翌日から、ペッパーは頻繁に顔を覗かせるようになった。
そしてトニーも屈託のないペッパーと会うのが楽しみになっており、夕方になると毎日窓の外を眺めるのが日課になっていた。
人魚の寿命は数百年と長寿なため、海の王国には物知りが大勢いたが、彼らに劣らず頭が良く博学なトニーはユーモアたっぷりに人間の世界の話をしてくれるのだ。そしてペッパーも、海の王国の伝承などをトニーに話聞かせてたのだが、彼が最も驚いたのは、王国の姫であると語った時だった。
「ということは、君はあの人魚姫か?」
どの人魚姫のことをトニーが言っているのかは分からない。もしかしたら10人いる姉のうち、誰かのことを言っているのかもしれないし、別の海の王国の姫の噂話かもしれない。だが、自分が王国の姫に違いはないのだ。
「そうですね。そういうことになりますね」
頷いたペッパーに、トニーは何度か瞬きしたが、話題を変えるように今日のアイアンマンの仕事について話し始めた。
それから数週間後のこと。
「たまには私も海に入ろう」
水着を履いて来ていたのだろう。トニーはTシャツを上に着たまま、海へと飛び込んだ。
スイスイと泳ぐトニーだが、ペッパーにあっという間に追いつかれた。
「やはり君には海では勝てないな」
ハハッと笑い声を上げたトニーは本当に楽しそうで、ペッパーは思わず彼の両手を握りしめた。
と、トニーが真顔になった。
「ペッパー…」
真剣な眼差しをしたトニーの顔が近づいてきた。ペッパーがそっと目を閉じると唇が触れ合った。重なり合った唇は温かく、その温もりをさらに求めるかのように、2人は固く抱き合った。
時が止まったかのように2人はキスに夢中になっていたが、やがて吐息とともに唇を離した。
「ペッパー…」
いつもより甘く低い声で囁かれ、ほんのりと頬を赤らめたペッパーは彼のTシャツを握りしめた。
種族の違う者同士なのに、出会った時から互いの存在は愛おしいものになっていた。
「…ペッパー…愛してる…」
珍しく素直に自分の気持ちを伝えたトニーは、耳の先まで真っ赤になっているペッパーの頬をすっと撫でた。プレイボーイと名高いトニーとは違い、ペッパーにとっては初めての恋。トニーに触れられる度に身体の奥が熱くなり、彼女は尾鰭をピクピクと震わせた。
「私も…あなたのこと…愛してます…」
消え入りそうな声で囁いたペッパーだが、気持ちが通じあった2人は再びキスをし始めた。
トニーの舌が唇の隙間から入ってきた時も、キスすら初めてのペッパーはどうすればいいのか分からなかった。彼女は何もかもが初めてなのだと気づいたトニーは、先導するように彼女の舌に自分の舌を絡めた。深く甘い口付けに、ペッパーは鼻先から甘い吐息を漏らし始めた。このまま彼女と愛し合いたいと考えたトニーは、ペッパーの背中に這わせていた手を下ろしていくと尻を撫でようとしたが、ふと気づいた。
人魚と愛し合うにはどうしたらいいのだろうか…と。
だが、いかにも初心者のペッパーに、そういうことを聞いていいものか分からない。
唇を離したトニーは、ペッパーの首筋に舌を這わせると耳元で囁いた。
「ペッパー…君が欲しい…」
そう告げてみると、耳の先まで真っ赤になったペッパーはトニーにしがみついた。
先日18歳になったペッパーは、姉たちからは人魚との愛し合い方は聞いていたが、人間との愛し合い方は聞いたことがなかった。が、恐らく人間の姿になればトニーと愛し合うことができるのだろう。となると、方法はただ一つ。
「…満月までお待ちください…」
「満月?」
「はい。3日後の満月まで…」
顔を上げたペッパーは恥ずかしそうに目を瞬かせると、トニーにキスをし、海へと帰って行った。
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