Until now I have been looking for you.⑥

1ヶ月後。
全米のコンクールで見事優勝したトニーは、アメリカ代表に選ばれた。
アカデミーも創設以来の大ニュースだと大騒ぎになっているのだが、当の本人はさも当然のように平然としていた。が、すれ違う生徒から祝福の言葉を掛けられたトニーは、満更でもなさそうで、今日の彼は朝からニコニコと嬉しそうだった。

その夜、電話越しに2人は喜びを分かち合った。学園内で直接褒め称えられなかった分、自分のことのように喜ぶペッパーの歓声をひとしきり聞いたトニーは、父親が明日LAへ急遽やって来ることになったと告げた。
「でさ、親父がペッパーに会いたがってる。一緒にランチでもどうかって」
ハワード・スターク。
スターク・インダストリーズのCEO。
テレビや雑誌で見る彼はいつも顰めっ面をしており、手厳しいと有名だ。
そして、一緒に遊んだこともなければ、父親らしいことは何一つしてもらった記憶はない。幼い頃から厳しく躾けられ、ろくに話もしたことがない…。そうトニーからは聞いていたため、厳格な父親というイメージが拭いきれなかった。
そんなハワード・スタークが自分に会いたがっているというのだ。一瞬恐れ戦いてしまったペッパーだが、トニーの母親のマリアも自分のことを優しく受け入れてくれたのだから大丈夫だろうと思い直した。

翌日。
スターク邸に向かうと、待ち構えていたようにトニーが飛び出してきた。
ガチガチに緊張しているペッパーの手を握りしめたトニーは、両親の待つリビングへと連れて行った。
リビングではマリアと、そして初老の男性が談笑していたが、ペッパーに気づくと立ち上がり近づいてきた。
「親父、彼女がペッパー…いや、ヴァージニア・ポッツさんです」
トニーに紹介されたペッパーは、慌てて頭を下げた。
「初めまして、ヴァージニアです」
ペッパーが差し出した手をハワードは力強く握り返した。
「初めまして。トニーの父親のハワードです。ポッツさんの話は妻から聞いていてね。君に会えるの楽しみにしていたんだよ」
あまり表情を崩さないがハワードの顔には微かに笑みが浮かんでおり、その顔はトニーにそっくりだった。噂とは違うハワードの優しい瞳に、自分は受け入れてもらえていると感じたペッパーは、ホッと安心したように息を吐いた。

スターク夫妻はペッパーをまるで本当の娘のように受け入れてくれているらしく、ランチの間も話は弾む一方だった。と言っても、話していたのはもっぱらマリアだったが…。

夕方になり、トニーはペッパーを家まで送り届けたのだが、彼女の両親は不在だった。
キッチンに残された書き置きを読んだペッパーは、トニーに向かって肩を竦めた。
「パパとママ、夜遅くまで戻らないんですって」
こんなことなら、スターク夫妻の言葉に甘えて夕飯もご一緒すればよかったと、口を尖らせているペッパーに、トニーはゴクリと唾を飲みこんだ。
「君のご両親が戻るまで、一緒にいていいか?」
「うん!」
顔を輝かせたペッパーは、トニーを自分の部屋に案内した。

初めて入る恋人の部屋に、トニーは興味津々だった。
窓辺には沢山の写真が飾ってあった。両親と写るペッパーの写真の中に、自分との写真が混ざっているのを見つけたトニーは、顔をほこばらせた。
「そういえばさ、ご褒美貰ってないな?」
ベッドに腰掛けたトニーは、隣に腰掛けたペッパーを見つめた。
「何が欲しい?」
何でもあげると約束したのだから、トニーは何が欲しいのかずっと気にはなっていた。でもトニーは大金持ちだし、彼に買えない物はないはず…。ウンウンと頭を悩ますペッパーは可愛らしく、お気に入りのバンドのTシャツあたりを強請ろうと考えていたはずのトニーの口から、本音が飛び出してしまった。
「君が欲しい」
それはつまり…。
どういうことか理解したペッパーは真っ赤な顔をしているが、トニーもトニーで珍しく頬を赤らめているではないか。
上目遣いでトニーを見上げたペッパーは、何度か瞬きした。それが我慢の限界だった。
「ペッパー…」
聞いたことがないようなトニーの甘ったるい声に、ペッパーは導かれるように彼の膝の上に座った。と同時に、トニーがキスをし始めた。舌を絡ませる濃厚なキスに、ペッパーの頭はすぐに真っ白になってしまった。その間にも、トニーはペッパーの洋服を器用に脱がしていき、ペッパーがふと我に返った時にはお互い何も着ていない状態でベッドに横たわっていた。

身体中を這い回るトニーの指に、ペッパーに初めての感覚が襲いかかった。下腹部の誰にも触れられたことのない場所をトニーは舌で丹念に愛撫している。
彼は数え切れないくらいの女性と愛し合っているだろうが、ペッパーにとっては何もかもが初めての経験。どう反応すればいいのか、どう返してあげればいいのかさっぱり分からない。
「あ、あのね…私……」
恥ずかしくて言葉が続かない。身体中を朱色に染めたペッパーの瞳を見つめたトニーは、頬をそっと撫でるとキスをした。
「大丈夫…。全部俺に任せて…」
優しい笑みを浮かべたトニーは、ペッパーの両脚を持ち上げると、身体を滑り込ませた。

トニーが入り込んできた。
痛みが襲いかかってきたが、大好きなトニーとなら乗り越えられると、ペッパーはシーツをギュッと握りしめた。
「ペッパー…俺の腕、掴んでていいから…」
苦しそうに眉をひそめたトニーは、ペッパーを自分の腕に掴まらせた。そして奥へ奥へとゆっくりと入り込んでいった。
「い…いやぁ……」
身体の中から焼き尽くされてしまうかと思う程、熱くて大きいトニーが奥深くへと進んでいく。あまりの衝撃に思わずトニーの腕に爪を立ててしまったペッパーだが、その痛みすらも心地よいのか、トニーが中で大きさを増した。
ぐっと腰を押し付けたトニーは、ペッパーの身体を抱きかかえた。
「ペッパー……愛してる…」
愛の言葉を耳元で囁かれ、ペッパーに痛みではなく心地よさが襲いかかってきた。
中でギュッと締め付けられたトニーは、ゆっくりと腰を動かし始めた。
動きが激しさを増すごとに、ベッドがギシギシと音を立てた。微かに聞こえていた水音は、今や身体のぶつかり合う音と混じり、部屋中に響き渡っている。ペッパーが奏でる妖艶な声に、トニーは我を忘れてペッパーを愛した。

もう何度達したのだろうか。トニーから与えられる快楽しか考えられなくなったペッパーが、一段と大きな叫び声を上げた。弓なりにしなる身体を押さえつけたトニーもペッパーの名前を叫びながら、薄い膜の中にようやく欲望を吐き出した。

気を失っているペッパーから身体を離したトニーは、素早く後始末をすると、ベッドに腰掛けた。
こんなにも心が満ち足りたのは初めてだった。大切な人と愛し合うことが、こんなにも素晴らしいことだとは知らなかった。
そんなことを考えながら、眠るペッパーの頬を撫でながら寝顔を見つめていたトニーの耳に、『彼女』の声が聞こえた。

報告しなさい

と、トニーの瞳が暗くなった。
何かに操られているかのようにすっと立ち上がったトニーだが、ペッパーが夢見心地にトニーの名を囁いた。
ハッと我に返ったトニーは頭の中の声を追い払らうように何度も頭を振った。そしてペッパーにキスをすると、そっと部屋を後にした。

⑦へ

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