リクエスト頂いた「アベアカまたは学パロでダンスパーティー」です。
恋人になる前のアベアカなトニペパのお話。
***
耳障りなくらい騒々しい音楽に、ペッパー・ポッツは気づかれないように顔を顰めた。
こういう類のイベントは苦手だ。だからアカデミーに入学して以来、それとなく避けてきたのに、ダンスが大好きな友人ホープ主催のパーティーとなれば、参加せざるを得なかった。
友達は皆楽しそうに踊りまくっているが、ダンスパーティーなど一度も参加したことのないペッパーは、どうやって楽しめばいいのか分からず、部屋の隅で傍観するしかなかった。それに、アカデミー外からの参加者が多いのか、見たことのない顔が大勢いるのだから、結局ペッパーは黙ってジュースを飲み続けていた。
「ポッツさん?」
と、誰かが声を掛けてきた。見ると、生徒会で一緒のブルース・バナーだった。
「バナーくん、こんばんは」
ようやく顔見知りが現れたと、ふわっとした笑みを浮かべたペッパーに、ブルースも笑いかけた。
確かブルース・バナーもこういう類の場所は苦手だったはず。彼の場合は心拍数が上がりすぎると、『もう一人の自分』が現れるかららしいが…。
「珍しいわね、バナーくんが来るなんて」
小首を傾げるペッパーに、ブルースは苦笑い。
「そういうポッツさんだって。僕の場合は、彼に無理矢理連れて来られたんだけど」
と言いながら、ブルースは部屋の隅に視線を移した。そこには一人の男子生徒がいた。大勢の女性を侍らせている男子生徒が…。
トニー・スターク。
天才・金持ち・女好きで有名な彼は、ブルース・バナーと気が合うらしく、いつもブルースは引っ張り回されていると思い出したペッパーは、納得したように頷いた。
膝の上に座らせた女性とキスをしながら、トニー・スタークは別の女性のスカートの裾から手を入れ、太腿を撫で回しているではないか。
どうしてこんな場所でああいうことが出来るのだろうとペッパーが顔を顰めていると、トニー・スタークが何やら女性の耳元で囁いた。クスクス笑みを浮かべた女性は立ち上がると、トニー・スタークの手を引きどこかへ姿を消してしまった。
「やれやれ。僕はそろそろ退散するよ」
トニー・スタークがいなくなったのだからと、帰り支度を始めたブルース・バナーだが、そこへホープとナターシャ・ロマノフがやって来た。
「バナーくん!今から本日の目玉イベントなのよ!帰ったらだめよ!」
ブルースの腕を掴んだホープは、怖いほどの笑みを浮かべた。
「分かったよ。でも僕は…」
「知ってるわ。トニーに無理矢理連れて来られたんでしょ?で、そのトニーは女の子と消えちゃった…だから帰ろうって思ったんでしょうけど。大丈夫よ。トニーはそのうち帰ってくるから」
「あいつが来てるから、外部の女の子が大勢来てるのね」
あぁと納得したように頷くナターシャに、ホープは目をくるりと回した。
「そうそう。でもトニーって、アカデミーの女の子には手を出さないのよね。関係を持つと、後が厄介だからって」
真面目なペッパーからしてみれば、どこか遠い世界の話に聞こえてならない。出来ることならさっさと退散したいが、そんなことはホープとナターシャが許してくれそうもない。
とりあえず一度気持ちを落ち着けようと、断りを入れたペッパーはトイレへと向かった。
「はぁ……」
先程の会話を思い出したペッパーは溜息を付きながらドアを開けようとしたのだが、中から艶めかしい声が聞こえ、その場で飛び上がった。
身体がぶつかり合う音、そして喘ぎ声に混じり女性が「トニー」と叫ぶ声に、ペッパーの頭は大混乱。
(ちょっと!どうしてこんな所で…)
Hどころかキスもしたことがないペッパーには、少々刺激が強すぎたのか、頭がクラクラしてきたが、乱入していく訳にもいかず、仕方なく別の階のトイレへ走った。
ようやく気持ちを落ち着けたペッパーは、会場へ戻ろうと急いで階段を駆け下りたのだが、誰かとぶつかりそうになった。
「すみません!」
慌てて頭を下げたペッパーに、相手も頭を下げた。
「こちらこそすまない」
その声に顔を上げると、相手はあのトニー・スタークだった。が、目が合った瞬間、トニー・スタークは大きな目を見開いて固まってしまった。真っ赤な顔をした彼を訝しげに思いながらも、もう一度頭を下げたペッパーはホープたちの元へと急いだ。
ペッパーが会場に入ると、本日の目玉イベントであるダンスが始まろうとしていた。
入場時に渡された番号でダンスのペアを決めるというルールらしく、『12』と書かれた札を胸元に付けたペッパーも相手を探すことにした。
これだけの人数だから相手探しは難航すると思われたが、意外と呆気なく見つかった。というのも、同じく『12』の札を付けていたのは、あのトニー・スタークだったのだから…。
(えー!どうして、よりによって……)
トイレで聞こえてきた声が蘇り、ペッパーが目を白黒させていると、ペッパーに気づいたトニーが駆け寄ってきた。が、彼は見たことがない程顔を赤らめ、その場に直立不動したままだ。周りはダンスをし始めたのに、いつまで経っても何も言わないトニーに、痺れを切らしたペッパーは、仕方なく正直に踊れないと話すことにした。
「あ、あの……私…ダンス、苦手なんです…」
ハッと我に返ったトニー・スタークは、鼻の頭を擦るとニッコリ笑った。
「大丈夫。俺に任せて」
そう言うと、ペッパーの手を取りトニーは踊り始めた。
ギュッと握った手は力強く、時折見つめられる煌めく瞳に引き込まれそうになったペッパーだが、彼は自分とは世界の違う人なのだと思い返すと、黙って彼のリードに従った。
それでも、こういう時は何か話した方がいいのかとそっと周囲を見渡すと、ナターシャはブルース・バナーをくるくる回しながら楽しんでいるし、ホープは恋人のスコットと抱き合って踊っている。スティーブ・ロジャースは何故かバッキー・バーンズと古風なダンスを真剣な面持ちでしているが、皆楽しそうにお喋りしながら踊っていた。が、こういう場に一番慣れていそうな目の前のトニー・スタークは、真っ赤な顔をして言葉なく踊っているのだから、ペッパーはやはり何も喋らない方がいいのだと、開きかけていた唇を噤んだ。
結局言葉を交わすことはなかったが、何故かペッパーはトニーの手の温もりが忘れられなかった。
***
翌日。
カフェテリアで遅めのランチを食べたペッパーは、教科書を開くと勉強をし始めた。
暫くして
「ポッツさん」
と名前を呼ばれたため振り返ると、何とあのトニー・スタークが立っているではないか。
「えっと……スタークくん?」
どうして彼が自分に声を掛けてきたのだろう。昨日のダンスの後も彼は何も言わず立ち去ってしまったのに…。
ポカンと口を開けたままのペッパーに、トニーは何度も大きく深呼吸した。
「ぽ、ポッツさん、これから僕の家で朝まで愛を語り合わないか?」
一体どういうことなのだろう。
昨日、ダンスをしただけで、話もしたことがない男性に、どうして家に誘われなければならないのかと、ペッパーは眉を顰めた。
「どういうことですか?私、そんな軽い女じゃありません!」
頬を膨らませ立ち上がったペッパーは、呆然と立ちすくむトニーを残し、その場を後にした。
※で、”Bridge”に続きます。