる…その奇跡にもペッパーは感謝せずにいられなかった。
(私たち、今まで以上に幸せになりましょうね…)
トニーのキスを顔中に受けながら、ペッパーはこれから家族3人で歩んでいく未来を想像しながら、目を閉じた。
【END】