「Pepperony 100」カテゴリーアーカイブ

45. Sleep(IM3)

「眠れないんだ」
トニーの告白を聞いたペッパーは、ベッドに横になると彼の頭を優しく抱きしめた。
「眠れない時はね…そうだわ。お話してあげるわ。ええっと…何がいいかしら…。あ、あのお話がいいわね…」
一人ブツブツと言っていたペッパーだが、コホンと咳払いをすると静かに話し始めた。
「昔々、あるところに…」
目をくるりと回したトニーはため息をついた。眠れないからと、まさかその手で出てくるのは…。
「おい、ハニー。いくら眠れないからといって、私は子供ではないんだ。おとぎ話はやめてくれ」
「そ、そうよね…」
トニーに言われ、途端に恥ずかしくなったペッパーは、真っ赤な顔を隠すようにシーツに潜り込んでしまった。その何とも言えない可愛らしい姿に、トニーは心臓を撃ち抜かれたわけで…。
「と、とにー……」
シーツごと抱きしめられたペッパーは、首筋で蠢く彼の唇の感触に抵抗できないでいた。
「ハニー、眠れない時は…な?」
ニヤリと笑ったトニーはシーツを剥ぎ取ると、ペッパーのTシャツに手を掛けた…。

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44. Joy

『あの時誓いを破ったのは私。だからもう一度誓わせて…』
病院のベッドに横たわったトニーの手を握りながら何度も言っていたペッパーだが、トニーが退院すると早速計画を実行に移した。

数日後。今日は雲一つない絶好の日和だ。ペッパーは眠っているトニーにキスをした。
「ダーリン、起きて。朝よ」
寝ぼけまなこのトニーは手探りでペッパーを抱き締めようとした。その腕をすり抜けたペッパーは、ジャーヴィスに命じると窓を開けさせた。
「ほら、早く支度して!」
今日は何かイベントがあっただろうかと、トニーは目をこすりながら起き上がった。
半分寝ぼけているトニーはペッパーにバスルームへ押し込まれた。そこには真新しいタキシードが掛かっており、それを見たトニーは今日が何の日なのか思い出した。
そう、今日は二人の二度目の結婚式。
あの日、トニーの言葉を信じることができなかったこと、そしてそれが結果的に彼を死の淵まで追いやってしまったことを、ペッパーは酷く後悔した。そしてもう二度とそのようなことは起こさせないと誓ったペッパーは、改めて誓いを立てるべく、二度目の結婚式を計画したのだった。

プライベートビーチに設けられた小さな祭壇。厳粛な顔をした神父の前に、手を固く握りあったトニーとペッパーはゆっくりと歩み寄った。
参列者は、ハッピーとローディ。そして、白のワンピースを着たエストは、ローディがしっかりと抱いている。
真新しいタキシードに身を包んだトニーは、白のマーメードラインのドレスに身を包んだペッパーを眩しそうに見つめた。一度目の結婚式の時は、このかけがいのない存在を自分だけのものに出来るという喜びで満ち溢れていた。そして二度目の今日、彼女と再び永遠の愛を誓うことができるという喜びで、トニーの胸は一杯だった。

「アンソニー・エドワード・スターク、汝はヴァージニアをこれからもただ一人の妻として、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
お決まりの文句を聞きながら、そう言えば最初の時は「早くしろ」と急かして最後まで聞いていなかったな…とふと気づいたトニーだが、神父が言葉を読み上げると、ペッパーの手をギュっと握り直し、彼女に顔を向けた。
「誓います。ペッパー…これからも未来永劫…永遠に君だけを愛し信じることを誓うよ」
最愛の女性をじっと見つめ誓いの言葉を紡ぐと、彼女の目から大きな涙が一粒零れ落ちた。
「まだ泣くのは早いぞ?なあ、神父様?」
水滴を拭ったトニーにニヤリと笑いかけられた神父は、小さく咳払いをすると、ペッパーに笑いかけた。
「では…。ヴァージニア・スターク、汝は…」
「待って!」
誓いの言葉を言う前に中断され、驚いたのは神父だけではなく、トニーもそしてローディ、ハッピーもだった。
もしやこの場に及んで嫌になったのか…と青ざめたトニーに気づいたペッパーは、慌ててトニーの手を握りしめた。
「違うの。誓いの言葉はね、私の口から言わせて欲しいの。トニー…私は最初の誓いを破ってしまった…。あの時、何があっても貴方だけを信じると誓ったはずなのに…。ごめんなさい。もし貴方をあのまま失うことになっていたら…私はきっと生きていられなかったわ…。だから、今度こそ誓うわ。何があっても貴方だけを愛することを…。貴方の言葉を…愛を絶対に信じることを…。もう二度と、何があっても貴方のそばから離れないことを…。貴方の喜びも悲しみもそして苦しみも、全て分かち合わせて下さい…。今までも、そしてこれからも…私は貴方だけのもの…。今日、もう一度誓わせて。貴方のことを永遠に信じ愛することを…」
一瞬の静寂に辺りは包まれ、ペッパーの凛とした美しい声がビーチに響き渡った。それはまるでトニーの返事を待っているかのように…。
ペッパーの瞳に写る自分を見つめたトニーだが、その一片の曇りもない瞳には彼の身も心も全て受け止めてくれる強さがあった。
そう、彼女だけが全てを受け止めてくれるのだ。他でもない、ペッパーだけがありのままのトニー・スタークを受け止めてくれるのだ。だからこそ、もう二度とその存在を手放したりするものか…。
「あぁ…。ヴァージニア…愛してる…」
繋がれた手を握り直したトニーは、ローディに抱かれ近づいてきたエストから指輪を受け取ると、ペッパーの指にはめた。一つ目の指輪はペッパーがデザインしたもの。そして今度の結婚指輪は、トニーがデザインしたもの。トニーのリアクターとそしてペッパーとエストの瞳と同じ色のブルーサファイアが3つ並んだ指輪は、世界で一組しかない特別なもの。
「トニー……これ…」
それが何を意味するのか理解したペッパーは、顔をくしゃっと歪めるとポロポロと涙を流し始めた。泣き始めた母親をエストは不安そうに見つめている。ローディから娘を受け取ったトニーは、ペッパーを抱き寄せた。
「ペッパー、こんな喜ばしい日はないな。可愛い娘と友人に囲まれて…再び君を私の妻にできたんだから…」
何度も頷くペッパーの頬を撫でたトニーは、唇を奪った。
二人を祝福するかのように、マリブの海に沈む夕日がキラキラと煌めいていた。

***
We can’t live without each other.の後日談です。

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43. Content(IM3後)

『満足か?』
あのクリスマスの日以来、彼は事あるごとにそう尋ねるようになった。
つまり、まるで全てを私中心に…私が喜ぶように、彼は行動するようになったのだ。
あの日以来、彼はアーマー作りを辞めた。以前のようにラボに篭ることは殆どなく、私との時間を大切にしてくれる彼の気持ちは嬉しい。でも彼は以前とは違い、どこかぼんやりとしていることが多くなった。あの頃の生き生きとした彼はいなかった。つまり、私が望んでいるのは、そんなことではなかった。

「トニー、この際だからはっきり言わせて」
ある夜、ベッドに潜り込んだトニーだが、急に姿勢を正したペッパーに肩を震わせた。
「な、何だ?」
何を言われるのかとビクビクしながらも座り直したトニーの手をペッパーは優しく握りしめた。
「あのね、私はあなたと一緒にいられるだけで満足なの。あなたはあなたらしく生きて欲しいの。だからお願い、自分の気持ちを押し殺さないで」
一瞬怪訝そうな顔をしたトニーだが、ペッパーの言いたいことが分かったのだろう。困ったように頭を掻いたトニーは、無理やり笑みを浮かべた。
「ハニー、私は別に…」
『我慢はしていない』というトニーの言葉を遮るように、ペッパーは首を振った。
「いいえ、トニー。あなたは我慢してる。誤魔化さないで。あなたと何年一緒にいると思ってるの?あなたはあの時誓ってくれたわ。『これからは二人の時間を大切にする』と。でもね、あなたが好きなことやしたいことを犠牲にして欲しくないの。私はね、あなたの気持ちも尊重したいの。私は好きなことをしている時のあなたも好きだから…」
ペッパーの言葉を俯いて聞いていたトニーだが、しばらくするとポツリと呟いた。
「…いいのか?」
と、遠慮がちに言ったトニーは恐る恐る顔を上げた。目の前のペッパーは目を潤ませ微笑んでいたが、彼の顔に浮かぶ不安の色に気付くと、全て受け止めるかのように彼の頭を抱え込んだ。
「えぇ。あなたはあなたらしくいて欲しいもの。それに、さっきも言ったけど…私はあなたがそばにいてくれるだけで満足なの…」
トニーの髪の毛を梳いたペッパーは、頭に何度もキスを落とした。その甘く柔らかな感触にくすぐったそうに笑ったトニーは、潤んだ瞳を隠すようにペッパーの胸に顔を押し付けた。
「ハニー、ありがとう」
くぐもった声を出したトニーを、ペッパーはいつまでも抱きしめ続けた。

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42. Flight(トニペパ+クリナタ)

「また喧嘩?」
大きな荷物を持って訪ねてきた友人を招き入れたペッパーは、苦笑しながらも彼女を招き入れた。玄関先に荷物を下ろしたナターシャは小さく頭を下げた。
「ごめんなさい…行く所がなくて…」
いつになくしょんぼりとしているナターシャはペッパーの後ろからリビングへと向かった。

「ロマノフ、また喧嘩か?」
リビングのソファーに寝ころんだトニーはナターシャの姿に気付くと、高い高いをしていた娘を腹の上に下ろした。
「悪かったわね。また喧嘩したのよ!」
ペッパーには素直になれるのに、トニーに対してはどうも素直になれないナターシャは、口を尖らせるとそっぽを向いた。
父親の腹の上に座ったエストは、大好きなナターシャおばさんの声に辺りを見渡した。そして目的の人物が母親の後ろにいることに気づいた彼女は、まだ歯の生えていない口を一杯に開け、満面の笑みを浮かべた。
「うー!あーあー!!」
ナターシャを指差し、連れて行けと喚く娘を抱くと、トニーは立ち上がった。
「エストちゃん。また来ちゃったわ」
手を伸ばしたエストをトニーから受け取ったナターシャは、歓声を上げる彼女に頬ずりした。

「で、今回の原因は?」
コーヒーを出したペッパーは、トニーの隣に腰を下ろした。大人の話に参加しているつもりなのか、エストもトニーの膝の上で大人しくしている。
「大したことじゃないの。あいつにちょっとイラついて…」
そう言葉を濁したナターシャに、トニーとペッパーは顔を見合わせた。実はナターシャが来るのは今週2回目。一昨日クリントが迎えに来て帰ったばかりなのに、すぐに戻って来たとなると、さすがのトニーも心配になった。
「大丈夫なのか?もうすぐ、ほら…」
チラリと妻を見たトニーの後をペッパーは続けた。
「そうよ。結婚式でしょ?」
黙ったままのナターシャは、手元の鞄の中を漁り始めた。
「そうだわ、エストちゃん。お土産があるの」
二人の言葉を無視したナターシャは、人形を取り出した。それは、ホークアイの人形だった。大好きなアベンジャーズの人形にエストは大喜び。エストはそのホークアイの人形に文字通り食いついた。生え始めている歯がむず痒いのだろう、人形は頭をかじられ、涎だらけ。
何と言っていいのか分からないトニーとペッパーが呆気に取られていると、ナターシャは怖いほどの笑みを浮かべた。
「エストちゃん、そいつ、思いっきり投げ飛ばしていいわよ!」
「!!」
冷や汗を流す両親と微笑むナターシャを見比べていたエストだが、人形を口から離すとブンブンと振り回し始めた。しばらくすると、人形は明後日の方向へ飛んでいった。

結局喧嘩の理由を聞けないまま、それぞれ部屋へと戻って行ったのだが、翌日、ナターシャは迷惑掛けっぱなしだからと、ベビーシッターを自ら申し出た。その言葉に甘えて、トニーとペッパーは久しぶりに二人きりでランチへと出かけて行った。
リビングでエストと遊んでいたナターシャはため息をつくと、先ほどからチラチラと見ていた携帯を放り投げた。
浮かない顔のナターシャに、エストは不思議そうな顔をしている。その視線に気づいたナターシャは、エストの隣にコロンと横になった。
「聞いてくれる?あいつったら酷いの。あいつが仕事を頑張ってるからと思って、料理を作ったの。5時間もかかったのよ。それなのに、あいつ、マズイって。私が料理下手なの知ってるくせにそんなこと言うの。マズイのはいいの。自分でも失敗したって分かってるから…。焦げてて原型をとどめてなかったもの…。でもね、せめて言って欲しいのよ。俺のためにありがとうとか…。ねぇ、そう思うでしょ?」
きょとんとしていたエストだが、まるで同意するかのように、「あーあー」と声を上げた。
可愛らしい反応にナターシャは笑みを浮かべた。
「エストちゃんはいい子ね」
「だぁ」
ニンマリ笑ったエストのその顔は父親そっくりで、ナターシャは苦笑い。だが、ふとした仕草は母親に似ており、ナターシャはふと友人夫妻を思い出した。
「ねぇ、スタークとペッパー……ううん、パパとママもよく喧嘩するの?」
「だー?」
まだ言葉も喋れない幼子にそんなことを聞いても返事があるはずはない。だが、聡明なエストは理解しているのだろうか。しばらく考えていた彼女は、『パパもママもケンカするよ』と言うように、あーあーと言いながら手足をばたつかせた。
ケンカしても、ペッパーが泣くとおそらくスタークが折れるのだろう…。そんな光景が目に浮かんだナターシャは、エストの頭を撫でた。
「あの二人、本当に仲がいいのよね。お互いのことをよく分かってるし、尊敬し合ってるし…。何よりあなたが証拠よね。二人が愛し合っているっていう…」
エストを抱き上げたナターシャは、小さな身体を抱き締めた。柔らかく温かい感触に、ナターシャのモヤモヤした心は段々と晴れ渡ってきた。
「決めた!やっぱり帰るわね。こんなことでいちいち怒ってたら、これから先、やっていけないわね」
ね?と顔を覗き込むと、エストはうとうととしかけている。
「パパとママが帰ってくるまでお昼寝しましょうね?」
エストを起こさないように立ち上がったナターシャは、小さな背中を摩りながら子供部屋へと向かった。

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41. Fire

『トニー様!』
ジャーヴィスの悲鳴のような声に続き、天井から大量の水が落ちてきた。
辺りに漂う焦げ臭い匂い。先ほどまで真っ赤な炎が上がっていたフライパンには真っ黒い炭になった謎の物体…いや、水浸しなのだから物体だったものかもしれないが…。
「ジャーヴィス!いい加減に水を止めろ!」
いまだ出続ける水のせいで濡れてしまった頭を振ったトニーが声を上げると、ようやく水が止まった。
「私にまで水を掛けなくていいだろ?」
軽く睨んだトニーだが、ジャーヴィスはすまして言った。
『申し訳ありません、トニー様。ですがトニー様のシャツも炎が移って燃えておりましたので』
だからと言って主人にまでこんなに大量に水を掛けるだろうか…と思ったトニーだが、結局は何も言えず水浸しになったキッチンを見渡した。
「おい、ダミー、ユー。ペッパーが帰ってくるまでに拭いておけ」
そう命じたトニーは、シャワーを浴びようとバスルームへと向かった。

(どうして上手くできないんだ…)
熱いお湯をかぶりながら、トニーはため息をついた。
自分でもなんでもそつなく熟せる方だと思う。メカ系は…専門なのだから当たり前なのだが…得意だし、ダンスや歌も上手い方だ。スポーツだって一通りできるし、言葉も何か国語も話せる。それなのに、どうしたものか、いくら頑張っても料理だけは上達しないのだ。いつだったか、3時間かけて作ったオムレツを黙って食べてくれたペッパーだったが、やはり美味くはなかったのだろう、その後簡単に出来る特製オムレツのレシピを教えてくれた。その通り作ればうまくいくはずなのに、どうやってもレシピ通りに出来ないのだ。
『無理しなくていいのよ、トニー。誰にだって苦手なことはあるわ』
そう言いながら、ペッパーはトニーの奮闘した後を手早く片付け、絶品料理を出してくれるのだ。
そのペッパーは出張で3日前から不在。今日の夕方帰ってくることになっている。
「せっかく何か作っておこうと思ったんだが…」
ため息を付いたトニーは、鏡の中の自分の顔を指で弾いた。仏頂面をした鏡の中の自分は、ニコリとも笑わない。
「出来ないものは仕方ないか…。予定変更だ」
身体をタオルで乱暴に拭いたトニーは、寝室に向かうといつものデリバリーを頼むようジャーヴィスに命じたのだった。

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