「アベアカ」カテゴリーアーカイブ

First Dance

リクエスト頂いた「アベアカまたは学パロでダンスパーティー」です。
恋人になる前のアベアカなトニペパのお話。
***

耳障りなくらい騒々しい音楽に、ペッパー・ポッツは気づかれないように顔を顰めた。
こういう類のイベントは苦手だ。だからアカデミーに入学して以来、それとなく避けてきたのに、ダンスが大好きな友人ホープ主催のパーティーとなれば、参加せざるを得なかった。

友達は皆楽しそうに踊りまくっているが、ダンスパーティーなど一度も参加したことのないペッパーは、どうやって楽しめばいいのか分からず、部屋の隅で傍観するしかなかった。それに、アカデミー外からの参加者が多いのか、見たことのない顔が大勢いるのだから、結局ペッパーは黙ってジュースを飲み続けていた。
「ポッツさん?」
と、誰かが声を掛けてきた。見ると、生徒会で一緒のブルース・バナーだった。
「バナーくん、こんばんは」
ようやく顔見知りが現れたと、ふわっとした笑みを浮かべたペッパーに、ブルースも笑いかけた。
確かブルース・バナーもこういう類の場所は苦手だったはず。彼の場合は心拍数が上がりすぎると、『もう一人の自分』が現れるかららしいが…。
「珍しいわね、バナーくんが来るなんて」
小首を傾げるペッパーに、ブルースは苦笑い。
「そういうポッツさんだって。僕の場合は、彼に無理矢理連れて来られたんだけど」
と言いながら、ブルースは部屋の隅に視線を移した。そこには一人の男子生徒がいた。大勢の女性を侍らせている男子生徒が…。

トニー・スターク。

天才・金持ち・女好きで有名な彼は、ブルース・バナーと気が合うらしく、いつもブルースは引っ張り回されていると思い出したペッパーは、納得したように頷いた。
膝の上に座らせた女性とキスをしながら、トニー・スタークは別の女性のスカートの裾から手を入れ、太腿を撫で回しているではないか。
どうしてこんな場所でああいうことが出来るのだろうとペッパーが顔を顰めていると、トニー・スタークが何やら女性の耳元で囁いた。クスクス笑みを浮かべた女性は立ち上がると、トニー・スタークの手を引きどこかへ姿を消してしまった。

「やれやれ。僕はそろそろ退散するよ」
トニー・スタークがいなくなったのだからと、帰り支度を始めたブルース・バナーだが、そこへホープとナターシャ・ロマノフがやって来た。
「バナーくん!今から本日の目玉イベントなのよ!帰ったらだめよ!」
ブルースの腕を掴んだホープは、怖いほどの笑みを浮かべた。
「分かったよ。でも僕は…」
「知ってるわ。トニーに無理矢理連れて来られたんでしょ?で、そのトニーは女の子と消えちゃった…だから帰ろうって思ったんでしょうけど。大丈夫よ。トニーはそのうち帰ってくるから」
「あいつが来てるから、外部の女の子が大勢来てるのね」
あぁと納得したように頷くナターシャに、ホープは目をくるりと回した。
「そうそう。でもトニーって、アカデミーの女の子には手を出さないのよね。関係を持つと、後が厄介だからって」
真面目なペッパーからしてみれば、どこか遠い世界の話に聞こえてならない。出来ることならさっさと退散したいが、そんなことはホープとナターシャが許してくれそうもない。
とりあえず一度気持ちを落ち着けようと、断りを入れたペッパーはトイレへと向かった。

「はぁ……」
先程の会話を思い出したペッパーは溜息を付きながらドアを開けようとしたのだが、中から艶めかしい声が聞こえ、その場で飛び上がった。
身体がぶつかり合う音、そして喘ぎ声に混じり女性が「トニー」と叫ぶ声に、ペッパーの頭は大混乱。
(ちょっと!どうしてこんな所で…)
Hどころかキスもしたことがないペッパーには、少々刺激が強すぎたのか、頭がクラクラしてきたが、乱入していく訳にもいかず、仕方なく別の階のトイレへ走った。

ようやく気持ちを落ち着けたペッパーは、会場へ戻ろうと急いで階段を駆け下りたのだが、誰かとぶつかりそうになった。
「すみません!」
慌てて頭を下げたペッパーに、相手も頭を下げた。
「こちらこそすまない」
その声に顔を上げると、相手はあのトニー・スタークだった。が、目が合った瞬間、トニー・スタークは大きな目を見開いて固まってしまった。真っ赤な顔をした彼を訝しげに思いながらも、もう一度頭を下げたペッパーはホープたちの元へと急いだ。

ペッパーが会場に入ると、本日の目玉イベントであるダンスが始まろうとしていた。
入場時に渡された番号でダンスのペアを決めるというルールらしく、『12』と書かれた札を胸元に付けたペッパーも相手を探すことにした。
これだけの人数だから相手探しは難航すると思われたが、意外と呆気なく見つかった。というのも、同じく『12』の札を付けていたのは、あのトニー・スタークだったのだから…。
(えー!どうして、よりによって……)
トイレで聞こえてきた声が蘇り、ペッパーが目を白黒させていると、ペッパーに気づいたトニーが駆け寄ってきた。が、彼は見たことがない程顔を赤らめ、その場に直立不動したままだ。周りはダンスをし始めたのに、いつまで経っても何も言わないトニーに、痺れを切らしたペッパーは、仕方なく正直に踊れないと話すことにした。
「あ、あの……私…ダンス、苦手なんです…」
ハッと我に返ったトニー・スタークは、鼻の頭を擦るとニッコリ笑った。
「大丈夫。俺に任せて」
そう言うと、ペッパーの手を取りトニーは踊り始めた。
ギュッと握った手は力強く、時折見つめられる煌めく瞳に引き込まれそうになったペッパーだが、彼は自分とは世界の違う人なのだと思い返すと、黙って彼のリードに従った。
それでも、こういう時は何か話した方がいいのかとそっと周囲を見渡すと、ナターシャはブルース・バナーをくるくる回しながら楽しんでいるし、ホープは恋人のスコットと抱き合って踊っている。スティーブ・ロジャースは何故かバッキー・バーンズと古風なダンスを真剣な面持ちでしているが、皆楽しそうにお喋りしながら踊っていた。が、こういう場に一番慣れていそうな目の前のトニー・スタークは、真っ赤な顔をして言葉なく踊っているのだから、ペッパーはやはり何も喋らない方がいいのだと、開きかけていた唇を噤んだ。

結局言葉を交わすことはなかったが、何故かペッパーはトニーの手の温もりが忘れられなかった。

***

翌日。
カフェテリアで遅めのランチを食べたペッパーは、教科書を開くと勉強をし始めた。
暫くして
「ポッツさん」
と名前を呼ばれたため振り返ると、何とあのトニー・スタークが立っているではないか。
「えっと……スタークくん?」
どうして彼が自分に声を掛けてきたのだろう。昨日のダンスの後も彼は何も言わず立ち去ってしまったのに…。
ポカンと口を開けたままのペッパーに、トニーは何度も大きく深呼吸した。
「ぽ、ポッツさん、これから僕の家で朝まで愛を語り合わないか?」
一体どういうことなのだろう。
昨日、ダンスをしただけで、話もしたことがない男性に、どうして家に誘われなければならないのかと、ペッパーは眉を顰めた。
「どういうことですか?私、そんな軽い女じゃありません!」
頬を膨らませ立ち上がったペッパーは、呆然と立ちすくむトニーを残し、その場を後にした。

※で、”Bridge”に続きます。

4 人がいいねと言っています。

バレンタイン(アベアカ)

バレンタイン。それは、愛を伝える日…。

ここ、アベンジャーズ・アカデミーも例外ではなく、数週間前から校内では、バレンタイン当日に指定した相手に匿名で届けるためのチョコレートや花の予約販売も行われていた。

もちろん匿名ではなく面と向かって渡し合うという光景も繰り広げられるのだが、アカデミー1モテるトニー・スタークには、直接渡そうにも『手渡しは嫌い』と受け取って貰えないのだ。そこで、スターク・タワーの入口には当日の朝からトニーへのプレゼントが山積みになっているのが、毎年繰り広げられる光景となっていた。

♡♡♡

今年は恋人になり初めて迎えるバレンタイン。

ペッパーが目覚めると、トニーは珍しく先に起きたらしくベッドはもぬけの殻だった。が、枕元には真っ赤な薔薇の花束と、ネックレス、そして大きなウサギのぬいぐるみが置いてあるのだから、トニーから初めて貰うバレンタインのプレゼントに、ペッパーは歓声を上げた。そして自分も用意していたプレゼントの袋を手に、急いでキッチンへと向かった。

「おはよう、ハニー」
キッチンは食欲をそそる匂いに包まれており、トニーが唯一上手く作れるパンケーキを焼いていた。
「おはよ、トニー」
トニーの隣に肩を並べたペッパーは、頬に素早くキスをした。
「プレゼント、ありがと。私ね、バレンタインにあんなにステキなプレゼントを貰ったのって初めてだから、凄く嬉しいわ」
ペッパーの言葉にニコニコと笑みを浮かべたトニーは、パンケーキを皿に盛るとペッパーに手渡した。
「夜はさ、食事に行こう。フォーシーズンズのスイートルームを予約してる。明日は授業もないだろ?だからさ…」
つまり、そういうことだと言うように、真っ赤になったペッパーの唇を奪ったトニーは、自分の皿にもパンケーキを盛るとニンマリ笑った。

「トニー、これはね、私からのプレゼントよ」
朝食を終えると、ペッパーはプレゼントを入れた袋をトニーに手渡した。
「開けていい?」
ペッパーが頷く前に袋を覗き込んだトニーは目を輝かせた。
ペッパーからのプレゼントは、手作りのチョコレートとクッキー。そしてこちらも手作りのマフラーだった。
「これ、ペッパーが作ったのか?」
Tonyと名前入りのマフラーには、アイアンマンもワンポイントで編み込まれており、世界に一つしかないマフラーに、トニーは目をキラキラさせている。
「うん。初めて作ったから、上手くできてな…」
「ペッパー、君って凄いな!俺、手作りのマフラーなんて、初めて貰ったよ!」
ペッパーの言葉を遮ったトニーは歓声を上げると、そそくさとマフラーを巻き始めた。
他人から何か贈り物をされて、こんなにも嬉しそうにしているトニーはあまり見たことがないが、それだけこのプレゼントを喜んでくれているのだから、自分も嬉しくなったペッパーはトニーに抱きついた。

ということで、ペッパー手作りのマフラーを巻いたトニーは、颯爽と登校したのだが、1限目の授業は席が決められているため、トニーとペッパーは遠く離れた場所にそれぞれ向かった。
「あれ?そのマフラーって…」
ブルース・バナーがトニーの首元に巻かれた見慣れないマフラーに気づいた。
「あぁ。ペッパーが俺のために作ってくれたんだ」
ブルースの前の席に腰を下ろしたトニーは、見せびらかすようにマフラーを持ち上げた。
「で、嬉しくて、早速着けてきたの。ふーん、あんたにも可愛いところがあるのね」
ブルースの隣に座っているのは、ナターシャ・ロマノフ。ひとしきりトニーに揶揄いの言葉を掛けたナターシャだが、今日はバレンタインなのだから、一悶着ありそうねと一人でニヤッと笑みを浮かべた。

匿名の贈り物は授業中に届けられるという慣例のため、授業が始まっても生徒たちはソワソワしていた。そしてものの1分も経たないうちに、ドアがガラリと開いた。
第1号はもちろんこの男。
「スタークさん宛てのプレゼントは、外部から届いた物を含めて、全てタワーに持って行きました。今年は去年の倍以上ありますよ」
トニー・スタークの場合、いかんせん量が多すぎるため、こうやってまとめて報告のみなのだが、沸き起こる歓声に反して当の本人は全く興味がないらしく、「あぁ…」と生返事をするだけだった。

その後も大勢の生徒が呼ばれ続けたが、中にはスティーブ・ロジャースのように、名前を呼ばれる度に顔を赤らめ、挙げ句の果てに鼻血を出しぶっ倒れてしまう者もいたとか…。

(よしよし、ここまでペッパーは0だな…)
あれだけペッパーは自分のものだとアピールしているのだから、トニー・スタークに挑戦してくる強者はいないだろうと高を括っていたトニーだが…。
「ポッツさん、花束が届いてますよ」
「えっ?!」
まさかの事態にペッパーはおろか、トニーも椅子の上で飛び上がった。
教室中の生徒のみならず教師までもが固唾を飲んで見守る中、次々と届くペッパー宛てのプレゼントに、トニーの眉間の皺はどんどんと深くなっている。
「ペッパーってモテるからね」
ナターシャが隣のブルースにコソコソと囁いた。ご丁寧にもトニーに聞こえるように…。
「しかもトニーと付き合い始めてから、ますます綺麗になってるでしょ?元々隠れファンが大勢いたけど…」
トニーがビクッと肩を震わせたが、もっと嫉妬させたら面白いことになるわとクソ微笑んだナターシャは、シーっと唇に指を当てるブルースを無視して言葉を続けた。
「今日はバレンタインだし、ここぞとばかりにペッパーへ告白しちゃえってことかしら。匿名だから誰が送ったか分からないしねー」
と、トニーの持っていたペンがバギッと音を立てて真っ二つになった。
そしてスタークPadを取り出したトニーは怒りあらわに物凄い速さで画面を叩き始めた。
しばらくしてトニーが画面を凝視しながら、何やら呟いた。
「…覚えとけよ…」
ブルースがそっと後ろから覗き込むと…それはペッパーに匿名のプレゼントを贈った勇者たちのリスト。どうやらトニーは学園内のシステムをハッキングして、このリストを手に入れたらしい。こんなハッキング、トニーからしてみれば朝飯前だろう。先日はCIAの保安システムに侵入したとか言っていたのだから…。
今や抹殺リストと化したそれを鬼の形相で見つめるトニーに、これはやばいと感じた周りの生徒たちは、この場から早く離れなければと、教室から飛び出す準備を始めた。

と、タイミングよく授業終了のチャイムが鳴り響き、花束やプレゼントを抱えたペッパーが、ニコニコとトニーの元へと走って来た。
「トニー、見て見て!私にもこんなに沢山!」
ただ単に、貰ったプレゼントを見せてあげようという、悪気が全くもってないペッパーは、プレゼントに付いていたメッセージカードをトニーに差し出した。

『ポッツさん、いつもあなたの笑顔に癒されてます』
『あなたはアカデミーの天使です』
『困った時に優しく助けてくれて、ありがとうございます』

日頃の感謝の言葉が綴られているといえばそうなのだが、トニーはじろっとカードを眺めると、頬を膨らませ、抹殺リストに再び目を通して始めた。
(トニーったら…)
彼が嫉妬深いのは今始まったことではないが、どんなに高価で豪勢なプレゼントでもトニーから貰った物とは比べるまでもないことは分かりそうな物だが、それとこれとは彼にとって事情が違うらしい。
何を調べているのか知らないが、アーマーを装着してどこかに飛んで行ってしまいそうなトニーの様子が気になったペッパーは、
「トニー、何を調べてるの?」
と、画面をひょいと覗き込んだ。が、ものの3秒もしないうちに、それが何か気づいたペッパーは、トニーからスタークPadを取り上げた。
「トニー、ダメよ」
そう一言告げたペッパーは、トニーを可愛らしく睨みつけた。そして、甘えたように彼の首元に腕を伸ばすと、耳元に口を近づけ何やら囁き始めた。

ホテルやら、お泊りやら、好きにしてなど、所々漏れ聞こえる言葉にナターシャとブルースが顔を見合わせていると、先程までと打って変わりニヤニヤと顔を崩したトニーは大きく咳払いをした。
「分かった。でも、今から…な?」
「優しくしてくれるなら…」
上目遣いに瞬きしたペッパーの首筋にキスしたトニーは、鼻歌を歌いながら手早く荷物をまとめると、ペッパーの手を握りしめ立ち上がった。
「俺たち、図書館で明日の予習してくるから、次の授業、サボるわ」

スキップしながら教室を後にする2人に向かって、
「…あんたたちは、明日授業ないでしょ」
と、ぼそっと呟いたナターシャは、鼻血を出しているブルースに、そっとハンカチを差し出した。

***

ここの「アベンジャーズ・アカデミー」は、実際のアカデミーの定義的には微妙にズレてますが、ハイスクールくらいの年齢設定で書いてます。

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A merry evening

その日、小雪がチラつく中、タワーまで帰ってきたペッパーだが、入口に見慣れない犬が寝そべっていることに気づいた。
「あら?どこの犬かしら?」
茶色のラブラドール・レトリーバーはペッパーに気づくと顔を上げた。
「どこから来たの?」
くーんと小さく鳴いた犬は、ゆっくりと立ち上がるとペッパーの足元に座った。
首輪はしていないが、綺麗な毛並みをしている犬に、きっと誰かの飼い犬が迷い込んできたのねとペッパーは考えた。そこで
「早くお家に帰りなさい。あなたのご主人様、あなたのことを探してるわよ」
と、犬の頭を撫でたペッパーは、じゃあねと手を振ると、足早にドアをくぐり抜けた。そしてエレベーターに乗り込んだのだが、気づくと先程の犬が後ろをついて来ているではないか。
「え?!ダメよ」
だが、その犬は勝手知った我が家のように、その場に座り込んでしまった。そうこうしているうちに、エレベーターは階上へ向かって動き始めてしまった。
「仕方ないわね。もう夕方だし、今夜は泊まってもいいか、トニーに聞いてみましょうね」
やれやれと首を振ったペッパーは、犬の頭を撫でた。トニーも動物好きなので、可愛らしいお客にきっと喜んでくれるはず。だからこの犬を一晩泊めることに関しては、反対される理由はないだろうと、ペッパーは楽観視していた。
ところが、先に帰ったはずのトニーの姿は、家のどこにも見当たらない。
「トニー?トニー!」
ラボにも寝室にもいないし、J.A.R.V.I.S.に聞いても知らぬと言われ、電話も繋がらないのだから、何かあったのかとペッパーはどっと不安に襲われた。
「トニー!どこにいるの?!」
と、リビングをウロウロしていた犬が勢いよくペッパーに向かって走ってきた。
「ワン!」
ペッパーの足にすがり付いた犬は、何事か訴えるようにクンクン鳴き始めた。
「大丈夫よ。ちょっと待ってて。トニーを探すから…」
自分の不安が犬にも伝わったに違いない考えたペッパーは、宥めるように犬の背中を撫でたのだが、犬は自分の存在を主張するかのように二度三度小さく吠えた。
「あなた、トニーって名前なの?」
先程から『トニー』と呼ぶ度に反応する犬の様子に気づいたペッパーがそう尋ねると、犬はそうだと言わんばかりに「ワン!」と嬉しそうに吠えた。
「あら、偶然ね。私の恋人もね、トニーなの」
クスクスと笑みを浮かべたペッパーは、恋人を思い出すかのように、うっとりとした笑みを浮かべた。
「トニーはね、とっても素敵な人よ。頭もいいし、優しいし、私のことを大切にしてくれるの。それにね、彼は私の知らない世界を沢山教えてくれるのよ。トニーといると、とっても楽しいの」
ふふっと笑みを浮かべたペッパーに、犬は嬉しそうに尻尾を振った。

結局、トニーは行方不明のまま、夜になっても帰って来なかった。
「トニーったら、どこに行ったのかしら…」
何度も電話しているが一向に繋がらない携帯をペッパーは恨めしそうに見つめた。
以前にも、ブルース・バナーと実験室に篭もり2日ほど音信不通になったことがあるので、今回もそうなのだろうと考えることにしたペッパーは、諦めたように首を振った。
「仕方ないわ。きっと朝になれば連絡が来るでしょうし…」
ぎゅっと抱きしめると犬はペッパーの顔をぺろぺろと舐め始めた。
犬の頭を撫でたペッパーは、くるっとした瞳を覗き込んだ。
「あなた、トニーと同じ目の色なのね」
出会ってから、犬の一挙手一投足が可愛くて仕方ないペッパーは、トニーと同じ瞳をしたこの犬がどうしようもない程好きになっていた。
「アカデミーにも何匹かいるのよ。でもね、あなたは世界一カワイイわね」
褒められていると分かったのか、目を輝かせた犬は「ワン!」と声高々と吠えると尻尾を振り始めた。
「もし、あなたのご主人様が見つからなかったら、飼ってもいいか、トニーが帰ってきたら聞いてみましょうね」
そう言いながら、ペッパーがソファーにコロンと横になると、近づいてきた犬はソファーに飛び上がるとペッパーの隣に横になった。
「ふふ…温かい…」
フワフワの温もりをぎゅっと抱きしめたペッパーは次第にウトウトし始めたのだが、犬の毛に顔を埋めた瞬間、あることに気づいた。
(あら…この犬…トニーのコロンと…同じ匂いがするわ…)
だが、眠気に勝てるはずもなく、目を閉じたペッパーはそのまま眠りについた…。

***

翌朝。
「…うーん……」
昨晩までになかった重みを感じたペッパーは、その正体を探ろうとゆっくりと目を開けた。すると、昨夜抱きしめていたはずの犬の代わりに、何故か何も身につけていないトニーが自分にしがみついて眠っているではないか。
(え?!どうして?!)
昨晩まで音信不通だった彼が何故自分にしがみついて眠っているのか、そして何故全裸なのかさっぱり理解できないペッパーは、乱暴に頭を二度三度振ると、ガバっと起き上がった。が、その反動でペッパーに抱き付いていたトニーはソファーから転がり落ちてしまった。盛大に頭を打ったトニーは頭を摩りながら起き上がると、大きく伸びをし欠伸をした。
「おはよう、ハニー」
むにゃむにゃと目を擦ったトニーに、口をパクパクさせていたペッパーは、目を見開くと叫んだ。
「トニーったら!どこに行ってたのよ!」
キーっと声を上げたペッパーに、トニーはもう一度欠伸をすると床に胡座をかいた。
「どこって…ずっと君のそばにいただろ?」
「え?」
トニーは何を言っているのだろうと、目をパチクリさせるペッパーに、トニーは自分を指差した。
「だから、あの犬、俺だったんだ」

たっぷり30秒はそうしていただろうか、口をあんぐりと開けたままトニーを見つめていたペッパーだったが、勢いよく立ち上がると叫び声を上げた。
「ど、ど、どういうこと?!」
パニックになっているペッパーを宥めようと、トニーは立ち上がった。
「ロキの魔法だよ。ロマノフが猫になってみたいとか言い出してさ。小さい頃は犬になりたかったけど、親父が反対してなれなかったって俺が調子を合わせて言ったら、ロキが、一晩だけ叶えてやろうとか言い出して…。気づいたら犬になってたんだ。スティーブなんか恐竜になってたから、大変だったんじゃないかなぁ」
そう言いながら、まだ目を白黒させているペッパーを腕の中に閉じ込めたトニーは、首筋にキスをすると耳元で囁いた。
「喋れないしどうしようかと思ったけど…。君に世界一可愛いって言ってもらえたから良かった」
そう言えば、随分前に他の犬を『アカデミーで一番可愛い』と褒めたら、トニーが嫉妬したことがあったわね…とペッパーは思い出した。
「犬のあなたも可愛かったけど、やっぱり私は人間のあなたが一番よ」
そう言うと、ペッパーはトニーにギュッと抱きつき、胸元に顔を押し付けたのだが、彼が裸なのを思い出すと、顔を真っ赤にして慌てて身体を離した。

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113.せきらら(アベアカ)

102.夜まで待って の続きです。

NYのアカデミーから帰宅した翌日。今日は月に1度のお茶会ということもあり、ペッパーの母親は朝から張り切って用意をしていた。
お茶会のことを知ったトニーは、お世話になったお礼だと、ハーニー&サンズの紅茶や、ベニーロのケーキ、ボーション・ベーカリーのマカロンなどをお土産にと用意してくれていたのだ。
中西部の街ではあまりお目にかかることのないNYの名物に、今日の話のネタが出来たと、ペッパーの母親は大喜びだった。

いそいそと用意をしていると、次々と友達がやって来た。そしてお茶会は始まったのだが、話題はもちろん、『ポッツさんは3週間もどこに行っていたのか?』だった。

「NYの娘の所よ。実はね、娘の彼氏が大怪我をして何ヶ月も入院してたの。で、退院することになったんだけど、暫く車椅子生活だっていうから、手伝いに行ってたのよ」
ポッツ家の一人娘のヴァージニアは、NYのアベンジャーズ・アカデミーに通っていることを思い出した友達は、うんうんと頷いた。
「それは大変だったのねぇ…」
と、ここで気づいた者がいた。その彼氏には世話してくれる身内はいないのか…と。それに、手伝いに行ったということは、ヴァージニアはその彼氏と同棲でもしているのだろうか…と。だがそんなことをストレートに聞くわけにはいかない。
「あら、この紅茶、美味しい!お菓子も美味しいわ!ポッツさん、どちらの?」
少しずつ切り崩していこうと頷きあった面々は、まずはどれもこの辺りには売っていないようなものばかり並ぶ今日のラインアップを褒めたたえてみることにした。
「NYの有名なお店のよ。娘の彼がね、私がお茶会を開くって言ったら、お土産に用意してくれたの!」
嬉嬉として叫んだペッパーの母親は、まるでこの3週間を思い出したのか、頬杖を付くとため息をついた。
「彼ね、本当にね、いい子なのよ。娘のことも凄く大切にしてくれてるし。いっそのこと、あのままお嫁にもらってくれないかしら…」
はぁ…ともう一度ため息をついたペッパーの母親は、紅茶を啜ると「あら、美味しいわ」と、マカロンを摘んだ。

娘だけではなくその母親までも虜にするヴァージニアの彼氏とは何者なのだろうか…。
顔を見合わせた友人達だが、その内の1人が我慢ならぬと本題を切り出すことにした。
「娘さんの恋人、本当に素敵な方みたいね。お名前は何とおっしゃるの?」
ようやく話に乗ってくれたというように、フフッと笑ったペッパーの母親は、ベラベラと話し始めた。
「トニーくんよ、トニー・スタークくん。彼はね、ご両親を早くに亡くされたんですって。詳しくは知らないんだけど。うちのヴァージニアよりも2つ年上なの。だけど凄く頭が良くって、アカデミーを卒業したらMITに行くそうよ。だからヴァージニアも卒業したらボストンの大学に行くって張り切ってるの。で、大学を卒業したら結婚するんですって。トニーくんは家業を継がなくちゃいけないらしいけど…。そう言えば、何をしているお家なのか聞かなかったわねぇ…」
うーんと首を傾げているペッパーの母親だが、友人達は口をあんぐりと開け固まってしまった。
静まり返った部屋に、ようやく気づいたペッパーの母親は、一体何事かと目を白黒させた。
「トニー・スタークって………」
ポツリと呟かれたその言葉を皮切りに、部屋中に絶叫が響き渡った。

「スタークって…あのスタークよね?!」
「トニー・スタークって、アイアンマンでしょ?!」
「嘘でしょ!あの…あのトニー・スターク?!」
「ポッツさん!あの、スタークなの?!」

「え…」
ギャーギャーと騒ぎ始めた友人達だが、状況が分からないペッパーの母親はポカンと口を開けたままだ。
というのも、ペッパーの母親は知らなかったのだ。元々ゴシップ記事には疎いし、ペッパーからもトニーの素性については詳しく聞いていない。しかも、追々聞けばいいかと思い、今回も詳しい話は聞いていなかった。

全くもって状況の分かっていないポッツ夫人に、友人達は呆れたように目を見張った。
「まさか…知らないの?!トニー・スタークを!」
「そうよ!スターク・インダストリーズのCEOの!スターク・インダストリーズといえば、世界中で5本の指に入る大企業…つまり、アラブの石油王もビックリな大金持ちよ!!」
「しかも、天才・金持ち・ハンサムと3拍子揃った、今どき珍しい超優良物件よ!」
「それに、彼はアイアンマンでしょ!金持ちのヒーローとか、ハイスペック彼氏よ!」

『娘の彼氏のトニー・スタークはアイアンマン』と聞き、ペッパーの母親はようやく理解した。
数ヶ月前にアイアンマンは任務中に敵に捕まり、瀕死の重傷を負い救出されたと言っていた。だからトニーは何ヶ月も入院する程の大怪我を負っていたのだ。そして彼はあの『スターク』だったのだ。スターク・インダストリーズについては、さすがに知っている。先代のハワード・スターク夫妻の痛ましい事故についても、当時ニュース番組でも連日連夜放送していたのだから…。
だが、娘はそんなことは一言も言っていなかった。トニーが自分のことを心から愛してくれていること、彼といると楽しくて仕方ないこと…。毎日嬉しそうに電話やメールで報告してくるヴァージニアにとって、トニー・スタークは、ただ単に2歳年上のアカデミーの仲間だったのだ。そのため、彼は何度も自分のことを守ってくれたから、彼の所有するタワーに引っ越すことにしたと告げられても、特に反対はしなかった。そしてトニーが事故に合い大怪我を負ったと告げられても、まさかそれがアイアンマンの任務中の怪我とは考えもしなかったのだ。

「そのスタークみたいね」
暫くして、やっとの思いでそう呟いたペッパーの母親だが、周りの盛り上がりは落ち着きそうにない。
ハイスペック彼氏かどうか知らないが、トニー・スタークは娘にとっては最高の恋人なのだ。それは彼が金持ちでヒーローだからではない。娘のことを心から愛してくれているからだ。
(来週トニー君がうちに来るって知ったら、みんな大騒ぎね)
こぼれる笑みを隠すように、ペッパーの母親は口元に手をやった。

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102.夜まで待って(アベアカ)

112.蜂蜜の使い方 の続きです。

ようやく退院することになったトニーだが、両足はまだ自由に動かすことができず、車椅子が欠かせなかった。
数ヶ月ぶりに自宅であるタワーに戻ってきたトニーは、エレベーターを降りるなり大きく伸びをした。
「やっと帰って来れた。懐かしい我が家!」
「お帰りなさい、トニー」
そう言いながら車椅子を押すペッパーも嬉しそうだ。
「そうだ。荷物は片付いた?」
「うん、そんなに沢山荷物はなかったから」
トニーが入院中、ペッパーは正式にタワーへと引っ越していた。タワーにはたくさん部屋があるが、ペッパーの部屋はトニーの向かいの部屋。だが、それは建前上であって、実際は2人の寝室で寝起きすることになるのだが…。
「もし足りない物があれば言えよ。それからさ…」
ペッパーの手を引っ張ったトニーは彼女を自分の前に立たせると、腰を撫でた。
「寝室のベッド、買い換えたんだ。前のより大きめのベッドに…」
それはペッパーも知っている。トニーの入院中、何が届いたのかと思いきや、キングサイズのとてつもない大きなベッドが届いたのだから…。
「だからさ…今から使い心地、試してみようぜ」
そう言うとトニーはペッパーにキスをしようと首を伸ばした。が、いつもなら恥ずかしがりながらも身を委ねるペッパーなのに、今日は何故か拒否したのだ。
「と、トニー、夜まで待って!」
身体を離したペッパーだが、突然拒否されたトニーは不満げに頬を膨らませた。が、きっと何か理由があるのだろとトニーは思い直した。
「どうしたんだよ?」
ペッパーが何か言おうと口を開きかけた時だった。
『トニー様、お客様です』
J.A.R.V.I.S.の声と同時にエレベーターのドアが開き、見知らぬ女性が部屋に入ってきた。
「えっと……」
突然乱入してきた面識のない女性にトニーは目をぱちくりさせていたのだが…。
「ママ、早かったわね」
隣にいたペッパーは、ニコニコと笑みを浮かべるとその女性に駆け寄ったのだ。
(ママということは…)
ペッパーとその女性を見比べていたトニーだが、その視線に気づいた女性はニッコリとトニーに向かって微笑んだ。
「初めまして、トニーくん。ヴァージニアの母です。いつも娘がお世話になっています」

つまり、この女性はペッパーの母親で…。

ようやく事態を把握したトニーは、車椅子の上で飛び上がりそうになった。
彼女の母親が来るとは聞いていない。おそらくペッパーが先ほど話そうとしたのは、このことだったのだろうが…。いや、それよりも、まさか初対面がこのような形になるとは…。

目を白黒させていたトニーだったが、姿勢を正すと慌てて頭を下げた。
「は、初めまして。トニー・スタークです。ペッパー…いや、ヴァージニアさんとお付き合いさせて頂いてます」
頭を深々と下げるトニーにニッコリ笑いかけたペッパーの母親は、荷物をカウンターに置くと手際よく片づけ始めた。
「トニーくんの話は娘からいつも聞いてるのよ。あなたと出会ってから、毎日楽しくて仕方ないし、今までの自分と違う自分になれるって」
それは例の謹慎処分も含まれているのだろうかと、一瞬ビクっとしたトニーは思わずペッパーを見つめた。が、トニーの考えを読んだのか、ペッパーはまるで『そこまで話していないわ』というように眉を吊り上げた。
2人が見つめ合っているのに気付いたペッパーの母親は、微笑ましいわねとクスクス笑い声を上げた。
「それでね、トニーくんが退院って聞いて、いてもたってもいられなくなって。だって、まだ色々と大変でしょ?ヴァージニア1人だと手が足りないと思って、厚かましいかもしれないけど、手伝いに来たの」
楽しそうに笑みを浮かべたペッパーの母親の仕草はペッパーにそっくりで、トニーは眩しそうに目を細めた。
と、ペッパーの母親が真面目な表情になった。
「トニーくん、大変だったわね。それなのに、お見舞いに行けずにごめんなさいね。本当は何度も伺おうかと思ってたの。でもね、御挨拶もまだなのに、いきなり私たちが押しかけても迷惑かと思って、なかなか行かれなかったの…」
突然真面目な話になり、トニーも再び姿勢を正した。
「いえ、こちらこそ。ポッツさん、その……ご挨拶にもお伺いせず…申し訳ありませんでした」
いつか機会を伺ってペッパーの両親へは挨拶に行こうと思ってはいた。両親の許可なしに同棲を続けるのも如何なものかと、トニーは内心考えていたのだ。
珍しくモゴモゴと口篭ったトニーに、ペッパーの母親はパッと顔を輝かせた。
「あらあら、いいのよ。ヴァージニアったら、今まで誰ともお付き合いしたことなかったから、恋人が出来たって聞いた時は私も主人も大喜びで…。それもこんなにしっかりした紳士で素敵な方が…。この子にはもったいないくらいだわ!ヴァージニアのことを一途に思って下さっているようだし、あなたになら安心して娘を預けられるって、主人とも話してたの」
どうやらペッパーは、恋人になる前のトニーの噂は両親には話していないようだし、彼女の両親もまた、ゴシップ関係には疎いのか知らないようだ。
ふぅと気づかれないように息を吐き出したトニーは、額の汗を拭った。
幸いにもそんなトニーに気づいていないのか、ペッパーの母親はトニーの車椅子に手を掛けると押し始めた。
「トニーくん、まずは着替えましょうね?それから髪の毛が伸びてるから、切ってあげるわ」
「い、いや…その…」
着替えはペッパーに手伝ってもらおうと思っていたのに、まさか彼女の母親が出てくるとは…。
目を白黒させるトニーだが、恋人を母親に取られそうだとペッパーは大慌て。
「ママ!トニーは私の恋人なのよ!だから私がお世話するの!」
「いいじゃないの。ママにもお世話させて。息子が出来たみたいで楽しいんだから」
まさか自分の身にも、恋人と恋人の母親による取り合いが起こるとは思わなかった。頭を抱えたトニーだが、トニー争奪戦は結局トニーの足が治り、ペッパーの母親が帰るまで3週間に渡り続いたとか…。

113.せきらら

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