「未来編」カテゴリーアーカイブ

All my treasures①~Dad&Mom~

早いものでトニーとペッパーの娘のエステファニアももうすぐ1歳。

仕事に復帰したペッパーのために、社内の託児所を充実させたトニーは、他の子供を抱える女性社員から感謝されると同時にますます人気となり、ペッパーは日々エストだけではなく、トニーにまで目を光らせることとなった。(トニーの場合はペッパー以外目に入らないので、要らぬ心配と言えばそうなのだが…)

ハイハイとつかまり立ちができるようになったエストは、少しでも目を離すとものすごいスピードで移動し、イタズラをしようとする。まだ1歳にもならないのに、誰に似たのがイタズラに関しては才能を発揮する彼女(ペッパーに言わせれば、「スターク家の血筋」)。お気に入りの本を何冊もダメにされても、「かわいい娘のイタズラだから…」と苦笑いしていたトニーだが、先日はとうとうダミーが犠牲となり、これにはトニーも我慢できなかったらしく、エストに雷を落としたのだった。

だが、さすがトニー・スタークの娘。そんなことには屈せず、今日も部屋の中を走り回っていた。と言うわけで、ペッパーは毎日エストの後ろを追いかけ回す日々が続いていた。

すっきりとまとめられていたリビングもいつの間にかおもちゃやぬいぐるみが散乱し、昔の雰囲気は程遠いが、それでもトニーとペッパーは毎日幸せだった。

今日も離乳食を食べさせようと格闘した戦場の跡のような食卓をペッパーが片付けるのを横目に、トニーはエストを膝の上に乗せ、絵本を読み聞かせていた。
「おひめさまはおうじさまとなかよくくらしました…」
「まー、まー!」
絵本のお姫様を指差すエストにトニーは
「おい、エスト。このお姫様はキレイだが、ママではないぞ。ママの王子様はパパなんだからな。こんな知らない奴にペッパーは渡せない…」
とブツブツ独り言。
「あう?」
不思議そうな顔をしてトニーを見上げたエスト。
さすがトニー・スタークの娘と言うべきか、エストは物覚えが早く、こちらが話すこともどうやら理解しているよう。
「ぱー?」
自分の世界に入り込んでしまった父親の膝から降りると、キッチンにいるペッパーの元へハイハイして向かった。

「まー、あーあー!」
片付けが終わり、紅茶を入れていたペッパーは、足元で聞こえる声に振り返った。
「あら?エスト。パパに本を読んでもらってたんじゃないの?」
両手を振り抱っこをねだるエストを抱き上げたペッパーは、リビングのトニーの元へ向かった。

「トニー?何してるの?」
「ペッパー!あれ?エストは?」
いつの間にか膝の上から脱走していた娘の姿を求めてキョロキョロするトニーに、ペッパーに抱かれたエストはきゃっきゃっと笑った。
「何だ、ママのところに行ってたのか?」
本を片付けながらトニーが笑うと、エストはトニーを指差しながら
「ぱぁぱ」
と微笑んだ。
「おい!ペッパー!今、『パパ』と言わなかったか?」
「え?!エスト!もう一回言って?」
「あー」
「さっき『パパ』って言っただろ?ほら、もう一回言ってごらん?」
「だー。まぁま。うーうー。ぱぁぱ。あーあー」
「キャー!!トニー!『ママ』も言ってくれたわ!」
「ジャーヴィス!今の撮ってるだろうな?!今の決定的瞬間を!」

『トニー様。もちろん録画させて頂いております』

やれやれ…トニー様はすっかり変わられました。ご結婚される前…いえ、ペッパー様と出会われる前は、このような生活をされるとは思いもしませんでした。それにエスト様がお生まれになってからは…。きっと全米一の親バカなのではないでしょうか…。

何度も娘に「パパ」「ママ」と言わせてはしゃぐ両親といいかげんにしてよ…とあくびをする娘を横目に、ジャーヴィスは先ほどの決定的瞬間の映像をこの1年で莫大な量に増えたエスト成長記録専用フォルダに収めた。

***
初めての言葉は『パパ』

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Blue light 

「あーあー」
小さな手でTシャツ越しにぼんやりと見える光を触る娘。

妻の柔らかな身体に溺れている最中、タイミング悪く起き出した娘。産まれた時からだが、娘は夜半に起き出すと空腹でない限り、母親ではなく父親の私を求める。元々夜泣きをする方ではなかったが、最近は夜もぐっすり眠ってくれ、以前のように妻との甘い時間をゆっくり過ごせるようになっていたのだが…。

「何だ?これが好きなのか?」
顔を覗き込み柔らかな頬を突つくと、彼女は妻にも私にもよく似た大きな青い瞳を煌めかせた。
「だぁ」
少し顔を覗かせ始めた小さな白い歯を見せて、娘は満面の笑みを浮かべた。
「そうか、好きなのか。さすが私の娘だ」
小さな頭にキスをおとすと、娘はくすぐったそうに笑った。

やがてウトウトし始めた娘は、小さな口を開けて大あくび。小さな手で私のTシャツをぎゅっと握り締めると、寝息をたて始めた。

「おやすみ、エスト…」
ベビーベッドにそっと寝かすと、枕元に置かれた彼女のお気に入りのアイアンマンのぬいぐるみの頭を叩いた。
「お姫様をちゃんと見守ってくれよ」

*****
服を脱ぎ、ベッドの中で微笑む妻の隣に潜り込む。
嬉しそうにすり寄ってきた身体を腕の中に閉じ込め、肩から尻にかけて背中を指で撫でると、彼女の口から甘い吐息が漏れ出した。
やがて脚を絡ませた彼女は仰向けになった私の上に乗ると、胸元に手を這わし顔を近づけた。
リアクター周りにキスをする妻。彼女の柔らかく甘い口づけは、いつだって私の心を揺さぶり続ける。
キスをし続ける妻の髪を撫でると、彼女は潤んだ瞳を私に向けた。
「君も好きなのか?」
「君もって?」
「いや、エストが好きらしい」
胸元のリアクターを軽く叩くと、妻は私の肩に手を置き、唇に触れるか触れないかのキスを一つ。
「だって、私の娘だもの」
おかしそうに笑った妻の尻を掴み引き寄せ指を這わせると、白く美しい肌は次第に赤く染まり始めた。
首筋にキスを落とす彼女の前髪を掻き分けると、青い光が彼女の美しい顔を照らした。
「あら?熱くなってるわよ?」
くすっと笑った妻は身体を起こすと、私を愛おしそうに手で包み込んだ。
「知ってるさ。欲しくなったのか?」
彼女の太腿を触るように腰を動かすと、漏れ出そうになった淫靡な声を飲み込むかのように唇をキュッと閉じた。
「ねぇ、トニー…。私ね…これも好きよ…」
恥ずかしそうに微笑んだペッパーは私を掴むと、水音をたてながら腰を落としていった。

*****
「トニー?何作ってるの?」
翌日、ラボに籠っている私の元に、エストを抱いたペッパーがやって来た。
「あぁ、ちょっとな…」
私の目の前にあるウサギのランプを見たエストが文句を言うように手を伸ばした。
「そのウサギ…エストの部屋にあったランプよね?…あら?」
私の隣に腰を下ろしたペッパーは、ウサギの胸元に気付いた。
「どうしたの、これ?」
ペッパーが指さした先にあるもの。それは、小型のリアクターのようなもの。
ウサギから尻尾のように伸びるコードを繋いだ私は、妻の腕にいる娘に手を伸ばした。
「エスト、おいで」
嬉しそうに腕と脚をばたつかせる娘を受け取り、膝の上に座らせた。
「エスト、パパの力作だぞ。…いや、実際はすぐできたが…。これはな、ただのウサギのランプじゃないからな。お前の好きな…ほら、パパのこれと同じだぞ」
私とウサギを交互に見つめていた娘の小さな指が、リアクターに置いた私の指を掴んだ。
「見たいか?」
頬をくすぐると、早く見せろというように娘は机の上を叩き始めた。
「よし。では、付けるぞ…。ジャーヴィス、灯りを落としてくれ…」
部屋の照明が少しおとされたのを確認した私は、ウサギのスイッチを入れた。白く淡い光を放つウサギの胸元は、ぼんやりとそれでも存在感を放つように青い光が輝き始めた。
「だー!あー!」
ウサギのリアクター…実際はリアクターと同じ色の光を放つ電球なのだが…を指差したエストは、目を丸くして大興奮。
両手を振り上げキャッキャッと笑うその姿に、私もペッパーも自然と笑みがこぼれた。

その夜、ウサギのライトを付けてもらったエストは、あっという間に寝入ってしまったらしい。

「トニー、あの子ったら大喜びよ。でも、急にどうしたの?」
寝室に戻ってきたペッパーは、私の隣に潜り込みながら不思議そうな顔をした。
「いや…。ただ…」
彼女にキスをしながら言葉を濁した私だが、ペッパーの顔が曇ったのに気付き慌てて後を続けた。
「いや…その…。エストは君だと寝つきが悪いんだろ?どうやらこのリアクターの光がお気に入りらしい。だから、もし私がいなくても…」
「いないってどういうことよ!」
黙って聞いていたペッパーだが、私の言葉に顔色を変え飛び上がった。
「いなくなるってこと?私たちを置いて…。まさか…死ぬつもり?!」
私に馬乗りになったペッパーは、ポロポロと涙を流しながら私のTシャツの首元を引っ張った。

く、苦しい…。
ど、どうして話がそんなに飛躍するんだ?!

「ぺ、ペッパー…。おい!ペッパー!」
名前を呼んでも気付かない彼女を抱きしめ身体を反転させると、ようやく彼女は大人しくなった。
「ペッパー、最後まで話を聞け。いないと言っても今すぐにではない。今はエストが小さいからと、みんな気を遣ってくれている。たが、これから先、呼び出されれば行かねばならないこともあるだろう。私がいなくても大丈夫なように少しずつ慣らしていかないと…。君の負担も軽減されるだろ?」
私の胸元に顔を埋めているペッパーは、無言で頷いた。よく見ると、肩が小さく震えている。
「ペッパー…大丈夫だ。私は君とエストを置いていなくなったりしない。私が帰るべき場所は、君とエストの元だから…」
彼女の身体をぎゅっと抱きしめ頭に何度かキスを落とすと、顔を上げた彼女は涙で濡れた瞳で私をじっと見つめた。
「約束よ、トニー…。黙っていなくなったりしないでね…」
「あぁ…約束するよ…」

首元の伸びてしまったTシャツ…お気に入りだったんだが、仕方ないか…を脱ぎ捨てると、彼女の大好きな青い光が優しく私たちを包み込んだ。

***
リアクター好きなのは母親譲り

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Adviser

「スターク、相談があるんだ」
ある日、仕事が終わり帰ろうとしていたトニーに、クリントが声を掛けた。
「私にか?生憎、相談は隔週木曜の…」
一刻も早く帰って妻と娘の顔が見たいトニーは適当に振り払おうとしたが、友人がやけに神妙な顔をしているのに気づき、口を噤んだ。
「仕事の話じゃない!その…お前にしか聞けないというか…」
真っ赤な顔をして視線を伏せたクリント。
(さては恋愛ごとか?)
ニヤリと笑ったトニーは、クリントの肩をポンっと叩いた。
「いいさ。本来ならば相談料を取るところだが、私とお前の仲だ。タダで聞いてやる」
相談に乗ってくれると聞き、顔を輝かせたクリントだが、キョロキョロと辺りを見渡した。
周りにはS.H.I.E.L.D.のエージェント、そしてフューリーにマリア・ヒルにコールソン。ちなみに、スティーブ・ロジャースもいたが、彼に恋愛相談は聞かれても特に支障はないと二人とも思ったのか、残念ながら頭数には入っていなかった。
「ここではちょっと…」
声を潜めたクリントの腕を掴んだトニーは、ずるずると引きずるように出口へと向かった。
「では、家へ来い」
クリントを抱きかかえたトニーは、空高く飛び上がった。

家に帰ると、幸いと言うべきか、ペッパーは留守だった。
「で、レゴラスくんは何をお悩みなんだ?」
アーマーを脱ぎ、シャワーを浴びたトニーは濡れた髪をタオルで拭きながらクリントの前に座った。
「その…実は…あの…」
だが、一向に話を切り出さないクリント。しびれを切らしたトニーは、腕組みをすると鼻を鳴らした。
「おいおい。どうした、バートン。いつものお前らしくないぞ?」
もごもごと口ごもっていたクリントだが、目の前に出されたコーヒーを一気に飲み干すと急に立ち上がり、トニーの手を掴んだ。
「お、俺とナターシャ…どう見える?」
「は?」
どういう話なのかさっぱり分からないトニーは、目を白黒させた。口をポカンと開けているトニーの胸元を掴んだクリントは、身体を揺さぶった。
「だから!お前の目から見て、俺たちはどう見える?正直に言ってくれ!」
「お前とロマノフ?」
クリントの手を振りほどいたトニーは軽く咳き込んだ。
どうやらクリントは、自分たちが他人の目から見て恋人としてどう見えるか知りたいらしい。
からかってやろうかと思ったトニーだが、目の前の友人は真剣な眼差しをしており、とてもじゃないがおちゃらけれる雰囲気ではない。
真面目に答えた方がよさそうだと思ったトニーは、しばらく考えていたが口を開いた。
「そうだな…。お似合いだと思うぞ。仕事でもプライベートでも信頼し尊重し合っている。足りない部分をお互いが補っているというか…。私とペッパーには及ばないがな」
トニーの言葉にクリントの顔には笑みが浮かんだ。
「ほ、ホントか?」
「あぁ。嘘を言ってどうする。本当だ。だが、なぜこんなことを聞くんだ?おい、待て。もしかして…」
こんなことを改まって男友達に聞く理由は一つしかないだろう。目を見開いたトニーに、クリントは照れ臭そうに答えた。
「あぁ、プロポーズしようと思っている」
プロポーズと聞いたトニーは、机を叩くと立ち上がった。
「ぷ、プロポーズ?!お前…まだしてなかったのか?」
『やったな、おめでとう』という言葉を期待していたクリントは、真っ赤になるとぷいっとそっぽを向いた。
「悪かったな。忙しくてチャンスがなかったんだ」
何年待たせたんだ…と一瞬言いかけたトニーだが、自分は彼よりももっと長く待たせたのだから、そんなことは言える義理ではないと、慌てて口を噤んだ。
「で、どういうプロポーズを考えているんだ?」
座り直したトニーは、コーヒーを飲むと話題を変えた。
それも相談したかったんだ…と前置きしたクリントは、自分のプランを語り始めた。
「レストランで食事をして、彼女の好きなワインかシャンパンと共に指輪を差し出す…。プロポーズと言えばこれだろ?でも、定番だよな。俺はもっとナターシャを喜ばせたい。スタークはすごいプロポーズをしたんだろ?噂だと、彼女、その場に卒倒したらしいな?参考にしたい。教えてくれ」
まさか自分もその定番な手を使ったとは言えないトニー。しかも、あの時確かにペッパーは号泣していたが、いつの間にか卒倒したことになっているとは…。世間の噂とは恐ろしい…と、引きつった笑いを浮かべたトニーだが、クリントは気付いていないようだ。
この二人らしいプロポーズか…と頭を捻らせたトニーだが…。
「いい考えがある。お前にしかできないとびっきりのプロポーズだ。だが、あくまで私の意見だ。自分で考えろよ」
と前置きすると、トニーは何やら囁き始めた…。

数日後。
相談があるとやって来たナターシャは、ペッパーの腕の中にいるエストを見て笑みを浮かべた。
「あら?エストちゃん。ますますパパにそっくりになってきたわね」
大好きなナターシャおばさんに顔を輝かせたエストは、あーあーと声を出すと手を伸ばした。
「そうなの。しかも、トニーみたいにニヤリと笑うようになって…。これで性格まで似てたらどうしようって今から戦々恐々としてるわ」
ため息を付くペッパーに、エストを受け取ったナターシャは大げさに眉を潜めた。
「スタークが二人…。それは恐ろしいわね…」
「でしょ?」
笑いあった二人だが、その頃会議中のトニーがくしゃみ連発だったことは言うまでもない。

「で、相談って?」
エストをあやしていたナターシャに紅茶を差し出したペッパーは、エストを受け取ると話を切り出した。
「あのね…その…実は…」
急にモジモジし始めたナターシャに、ペッパーはピンと来た。
そう言えば、トニーが言ってたわね。『とうとうバートンがロマノフにプロポーズするらしいぞ!』と…。
だが、本人が言いだす前に言えるはずもない。
「どうしたの?」
話を促したペッパーに、ナターシャは何度も深呼吸をした。
「あのね…実は……。く、クリントに…ぷ、プロポーズされたの…」
やっぱりね、とニヤリと笑ったペッパーだが、知っているとは言えず友人に祝福の言葉を掛けた。
「そうなの!おめでとう!で、もちろんOKしたんでしょ?」
だが、ナターシャは黙ったままだ。雲行きが怪しくなってきたのを感じ取ったとか、エストも不安そうな顔をして母親とナターシャを見つめている。エストの大きな目に見つめられたペッパーは、恐る恐る切り出した。
「え……。もしかして…嫌って言ったの?!」
叫ぶように言うペッパーと、泣き出しそうな顔をしているエスト。慌てたナターシャは、
「ち、違うわ!イヤだなんて言ってないわ!考えさせてって言ったの…。でも、私もあいつと…その…」
と言うと、真っ赤になりうつむいてしまった。
嫌じゃないならどうして悩んでいるのかと不思議に思ったペッパーは、首を傾げた。
「じゃあ、何で悩んでるの?」
ペッパーの言葉に口を尖らせたナターシャは、声を絞り出すように言った。
「私…いい奥さんになれる自信がなくって…」
何と返していいか分からないペッパーだが、とりあえずナターシャの言い分を聞くことにした。
「私ね、あなたたち夫婦の関係ってすごく素敵だと思うの。お互いに尊敬しあって、助け合って…。それに、あのトニー・スタークを、その…何て言うか…あなたって巧く操ってるでしょ?ペッパーはどう見たって完璧よ。仕事もだけど、料理もできるし、女らしいし…。でも、私…。料理はできないし、男みたいだし…。だから、あいつのいい奥さんになれる自信がないの…」

ナターシャの気持ちがペッパーには痛いほど分かった。
トニーにプロポーズされた時、すぐにOKしたけれど、段々と結婚式の日が近づいてくるにつれ、理想の夫婦を描きすぎて息が詰まりそうになったことがあった。いわゆる、『マリッジブルー』。それが彼女の場合、プロポーズされると同時に来たようだ。
あの時、悩み一人不安定になっていたのを救ってくれたのは、トニーの言葉だった。
『私はそのままの君が好きなんだ。君もだろ?だからお互いもっと気楽に行こう』
そう言われた時…そして彼も内心不安だったと知った時、心がすぅっと軽くなったのだ。

だから大丈夫よ…と言おうとしたその時、ペッパーの携帯電話から軽快な音が鳴り響いた。
俯いたままのナターシャを気遣いながらも携帯を開くと、トニーからメールだった。
『クリントが来た。仕事中なのに帰らない。彼女にプロポーズを断られたと泣きわめいている。どうにかしてくれ! T』
メールには写真が一枚。床に伏せているクリントを指さし、困った顔をするトニーの写真。
全く、トニーったら悪趣味ね…とため息を付いたペッパーは、『すぐに援軍を送るわ♥ あなたのPより』とメールを送ると、ナターシャの手を取った。
「ナターシャ。『いい奥さん』って、料理上手だったり、掃除好きだったりってそういうことじゃないと思うわ。夫婦ってね、あなたが言う様に、お互いに尊敬しあって助け合うことが大切だと思うの。だから、彼にとってそういう存在になることが『いい奥さん』になるってことじゃない?それに、彼もありのままのあなたが好きになったはずよ。だから今のままでいいんじゃないの?」
ペッパーの言葉にパッと笑みを浮かべたナターシャは、
「そうよね。あいつは私を好きになって結婚しようって言ったんだもの。分かったわ。ありがとう、ペッパー」
と言うと、ペッパーの膝の上で笑っているエストの柔らかな頬を突いた。
きゃっきゃと声を上げて笑ったエストを見たナターシャの表情は、先ほどまでとは違いすっきりとしていた。

「ところで、どんなプロポーズだったの?」
立ち上がり帰り支度を始めたナターシャに、ペッパーは二人だけの秘密にしておきたいかしら…と思いつつも尋ねた。すると、ナターシャは一瞬変な顔をすると話し始めた。
「その日はね、ちょうど任務でヨーロッパにいたの。敵も倒して帰ろうとしたら、彼が急に矢を放ってきたの。『危ないじゃないの!』って怒鳴って矢を引き抜いたらね…。指輪が付けてあったの。え?って思って彼を見たら…。あいつったら柄にもなくこう言ったの。『君の身も心も俺の矢で一生貫かせてくれないか?』って。クリントらしくないでしょ?しかも棒読みなの。緊張してたからだとは思うけど…。きっと変な雑誌でも読んだのよ!」
そんなアドバイスをする人間は、ペッパーの知り合いには一人しかいない。
(トニーね…)
おそらく、プロポーズの方法についてクリントはトニーに助言を求めたのだろう。
ニヤリと笑みを浮かべた夫の顏を思い浮かべたペッパーは、ナターシャに気付かれないようにため息をつくと、うとうとし始めた娘を抱き直し立ち上がった。
「ねぇ、ナターシャ。お願いがあるの。私の大事な旦那様がね、ピンチなの。助けに行ってくれない?」

***
2600キリ番リクエスト分です。『社長に相談するクリント、ペッパーに相談するナターシャ』です。

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We can’t live without each other.⑧

閉じていた目をトニーが開けると、ペッパーの笑顔が目の前に現れた。
「目が覚めた?」
ハッピーと話をした後、どうやら眠ってしまったらしい。小さく頷いたトニーだが、先ほどのハッピーとの会話を思い出した。意識が戻ったとは言え、ペッパーと会話らしい会話が出来ていない。自分が今愛しているのはペッパーだけだということを、きっと彼女は分かってくれているだろうが、自分の口から言いたい…。そう考えたトニーは、口を動かした。
「どうしたの?」
トニーの口元に耳を近づけたペッパーは、『すまなかった』という彼の言葉を聞くと首を振った。
「トニー、お願いだから謝らないで。それに、謝らないといけないのは私の方よ。あの時、あなたの話を聞かずに出て行ってごめんなさい。何があってもずっとそばにいるって…あなたのことを支えるって誓ったのに…。ごめんなさい…トニー」
トニーの手をそっと取ったペッパーの目からは涙が零れ落ちた。ゆっくりと手を伸ばしたトニーは、頬に触れると流れる涙を拭った。
「泣くな…」
頬に触れるトニーの手の温もりに、ペッパーの心はみるみるうちに癒されていった。彼の手を両手で包み込んだペッパーはニッコリと笑みを浮かべたのだが、その笑顔に癒されたのもまたトニーも同じだった。
自分の気持ちを伝えなければ…と思ったトニーだが、息をするのさえやっとな彼は、まだ話ができる状態ではなかった。それでもトニーは
「愛してる…」
とやっとの思いで絞り出したのだった。
ようやく聞けたトニーの言葉。その一言で十分だった。
ホワイトとの関係も、彼女を愛していたのかということも、ペッパーの心のどこかにあった疑念も…トニーの言葉とそして彼が戻って来てくれたということだけで十分だった。
新たに浮かんだ涙を拭い取ったペッパーは、トニーの手にキスをした。
「分かってるわ。あなたが愛しているのは私とエストだけでしょ?それに…私も同じ。あなたなしじゃ生きていけないのは私も同じなの。それに、私が愛してるのはあなたとエストだけよ…永遠に…」
ペッパーの言葉に小さく頷いたトニー。
何があっても彼の元に必ず戻ってきてくれる唯一の存在。永遠に引き裂かれるかと思ったが、やはり彼女は戻ってきてくれた…。
元気になったら、ありったけの愛を彼女に伝えよう…。
ゆっくりと手を動かしペッパーを腕の中に閉じ込めたトニーは、目を閉じると彼女から発せられる甘く優しい香りを吸い込んだのだった。

2 人がいいねと言っています。

We can’t live without each other.⑦

三日後。
見舞いに来たハッピーが病室を覗くと、トニーは一人だった。
「ペッパーは?」
気怠そうにハッピーに顔を向けたトニーは、小さく咳をした。
「着替えを…取りに…」
そうか…と呟いたハッピーは、ベッドサイドの小さな椅子に身体を押し込んだ。
酷く顔色の悪いトニーはじっと友人を見つめた。
「…彼女は?」
昨日まで意識が朦朧としていたトニーは、事件のその後を聞いていなかった。この後、警察がトニーに事情を聞きに来る。その時、エミリーのことはトニーの耳にも入るだろうが、友人としてハッピーは先に知らせようと思いやって来たのだった。
何度か深呼吸したハッピーは、トニーの手を握りしめると話し始めた。
「取り調べも終わった。彼女、本気だったらしい。彼女のアパート、ボスの写真や記事だらけだったぞ?別れても忘れられなかったそうだ。必死で忘れようとしていたらしいが、何をやってもトニー・スタークを思い出してしまい、上手くいかず自暴自棄になっていた。そんな時、ボスとペッパーが結婚し、子供が生まれたと知ったんだ。一人だけ幸せになっているボスが許せなかった反面、会いたい思いは限界だったそうだ。直接会いに行っても会えないだろ?だからエストを誘拐することにしたそうだ。娘を人質にとればトニーは必ず自分に会ってくれると考えたんだ。その時、ボスを殺して自分も死ぬつもりだったらしい。そうすれば 永遠に一緒にいられると思ったと言っていた」
エミリーの部屋を思い出したハッピーは身震いした。部屋中にトニーの記事や隠し撮りした写真が貼られ、トニーの行動を詳細にメモしたノート、トニーの足取りを追った地図、そしてペッパーとエストの写真に刺さったナイフ…。その中で異彩を放っていたのが、数々の拷問器具。聞けば、トニーを捕まえた後、この道具でいたぶりながらゆっくり殺していくつもりだったとか…。
笑いながら話すエミリーを、ハッピーは思わず平手打ちしてしまった。
もう少しでトニーは命を奪われ、トニーとペッパーは永遠に引き裂かれるところだったのだ。ハッピーにとって、二人はボスであり、大切な友人だ。ペッパーよりも長くトニーのそばにいるハッピーにとって、ペッパーは彼の友人を暗く狭い世界から救ってくれた恩人でもあるわけだ。
『二人を悲しませるヤツは絶対に許さない。今度二人に近づいてみろ。逆に俺がお前を追い詰めるからな』
そう捨て台詞を吐いたハッピーは、初めて怯えた表情を浮かべたエミリーを睨みつけると取調室を後にしたのだった。

目を閉じ何やら考えていたトニーだったが、ゆっくりと目を開くとため息を付いた。
「昔の…ツケだな…」
確かに今回の事件は、彼の昔の恋人が引き起こした事件だ。
トニーにとって一番辛いのは、彼女たちが直接にしろ間接的にしろ、ペッパーとエストを傷付けることだ。
今の彼は二人を心から愛している。今まで愛してきた誰よりも心から…。それに彼は変わった。それはペッパーのおかげだ。それなのに、いつまで彼は昔の行いのせいで苦しめられなければならないのだろう…。
思わず天を仰いだハッピーだが、
「そうかもしれない。だが、もう終わりだ、トニー。あんたが苦しむのは終わりにしよう。つまり……そうだな…。よし!警備をもっと強化しよう!不審者は二度と近づけさせない!俺は決めたぞ、トニー。これからも一生あんたたちを守ると!」
と言うと、にやっと笑いトニーの手を力強く握った。
ハッピーの言葉に一瞬目を丸くしたトニーだが、笑みを浮かべると目を潤ませた。
「お前がか?…私の方が…強い…」
照れ臭そうに言ったトニーは何度か瞬きしたが、辛そうに息を吐いた。
「もう休め。ペッパーが戻るまでそばにいるから…」
毛布を掛け直すと小さく頷いたトニーは目を閉じたが、聞こえるか聞こえないかくらいの小声で囁いた。
「ハッピー…ありがとう…」
その声を聞こえないふりをしたハッピーだったが、無言でトニーの腕に触れるとそっと涙を拭ったのだった。

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