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Love of the mermaid⑤

こうして、トニーとペッパーは共に暮らし始めた。ペッパーはプールから出ることが出来ないが、彼女が退屈しないようにと、トニーは様々なことをしてくれた。
プールサイドで食事を取り、大きなスクリーンで映画を見ることもあった。そしてペッパーが人間社会のことを知ることができるよう、トニーは沢山の本や雑誌や映像などを用意し、自分が不在の間はJ.A.R.V.I.S.に話し相手になるよう命じていた。そのお陰で、1週間も経つと、ペッパーは人間の暮らしというものを理解できるようになっていた。

ある日のこと。
トニーは仕事に行っており不在で、ペッパーはJ.A.R.V.I.S.相手に話をしていた。
「ねぇ、J.A.R.V.I.S.さん…。私はどうして人間じゃないのかしら…。人間だったら、トニーともっと色々なことを一緒に出来るのに…」
はぁと溜息を付いたペッパーは、プールサイドにもたれ掛かった。
ここ数日、ペッパーはトニーにもっと触れたくて堪らなかった。毎日キスはしているが、自分は水から出ることもできず、いつもプール越しのキスでしかなかった。人間ならば、トニーに料理を作ってあげたり、外に出かけることもできるのに、自分はただここで待つことしか出来ないのだ。
しょんぼりと頭を垂れるペッパーを励まそうと、J.A.R.V.I.S.は言葉を選びながら話し始めた。
『ペッパー様。トニー様はあなた様のことを愛していらっしゃいます。姿形ではなく、心優しく聡明なあなた様ご自身を…。トニー様が心の底から愛された女性は、ペッパー様、あなた様が初めてなのですから…』
トニーの愛情が本物であることは分かっている。だが、ペッパーは知りたかった。外の世界でのトニーの姿を見てみたかった。
それに怖かった。毎日抱き合うことの出来ない自分に、いつの日かトニーが飽きてしまうのではないかと。そしてその時、自分は海に帰ることもできず、ペットのように飼われるのではないかと…。
『私の心に住んでいる女性はペッパー、君だけだ』
甘い言葉と共に贈られたルビーのネックレスに触れたペッパーは、寝室を見上げた。あの部屋は、満月の夜のみ入ることを許される部屋…。トニーがヨーロッパに向かっていた間に満月を迎えてしまったため、人間の姿になることが出来るのは随分と先だ。
恨めしそうに尾鰭を見つめたペッパーは、空を見上げた。白くぼんやりと見える月は、真ん丸には程遠い。
(神様…お願いします…。トニーのそばにずっといたいんです…。彼のためなら何でもします…。ですから…私を…人間にして下さい…)
心の中で何度も祈ったペッパーは、目を閉じた。

『お前の願い…叶えてやろう…』
どこからともなく聞こえてきた声に、ペッパーは目を開けた。すると、プールのそばに見知らぬ男が立っていた。真っ黒なフードを被った男の顔は見えず、どこか邪悪な雰囲気を漂わせている。
小さく身震いしたペッパーに、男は抑揚のない声で囁いた。
『あの男と共にいたいのだろ?お前を人間の女にしてやろう』
「ほ、ホントですか?!」
先ほどの願いを神様は聞き入れて下さったのか、思いもよらぬ展開にペッパーは目を輝かせた。喜ぶペッパーに男はニンマリと笑み浮かべた。
『だが、タダで…という訳にはいかん。お前が人間の姿を保つには……』
人間になれる方法があると知ったペッパーは、男の言葉の意味を深く考えず頷いた。
『契約完了だ…』
男がペッパーに杖を向けると、ペッパーの身体は光に包まれた…。

「……ペッパー……ペッパー?」
トニーの声に目を開けると、帰宅したばかりなのだろうか、スーツ姿のトニーが心配そうに覗き込んでいた。
いつの間にか眠っていたようで、辺りはすっかり暗くなっている。何度か目を擦ったペッパーは、大きく伸びをすると、トニーにキスをした。
「おかえりなさい」
が、何故かトニーは戸惑った表情を浮かべているではないか。どうしたのだろうかと小首を傾げたペッパーに、トニーは鼻の頭を擦った。
「それより…今日は満月だったか?」
えっ?と思ったペッパーは慌てて下半身を確認した。すると、尾鰭の代わりにスラリとした足があるではないか。
つまり、先ほどの出来事は夢ではなかったのだ。見る見るうちに弾けんばかりの笑みを浮かべたペッパーは、身体を起こすとトニーの手を取った。
「いいえ。満月ではないですが、私の願いが叶ったんです。人間の姿になって、あなたと一緒にいたいという願いが…」
目をぱちくりさせたトニーだが、暫くして目を見開いた彼は、満面の笑みを浮かべペッパーに抱きついた。
「奇跡が起こったのか?!おい、ペッパー!これこそ奇跡だ!」
顔中にキスをし始めたトニーだが、ペッパーを抱き上げると、そのままキスをしながら寝室へと向かった。

⑥へ…

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Love of the mermaid④

その日から、普段はトニーの家のプライベートビーチで、そして週に一度はトニーが船を出し、海上でデートする日々が続いた。
沢山話をし共に過ごすことで、2人は互いに掛け替えのない存在となっていた。
そして半年も経った頃には、トニーはペッパーと生涯を共にしたいと考えるようになっていた。それはペッパーも同じなのだが、種族を超えた愛を実らせる方法があるはずもなく、2人は今共にいることを大切にするよう過ごしていた。

ある日のこと。
「暫く会えない」
波打ち際に寝転んだトニーの胸元に顔を摺り寄せていたペッパーは、その言葉に顔を上げると尾鰭で水面を叩いた。
「どうしてですか?」
トニーが仕事で不在な時は数日会えないこともあったが、トニーがこのような言い方をするのは初めてのことだった。それ故に、ペッパーは一気に不安に襲われた。どれだけトニーを会うことが出来ないのかという不安に…。
泣き出しそうになったペッパーを安心させるようにトニーは彼女をぎゅっと抱きしめた。
「仕事でヨーロッパへ向かう。アベンジャーズの仕事だから、いつ戻れるか分からない。2、3日かもしれないし、数週間かもしれない…」
アベンジャーズの仕事ということは、トニーの身が危険に晒される可能性もあるということだ。が、彼はアイアンマンであることは自分の使命だと考えているのだから、彼に後ろ髪を引かれるような思いをさせてはいけないとペッパーは考えた。
「お戻りになるのを待ってます…」
必死で涙を堪えているペッパーがいじらしくなったトニーは、くるりと身体を反転させると、砂浜にペッパーを押し倒した。
全身にキスを刻み付けられ、お腹の奥が熱くなり始めたペッパーはトニーの首元に腕を回すと唇を奪った。甘く熱いキスに頭の中がぼんやりとし始めたペッパーは唇の隙間から吐息を漏らした。
「今日は満月ではないから、愛し合えないな…」
唇を離したトニーは残念そうに顔を顰めると、ペッパーの首筋に赤い華を刻み付けた。そして彼女の美しい赤毛に指を滑らせると、赤い珊瑚の髪飾りに触れた。
「これ、綺麗だな。ずっと付けているが、お気に入りなのか?」
出会った時からペッパーはこの髪飾りを毎日付けている。彼女に何か贈り物をしようと考えていたトニーは、彼女がこういう類の物を好むのかと尋ねてみたのだが、返って来た返答は意外なものだった。
「いいえ。これは産まれた時から付いているものなんです。人魚である証ですから、外すことはできません」
つまりこの髪飾りがある限り、ペッパーと共に過ごすことはできないということだ。
「そうか…」
一体どうすればいいのだろう。彼女と何の隔たりもなく過ごすためには…。だが、今の自分たちにはどうすることもできないのだと考え直したトニーは、少しの間離れ離れにならなければならない恋人に再びキスをし始めた。

それから1週間経った。
アベンジャーズの仲間と共にひと仕事終えたトニーは、クインジェットの整備をしていた。
と、J.A.R.V.I.S.が慌てたようにトニーに声を掛けた。
『トニー様、大変でございます』
するとトニーの目の前にモニターに、夕方のニュースが映し出された。
『独占スクープです。トニー・スタークの新恋人の姿をついに捉えました。1週間前、我々はビーチでキスをする2人の姿を偶然撮影することができましたが、女性の姿をはっきりと捉えることはできませんでした。が、1週間に渡り、スターク邸宅の付近を張り込んだ結果、その姿をついに捉えることに成功しました!が、何と、彼女は人間ではありません!彼女には脚の代わりに、何と尾鰭があります!専門家によりますと、女性は空想上の生き物と考えられていた人魚ではないかとのことです…』
「おい…J…」
ペッパーの…いや、人魚の存在が知れ渡ってしまったと、トニーは顔色を変えたが、そんな彼に追い打ちをかけるように別のニュース映像が流れ始めた。
『…学術的にも大変貴重な資料になると、専門家は人魚捕獲に乗り出しました…』
人魚を捕まえようと、沢山の船がマリブの海に浮かんでいた。中には銃を構えている者もおり、トニーは唇を震わせた。
「ペッパーは?」
『分かりません。ですがトニー様。一度お戻りになられた方がよろしいかと思います』
頷いたトニーは、仲間に断りを入れると、急いでマリブへと戻った。

***

数時間後、マリブに戻って来たトニーは上空からペッパーを探した。だが、人魚を捕獲しようとしている沢山の船はあるが、肝心のペッパーの姿はどこにもなかった。
もしやすでに捕まってしまったのかと思いつつ、いつものビーチに向かうと、岩陰に誰かが倒れているではないか。
近づいてみると、それはペッパーだった。
「ペッパー!」
慌てて駆け寄ったトニーはペッパーを抱き起した。
傷だらけのペッパーは意識を失っており、早く介抱しなければと、ペッパーを抱き上げたトニーは家へと急いだ。
もしもの時のために…と用意していたプールの囲いを起動したトニーは、海水と同じ濃度に調整するようJ.A.R.V.I.S.に命じると、ペッパーをソファに寝かせた。
『トニー様、準備が整いました』
すぐに準備は整い、アーマーを脱いだトニーはグッタリとしたペッパーを抱き上げると、プールに飛び込んだ。
「ペッパー…ペッパー…」
水を掛けながら何度も名前を呼び続けると、ペッパーは薄らと目を開けた。
「トニー…」
トニーの姿を見て安心したように笑みを浮かべたペッパーは、そのまま目を閉じた。

数日経ち回復したペッパーだが、目の前の海では、まだたくさんの船が人魚を捕獲しようと躍起になっていた。報道によると、ダイバーを投入して海中まで捜索しているらしいのだから、トニーはペッパーの家族が無事なのか気が気ではなかった。
「君のご家族は無事なのか?」
プールの中を泳いでいたペッパーは、プールサイドに腰を下ろしているトニーのそばまでやって来ると頷いた。
「はい。あなたに会いに行く途中で襲われたので。それに、海の王国には、人間は絶対に辿り着くことができませんから大丈夫です」
確かに今まで海の王国の存在自体知れ渡っていないのだから、今回の捜索で見つかるはずがない。要らぬ心配だったなと鼻の頭を掻いたトニーだが、いい加減にペッパーを海に返さねば、彼女の家族は心配しているだろうと考えた。だがその一方で、このまま彼女をここに閉じ込めておきたいという気持ちもあった。
「これからどうする?外ではまだ君を捕まえようとしている連中がウロウロしている。今、海に帰れば捕まってしまうかもしれない。そこでだ」
コホンと咳払いしたトニーは、自分の気持ちに素直に従うことにした。
「ここで暮らすのは無理なのか?」
トニーの言葉にペッパーは何度か瞬きした。
「ここで…ですか?」
ペッパーは戸惑った。トニーと共に暮らすことは夢だが、自分は人間ではなく人魚なのだ。つまり、このプールから出ることも出来ないのだから…。
「ですが…私はここから出ることができません。あなたと一緒に暮らしても、人間ではない私は何もできないんですよ?」
ペッパーにも自分と共に暮らしたい気持ちがあるが、人間のように暮らせないため躊躇しているらしい。そう気づいたトニーは、笑みを浮かべるとペッパーの頭を撫でた。
「何もできないことはない。君がそばにいて笑ってくれているだけで、私は幸せなんだから…」

⑤へ…

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Love of the mermaid③

それから2日間…つまり満月の前日までペッパーは現れなかった。
そして約束の3日後。
海を眺めてため息ばかりついているトニーにJ.A.R.V.I.S.は月齢表をモニターに映し声を掛けた。
『トニー様、今宵は満月でございます』
J.A.R.V.I.S.の言葉にはぁと大きく溜息を付いたトニーは、つまらなそうに唇を尖らせた。
「知ってる…。今夜ペッパーが現れなかったら…。海へ再び身を沈めれば会えるのだろうか…」
そう言うと、トニーは海を眺め始めた。
と、馴染みの顔が水中から現れた。
「ペッパーだ!」
勢いよく立ち上がったトニーは、家を飛び出して行った。
そのまま海まで全速力で向ったトニーだが、ペッパーに近づくにつれ違和感を感じた。
「ペッパー…」
目の前で微笑んでいるのは、確かにペッパーだ。だが、彼女は浜辺に立っていた。薄い絹のような布を纏った彼女からは魚のような尾鰭は消え、人間と同じ足があったのだ。
戸惑っているトニーに、ペッパーはいつものように微笑みかけた。
「満月の夜は、願いが1つだけ叶います。ですから、私は願いました。尾鰭ではなく人間の足を下さい…と。夜明け前には海に戻らねばなりませんが…。これなら、今宵はずっとあなたと一緒に過ごせます」
ゆっくりとペッパーに近づいたトニーはキスをした。そして彼女を抱き上げると、家へと戻って行った。

トニーとの一夜は、ペッパーにとって生涯忘れならない最高の一夜だった。何もかもが初めてのペッパーにも、トニーは優しかった。彼の優しさに触れ、そして力強い腕の中に抱きしめられる度に、彼への思いがどうしようもない程溢れ出てきた。彼と同時に高みに登り詰め、彼のもので身体中満たされた瞬間、このまま時が止まればいいのにと思った。
ずっとそばにいたいが、夜が明ければこの魔法は消えてしまう。そして陸の上では、人魚の姿ではものの数分で息絶えてしまうのだ。
別れ際までキスをしていた2人だが、ペッパーは夜明け前に海へと戻って行った。

海の王国に戻ってきたペッパーは、物知りの長老の元へと向かった。
「姫、どうなさいましたか?」
急にやって来たペッパーを長老は温かく迎えてくれた。
どう切り出せばいいかと少し迷ったペッパーだが、自分のこととは言えないため、友達が人間に恋をした、どうやったら一緒にいられるのだろうか相談されたので、アドバイスを求めに来たと長老に告げた。
話を黙って聞いていた長老は、ふぅと溜息を付いた。
「姫。我々と人間は種族が違います。人間の寿命は100年もありませんが、我々は数100年…いえ、1000年でも生きる者もいます。人間と我々では、時の流れの速度が違うからです。ですから、例え共にいることができても、人間はあっという間に死んでしまいます」
それは分かっている。だからこそ、ペッパーが知りたいのは、人魚であることを捨て、人間になる方法だった。
「では、私たちが人間になる方法はないんですか?」
必死に食い下がるペッパーに、長老は仕方なく古くからの言い伝えを教えることにした。
「ありません。仮初めの姿ならば、方法はあります。ですが、陸に上がることはできません。海に浮かぶ岩の上ならば、一時的に尾鰭は消え、人間の足になります。人間に見つかった時に難を逃れられるよう、神が与えてくださった力です。それでも時折海水を浴びなければ、呼吸ができなくなりますが…」
そんな方法があるなんて知らなかった。目を輝かせたペッパーだが、この近くに2人でゆっくりできるような岩場はないし、そもそもトニーは人間なのだから、そんなに遠くまで泳いでくることはできないと気づくと、ガックリと頭を垂れて長老の家を後にした。

と、その時だった。
「ペッパー!」
海の上からトニーの声が聞こえた。急いで海面へと向かうと、船の上にトニーがいた。
「トニー?!どうしたんです?」
サングラス掛けているが、見るからに楽しそうに笑ったトニーは、柵を乗り越えデッキの淵に座り込んだ。
「君に会いに来たんだ。陸には上がれないのだろ?それなら船の上ならば大丈夫かと考えた」
トニーがわざわざ海の上まで会いに来てくれると思ってもいなかったので、ペッパーは嬉しくて堪らなかった。腕を伸ばしトニーの足に抱きついたペッパーは、尾鰭でパタパタと水面を叩いた。
と、トニーとは違う男性の声がした。
「ホントだ…」
顔を上げると、恰幅のいい男性がトニーの後ろから顔を覗かせていた。トニー以外の人間に見つかってしまったと身体を震わせたペッパーを安心させるように、トニーは彼女の頭を撫でた。
「ハッピーだ。私のボディーガードだ」
くるりと振り返ったトニーは、ハッピーに向かってニヤリと笑った。
「人間と変わらないぞ?現に昨日、セック……」
どうやって…と目を白黒させたハッピーだが、詳細を話されても困ると慌てて首をブンブン振った。そして気持ちを落ち着かせようと何度か咳払いをしたハッピーは、ペッパーに向かって頭を軽く下げた。
「初めまして。ハロルド・ホーガンです。ハッピーとお呼びください。ペッパーさんのことは、ボスから耳にタコができるくらい聞いていました」
先程とは打って変わって優しげな笑みを浮かべたハッピーに、ペッパーは彼もトニーと同じように信頼しても大丈夫な人間だと理解した。
「初めまして。ヴァージニアです…」
ニコッと笑ったペッパーだが、この海に浮かぶ乗り物なら、先ほどの長老の話が上手くいくのではと考えた。
「トニー、先ほど長老から良いことを聞きました。海上に浮かぶ物の上では、人間の姿になれることを…」
「本当か?!」
「はい。時折海水を被らなければならないとのことですが…」
そう言いつつ、一度海中に消えたペッパーだが、勢いよく浮き上がると、デッキに向かって飛び跳ねた。
キラキラと水の雫と共にデッキに上がってきたペッパーからは尾鰭が消え、スラリとした足が現れた。
が、何一つ身に纏っていないペッパーに、トニーは青ざめ、顔を真っ赤にしたハッピーはその場に卒倒した。

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Love of the mermaid②

翌日から、ペッパーは頻繁に顔を覗かせるようになった。
そしてトニーも屈託のないペッパーと会うのが楽しみになっており、夕方になると毎日窓の外を眺めるのが日課になっていた。
人魚の寿命は数百年と長寿なため、海の王国には物知りが大勢いたが、彼らに劣らず頭が良く博学なトニーはユーモアたっぷりに人間の世界の話をしてくれるのだ。そしてペッパーも、海の王国の伝承などをトニーに話聞かせてたのだが、彼が最も驚いたのは、王国の姫であると語った時だった。
「ということは、君はあの人魚姫か?」
どの人魚姫のことをトニーが言っているのかは分からない。もしかしたら10人いる姉のうち、誰かのことを言っているのかもしれないし、別の海の王国の姫の噂話かもしれない。だが、自分が王国の姫に違いはないのだ。
「そうですね。そういうことになりますね」
頷いたペッパーに、トニーは何度か瞬きしたが、話題を変えるように今日のアイアンマンの仕事について話し始めた。

それから数週間後のこと。
「たまには私も海に入ろう」
水着を履いて来ていたのだろう。トニーはTシャツを上に着たまま、海へと飛び込んだ。
スイスイと泳ぐトニーだが、ペッパーにあっという間に追いつかれた。
「やはり君には海では勝てないな」
ハハッと笑い声を上げたトニーは本当に楽しそうで、ペッパーは思わず彼の両手を握りしめた。
と、トニーが真顔になった。
「ペッパー…」
真剣な眼差しをしたトニーの顔が近づいてきた。ペッパーがそっと目を閉じると唇が触れ合った。重なり合った唇は温かく、その温もりをさらに求めるかのように、2人は固く抱き合った。
時が止まったかのように2人はキスに夢中になっていたが、やがて吐息とともに唇を離した。
「ペッパー…」
いつもより甘く低い声で囁かれ、ほんのりと頬を赤らめたペッパーは彼のTシャツを握りしめた。
種族の違う者同士なのに、出会った時から互いの存在は愛おしいものになっていた。
「…ペッパー…愛してる…」
珍しく素直に自分の気持ちを伝えたトニーは、耳の先まで真っ赤になっているペッパーの頬をすっと撫でた。プレイボーイと名高いトニーとは違い、ペッパーにとっては初めての恋。トニーに触れられる度に身体の奥が熱くなり、彼女は尾鰭をピクピクと震わせた。
「私も…あなたのこと…愛してます…」
消え入りそうな声で囁いたペッパーだが、気持ちが通じあった2人は再びキスをし始めた。
トニーの舌が唇の隙間から入ってきた時も、キスすら初めてのペッパーはどうすればいいのか分からなかった。彼女は何もかもが初めてなのだと気づいたトニーは、先導するように彼女の舌に自分の舌を絡めた。深く甘い口付けに、ペッパーは鼻先から甘い吐息を漏らし始めた。このまま彼女と愛し合いたいと考えたトニーは、ペッパーの背中に這わせていた手を下ろしていくと尻を撫でようとしたが、ふと気づいた。
人魚と愛し合うにはどうしたらいいのだろうか…と。
だが、いかにも初心者のペッパーに、そういうことを聞いていいものか分からない。
唇を離したトニーは、ペッパーの首筋に舌を這わせると耳元で囁いた。
「ペッパー…君が欲しい…」
そう告げてみると、耳の先まで真っ赤になったペッパーはトニーにしがみついた。
先日18歳になったペッパーは、姉たちからは人魚との愛し合い方は聞いていたが、人間との愛し合い方は聞いたことがなかった。が、恐らく人間の姿になればトニーと愛し合うことができるのだろう。となると、方法はただ一つ。
「…満月までお待ちください…」
「満月?」
「はい。3日後の満月まで…」
顔を上げたペッパーは恥ずかしそうに目を瞬かせると、トニーにキスをし、海へと帰って行った。

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Love of the mermaid①

数分前まで喧しい程鳴っていた警告音が突然止んだ。ついにシステムがダウンしたのだ。アーマーは破損し身体の一部を覆うのみ。成すべくままもなく、トニーは海へと落下した。
***

「…ん…」
瞼の裏に光が見え、トニーはゆっくりと目を開けた。澄み切った青空が視界に飛び込み、眩い太陽の光にトニーは目を細めた。

最後に覚えているのは、海面に叩きつけられたこと。大量に水を飲みこみ、そのまま意識を失ってしまったが、こうやってまた青空を拝めているということは、奇跡的に助かったということなのだろうか。
と、そばで人の気配がした。きっと自分を助けてくれた人だろうと考えたトニーが顔を向けると、赤毛の美しい女性が不安げに自分を見つめていた。
「よかったわ。気が付かれて…」
安心したようにほっと息を吐き出した女性は、トニーの手足に装着されたアーマーの残骸を撫でた。
「怪我はないと思いますが…。あなたが着られている鎧、脱がせることができなくて…。でも、ビックリしました。海の底に人間の男の方が倒れていたのですから」
女性の言葉に耳を傾けていたトニーだが、『海の底』と聞いた彼は、確か海岸からかなり距離のある場所に落ちたのにと、眉を顰めた。
「海の底というと…君はダイバーか?」
「ダイバー…ですか?」
が、女性は言葉の意味が分からなかったのか、不思議そうに首を傾げた。
どうも話が合わないと首を振ったトニーは、改めて女性の全身を見渡したのだが絶句してしまった。彼女の下半身は、まるで魚のような、鱗で覆われた尾鰭があったのだから…。
目を見開いたトニーは、慌てて身体を起こした。
「君は人間ではないのか?」
目の前の光景を確認するように、目を何度も擦るトニーに、女性は微笑んだ。
「はい。あなた方の言うところの、人魚です」
「人魚?空想の生き物では…」
が、目の前に実際いるのだから、これが夢でなければ現実なのだろう。夢か現実か確かめるように頬をつねると、痛いのだから正しく現実だ。
「…なさそうだな」
頬を軽く叩いたトニーは、身体を起こすと座った。
人魚が現実にいると分かると、沸き起こってきたのは好奇心。
「これはどうなってるんだ?」
尾鰭を突いたトニーだが、女性はビクっと身体を震わせた。恐れもせず、興味津々な人間に遭遇したのは初めてのこと…いや、女性は人間という存在に接したのは初めてのことだった。人間は、恐ろしく野蛮なもので、近づいてはならないと言い伝えられているが、実際接してみると、違う気がした。
「美しいな」
そう囁いたトニーに、女性は恐る恐る尋ねた。
「あの…あなたは私が怖くないのですか?人間は私達の姿を見ると、叫び声を上げますから…」
目を細めたトニーは、ふんっと鼻を鳴らした。
「怖くはない。君が人間でないにしろ、私の命の恩人なんだぞ」
ふと見上げると、頭上に自分の家が見えるではないか。
「君は偶然にも、私を家に送ってくれたようだ」
岸壁に建つ家を指さしたトニーは、よっこらしょと立ち上がった。
「助けてくれたお礼がしたいが…」
が、女性は悲しそうに首を振った。
「私達は陸に上がれないのです…」
「そうか…」
初めて出会った人外の者だが、トニーは彼女のことをもっと知りたいと思った。家で話せないのなら、プライベートビーチであるし、ここで話せばいいだけだと、トニーはその場に再び座り込んだ。
「私はトニー・スタークだ。君は?」
「ヴァージニアです」
ヴァージニアと名乗った人魚は、トニーの隣に座り直した。目の前と同じオーシャンブルーの瞳には、優しさと好奇心と溢れており、その魅力的な瞳に魅了されたしまったトニーは、胸のうちを悟られまいと、咳払いした。
「ソバカスが可愛らしい。ペッパーと呼んでもいいか?」
ヴァージニアの方も、相手は人間なのに、どうしてか分からないが、海の底で見つけた時から彼に心を囚われてしまっていた。こうやって話をし、愛称まで考えてくれたのだから、きっと仲良くできるだろうと、大きく頷いた。
「はい!」
結局2人は、夕日が沈むまで話をしていた。

「ねぇ、トニー。また会いに来てもいいですか?」
「あぁ。もちろんだ」
パッと満面の笑みを浮かべたペッパーは、手を振ると海の中へと消えていった。

②へ…
唐突に始まってしまいましたが、人魚姫パロ。

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