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Father’s Day(2021)

母親に似たのか、元々料理に興味深々だったモーガンは、2ヶ月前にめでたく5歳になったのだが、誕生日には本格的な子供用の包丁のセットを強請り、それ以来母親と共にキッチンに向かっていることが多くなった。

6月のある日曜日。
トニーが半分寝ぼけ眼でキッチンに向かうと、いつもようにペッパーが『完璧な朝食』を用意していた。が、自分の定位置に並んでいるのは……。
半分以上焦げているスクランブルエッグに、大きめにちぎったレタスが皿からはみ出しているサラダ、なんとも言えない色をしているスムージーに果物てんこ盛りのヨーグルト、そして歪な形のパンケーキにはチョコレートで何やら書かれている。顔を近づけしばし見つめていたトニーは、それが『パパだいすき!』という文字であることをようやく理解した。
つまり今朝の朝食の作り主は……。

「あたしがひとりでつくったのよ!」
父親に気づき駆け寄って来たモーガンは、得意げに鼻の頭を擦った。彼女はエプロンを付けていた。『Happy Father’s Day』と書かれたエプロンを。
(あぁ、そうか。父の日なんだ)
だからモーガンは朝食を作ってくれたのだ。
途端に胸がいっぱいになったトニーは、身をかがめると娘をギュッと抱きしめた。

早速娘お手製の朝食を食べようと、喜び勇んで席に着いたトニーだが……。モーガンは本当に一人で作ったようで、スクランブルエッグは卵の殻だらけ、何が入っているのか知らないがスムージーはやたらと苦いではないか。
「美味しいね、ママ」と言いながら、ペッパーお手製の朝食を食べる娘と妻を恨めしそうに見つめたトニーだが、せっかくの娘の料理に「不味い」なんて言えるはずもなく、粉っぽいパンケーキを無理矢理牛乳で流し込んだ。

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Christmas day. (2020)

多くの子供たちにとってそうであるように、クリスマスはモーガンにとっても特別楽しみな日だった。リビングに鎮座する大きなツリーの下には、数日前から沢山のプレゼントが置かれているが、それを両親と共に開封できるのが、クリスマスだったからだ。そして、母親の旨い料理を食べ、大好きな両親と一日中楽しいことをして過ごす…それがクリスマスだったからだ。

だから今年も去年までと同じように過ごすと思っていた。

が、今年は全てが違っていた。いつもの場所にツリーが飾られることはなかった。暖炉に靴下は下げてあるが、年々規模がエスカレートしている庭のイルミネーションも今年はなかった。

それは、大好きなパパが家にいないから。

2ヶ月前、『大変な怪我』をしたパパは、今も病院にいる。父親が眠っている間、母親はずっと付き添っており、モーガンはハッピーおじちゃんと家で留守番をしていた。父親が目を覚ましてからは、モーガン自身も母親と共に病院で過ごすことの方が多かったため、クリスマスの準備は何一つ出来ていなかったのだ。

それでも毎年楽しみにしていたクリスマスだ。父親も毎年楽しそうに準備をしていたのだから、きっと今年も待ち望んでいると考えたモーガンは、庭で拾った木や葉などで小さなツリーを作った。画用紙でクリスマスカードや飾りを作った。あとはケーキと料理があれば完璧だが、小さなモーガンにそれらを作る術はない。そこで病院から帰宅した母親に、秘密の計画を打ち明けた。すると母親は嬉しそうに笑うと、パパのために最高のクリスマスにしようとモーガンに告げた。

翌日、モーガンは母親と共に買い物に出掛けた。数ヶ月前までは閑散としていたマーケットも、華やかな装飾と大勢の人で賑わっており、誰もがクリスマスを心待ちにしているようだった。母親は食材や花などを次々と買っているが、自分もだが父親も好きなアレの材料を母親は買っていないことにモーガンは気づいた。
「ママ、ケーキは?」
「パパはまだケーキが食べられないのよ」
数日前に目を覚ました父親は、話どころか息をするのも大変そうなことを思い出したモーガンは、残念そうに項垂れた。
「パパ、ママのケーキすきなのに、ざんねんだね」
「来年は大きなケーキを作ってパパに食べさせてあげましょ?」
最後にサンタ帽子を3つ買った2人は家に戻ると、早速支度をし始めた。

翌日。
サンタ風のワンピースを着てサンタ帽を被ったモーガンは、両手いっぱいに荷物を抱えていたが、足取り軽く父親の病室に向かった。
本当はジェラルドも連れて来たかったのだが、病院にアルパカを連れて行ってはいけないと母親に言われ、泣く泣く諦めたのだ。
「パパ、よろこぶかな?」
病室に入る前に確認するように尋ねると、母親は悪戯めいた笑みを浮かべた。
「パパはサプライズ好きだから、きっとモーガンのサプライズに大喜びするわよ」

父親は眠っていた。
そこでモーガンは母親と共に部屋を飾り付けした。モーガンの作ったツリーや飾りで、病室はパッと明るさと華やかさに包まれた。そしてBGMにクリスマスソングを流すと、タイミングよく父親が目を覚ました。何度か瞬きをした父親は、すっかりクリスマスムードになった部屋を、視線をキョロキョロと動かして眺めている。
「パパ、メリークリスマス!」
頃合いを見計らったモーガンがサンタ帽を差し出すと、嬉しそうに目を細めた父親はそれを左手で受け取った。が、右手がなくなってしまったし、横になったままで動けないのだから、自分で被ることができない。すると母親がスッと父親から帽子を受け取ると、鼻に挿れられたチューブを避けるように、被せた。
「モーガンが用意したのよ。パパはクリスマスが大好きだから、パーティをしようって」
母親が父親の頬にキスをすると、父親は目尻を下げて笑みを浮かべると、腕を伸ばした。
「モーグーナ……」
囁くような小声だったが、父親だけが呼ぶその響きが、モーガンは大好きだった。
「なぁに?」
モーガンがベッドに近寄ると、父親は頭をクシャッと撫でてくれた。その手の温もりに、モーガンはくすぐったそうに笑い声を上げた。
「ペッパー……」
頭を撫でながら父親が母親の名を呼んだ。するとモーガンの身体が宙に浮いた。母親に抱き上げられたままベッドに腰掛けると、父親が左手を伸ばした。モーガンは父親の左手を握りしめた。すると母親は両手で包み込むように手を重ねた。

モーガンは両親の手の温もりを感じた。
大きく力強く、いつも母親と自分を守ってくれるパパの手と、優しく柔らかく、いつも父親と自分を温かく包み込んでくれるママの手…。

もしパパが2か月前、遠い世界に行ってしまっていたら、こうやって手を握ることも、話をすることも、クリスマスのパーティーをすることも出来なかった。だけどパパは戻ってきてくれた。沢山怪我をして、もう少しお家に戻ってこれないけど、パパはこれからもずっとママと自分と一緒にいてくれるのだ。パパは右腕がなくなってしまったし、右のお顔にも怪我をしたままだけど、パパが一緒にいてくれるだけでいい…。

そんなことをモーガンが考えていると、父親がポツリと呟いた。
「…クリスマスが迎えられて……幸せだな…」
父親の目から小さな涙が零れ落ちた。その涙を拭った母親は何度も頷いたが、頬には涙の筋がいくつも残っている。
「あなたがそばにいてくれる…こんなに嬉しいクリスマスは初めてよ」
そう告げた母親は、両手で父親の頬に触れると、キスをし始めた。

キスをする両親は本当に嬉しそうで、パパもママもみんなが幸せになれるクリスマスは、やっぱり特別な日だなと、嬉しくなったモーガンは両親に抱きついた。

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Mommy’s Birthday(ペッパー誕生日 2019年)

ペッパーの中の方の誕生日SS。
EG後に出したトニペパ本”Love Of My Life…”の”I Love With Mr.Stark.”のお話となっています。
ハリウッドAUで、トニーはベテラン人気俳優、ヴァージニアは駆け出しの女優で、共演したことで恋に落ちて結婚するというお話です。
結婚後は、モーガンとレニーという双子が生まれたという設定となっています。

♥ ♥ ♥
「今日はな、ママの誕生日なんだ」
朝食後、大惨事となっている双子の口の周りを拭きながら、トニーは娘と息子に告げた。
「だから、ママが腰を抜かして驚くようなサプライズを仕掛ける。いいな?」
真剣な眼差しの父親に、不思議そうな顔をしていたモーガンとレニーは、顔を見合わせた。パパは嬉しそうだから、きっと楽しいことがあるに違いないと考えた双子は、一斉に声を上げた。
「「だった!!あうー!まぁま!」」
何やら必死に訴える双子に、うんうんと頷いたトニーは二人を抱き上げた。
「そうだ。サプライズだ。ママはパパのサプライズが死ぬ程好きなんだ。だから泣いて喜ぶぞ」
ククッと笑ったトニーは、まずは双子を着替えさせようと子ども部屋へと向かった。

ヴァージニアは朝から彼女のマネージャーであるマリア・ヒルと共に、打ち合わせに出かけた。もうすぐ仕事復帰するため、次作の台本の打ち合わせなのだが、わざわざ今日なのはトニーが仕組んだことだ。台本の打ち合わせ後は、ランチを食べ、美容院に行くと言っていたので、16時過ぎには戻ってくるだろう。

双子を着替えさせると、早速イベントプランナーと花屋がやって来た。トラック一杯のバラの花を次々と運び入れた花屋は、トニーの指示通りにプランナーと共にあちこちを飾り始めた。
双子に昼食を食べさせ、昼寝をさせる頃には、部屋がバラだらけになった。トニーが満足げに部屋を見渡していると、今度は注文していたケーキが届き、馴染みのシェフがディナーの用意をし始めた。
小一時間程すると、双子が目を覚ましたので、洋服を着替えさせていると、マリア・ヒルからメールが届いた。
『これから戻ります』
「よし、モーガン、レニー。出番だ」
自分も手早く着替えたトニーは、双子を抱きかかえるとリビングへと向かった。

「ただいまー」
帰宅したヴァージニアは、朝とは様変わりした家に腰を抜かしそうになった。
バラの花が大量に飾られ、派手な装飾があちこちに見られるではないか。その中に”Happy Birthday!”と書かれたものを見つけたヴァージニアは、今日が自分の誕生日であることをようやく思い出した。
すると双子の声が聞こえた。
「まー!」
「まぁま!!」
競うようにハイハイしてやって来た双子は、母親の元に辿り着くと可愛らしい笑みを浮かべた。
「モーガン、レニー、ただいま」
抱き上げると二人は必死でお喋りを始めた。
「パパと遊んだの?楽しかった?」
相槌を打っていたヴァージニアだが、双子がそれぞれ”We Love” “Mommy❤️”というTシャツを着ていることに気づいた。
と、そこへトニーがやって来た。
「おかえり、ジニー」
トニーもTシャツを着ていたが、何とヴァージニアの顔がプリントされたものを着ているではないか。
「どうしたの、そのTシャツ?!」
目を丸くしているヴァージニアに、トニーは澄まして答えた。
「作った。愛する妻の誕生日なんだ。いいだろ?」
そう言ってくれるのは嬉しいが、そんなにデカデカとプリントされていると、恥ずかしい気もする。頬を赤く染めた妻にキスをしたトニーは、モーガンを受け取った。
「誕生日おめでとう、ヴァージニア。ささやかだが、パーティの準備をしてるんだ。初めて家族4人で祝う君の誕生日だしな」
「ありがと、トニー」
夫の唇にキスをしたヴァージニアは、トニーの手を取った。

が、彼女は忘れていた。トニー・スタークがサプライズ好き…しかも、ヴァージニアを驚かせることが特に好きであるということを…。
部屋中を埋め尽くしたバラは序の口だった。シェフ付きのフランス料理のフルコースは、クラッシックの生演奏付き、デザートには巨大な特製のケーキが登場した。双子を寝かせた後、バスルームに向かうと、バスタブにはバラの花びらが浮かんでおり、シャンパンまで用意してあった。勿論トニーが乱入してしたので、バスタブで愛し合った後は、ベッドの中で一晩中愛を囁かれた。日付けが変わる前に、トニーは誕生石であるサファイアの煌めく指輪をプレゼントしてくれた。そして再び愛し合い…。

こうしてヴァージニアは、結婚後初めてのサプライズだらけの誕生日を満喫したのだが、来年はもっと驚くような仕掛けをしようと、トニーは目論んでいたとか…。

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クリスマス2018年

「メリークリスマス!」
ドレスアップしたトニーとペッパーに向かって、お決まりの台詞を告げたのは、サンタクロースだ。
今日はスターク・インダストリーズのクリスマスパーティー。社員の家族も招いたパーティーには、子供たちも大勢集まっており、皆サンタクロースに目を輝かせている。
それは2人の息子であるモーガンも例外ではなく、ペッパーの腕の中にいる彼は、初めて見るサンタクロースに興味津々。
「あー!」
まだ喋れない彼は、それでもアピールしようとサンタクロースに向かって手を伸ばした。
「可愛いですね。おいくつですか?」
モーガンの頬をくすぐったサンタクロースは、袋の中から人形を取り出すと、彼に手渡した。
「8ヶ月です」
サンタクロースに礼を言いながら答えたペッパーは、可愛らしい声を上げ人形を振り回している息子を抱きしめ直した。

去って行くサンタクロースを見送りながら、ペッパーは先程から頭に浮かんでいた疑念をトニーに尋ねてみることにした。
「トニー、サンタクロースってゲストにいたかしら…」
首を振ったトニーは、妻に向かって肩を竦めた。確かに彼もそのことについては疑問に思っていた。今年のサプライズはサンタクロースではなく、大人から子供に至るまで大流行した某アーティストのスペシャルライブなのだから。そしてもう1つ。妻であるペッパーにも話していないことがある。それは、彼自身がサンタクロースに扮してド派手に登場するというサプライズを、パーティー終盤で決行するということ。だから今年のパーティーにサンタクロースを呼んでいるはずがないのだ。だが、それはあくまでサプライズなのだから、ここで口を割る訳にはいかない。
「それより、明日は…」
今年はモーガンが生まれて初めてのクリスマスということもあり、明日の25日は家族3人で静かに過ごすことにしている。
あからさまに話題を変えた夫に、ペッパーは合わせることにした。
「この子が生まれて初めてのクリスマスですもの。楽しみね」
「だー!」
と、モーガンがそうだと言うように声を上げた。クスクス笑い始めたペッパーは、息子の頬にキスをした。
「お前はまだママの美味しい手料理が食べられないな。代わりにパパが全部食べるから安心しろ」
モーガンの鼻を擽ったトニーは、歓声を上げた息子を受け取ると、ペッパーの手を繋ぎ歩き始めた。

ペッパーの挨拶から始まったパーティーは、ゲストのアーティストの生ライブもあり、大盛り上がり。会場内に設けられた子供専用の遊び場では、大勢の子供たちがはしゃいでいた。
ペッパーは重役たちに捕まってしまったため、トニーもモーガンを連れてボールプールへやって来た。
「だっ!」
ボールを手に取ったモーガンは、トニーに手渡した。ペッパー以外の人物からの手渡しは嫌いだったトニーだが、息子からの手渡しは大歓迎だ。モーガンは次々とボールを手渡してくるため、持ちきれないボールをトニーはポンっと遠くへ放り投げたのだが、モーガンは頬を膨らませた。
「だだっ!」
投げずに持っておけというように何やら文句を言い始めたモーガンだが、トニーは眉をつりあげた。
「おい、息子よ。めちゃくちゃなことを言うな。パパの手は2本しかないから、そんなにポンポン渡しても、全部持ちきれる訳がないだろ?」
正論を言ったつもりなのに、モーガンは呆れたように目を回した。その仕草は、父親である自分にも、そして母親であるペッパーにもそっくりで、トニーは思わず苦笑した。

「あ、あの…」
可愛らしい声に振り返ると、6歳くらいだろうか、1人の少女が背後に立っていた。
モジモジとしていた少女は、何度か深呼吸をすると、意を決した様に口を開いた。
「おじさん、アイアンマンでしょ?」
トニーは、モーガンが産まれたのを機にアイアンマン…いや、ヒーロー活動からは一線を引いていた。だが、引退したとはいえ、アイアンマンはこれから先も自分以外になり得ないので、肯定した方が良いだろうかと思いつつも、トニーは簡潔に答えることにした。
「少し前まではそうだったが、今は違うぞ?」
そう答えてみると、少女は悲しそうに唇を尖らせた。
「どうしてアイアンマン、やめちゃったの?」
「おじさんの今の仕事は、家族を…奥さんと息子を守ることなんだ」
「そうなんだ」
相変わらず口を尖らせている少女の様子が気になったトニーは立ち上がると、彼女の目線に合わせて腰を下ろした。
「どうした?」
ポンっと軽く頭を撫でると、顔を上げた少女は真剣な眼差しをトニーに向けた。
「あ、あのね…。私、アイアンマンみたいなヒーローになりたいの。どうやったらなれる?」

と、その時だった。

バーン!!

部屋に大きな破裂音が響き渡った。
クラッカーの音かと思ったが、次々と悲鳴が聞こえ、トニーは立ち上がった。見ると、部屋の中央のテーブルにサンタクロースが登っており、銃を片手に何やら喚いているではないか。
次々と銃声が聞こえ、人々は一斉に出口に向かって走り始めた。が、サンタクロース…いや、襲撃犯には仲間がいたようで、あちこちにある出入り口には銃を構えたサンタクロースが張り付き、部屋はあっという間に封鎖されてしまった。
一体セキュリティ一はどうなっているんだと憤慨したトニーだが、立ち尽くしたままの先程の少女の手を引っ張ると、ボールプールの中に飛び込んだ。そして驚いて泣き始めたモーガンを抱きしめると、なるべく姿が見えないように、ボールの海の中に2人を押し込んだ。
そっと顔を上げ辺りを伺うと、トニーの近くに控えていたハッピーが、逃げ遅れた子供たちを集め物陰に隠しているのが見えた。
ハッピーに向かって頷いたトニーは近くに移動しようとしたが、犯人達が天井に向かって銃を乱射し始めたため、再びボールプールに身を伏せた。
声を上げ泣いている息子をぎゅっと抱きしめたトニーは、彼の小さな背中をゆっくりとさすった。
「しーー。モーガン、大丈夫だ…。パパがいるから大丈夫だ…」
何度もそう告げると、安心したのかモーガンは泣き止んだ。
息子が落ち着いたところで、トニーは傍にいる少女に声を掛けた。
「名前は?」
小さく震える身体を抱き寄せると、震えが止まった。
「ミーナ。ミーナ・トンプソンよ」
「素敵な名前だな」
少女に向かってウインクしたトニーは、そっと頭を上げた。襲撃犯たちは部屋のあちこちにいるが、自分たちには気づいていないようだ。
(サンタクロースのサプライズのために仕込んだんだが…仕方ないな…)
はぁと小さく溜息をついたトニーは、頭を下げるとインカムに向かって小声で呼びかけた。
「F.R.I.D.A.Y.…。作戦変更だ。合図と共に…分かってるな?」
『はい、ボス。すぐに準備します』
優秀なA.I.は即時に状況を判断すると、準備を始めた。
『ボス、準備が整いました』
ものの数秒で返ってきた返答に、トニーはもう一度頭を上げた。見るとペッパーが襲撃犯に捕まっているではないか。
「おい!お前の旦那と子供はどこだ!」
ペッパーの手を掴んだ犯人は、脅すように喚いているが、さすがはペッパー。彼女も負けてはいなかった。
「知らないわよ!もう部屋の外に逃げたんじゃないの?」
犯人の手を邪険に払ったペッパーは腕組みすると、彼らを睨みつけた。
「悪いけど、トニーはあなたたちに易々と捕まるような人じゃないわ。彼を誰だと思ってるの?トニー・スタークよ!」
決め台詞のように叫んだペッパーに、周囲から拍手が湧き起った。

ペッパーは大丈夫だなと苦笑したトニーは、頭を下げると少女を見つめた。
「なぁ、ミーナ。ヒーローになりたいんだろ?」
「え?」
突然話を振られた少女は、目を白黒させている。
「おじさんは…アイアンマンは、今からあいつらをやっつけてくる。だから、ミーナは、うちの息子と一緒に、このボールプールを守っててくれないか?」
トニーの話を真剣に聞いていたミーナだったが、目を輝かせると大きく頷いた。
「うん!」
少女は大丈夫だと感じたトニーは、今度は息子に話し始めた。
「モーガン、ママを助けに行ってくるから、ミーナと一緒に待ってるんだぞ?」
涙の浮かんだ目で父親を見つめたモーガンだが、物分かりがいいのは母親譲りなのだろうか、口をへの字に曲げたモーガンは涙を堪えると頷いた。

ミーナにモーガンを任せたトニーは、ボールの中を這い、2人から少し離れた所で止まった。
「F.R.I.D.A.Y.、スタンバイしろ」
A.I.に指示をしたトニーは、ボールの海から勢いよく立ち上がった。
「やぁ、君たちが探している私はここだぞ?」
トニーが手をヒラヒラと振ると、襲撃犯たちは一斉に銃を向けた。
「メリークリスマス!!!」
腕を広げたトニーが大声で叫ぶと、クリスマスソングが大音量で鳴り出した。
何事かと犯人たちどころか部屋中の人間が騒めき始めると、大きな袋を背負いサンタクロースの格好をした何体ものアーマーが天井や舞台裏などから現れた。
突然現れたアイアンマンに犯人たちは銃を撃ったが、敵うはずがない。
その間にトニーは腕時計を叩いた。ナノテックがトニーの身体を覆い、アイアンマンの登場に子供達から歓声が沸き起こった。

駆け寄ってきた犯人の一人から銃を奪ったトニーは、彼を突き飛ばすと、ペッパーを捕まえている犯人の元へ飛んで行った。そしてリパルサーを構えたのだが、相手がアイアンマンとなると、犯人たちもどうすることもできず、あっという間に制圧されてしまった。

犯人たちは警察に連行されたが、楽しいはずのパーティー会場はめちゃくちゃになってしまっている。
ペッパーを抱きしめたトニーは、部屋のあちこちで子供達に囲まれているサンタクロース姿のアーマーを見ると、F.R.I.D.A.Y.に命じた。
「せっかくだ。予定通りにやってくれ」
するとアーマーたちは、袋からプレゼントを取り出すと、子供達に配り始めた。沸き起こる歓声を見つめながら、ペッパーは夫に向かって眉をつり上げた。
「さっきの襲撃犯もサプライズの演出とか言わないでよね」
「あれは予定外だ」
トニーが肩を竦めていると、モーガンを抱いたミーナが駆け寄ってきた。
「モーガン!」
「まー!」
ミーナからモーガンを受け取ったペッパーが息子の柔らかな頬にキスをすると、彼は母親にぎゅっと抱きついた。
「ペッパー、彼女はミーナ。モーガンを守ってくれていたんだ」
ミーナの髪をくしゃっと撫でながらトニーはペッパーに少女を紹介した。お礼を言ったペッパーは、せっかくだからと、トニーとミーナの写真を撮り始めた。
アイアンマンと写真が撮れたと喜ぶミーナに、トニーはウインクした。
「ミーナ、君はもう立派なヒーローだ」
トニーの言葉に口をぽかんと開けていたミーナだったが、みるみるうちに目を輝かせた。
「ほんと?」
「あぁ。君はボールプールだけじゃなくて、息子を守ってくれた。ありがとうな」
すると、ミーナは嬉しそうに笑った。いや、よく見るとその目には涙が溜まっているではないか。
「大丈夫?」
少女の様子が心配になったペッパーは彼女の肩に触れようとしたが、その手は彼女に触れることなく擦り抜けてしまった。
思わず顔を見合わせたトニーとペッパーに、今や消えそうなくらい透きとおったミーナは、小さく手を振った。
「ありがとう…アイアンマン。私も…やっと…ヒーローに…なれ………」
と、少女の姿は消えてしまった。
突然煙のように消えた少女に、モーガンは不思議そうに首を傾げた。
「だっだ、まー?」
その声に我に返ったペッパーは、目を見開いたまま立ち尽くすトニーの腕を掴んだ。
「と、トニー?!い、い、今の…」
だが、さすがのトニーも分かるはずもなく、ゆっくりと顔を動かし妻を見つめた彼は、一言告げるので精一杯だった。
「これもサプライズか?」

帰宅したトニーだが、少女のことが気になって仕方がなかった。
F.R.I.D.A.Y.にミーナについて調べるよう告げたトニーは、ペッパーとそしてモーガンを守るように抱きしめると目を閉じた。

翌朝。
早々に目を覚ましたトニーは、まだ眠っている妻と息子を起こさないように起き上がると、ラボへ向かった。
『ボス、ミーナ・トンプソンについてですが…』
F.R.I.D.A.Y.の報告を黙って聞いていたトニーだったが、トンプソン家の住所を確認すると、ラボを後にした。
リビングでは、ペッパーとモーガンがツリーの下のプレゼントの山の前で遊んでいた。
「おはよ、トニー」
「だっだ!」
「おはよう。よし、プレゼントを開けてみるか?」
ハイハイして近づいてきたモーガンを抱き上げたトニーは、朝から眩いばかりの笑みを浮かべたペッパーにキスをすると腰を下ろした。

まずモーガンが指差したのは、某おもちゃメーカーから送られてきたものだった。それは最新のアイアンマンのフィギュア…それも1/6サイズのかなり精巧なもので、サイズこそ小さいが質感も何もかもが本物そっくりだった。
アイアンマンが父親だと何となく理解しているモーガンは、リアルすぎるフィギュアを指差すと
「だっだ!」
と叫び手を叩いた。
「モーガン、正解だ。パパはアイアンマンだぞ」
父親の声が背後から聞こえ振り返ったモーガンだが、何と目の前には父親がいるではないか。
「だっだ?」
フィギュアとトニーを見比べたモーガンは、指をくわえると眉間に皺を寄せた。
「だ…だ??」
困惑している息子の可愛らしい表情にくすっと笑ったトニーとペッパーだが、モーガンは慌ててトニーに抱きついた。
「モーガン、あれは偽物だ。本物のパパはここにいるぞ?」
トニーの服を掴んだモーガンは、父親を見上げると何やら訴え始めた。
「そうだな。偽物のアイアンマンは、パパのラボに置いておこうな」
息子に向かってウインクしたトニーは、ペッパーに目配せした。一段と大きな包みをツリーの下から引っ張り出したペッパーは、モーガンの目の前で包装紙を破いた。
「これはパパとママからのプレゼントよ」
プレゼントはAudiのキッズカーだった。しかもご丁寧にも、トニーの愛車と同じ車種ではないか。モーガンはトニーとドライブに行くのが大好きで、どんなに愚図ついていても、トニーの車に乗せると泣き止む程なのだ。
目を見開いたモーガンは、ぱっと顔を輝かせた。興奮気味に声を上げ手足をばたつかせる息子を車の中に座らせたトニーは、後ろから押し始めた。
「ぶーー!うー!!」
ハンドルを握りしめたモーガンは、クラクションを鳴らした。大興奮のモーガンは、可愛らしい笑い声を上げ続け、車を押しリビングを走るトニーも楽しそうに笑っている。
そんな2人の様子を撮影していたペッパーだが、リビングを何周かし戻ってきたトニーは、モーガンを車から降ろすとペッパーの隣に腰を下ろした。
「なぁ、付き合って欲しい場所があるんだ」
先程とは打って変わり深刻な表情をしたトニーに、ペッパーも自然と姿勢を正した。
「どうしたの?」
「昨日の女の子…ミーナのことだ」
そう言うと、トニーは話し始めた。

トニーの話を黙って聞いていたペッパーだが、聞き終わると夫の手をそっと握りしめた。
「そうね。今日はクリスマスですもの。クリスマスの奇跡を起こしに行きましょ?」

数時間後。
一家はNY郊外の、とある家に到着した。
クリスマスに突然現れたスターク夫妻に、家の主であるトンプソン夫妻は驚いたが、昨日の映像を見せると食い入るように見始めた。
「ミーナ…」
夫人の目からは大粒の涙が零れ落ち、妻の肩を抱き寄せたトンプソン氏は、見せたいものがあると、トニーたちを2階へと連れて行った。

『ミーナ』と名前の掛かった部屋のドアを開けたトンプソン夫妻は、悲しそうに微笑んだ。
「あの子の部屋です」
部屋には沢山のアイアンマンのグッズが飾られていた。そしてミーナの写真も…。
「あの子、アイアンマンが大好きで…」
声を詰まらせた夫人に代わり、トンプソン氏は言葉を続けた。
「ヒーローになったら、病気が治ると信じていたんです。ですが…去年のクリスマスイブに…。最期に娘は言いました。ヒーローになれなくて、ごめんなさいって…」
それ以外続けることはできなかったのだろう。トンプソン氏は口を噤むと静かに涙を流した。

6歳という短い生涯を終えたミーナ。
自分がヒーローになれなかったばかりに、両親を遺して行かなければならなかったという思いが、この1年間彼女を彷徨わせていたのだろう。
「昨日の彼女は、間違いなくヒーローでした。息子を守ってくれたんですから…」
そう言うと、ペッパーは昨日撮った写真をトンプソン夫妻に渡した。
そこには、アイアンマンと誇らしげに肩を並べているミーナの姿がボンヤリとだが写っており、トンプソン夫妻は娘の姿をなぞると、笑みを浮かべた。
「あの子…ようやく天国に行くことができたんですね…」
「スタークさん…ありがとうございます…。あなたに…あの子のヒーローだったアイアンマンに、ヒーローだと言ってもらえて…あの子の夢が叶いました。本当にありがとうございます」

「ヒーローか…」
帰り道、黙って運転していたトニーだが、暫くしてそうポツリと呟いた。
ヒーロー活動からは引退し、縁遠い言葉になっていたと思っていたが、今もなお自分のこと…いや、アイアンマンを慕ってくれている人々がいるのだ。
「あなたはヒーローよ。アイアンマンでなくても、トニー・スタークはヒーローですもの」
そう言うと、ペッパーは後部座席に視線を送った。
トンプソン家へ訪問している間、じっと良い子にしていたモーガンは、疲れたのだろう、すっかり夢の中。むにゃむにゃと何事か寝言を言う息子にチラリと目をやったペッパーは、父親そっくりの寝顔の息子にクスッと笑みを浮かべた。
「モーガンにとっても、あなたは最高の父親だし、たった1人のヒーローよ」
トニーは何も言わなかったが、嬉しそうに目尻を下げた。
「あなたは私にとっても、たった1人のヒーローなのよ。これからも永遠に…」
赤信号で停車すると、ペッパーはトニーの肩にそっともたれかかった。
「それは光栄だ」
妻の頭にそっと口づけしたトニーは、口元も緩めると家に向かって車を走らせ始めた。

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