44. Joy

『あの時誓いを破ったのは私。だからもう一度誓わせて…』
病院のベッドに横たわったトニーの手を握りながら何度も言っていたペッパーだが、トニーが退院すると早速計画を実行に移した。

数日後。今日は雲一つない絶好の日和だ。ペッパーは眠っているトニーにキスをした。
「ダーリン、起きて。朝よ」
寝ぼけまなこのトニーは手探りでペッパーを抱き締めようとした。その腕をすり抜けたペッパーは、ジャーヴィスに命じると窓を開けさせた。
「ほら、早く支度して!」
今日は何かイベントがあっただろうかと、トニーは目をこすりながら起き上がった。
半分寝ぼけているトニーはペッパーにバスルームへ押し込まれた。そこには真新しいタキシードが掛かっており、それを見たトニーは今日が何の日なのか思い出した。
そう、今日は二人の二度目の結婚式。
あの日、トニーの言葉を信じることができなかったこと、そしてそれが結果的に彼を死の淵まで追いやってしまったことを、ペッパーは酷く後悔した。そしてもう二度とそのようなことは起こさせないと誓ったペッパーは、改めて誓いを立てるべく、二度目の結婚式を計画したのだった。

プライベートビーチに設けられた小さな祭壇。厳粛な顔をした神父の前に、手を固く握りあったトニーとペッパーはゆっくりと歩み寄った。
参列者は、ハッピーとローディ。そして、白のワンピースを着たエストは、ローディがしっかりと抱いている。
真新しいタキシードに身を包んだトニーは、白のマーメードラインのドレスに身を包んだペッパーを眩しそうに見つめた。一度目の結婚式の時は、このかけがいのない存在を自分だけのものに出来るという喜びで満ち溢れていた。そして二度目の今日、彼女と再び永遠の愛を誓うことができるという喜びで、トニーの胸は一杯だった。

「アンソニー・エドワード・スターク、汝はヴァージニアをこれからもただ一人の妻として、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
お決まりの文句を聞きながら、そう言えば最初の時は「早くしろ」と急かして最後まで聞いていなかったな…とふと気づいたトニーだが、神父が言葉を読み上げると、ペッパーの手をギュっと握り直し、彼女に顔を向けた。
「誓います。ペッパー…これからも未来永劫…永遠に君だけを愛し信じることを誓うよ」
最愛の女性をじっと見つめ誓いの言葉を紡ぐと、彼女の目から大きな涙が一粒零れ落ちた。
「まだ泣くのは早いぞ?なあ、神父様?」
水滴を拭ったトニーにニヤリと笑いかけられた神父は、小さく咳払いをすると、ペッパーに笑いかけた。
「では…。ヴァージニア・スターク、汝は…」
「待って!」
誓いの言葉を言う前に中断され、驚いたのは神父だけではなく、トニーもそしてローディ、ハッピーもだった。
もしやこの場に及んで嫌になったのか…と青ざめたトニーに気づいたペッパーは、慌ててトニーの手を握りしめた。
「違うの。誓いの言葉はね、私の口から言わせて欲しいの。トニー…私は最初の誓いを破ってしまった…。あの時、何があっても貴方だけを信じると誓ったはずなのに…。ごめんなさい。もし貴方をあのまま失うことになっていたら…私はきっと生きていられなかったわ…。だから、今度こそ誓うわ。何があっても貴方だけを愛することを…。貴方の言葉を…愛を絶対に信じることを…。もう二度と、何があっても貴方のそばから離れないことを…。貴方の喜びも悲しみもそして苦しみも、全て分かち合わせて下さい…。今までも、そしてこれからも…私は貴方だけのもの…。今日、もう一度誓わせて。貴方のことを永遠に信じ愛することを…」
一瞬の静寂に辺りは包まれ、ペッパーの凛とした美しい声がビーチに響き渡った。それはまるでトニーの返事を待っているかのように…。
ペッパーの瞳に写る自分を見つめたトニーだが、その一片の曇りもない瞳には彼の身も心も全て受け止めてくれる強さがあった。
そう、彼女だけが全てを受け止めてくれるのだ。他でもない、ペッパーだけがありのままのトニー・スタークを受け止めてくれるのだ。だからこそ、もう二度とその存在を手放したりするものか…。
「あぁ…。ヴァージニア…愛してる…」
繋がれた手を握り直したトニーは、ローディに抱かれ近づいてきたエストから指輪を受け取ると、ペッパーの指にはめた。一つ目の指輪はペッパーがデザインしたもの。そして今度の結婚指輪は、トニーがデザインしたもの。トニーのリアクターとそしてペッパーとエストの瞳と同じ色のブルーサファイアが3つ並んだ指輪は、世界で一組しかない特別なもの。
「トニー……これ…」
それが何を意味するのか理解したペッパーは、顔をくしゃっと歪めるとポロポロと涙を流し始めた。泣き始めた母親をエストは不安そうに見つめている。ローディから娘を受け取ったトニーは、ペッパーを抱き寄せた。
「ペッパー、こんな喜ばしい日はないな。可愛い娘と友人に囲まれて…再び君を私の妻にできたんだから…」
何度も頷くペッパーの頬を撫でたトニーは、唇を奪った。
二人を祝福するかのように、マリブの海に沈む夕日がキラキラと煌めいていた。

***
We can’t live without each other.の後日談です。

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