『満足か?』
あのクリスマスの日以来、彼は事あるごとにそう尋ねるようになった。
つまり、まるで全てを私中心に…私が喜ぶように、彼は行動するようになったのだ。
あの日以来、彼はアーマー作りを辞めた。以前のようにラボに篭ることは殆どなく、私との時間を大切にしてくれる彼の気持ちは嬉しい。でも彼は以前とは違い、どこかぼんやりとしていることが多くなった。あの頃の生き生きとした彼はいなかった。つまり、私が望んでいるのは、そんなことではなかった。
「トニー、この際だからはっきり言わせて」
ある夜、ベッドに潜り込んだトニーだが、急に姿勢を正したペッパーに肩を震わせた。
「な、何だ?」
何を言われるのかとビクビクしながらも座り直したトニーの手をペッパーは優しく握りしめた。
「あのね、私はあなたと一緒にいられるだけで満足なの。あなたはあなたらしく生きて欲しいの。だからお願い、自分の気持ちを押し殺さないで」
一瞬怪訝そうな顔をしたトニーだが、ペッパーの言いたいことが分かったのだろう。困ったように頭を掻いたトニーは、無理やり笑みを浮かべた。
「ハニー、私は別に…」
『我慢はしていない』というトニーの言葉を遮るように、ペッパーは首を振った。
「いいえ、トニー。あなたは我慢してる。誤魔化さないで。あなたと何年一緒にいると思ってるの?あなたはあの時誓ってくれたわ。『これからは二人の時間を大切にする』と。でもね、あなたが好きなことやしたいことを犠牲にして欲しくないの。私はね、あなたの気持ちも尊重したいの。私は好きなことをしている時のあなたも好きだから…」
ペッパーの言葉を俯いて聞いていたトニーだが、しばらくするとポツリと呟いた。
「…いいのか?」
と、遠慮がちに言ったトニーは恐る恐る顔を上げた。目の前のペッパーは目を潤ませ微笑んでいたが、彼の顔に浮かぶ不安の色に気付くと、全て受け止めるかのように彼の頭を抱え込んだ。
「えぇ。あなたはあなたらしくいて欲しいもの。それに、さっきも言ったけど…私はあなたがそばにいてくれるだけで満足なの…」
トニーの髪の毛を梳いたペッパーは、頭に何度もキスを落とした。その甘く柔らかな感触にくすぐったそうに笑ったトニーは、潤んだ瞳を隠すようにペッパーの胸に顔を押し付けた。
「ハニー、ありがとう」
くぐもった声を出したトニーを、ペッパーはいつまでも抱きしめ続けた。