2度目はトニーの部屋だった。
初めての経験から2週間後、アーム型ロボットの2代目を作ったからと、家に誘われたのだが、丁度マリアはNYに行き不在ということで、2人は朝から愛し合っていた。
が、ペッパーが何度も達してもトニーは一度も達していない。
(ど、どうしよう…。私ばっかり…)
真面目なペッパーは考えた。きっと自分の何千倍も経験豊富なトニーは、初心者で何も知らない自分には満足できていないだろうと…。
シクシク泣き始めたペッパーにトニーは慌てた。
「ど、どうしたんだ?!」
嫌がるようなことをしてしまったのだろうかと慌てふためくトニーに、ペッパーは涙でいっぱいになった瞳を向けた。
「ごめんなさい…。トニーは…私みたいなの…物足りないでしょ…」
(か、かわいい…)
大粒の涙を流し泣いているペッパーの可愛らしい姿に、トニーは心臓を撃ち抜かれた。
「物足りないだって?」
まだ泣いているペッパーを慰めるように抱きしめたトニーは、首筋に何度もキスをした。
「俺、君を抱けるってだけで大満足なんだぞ」
優しくそう言われたペッパーは泣き止むと、目を瞬かせた。
「ホント?」
「ああ、本当さ」
自分の考えは杞憂に過ぎなかったと安心したペッパーは、トニーに抱きついた。
トニーはいつも優しかった。
慣れないペッパーに合わせて、優しく導いてくれた。
何度か身体を重ねるうちに、ペッパーもトニーとの行為に慣れてきた。
そうなると、ペッパーにはどうしても考えてしまうことが出てきた。それはどうしたらトニーに喜んでもらえるのかということ…。
だが、そんなことを相談する相手もおらず、結局は一人悶々とした日々を送っていた。
***
「最近、ポッツさんってさぁ、雰囲気変わったよな」
いつものように颯爽と校内を歩くペッパーを、すれ違う男子生徒たちは視線を送った。
「前みたいにトゲトゲしくないし、優しくなったよな」
「それにしても、あんなにいい女だったのか…」
「彼氏でもできたのか?」
「でも、あのペッパー・ポッツだぞ?超真面目な彼女と付き合う奴って、やっぱり真面目な奴なのか?」
「そんな奴、うちにはいないだろ」
日に日に色っぽくなっていくペッパーに、学園中の男子生徒は色めき立った。が、そんな周囲の様子に当の本人は全く気づいていなかった。
親友といえる友達はいないペッパーだが、それでも昔からよく話をする人物は1人だけいた。
ナターシャ・ロマノフ。
ロシアから来た赤毛の美女は、ミステリアスすぎて周りから嫌煙されており、彼女もまた友達と言える存在はおらず、いつしか彼女とペッパーは何かと共に行動するようになっていた。
「ペッパーって、最近雰囲気変わったわね」
昼休みになり、カフェテリアでランチを食べている時だった。先に食べ終え、ペッパーをじっと観察していたナターシャが、ふいにそんなことを言い出した。
「そ、そうかしら…」
髪を掻き上げたペッパーからふわりと香った香水。それに気づいたナターシャは、ニヤニヤ笑みを浮かべた。
ナターシャでなくても、学園中の全員が気づいていた。この数ヶ月、ペッパー・ポッツはすっかり雰囲気が変わったことに…。
コンタクトにしたのか、トレードマークだったメガネを外した。スカートも少しだけ短くなり、オシャレにも気を使うようになった。そして薄くメイクをするようになり、香水も付けるようになった。そして何より、以前に比べると親しみやすい雰囲気になったのだ。
「彼氏でもできた?」
ペッパーが食べかけのオレンジをボトっと落とした。顔を真っ赤に染めたペッパーは、見たことがない程慌てふためいた。
「そ、そんなことある訳ないじゃない!」
慌てて否定するペッパーだが、すっかりいつもの冷静さを失っている彼女がおかしくなったナターシャは、笑いを堪えるのに必死だ。
「そうよねー」
そうは言いつつも、からかい続けたくなったナターシャは、意地悪な笑みを浮かべた。
「でも、最近スタークといい感じなんじゃないの?」
「えっ?!」
トニーとは未だに『犬猿の仲』を演じている。つっけんどんな態度をしているし、相変わらず仲が悪いと周囲からは言われているのだから、我ながら名演技だと自負していたのに…。
「ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃない?もしかしてあなたたちって…」
「ち、違うわよ!スタークくん、いい加減だし、私…」
ナターシャの言葉を遮ったペッパーだが、ナターシャの方が上手だった。
「そうよね。まさかあんな奴と真面目なあなたが付き合う訳ないわよね。でも、スタークのこと狙ってる子は大勢いるわ。誰かが抜け駆けて付き合ってるってなったら、大ブーイングが起こりそうよねぇ」
わざとらしくため息をついたナターシャは、ふと気付いたように眉をつり上げた。
「あ、でも、スタークにはちゃんと彼女がいるみたいだし。時々女物の香水の匂いがするのよね。そういえば…今日はペッパーが付けてるのと同じ香水の匂いが…」
ビクッと肩を震わせたペッパーは、思わず袖口を鼻に当てた。
校内で頻繁に抱き合ったりしている訳ではないが、今朝廊下でこっそりキスした時に移ったのだろうか…。
目をキョロキョロ動かし挙動不審なペッパーに、ナターシャはニンマリ笑うと、ご丁寧にもウインクまでしてきた。
(う、嘘?!バレてる…)
真っ赤になったペッパーに、ナターシャは耳元で囁いた。
「大丈夫よ。誰も気づいてないから。私以外はね。このまま、仲が悪いって演技、続けてても大丈夫よ。あなたたち、上手く隠してると思うわ」
うんうんと頷いたナターシャは、頭から湯気を出しているペッパーにさらに追い討ちをかけた。
「で、勿論、キス以上のこともやってるんでしょ?どうなの、スタークって」
頭の中がパンクしそうなペッパーは、この場から逃げ出したくて堪らなかったが、丁度タイミング良く、携帯が震えているのに気付いた。
メールの主は、噂のトニーだった。
『北側の体育倉庫。待ってる』
「ご、ごめんなさい!行かなきゃっ!」
これ幸いにと立ち上がったペッパーは、脱兎のごとくその場から逃げ出した。
トニーが指定した体育倉庫は、今は使われておらず、開かずの扉と化しているはず。だからこんな所に本当にトニーがいるのだろうかと、半信半疑のままペッパーはドアを開けた。
「スタークくん?」
「ペッパー、待ってたよ」
トニーがちゃんといたことに、ペッパーはホッと息を吐いたが、ぐちゃぐちゃのはずの中は綺麗に片付けられており、床に何枚も引いたマットの上にはシーツが掛けてあるではないか。そしてその上にトニーは寝転んでいた。
「どうしたの、ここ…」
こざっぱりとした部屋と化している体育倉庫に、ペッパーは目を丸くした。
「俺だけの秘密の部屋。サボりたい時、ここで寝てるんだ」
起き上がったトニーは、小さく欠伸をした。
「いつから?」
「ここに来てすぐ。ボロボロだったから、掃除した」
トニーが一人で片付けている様子が目に浮かび、おかしくなったペッパーはクスクス笑い声を上げると、彼の隣に腰を下ろした。
「鍵もかかるし、もってこいだろ?」
「何に?」
不思議そうに首を傾げたペッパーの耳元で
「秘密の逢瀬さ…」
と囁いたトニーは、頬を赤らめた彼女の唇を奪った。
「んん!!」
あれよあれよと言う間に何も着ていない状態にさせられたペッパーは、下腹部にあるトニーの頭を軽く叩いた。
「防音バッチリなんだ。だから思いっきり喘いでも大丈夫」
そうは言っても、ここは学園内なのだ。必死に声を抑えるペッパーに、トニーは不満げに唸った。そこで花芯にしゃぶりつくと、秘部に指を数本入れ中を掻き回した。弱い所をつかれたペッパーは我慢できず、声を上げると腰を跳ね上がらせた。
「欲しいだろ?」
トロンとした瞳をトニーに向けたペッパーは頷いた。満足げに笑ったトニーはゴムを付けると、一気に最奥まで貫いた。
いつもより激しい行為に、あっという間に果てた2人は、同時に倒れこんだ。
胸元に顔を押し付け息を整えているトニーの髪の毛をペッパーが優しく梳くと、顔を上げた彼は目を瞬かせた。
「どうだった?」
子供のように目を輝かせているトニーは可愛らしく、ペッパーは眩しそうに瞬きした。
「凄くドキドキしてるわ。だって、ここは学校よ。なのに私はあなたと…」
「セックスしてる」
トニーに言葉を続けられたペッパーは頬を真っ赤に染めたが、トニーは楽しそうにニヤニヤ笑い出した。
「あのペッパー・ポッツが、俺と学校で、セックスしてるんだぞ?スリル満点だな」
途端に恥ずかしくなったペッパーはトニーの胸元に顔を押し付けたのだが、先程のナターシャの『香水の匂いが…』という言葉を思い出し、飛び上がった。
「香水!」
「は?」
急に慌てふためき始めたペッパーに、トニーは訳が分からないと、首を傾げた。
「あ、あのね…。ナターシャにバレたの。私たちが付き合ってること…」
ナターシャ・ロマノフの名前を聞いたトニーは目をくるりと回した。
「ロマノフか…。あいつは鋭いし、この間から俺にもカマかけてきてたからな。まぁ、あいつは誰かにベラベラ喋るような奴じゃないから大丈夫さ。一応仲間だし…」
そういえば、ナターシャは、トニーたちの輪の中にいつの間にか入っていたことをペッパーは思い出した。だから彼女にバレたのは問題ないと思い直したペッパーだが、欠伸をしたトニーは思わぬことを言い出した。
「それに、もうバレてもいいじゃん。俺たちが付き合ってること」
目を丸くしたペッパーは、トニーに向かって叫んだ。
「だ、ダメよ!」
「何で?」
不満げに唸ったトニーにペッパーは口を尖らせた。
「私だってあなたと付き合っているって言いたいわ。でも…学園中の女の子は全員って言っていい程、あなたのことが好きなのよ?そんなあなたと付き合ってるのが、私だって知ったら…」
「ペッパーに文句言う奴は、俺が懲らしめてやる」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーの言葉は頼もしく、嬉しくなったペッパーは再びトニーに抱きついた。ギュッと抱き寄せ髪を弄んでいたトニーだったが、ふとあることを思い出した。
「知ってるか?最近ペッパーのことが好きだって奴が増えてるって話」
「え?」
キョトンとしてるペッパーに、やっぱり気づいてなかったかと溜息を吐いたトニーは、腕時計に目をやると
「その話は、また今度…」
と、再びペッパーの胸元にキスをし始めた。
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