Love of the mermaid①

数分前まで喧しい程鳴っていた警告音が突然止んだ。ついにシステムがダウンしたのだ。アーマーは破損し身体の一部を覆うのみ。成すべくままもなく、トニーは海へと落下した。
***

「…ん…」
瞼の裏に光が見え、トニーはゆっくりと目を開けた。澄み切った青空が視界に飛び込み、眩い太陽の光にトニーは目を細めた。

最後に覚えているのは、海面に叩きつけられたこと。大量に水を飲みこみ、そのまま意識を失ってしまったが、こうやってまた青空を拝めているということは、奇跡的に助かったということなのだろうか。
と、そばで人の気配がした。きっと自分を助けてくれた人だろうと考えたトニーが顔を向けると、赤毛の美しい女性が不安げに自分を見つめていた。
「よかったわ。気が付かれて…」
安心したようにほっと息を吐き出した女性は、トニーの手足に装着されたアーマーの残骸を撫でた。
「怪我はないと思いますが…。あなたが着られている鎧、脱がせることができなくて…。でも、ビックリしました。海の底に人間の男の方が倒れていたのですから」
女性の言葉に耳を傾けていたトニーだが、『海の底』と聞いた彼は、確か海岸からかなり距離のある場所に落ちたのにと、眉を顰めた。
「海の底というと…君はダイバーか?」
「ダイバー…ですか?」
が、女性は言葉の意味が分からなかったのか、不思議そうに首を傾げた。
どうも話が合わないと首を振ったトニーは、改めて女性の全身を見渡したのだが絶句してしまった。彼女の下半身は、まるで魚のような、鱗で覆われた尾鰭があったのだから…。
目を見開いたトニーは、慌てて身体を起こした。
「君は人間ではないのか?」
目の前の光景を確認するように、目を何度も擦るトニーに、女性は微笑んだ。
「はい。あなた方の言うところの、人魚です」
「人魚?空想の生き物では…」
が、目の前に実際いるのだから、これが夢でなければ現実なのだろう。夢か現実か確かめるように頬をつねると、痛いのだから正しく現実だ。
「…なさそうだな」
頬を軽く叩いたトニーは、身体を起こすと座った。
人魚が現実にいると分かると、沸き起こってきたのは好奇心。
「これはどうなってるんだ?」
尾鰭を突いたトニーだが、女性はビクっと身体を震わせた。恐れもせず、興味津々な人間に遭遇したのは初めてのこと…いや、女性は人間という存在に接したのは初めてのことだった。人間は、恐ろしく野蛮なもので、近づいてはならないと言い伝えられているが、実際接してみると、違う気がした。
「美しいな」
そう囁いたトニーに、女性は恐る恐る尋ねた。
「あの…あなたは私が怖くないのですか?人間は私達の姿を見ると、叫び声を上げますから…」
目を細めたトニーは、ふんっと鼻を鳴らした。
「怖くはない。君が人間でないにしろ、私の命の恩人なんだぞ」
ふと見上げると、頭上に自分の家が見えるではないか。
「君は偶然にも、私を家に送ってくれたようだ」
岸壁に建つ家を指さしたトニーは、よっこらしょと立ち上がった。
「助けてくれたお礼がしたいが…」
が、女性は悲しそうに首を振った。
「私達は陸に上がれないのです…」
「そうか…」
初めて出会った人外の者だが、トニーは彼女のことをもっと知りたいと思った。家で話せないのなら、プライベートビーチであるし、ここで話せばいいだけだと、トニーはその場に再び座り込んだ。
「私はトニー・スタークだ。君は?」
「ヴァージニアです」
ヴァージニアと名乗った人魚は、トニーの隣に座り直した。目の前と同じオーシャンブルーの瞳には、優しさと好奇心と溢れており、その魅力的な瞳に魅了されたしまったトニーは、胸のうちを悟られまいと、咳払いした。
「ソバカスが可愛らしい。ペッパーと呼んでもいいか?」
ヴァージニアの方も、相手は人間なのに、どうしてか分からないが、海の底で見つけた時から彼に心を囚われてしまっていた。こうやって話をし、愛称まで考えてくれたのだから、きっと仲良くできるだろうと、大きく頷いた。
「はい!」
結局2人は、夕日が沈むまで話をしていた。

「ねぇ、トニー。また会いに来てもいいですか?」
「あぁ。もちろんだ」
パッと満面の笑みを浮かべたペッパーは、手を振ると海の中へと消えていった。

②へ…
唐突に始まってしまいましたが、人魚姫パロ。

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