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Until now I have been looking for you.⑩

新学期になり、トニーたちは最終学年となった。皆の話題は専ら、大学への進学について。中でも、『トニー・スタークはMITに進学する』と、誰しもが考えていたのだが…。

その日、ガイダンスカウンセラーとの面談を終えたペッパーは、カフェテリアでトニーと落ち合った。
ペッパーは経済学を学びたいと、スタンフォードかUCLAへの進学を昔から考えていた。だが、間違いなくMITに進学するだろうトニーと離れ離れになってしまうと、同じボストンにあるハーバードへの進学も密かに考えていた。

テストは常に満点で成績は申し分ないし、課外活動やボランティアもペッパーも共に行っているので、よく遅刻をしたりサボっているとはいえ、内申点も問題ないトニーだから、どの大学への進学も可能だろう。だが、彼の口から大学進学については一度も聞いたことはなかった。そこでジュースを啜りながら、ペッパーはトニーに尋ねた。
「トニーはどこへ行くの?」
あぁと声を出したトニーは、欠伸をした。
「ペッパーと同じ大学にしようかなぁって」
えっ?!と目を丸くしたペッパーは、素っ頓狂な声を上げた。
「MITじゃないの?!」
それは周囲が言っているだけだろ…と目をくるりと回したトニーは、頬杖をつくとペッパーを見つめた。
「別にどこでもいいし。それに、ペッパーと離れたくないからさ」
そう言って笑ったトニーだが、ガイダンスカウンセラーには、MITへの進学を勧められた。父親のハワードも希望しているため、願書も取り寄せ、推薦状も書いてもらった。
つまり、誰しもがトニーにMITへ進学して欲しいと思っているのだが、本人は違った。というのも、ボストンと目の鼻の先のNYには『彼女』がいる。おそらくボストンに住めば、彼女はまたやって来るだろう…。そうなると、再びあの地獄のような日々に戻ってしまう…。そのため、トニーは一人ではボストンには行きたくなかったのだ。

数日後。
「ヴァージニア・ポッツさん?」
声を掛けられペッパーが振り返ると、見知らぬ女性がいた。美しいその女性は、明らかにペッパーより年上だった。
「は、はい…」
こんな人、アカデミーにいたかしら…と首を傾げているペッパーをじろじろと眺めた女性は、小さく鼻で笑った。
「ふーん、こんな子がいいの」
「え?」
何の面識もないのに、失礼な女性の態度に、ペッパーの眉間に皺が寄った。何か言った方がいいだろうかとペッパーが考えていると、女性はヒラヒラと手を振り歩き始めた。
「何でもないわ。またね、ポッツさん」

翌日。
「臨時で2週間来てもらうことになった」
化学担当の教師が事故に遭い、急遽臨時の教師として招いたと、フューリー校長に紹介された女性は、ペッパーに昨日声を掛けてきた女性だった。
「ホイットニー・フロストです。半年前までNYのトリニティ・スクールで教えていました」
ホイットニーの言葉に、教室内はざわつき始めた。そして皆は一斉にトニーに視線を送った。が、トニーはつまらなそうに欠伸をすると、目を閉じ眠ったふりをし始めた。

1限目は早速化学の授業だったのだが、ホイットニーは次々と難問をぶつけてきた。優秀なペッパーはおろか、誰一人分からない問題に、ホイットニーは眉をつり上げた。
「あら?この学校は優秀な生徒が多いって聞いてたけど、誰も分からないの?」
皆思わずトニーを見たが、トニーは興味なさそうに窓の外を眺めていた。
「スタークくん。立ちなさい。優秀なあなたが答えられないはずないでしょ?」
やはりホイットニー・フロストはトニーのことを知っているのだ。誰もが固唾を飲んでトニーに視線を送ったが、彼は面倒臭そうに立ち上がった。
「……すみません、聞いてませんでした」
いつもなら、聞いていない風を装っていても完璧に答えるトニーが、分からないというのだ。教室のあちこちから響めきが起こった。それを制したホイットニーは、大袈裟に溜息をついた。
「スタークくん、あなたにとってこんな授業は退屈かもしれない。だけど、ちゃんと授業に参加しなさい。守れない子はお仕置きするわよ」
茶化したような言い方に、数人の生徒がクスクスと笑い声を上げた。
が、その時だった。
トニーの瞳からいつもの煌めきがすぅっと消えた。最もそれに気づいたのは、ペッパーだけだったが…。
「いいわ、座って。次はちゃんと聞いていてね」
ホイットニーに座るよう言われたトニーは、彼女を見つめたまま掠れた声を出した。
「…はい…」
腰を下ろしたトニーだが、彼は無表情でボンヤリと一点を見つめたままだ。
「トニー?」
ペッパーが突いても、トニーは何も言わなかった。
様子がおかしいトニーに、ペッパーは何故か分からないが胸騒ぎがした。そして、彼女とトニーを関わらせない方がいい…そんな予感がした。

昼休みになったが、まだボンヤリとしているトニーをペッパーはカフェテリアに連れて行った。
「トニー、あなたの好きなカルボナーラがあるわよ!」
わざとらしく明るい声で告げても、トニーは何も言わなかった。しかも、食欲がないと、彼は何も食べようとしないではないか。
「どうしたの?」
「…別に…」
トニーは暗い瞳をしており口数も少ない。いつもとは別人のようなトニーに、何か事情があるのかもしれないと感じたペッパーは、しっかり話を聞こうと考えた。
「ねぇ、授業が終わったら、サンタモニカまで遊びに行かない?素敵なカフェができたって、ナターシャが教えてくれたの」
「……」
返事がないトニーに、ペッパーは彼の肩を軽く叩いた。
「トニー?聞いてる?」
ハッと我に返ったトニーは、キョロキョロと視線を動かした。
「ごめん…。今日は無理だ」
取り繕ったように笑みを浮かべたトニーは、ペッパーに断りを入れると、トイレへ向かった。

トイレには誰もいなかった。
吐き気を催したトニーは、一番奥の個室に駆け込んだ。
空っぽの胃からは、吐いても胃液しか出てこない。
しばらく苦しそうに咳き込んでいたトニーは、その場に座り込むと目をキュッと閉じた。

『お仕置きするわよ』
彼女の声が頭の中に響き渡っている。

忘れたはずなのに…。忘れたいはずなのに…。無意識のうちに反応してしまった…。

「どうして……どうしてだよ…。どうして俺のこと…放っておいてくれないんだよ…」
涙が溢れてきた。
誰かに相談したかった。
ペッパーに全てを話したかった。聞いてもらいたかった。ペッパーが手を握っていてくれれば、乗り越えられる気がしたから。だが、話せば軽蔑されるだろう…。嫌われるかもしれない…。そう思うと、トニーには話す勇気がなかった。

と、メールが届いた。
『放課後、化学室に来なさい』
ホイットニーからだった。
LAに来て携帯は変えたのに、メールを送ってきたということは、学内のパソコンで調べたのだろう。ということは、住所も何もかも知られているということだ。逆らっても、彼女からは逃げられない。それなら、自分はあの頃と違うということをハッキリ告げて解決しなければならないのかもしれない…。

気持ちを落ち着けるために、トニーは放課後まで隠れ家である体育倉庫に籠ることにした。

⑪へ…

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Until now I have been looking for you.⑧

それから毎日昼休みは、体育倉庫で秘密の逢瀬が続いた。ただ抱き合い、キスをするだけのことが多かったが、時間に余裕がある時は愛し合うこともあった。
トニーには狙いがあったのだが、ペッパーは全く気づいていなかった。

が、トニーの作戦が功を奏してか、午後のペッパー・ポッツは美しすぎると男子生徒の間で、次第に話題になっていった。

「今日もポッツさん、いいよなー」
デレデレと鼻の下を伸ばしながらペッパーを見つめる生徒たち。そんな周囲の様子に、トニーは一人優越感に浸っていた。

その日も抱き合いキスをしていた2人だが、キスに酔ったペッパーは誘うように真っ赤に熟れた唇を舐めた。普段の彼女からは想像できない妖艶な姿に、トニーは思わず眉をひそめた。
「なぁ、俺以外の男に、そんな顔は見せるなよ」
トニーを可愛らしく睨みつけたペッパーは、頬を膨らませた。
「見せないわよ。これはあなただけが見ていい私」
「言うようになったよな、ペッパーも」
苦笑したトニーだが、ペッパーの姿に欲情したのは彼も同じだった。トニーの硬くなった下半身に気づいたペッパーはポッと頬を染めた。
このまま愛し合いたいところだが、昼休みはもう終わりそうだ。が、ペッパーは兎も角、トニーはこのまま教室に向かう訳にはいかないだろう。
「何とかするから、君は先に出ろ。授業に遅刻するぞ?」
トニーに言われ一度立ち上がったペッパーだが、再び腰を下ろした。
「おい、ペッパー。俺はいいけど、君は…」
遅刻常習犯の自分とは違い、ペッパーは真面目で優等生。しかも次の授業の担当教師は学園一厳しいことで有名で、遅刻厳禁なのだ。だからこそ、ペッパーにはこんなことで汚点をつけて欲しくなかった。
戸惑うトニーを軽く睨みつけたペッパーは、トニーの足元に跪いた。
「私にも責任取らせて」
そう言いながら、ペッパーはトニーのズボンを下着ごと有無を言わせず下げた。
飛び出してきたトニーを見つめたペッパーは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(た、確か、こうやって……)
実はペッパーは、いつかは自分からトニーを愛してあげたいと思っていたが、どうやればいいのか誰かに聞くことも出来ず、勇気を振り絞ってインターネットで検索し、勉強していたのだ。今こそ、そのリサーチの成果を発揮する時だと意気込んだペッパーは、トニーを愛おしそうに撫でた。と、トニーがビクッと震えた。そこで舌を這わせながら両手で包み込んでみた。そして大きく口を開け、パクっと咥えてみた。
ぶじゅぶじゅと音を立てながら吸い付くと、口の中のトニーが大きさを増した。
「ぺ、ペッパー……お、おれ……」
あぁ…と呻き声を上げたトニーが、ビクッと震えた。するとペッパーの口の中を熱いものが満たした。それをゴクゴクと飲み干したペッパーだが、お腹の奥底が疼き我慢できなくなってきた。
(トニーが…欲しい…)
トニーは目を閉じシーツの上にひっくり返っている。
スカートと下着を脱いだペッパーは、熱に浮かされたようにトニーを握りしめると、彼の上に跨った。
「おい、ペッパー!」
ギョッとしたトニーはペッパーから離れようとしたが、ペッパーはそのままストンとトニーの上に腰を落とした。
「あ…熱っ……い…」
そのままのトニーが最奥まで入り込んできた。いつもよりも大きく硬いトニーに、ペッパーは自ら腰を動かし始めた。ギュウギュウと締め付けられたトニーも、我を忘れてペッパーを愛し始めた。
人形のようにガクガクと揺さぶられたペッパーは、声を抑えることも忘れているようで、倉庫内に彼女の声が響き渡った。と、ギュッとトニーを締め付けたペッパーが背中を反らせた。急いで抜け出したトニーだが、白い華がパッとペッパーの尻に飛び散った。

倒れこんできたペッパーを抱きしめたトニーは、息を整えると腕時計を見た。
昼休みは終わり、午後の授業は始まっている。が、今から急げば、10分程度の遅刻で済むだろう。それに彼女は『ペッパー・ポッツ』なのだから、気分が悪かったとか言い訳をすれば、遅刻もお咎めなしで済むはずだ。
「ほら、ペッパー。早く支度して…」
抱きついたまま離れようとしないペッパーを促したトニーだが、あろうことか彼女は首を振ると、トニーにキスをし始めた。
思いもよらぬ展開にトニーが目を白黒させていると、ペッパーは悪戯めいた笑みを浮かべた。
「今日はこのままサボろうかしら…」
ペッパーの言葉にトニーはその場で飛び上がった。
「ぺ、ペッパー?!で、でも!遅刻したら怒られるんだぞ?!俺は平気だけど、呼び出しくらって、レポートも山程書かされて…」
真っ青な顔をして叫ぶトニーに、ペッパーは笑い声を上げた。
「トニー、私だって、たまには羽目を外してみたいわ。ううん、ホントはね、一度やってみたかったの。それに、あなたと一緒に怒られるなら、平気よ」
絵に描いたような真面目な性格だと思っていたペッパーからの言葉に、ポカンと口を開けていたトニーだが、次第に可笑しさがこみ上げてき、2人は腹を抱えて笑い続けた。

が、いつまでもここにいる訳にはいかないと、こっそりと抜け出した2人は、トニーの家へと向かった。

翌日。
あの真面目なペッパー・ポッツが、授業をサボったという話題でもちきりだった。ちなみにトニーもサボっていたのだが、彼の場合は常習犯なので、誰も話題にもしていなかった。

「今日は一段と美しいよなぁ、ポッツさん」
「しかも、何か嬉しそうだし」
「それにしても、どうしてサボったんだろうなぁ。あの真面目なポッツさんが」
「でも、あのポッツさんがサボるのは余程の理由があったんだろうって、お咎めなしらしいぞ」
「さすがだなぁ」

少し離れた所をいつものように颯爽と歩いているペッパーを見つめながら、トニーは周囲の声に耳を傾けていた。

と、その時だった。
ペッパーの元に1人の男子生徒が駆け寄った。
「ポッツさん!」
足を止めたペッパーの目の前に直立不動で立ったその生徒は、ペッパーに向かって頭を下げた。
何が始まるのかと、皆が視線を送る中…。
「ポッツさん、付き合って下さい!」
男子生徒の大声に、辺りはしーんと静まり返った。
「え…」
30秒ほど経って、ようやく自分が告白されたことに気づいたペッパーは、ポッと顔を赤らめた。が、すぐにトニーの顔を思い浮かべたペッパーは、一体どうやって断ればいいのかと狼狽し始めた。
「実はずっと好きでした。よければ…」
(ど、どうしよう…。トニーとのことは言えないし……。でも、ちゃんとお断りしなきゃ…)
目をそっと閉じたペッパーが、何とか理由をつけて断ろうと、意を決した時だった。
「ペッパー」
地獄の底から聞こえてきたような声に目をそっと開けると、隣にトニーがいた。告白した男子生徒を鬼の形相で睨みつけたトニーのただならぬ様子に、犬猿の仲を演じることをすっかり忘れたペッパーは、2人きりのように彼の名前を呼んでしまった。
「トニー?」
と、トニーがペッパーの腰を引き寄せた。
えっ?と思った時には、唇が重なっており、息をつかせぬようなキスに力が抜けたペッパーはトニーにもたれかかった。

トニー・スタークがペッパー・ポッツにキスをした!

辺り一面に歓声と響めき、そして泣き叫ぶ声が響き渡った。
犬猿の仲だと思っていた2人が、実は恋人だったのだ。ペッパー・ポッツが変わったのは、トニー・スタークのためだったのだ。
超真面目なペッパー・ポッツが、まさかあのトニー・スタークと付き合っているなんて…。
皆が一斉に写真を撮ったり、携帯を突き回しているのを確認したトニーは、唇を離すと、辺り一面を見渡した。
「ペッパーは俺のオンナだ。いいか、誰も手を出すなよ」
そう大声で言うと、トニーはペッパーの手を繋ぎ、その場から逃げ出した。

人の気配のない校舎の陰にやってくると、真っ赤な顔をしたペッパーはベシベシとトニーを叩いた。
「と、トニーったら!バレちゃったじゃないの!」
恥ずかしそうにキャーキャー言っているペッパーに、トニーは目をくるりと回した。
「いいだろ。それにあれだけ俺のものだってアピールしたら、誰も何も言ってこないさ」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーは、大きく伸びをした。そして
「これでペッパーは俺の彼女だって、大声で言えるぞ!」
と、バンザイをしたトニーは嬉しそうに手を叩いた。
「トニーったら…」
確かにペッパーもスッキリした。これでトニーとの関係を隠す必要がなくなったのだから…。
クスクス笑い始めたペッパーはトニーの腕に抱きつくと、上目遣いで彼を見上げた。
「じゃあ、もう、犬猿の仲ごっこは終わりでいい?」
「そうだな」
微笑みあった2人は、キスをしながら教室へ戻っていった。

⑨へ…

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Until now I have been looking for you.⑦

2度目はトニーの部屋だった。
初めての経験から2週間後、アーム型ロボットの2代目を作ったからと、家に誘われたのだが、丁度マリアはNYに行き不在ということで、2人は朝から愛し合っていた。
が、ペッパーが何度も達してもトニーは一度も達していない。
(ど、どうしよう…。私ばっかり…)
真面目なペッパーは考えた。きっと自分の何千倍も経験豊富なトニーは、初心者で何も知らない自分には満足できていないだろうと…。
シクシク泣き始めたペッパーにトニーは慌てた。
「ど、どうしたんだ?!」
嫌がるようなことをしてしまったのだろうかと慌てふためくトニーに、ペッパーは涙でいっぱいになった瞳を向けた。
「ごめんなさい…。トニーは…私みたいなの…物足りないでしょ…」
(か、かわいい…)
大粒の涙を流し泣いているペッパーの可愛らしい姿に、トニーは心臓を撃ち抜かれた。
「物足りないだって?」
まだ泣いているペッパーを慰めるように抱きしめたトニーは、首筋に何度もキスをした。
「俺、君を抱けるってだけで大満足なんだぞ」
優しくそう言われたペッパーは泣き止むと、目を瞬かせた。
「ホント?」
「ああ、本当さ」
自分の考えは杞憂に過ぎなかったと安心したペッパーは、トニーに抱きついた。

トニーはいつも優しかった。
慣れないペッパーに合わせて、優しく導いてくれた。
何度か身体を重ねるうちに、ペッパーもトニーとの行為に慣れてきた。
そうなると、ペッパーにはどうしても考えてしまうことが出てきた。それはどうしたらトニーに喜んでもらえるのかということ…。
だが、そんなことを相談する相手もおらず、結局は一人悶々とした日々を送っていた。

***

「最近、ポッツさんってさぁ、雰囲気変わったよな」
いつものように颯爽と校内を歩くペッパーを、すれ違う男子生徒たちは視線を送った。
「前みたいにトゲトゲしくないし、優しくなったよな」
「それにしても、あんなにいい女だったのか…」
「彼氏でもできたのか?」
「でも、あのペッパー・ポッツだぞ?超真面目な彼女と付き合う奴って、やっぱり真面目な奴なのか?」
「そんな奴、うちにはいないだろ」
日に日に色っぽくなっていくペッパーに、学園中の男子生徒は色めき立った。が、そんな周囲の様子に当の本人は全く気づいていなかった。

親友といえる友達はいないペッパーだが、それでも昔からよく話をする人物は1人だけいた。
ナターシャ・ロマノフ。
ロシアから来た赤毛の美女は、ミステリアスすぎて周りから嫌煙されており、彼女もまた友達と言える存在はおらず、いつしか彼女とペッパーは何かと共に行動するようになっていた。

「ペッパーって、最近雰囲気変わったわね」
昼休みになり、カフェテリアでランチを食べている時だった。先に食べ終え、ペッパーをじっと観察していたナターシャが、ふいにそんなことを言い出した。
「そ、そうかしら…」
髪を掻き上げたペッパーからふわりと香った香水。それに気づいたナターシャは、ニヤニヤ笑みを浮かべた。
ナターシャでなくても、学園中の全員が気づいていた。この数ヶ月、ペッパー・ポッツはすっかり雰囲気が変わったことに…。
コンタクトにしたのか、トレードマークだったメガネを外した。スカートも少しだけ短くなり、オシャレにも気を使うようになった。そして薄くメイクをするようになり、香水も付けるようになった。そして何より、以前に比べると親しみやすい雰囲気になったのだ。

「彼氏でもできた?」
ペッパーが食べかけのオレンジをボトっと落とした。顔を真っ赤に染めたペッパーは、見たことがない程慌てふためいた。
「そ、そんなことある訳ないじゃない!」
慌てて否定するペッパーだが、すっかりいつもの冷静さを失っている彼女がおかしくなったナターシャは、笑いを堪えるのに必死だ。
「そうよねー」
そうは言いつつも、からかい続けたくなったナターシャは、意地悪な笑みを浮かべた。
「でも、最近スタークといい感じなんじゃないの?」
「えっ?!」
トニーとは未だに『犬猿の仲』を演じている。つっけんどんな態度をしているし、相変わらず仲が悪いと周囲からは言われているのだから、我ながら名演技だと自負していたのに…。
「ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃない?もしかしてあなたたちって…」
「ち、違うわよ!スタークくん、いい加減だし、私…」
ナターシャの言葉を遮ったペッパーだが、ナターシャの方が上手だった。
「そうよね。まさかあんな奴と真面目なあなたが付き合う訳ないわよね。でも、スタークのこと狙ってる子は大勢いるわ。誰かが抜け駆けて付き合ってるってなったら、大ブーイングが起こりそうよねぇ」
わざとらしくため息をついたナターシャは、ふと気付いたように眉をつり上げた。
「あ、でも、スタークにはちゃんと彼女がいるみたいだし。時々女物の香水の匂いがするのよね。そういえば…今日はペッパーが付けてるのと同じ香水の匂いが…」
ビクッと肩を震わせたペッパーは、思わず袖口を鼻に当てた。
校内で頻繁に抱き合ったりしている訳ではないが、今朝廊下でこっそりキスした時に移ったのだろうか…。
目をキョロキョロ動かし挙動不審なペッパーに、ナターシャはニンマリ笑うと、ご丁寧にもウインクまでしてきた。
(う、嘘?!バレてる…)
真っ赤になったペッパーに、ナターシャは耳元で囁いた。
「大丈夫よ。誰も気づいてないから。私以外はね。このまま、仲が悪いって演技、続けてても大丈夫よ。あなたたち、上手く隠してると思うわ」
うんうんと頷いたナターシャは、頭から湯気を出しているペッパーにさらに追い討ちをかけた。
「で、勿論、キス以上のこともやってるんでしょ?どうなの、スタークって」
頭の中がパンクしそうなペッパーは、この場から逃げ出したくて堪らなかったが、丁度タイミング良く、携帯が震えているのに気付いた。
メールの主は、噂のトニーだった。
『北側の体育倉庫。待ってる』
「ご、ごめんなさい!行かなきゃっ!」
これ幸いにと立ち上がったペッパーは、脱兎のごとくその場から逃げ出した。

トニーが指定した体育倉庫は、今は使われておらず、開かずの扉と化しているはず。だからこんな所に本当にトニーがいるのだろうかと、半信半疑のままペッパーはドアを開けた。
「スタークくん?」
「ペッパー、待ってたよ」
トニーがちゃんといたことに、ペッパーはホッと息を吐いたが、ぐちゃぐちゃのはずの中は綺麗に片付けられており、床に何枚も引いたマットの上にはシーツが掛けてあるではないか。そしてその上にトニーは寝転んでいた。
「どうしたの、ここ…」
こざっぱりとした部屋と化している体育倉庫に、ペッパーは目を丸くした。
「俺だけの秘密の部屋。サボりたい時、ここで寝てるんだ」
起き上がったトニーは、小さく欠伸をした。
「いつから?」
「ここに来てすぐ。ボロボロだったから、掃除した」
トニーが一人で片付けている様子が目に浮かび、おかしくなったペッパーはクスクス笑い声を上げると、彼の隣に腰を下ろした。
「鍵もかかるし、もってこいだろ?」
「何に?」
不思議そうに首を傾げたペッパーの耳元で
「秘密の逢瀬さ…」
と囁いたトニーは、頬を赤らめた彼女の唇を奪った。
「んん!!」
あれよあれよと言う間に何も着ていない状態にさせられたペッパーは、下腹部にあるトニーの頭を軽く叩いた。
「防音バッチリなんだ。だから思いっきり喘いでも大丈夫」

そうは言っても、ここは学園内なのだ。必死に声を抑えるペッパーに、トニーは不満げに唸った。そこで花芯にしゃぶりつくと、秘部に指を数本入れ中を掻き回した。弱い所をつかれたペッパーは我慢できず、声を上げると腰を跳ね上がらせた。
「欲しいだろ?」
トロンとした瞳をトニーに向けたペッパーは頷いた。満足げに笑ったトニーはゴムを付けると、一気に最奥まで貫いた。

いつもより激しい行為に、あっという間に果てた2人は、同時に倒れこんだ。
胸元に顔を押し付け息を整えているトニーの髪の毛をペッパーが優しく梳くと、顔を上げた彼は目を瞬かせた。
「どうだった?」
子供のように目を輝かせているトニーは可愛らしく、ペッパーは眩しそうに瞬きした。
「凄くドキドキしてるわ。だって、ここは学校よ。なのに私はあなたと…」
「セックスしてる」
トニーに言葉を続けられたペッパーは頬を真っ赤に染めたが、トニーは楽しそうにニヤニヤ笑い出した。
「あのペッパー・ポッツが、俺と学校で、セックスしてるんだぞ?スリル満点だな」
途端に恥ずかしくなったペッパーはトニーの胸元に顔を押し付けたのだが、先程のナターシャの『香水の匂いが…』という言葉を思い出し、飛び上がった。
「香水!」
「は?」
急に慌てふためき始めたペッパーに、トニーは訳が分からないと、首を傾げた。
「あ、あのね…。ナターシャにバレたの。私たちが付き合ってること…」
ナターシャ・ロマノフの名前を聞いたトニーは目をくるりと回した。
「ロマノフか…。あいつは鋭いし、この間から俺にもカマかけてきてたからな。まぁ、あいつは誰かにベラベラ喋るような奴じゃないから大丈夫さ。一応仲間だし…」
そういえば、ナターシャは、トニーたちの輪の中にいつの間にか入っていたことをペッパーは思い出した。だから彼女にバレたのは問題ないと思い直したペッパーだが、欠伸をしたトニーは思わぬことを言い出した。
「それに、もうバレてもいいじゃん。俺たちが付き合ってること」
目を丸くしたペッパーは、トニーに向かって叫んだ。
「だ、ダメよ!」
「何で?」
不満げに唸ったトニーにペッパーは口を尖らせた。
「私だってあなたと付き合っているって言いたいわ。でも…学園中の女の子は全員って言っていい程、あなたのことが好きなのよ?そんなあなたと付き合ってるのが、私だって知ったら…」
「ペッパーに文句言う奴は、俺が懲らしめてやる」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーの言葉は頼もしく、嬉しくなったペッパーは再びトニーに抱きついた。ギュッと抱き寄せ髪を弄んでいたトニーだったが、ふとあることを思い出した。
「知ってるか?最近ペッパーのことが好きだって奴が増えてるって話」
「え?」
キョトンとしてるペッパーに、やっぱり気づいてなかったかと溜息を吐いたトニーは、腕時計に目をやると
「その話は、また今度…」
と、再びペッパーの胸元にキスをし始めた。

⑧へ

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Until now I have been looking for you.⑥

1ヶ月後。
全米のコンクールで見事優勝したトニーは、アメリカ代表に選ばれた。
アカデミーも創設以来の大ニュースだと大騒ぎになっているのだが、当の本人はさも当然のように平然としていた。が、すれ違う生徒から祝福の言葉を掛けられたトニーは、満更でもなさそうで、今日の彼は朝からニコニコと嬉しそうだった。

その夜、電話越しに2人は喜びを分かち合った。学園内で直接褒め称えられなかった分、自分のことのように喜ぶペッパーの歓声をひとしきり聞いたトニーは、父親が明日LAへ急遽やって来ることになったと告げた。
「でさ、親父がペッパーに会いたがってる。一緒にランチでもどうかって」
ハワード・スターク。
スターク・インダストリーズのCEO。
テレビや雑誌で見る彼はいつも顰めっ面をしており、手厳しいと有名だ。
そして、一緒に遊んだこともなければ、父親らしいことは何一つしてもらった記憶はない。幼い頃から厳しく躾けられ、ろくに話もしたことがない…。そうトニーからは聞いていたため、厳格な父親というイメージが拭いきれなかった。
そんなハワード・スタークが自分に会いたがっているというのだ。一瞬恐れ戦いてしまったペッパーだが、トニーの母親のマリアも自分のことを優しく受け入れてくれたのだから大丈夫だろうと思い直した。

翌日。
スターク邸に向かうと、待ち構えていたようにトニーが飛び出してきた。
ガチガチに緊張しているペッパーの手を握りしめたトニーは、両親の待つリビングへと連れて行った。
リビングではマリアと、そして初老の男性が談笑していたが、ペッパーに気づくと立ち上がり近づいてきた。
「親父、彼女がペッパー…いや、ヴァージニア・ポッツさんです」
トニーに紹介されたペッパーは、慌てて頭を下げた。
「初めまして、ヴァージニアです」
ペッパーが差し出した手をハワードは力強く握り返した。
「初めまして。トニーの父親のハワードです。ポッツさんの話は妻から聞いていてね。君に会えるの楽しみにしていたんだよ」
あまり表情を崩さないがハワードの顔には微かに笑みが浮かんでおり、その顔はトニーにそっくりだった。噂とは違うハワードの優しい瞳に、自分は受け入れてもらえていると感じたペッパーは、ホッと安心したように息を吐いた。

スターク夫妻はペッパーをまるで本当の娘のように受け入れてくれているらしく、ランチの間も話は弾む一方だった。と言っても、話していたのはもっぱらマリアだったが…。

夕方になり、トニーはペッパーを家まで送り届けたのだが、彼女の両親は不在だった。
キッチンに残された書き置きを読んだペッパーは、トニーに向かって肩を竦めた。
「パパとママ、夜遅くまで戻らないんですって」
こんなことなら、スターク夫妻の言葉に甘えて夕飯もご一緒すればよかったと、口を尖らせているペッパーに、トニーはゴクリと唾を飲みこんだ。
「君のご両親が戻るまで、一緒にいていいか?」
「うん!」
顔を輝かせたペッパーは、トニーを自分の部屋に案内した。

初めて入る恋人の部屋に、トニーは興味津々だった。
窓辺には沢山の写真が飾ってあった。両親と写るペッパーの写真の中に、自分との写真が混ざっているのを見つけたトニーは、顔をほこばらせた。
「そういえばさ、ご褒美貰ってないな?」
ベッドに腰掛けたトニーは、隣に腰掛けたペッパーを見つめた。
「何が欲しい?」
何でもあげると約束したのだから、トニーは何が欲しいのかずっと気にはなっていた。でもトニーは大金持ちだし、彼に買えない物はないはず…。ウンウンと頭を悩ますペッパーは可愛らしく、お気に入りのバンドのTシャツあたりを強請ろうと考えていたはずのトニーの口から、本音が飛び出してしまった。
「君が欲しい」
それはつまり…。
どういうことか理解したペッパーは真っ赤な顔をしているが、トニーもトニーで珍しく頬を赤らめているではないか。
上目遣いでトニーを見上げたペッパーは、何度か瞬きした。それが我慢の限界だった。
「ペッパー…」
聞いたことがないようなトニーの甘ったるい声に、ペッパーは導かれるように彼の膝の上に座った。と同時に、トニーがキスをし始めた。舌を絡ませる濃厚なキスに、ペッパーの頭はすぐに真っ白になってしまった。その間にも、トニーはペッパーの洋服を器用に脱がしていき、ペッパーがふと我に返った時にはお互い何も着ていない状態でベッドに横たわっていた。

身体中を這い回るトニーの指に、ペッパーに初めての感覚が襲いかかった。下腹部の誰にも触れられたことのない場所をトニーは舌で丹念に愛撫している。
彼は数え切れないくらいの女性と愛し合っているだろうが、ペッパーにとっては何もかもが初めての経験。どう反応すればいいのか、どう返してあげればいいのかさっぱり分からない。
「あ、あのね…私……」
恥ずかしくて言葉が続かない。身体中を朱色に染めたペッパーの瞳を見つめたトニーは、頬をそっと撫でるとキスをした。
「大丈夫…。全部俺に任せて…」
優しい笑みを浮かべたトニーは、ペッパーの両脚を持ち上げると、身体を滑り込ませた。

トニーが入り込んできた。
痛みが襲いかかってきたが、大好きなトニーとなら乗り越えられると、ペッパーはシーツをギュッと握りしめた。
「ペッパー…俺の腕、掴んでていいから…」
苦しそうに眉をひそめたトニーは、ペッパーを自分の腕に掴まらせた。そして奥へ奥へとゆっくりと入り込んでいった。
「い…いやぁ……」
身体の中から焼き尽くされてしまうかと思う程、熱くて大きいトニーが奥深くへと進んでいく。あまりの衝撃に思わずトニーの腕に爪を立ててしまったペッパーだが、その痛みすらも心地よいのか、トニーが中で大きさを増した。
ぐっと腰を押し付けたトニーは、ペッパーの身体を抱きかかえた。
「ペッパー……愛してる…」
愛の言葉を耳元で囁かれ、ペッパーに痛みではなく心地よさが襲いかかってきた。
中でギュッと締め付けられたトニーは、ゆっくりと腰を動かし始めた。
動きが激しさを増すごとに、ベッドがギシギシと音を立てた。微かに聞こえていた水音は、今や身体のぶつかり合う音と混じり、部屋中に響き渡っている。ペッパーが奏でる妖艶な声に、トニーは我を忘れてペッパーを愛した。

もう何度達したのだろうか。トニーから与えられる快楽しか考えられなくなったペッパーが、一段と大きな叫び声を上げた。弓なりにしなる身体を押さえつけたトニーもペッパーの名前を叫びながら、薄い膜の中にようやく欲望を吐き出した。

気を失っているペッパーから身体を離したトニーは、素早く後始末をすると、ベッドに腰掛けた。
こんなにも心が満ち足りたのは初めてだった。大切な人と愛し合うことが、こんなにも素晴らしいことだとは知らなかった。
そんなことを考えながら、眠るペッパーの頬を撫でながら寝顔を見つめていたトニーの耳に、『彼女』の声が聞こえた。

報告しなさい

と、トニーの瞳が暗くなった。
何かに操られているかのようにすっと立ち上がったトニーだが、ペッパーが夢見心地にトニーの名を囁いた。
ハッと我に返ったトニーは頭の中の声を追い払らうように何度も頭を振った。そしてペッパーにキスをすると、そっと部屋を後にした。

⑦へ

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