41. Fire

『トニー様!』
ジャーヴィスの悲鳴のような声に続き、天井から大量の水が落ちてきた。
辺りに漂う焦げ臭い匂い。先ほどまで真っ赤な炎が上がっていたフライパンには真っ黒い炭になった謎の物体…いや、水浸しなのだから物体だったものかもしれないが…。
「ジャーヴィス!いい加減に水を止めろ!」
いまだ出続ける水のせいで濡れてしまった頭を振ったトニーが声を上げると、ようやく水が止まった。
「私にまで水を掛けなくていいだろ?」
軽く睨んだトニーだが、ジャーヴィスはすまして言った。
『申し訳ありません、トニー様。ですがトニー様のシャツも炎が移って燃えておりましたので』
だからと言って主人にまでこんなに大量に水を掛けるだろうか…と思ったトニーだが、結局は何も言えず水浸しになったキッチンを見渡した。
「おい、ダミー、ユー。ペッパーが帰ってくるまでに拭いておけ」
そう命じたトニーは、シャワーを浴びようとバスルームへと向かった。

(どうして上手くできないんだ…)
熱いお湯をかぶりながら、トニーはため息をついた。
自分でもなんでもそつなく熟せる方だと思う。メカ系は…専門なのだから当たり前なのだが…得意だし、ダンスや歌も上手い方だ。スポーツだって一通りできるし、言葉も何か国語も話せる。それなのに、どうしたものか、いくら頑張っても料理だけは上達しないのだ。いつだったか、3時間かけて作ったオムレツを黙って食べてくれたペッパーだったが、やはり美味くはなかったのだろう、その後簡単に出来る特製オムレツのレシピを教えてくれた。その通り作ればうまくいくはずなのに、どうやってもレシピ通りに出来ないのだ。
『無理しなくていいのよ、トニー。誰にだって苦手なことはあるわ』
そう言いながら、ペッパーはトニーの奮闘した後を手早く片付け、絶品料理を出してくれるのだ。
そのペッパーは出張で3日前から不在。今日の夕方帰ってくることになっている。
「せっかく何か作っておこうと思ったんだが…」
ため息を付いたトニーは、鏡の中の自分の顔を指で弾いた。仏頂面をした鏡の中の自分は、ニコリとも笑わない。
「出来ないものは仕方ないか…。予定変更だ」
身体をタオルで乱暴に拭いたトニーは、寝室に向かうといつものデリバリーを頼むようジャーヴィスに命じたのだった。

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。