「ボス…またいますよ?」
運転席に座るハッピーは前方を睨み付けるとため息を付き、後部座席を振り返った。
NYのマンハッタンにそびえたつスタークタワー。その前に、奇抜な格好をした人々が集結するようになったのは、あのNYでの出来事からだ。
それぞれお気に入りのヒーローに扮した彼らは、何をする訳でもないが、タワーを背景に思い思いのポーズで記念写真を撮っていた。
今や名物になっているNYの光景。
だが、大人しくしている人々ばかりではないのも事実な訳で…。
「また彼女か…」
チラリと前方に視線を送ったトニーはため息をつくと目を閉じた。
先のエキスポで従えていたダンサーの衣装はアイアンマンファンの女性の定番コスプレになっているのだが、その集団の内の1人が問題だった。あのダンサーと同じ…いや、あのダンサーよりも露出度の高い自作のアイアン・ガール風衣装を身に纏った女性は、自称『トニー・スタークの恋人』。そうは言っても彼女も初めは普通のファンだった。アイアンマンのTシャツを着て、群衆に紛れトニーに向かい手を振っている1人のファンだった。それが方向転換してしまったのは、今から1か月程前のこと。きっかけは些細なことだ。トニーの登場に沸き立つ人々に、いつもは手を振る程度のトニーが珍しく近寄って行った。滅多にない出来事に観衆は沸き立った。少しでも近づこうと押し合う群衆。その群衆に押され、一人の女性がトニーの方へ倒れた。トニーにしてみれば、目の前で倒れかけた女性に手を貸すのは人として当たり前のことだと思っている。だが彼女は違った。『トニー・スタークは自分に気があるから助けてくれた』と思ったらしい。
その日以来、彼女は超熱狂的なトニー・スタークファンになったのだ。
『トニー、愛してる』
『私を好きにして!』
『トニー、結婚して』
段々とエスカレートしているメッセージボードは、派手な装飾が施され、否応が無しでもトニーの目に付き、トニーも彼女の存在を認識するようになっていた。
「トニー!!!」
トニーの車に気付きた女性は車に駆け寄って来た。ハッピーがクラクションを鳴らしても臆することもない。そして、あろうことかフロントガラスにメッセージボードを掲げた。
『子供ができたの。あなたのよ♡』
また一段とエスカレートした内容に、トニーは頭を抱えた。だが、彼女とは初対面だったペッパーは違った。
メッセージボードを見たペッパーは、目を吊り上げた。
「子供ですって?!」
ジロっとトニーを睨みつけたペッパーは、彼の首根っこを掴んだ。
「どういうことなのよ!!!」
目を三角にしたペッパーは、トニーのネクタイを締めあげる。
「ぺ、ペッ…パ……く、くるし…」
ジタバタと抵抗したトニーは、何とかペッパーの手から脱すると、苦しそうに咳き込んだ。
「おい、君を毎日抱いているんだ。他のオンナを抱く暇がないのは、君が一番よく知っているだろう」
冷静に考えれば分かりそうなものなのに、その事実に気づいたペッパーは、
「そ、それもそうね…」
と頭を垂れた。
モジモジとするペッパーはとても可愛らしく、ニヤリと笑ったトニーは肩を抱き寄せるとキスをした。
「外出はやめだ。家で大人しくしておこうじゃないか。なぁ、ハニー?」
その『大人しく』が実は決して大人しくないことを知っているペッパーは、今夜も眠れそうにないわね…と、頬を赤らめた。
※『スタークタワーのコスプレ女』がいるらしいというのは、エージェントオブ・シールドS1-1より
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