42. Flight(トニペパ+クリナタ)

「また喧嘩?」
大きな荷物を持って訪ねてきた友人を招き入れたペッパーは、苦笑しながらも彼女を招き入れた。玄関先に荷物を下ろしたナターシャは小さく頭を下げた。
「ごめんなさい…行く所がなくて…」
いつになくしょんぼりとしているナターシャはペッパーの後ろからリビングへと向かった。

「ロマノフ、また喧嘩か?」
リビングのソファーに寝ころんだトニーはナターシャの姿に気付くと、高い高いをしていた娘を腹の上に下ろした。
「悪かったわね。また喧嘩したのよ!」
ペッパーには素直になれるのに、トニーに対してはどうも素直になれないナターシャは、口を尖らせるとそっぽを向いた。
父親の腹の上に座ったエストは、大好きなナターシャおばさんの声に辺りを見渡した。そして目的の人物が母親の後ろにいることに気づいた彼女は、まだ歯の生えていない口を一杯に開け、満面の笑みを浮かべた。
「うー!あーあー!!」
ナターシャを指差し、連れて行けと喚く娘を抱くと、トニーは立ち上がった。
「エストちゃん。また来ちゃったわ」
手を伸ばしたエストをトニーから受け取ったナターシャは、歓声を上げる彼女に頬ずりした。

「で、今回の原因は?」
コーヒーを出したペッパーは、トニーの隣に腰を下ろした。大人の話に参加しているつもりなのか、エストもトニーの膝の上で大人しくしている。
「大したことじゃないの。あいつにちょっとイラついて…」
そう言葉を濁したナターシャに、トニーとペッパーは顔を見合わせた。実はナターシャが来るのは今週2回目。一昨日クリントが迎えに来て帰ったばかりなのに、すぐに戻って来たとなると、さすがのトニーも心配になった。
「大丈夫なのか?もうすぐ、ほら…」
チラリと妻を見たトニーの後をペッパーは続けた。
「そうよ。結婚式でしょ?」
黙ったままのナターシャは、手元の鞄の中を漁り始めた。
「そうだわ、エストちゃん。お土産があるの」
二人の言葉を無視したナターシャは、人形を取り出した。それは、ホークアイの人形だった。大好きなアベンジャーズの人形にエストは大喜び。エストはそのホークアイの人形に文字通り食いついた。生え始めている歯がむず痒いのだろう、人形は頭をかじられ、涎だらけ。
何と言っていいのか分からないトニーとペッパーが呆気に取られていると、ナターシャは怖いほどの笑みを浮かべた。
「エストちゃん、そいつ、思いっきり投げ飛ばしていいわよ!」
「!!」
冷や汗を流す両親と微笑むナターシャを見比べていたエストだが、人形を口から離すとブンブンと振り回し始めた。しばらくすると、人形は明後日の方向へ飛んでいった。

結局喧嘩の理由を聞けないまま、それぞれ部屋へと戻って行ったのだが、翌日、ナターシャは迷惑掛けっぱなしだからと、ベビーシッターを自ら申し出た。その言葉に甘えて、トニーとペッパーは久しぶりに二人きりでランチへと出かけて行った。
リビングでエストと遊んでいたナターシャはため息をつくと、先ほどからチラチラと見ていた携帯を放り投げた。
浮かない顔のナターシャに、エストは不思議そうな顔をしている。その視線に気づいたナターシャは、エストの隣にコロンと横になった。
「聞いてくれる?あいつったら酷いの。あいつが仕事を頑張ってるからと思って、料理を作ったの。5時間もかかったのよ。それなのに、あいつ、マズイって。私が料理下手なの知ってるくせにそんなこと言うの。マズイのはいいの。自分でも失敗したって分かってるから…。焦げてて原型をとどめてなかったもの…。でもね、せめて言って欲しいのよ。俺のためにありがとうとか…。ねぇ、そう思うでしょ?」
きょとんとしていたエストだが、まるで同意するかのように、「あーあー」と声を上げた。
可愛らしい反応にナターシャは笑みを浮かべた。
「エストちゃんはいい子ね」
「だぁ」
ニンマリ笑ったエストのその顔は父親そっくりで、ナターシャは苦笑い。だが、ふとした仕草は母親に似ており、ナターシャはふと友人夫妻を思い出した。
「ねぇ、スタークとペッパー……ううん、パパとママもよく喧嘩するの?」
「だー?」
まだ言葉も喋れない幼子にそんなことを聞いても返事があるはずはない。だが、聡明なエストは理解しているのだろうか。しばらく考えていた彼女は、『パパもママもケンカするよ』と言うように、あーあーと言いながら手足をばたつかせた。
ケンカしても、ペッパーが泣くとおそらくスタークが折れるのだろう…。そんな光景が目に浮かんだナターシャは、エストの頭を撫でた。
「あの二人、本当に仲がいいのよね。お互いのことをよく分かってるし、尊敬し合ってるし…。何よりあなたが証拠よね。二人が愛し合っているっていう…」
エストを抱き上げたナターシャは、小さな身体を抱き締めた。柔らかく温かい感触に、ナターシャのモヤモヤした心は段々と晴れ渡ってきた。
「決めた!やっぱり帰るわね。こんなことでいちいち怒ってたら、これから先、やっていけないわね」
ね?と顔を覗き込むと、エストはうとうととしかけている。
「パパとママが帰ってくるまでお昼寝しましょうね?」
エストを起こさないように立ち上がったナターシャは、小さな背中を摩りながら子供部屋へと向かった。

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