We can’t live without each other.⑦

三日後。
見舞いに来たハッピーが病室を覗くと、トニーは一人だった。
「ペッパーは?」
気怠そうにハッピーに顔を向けたトニーは、小さく咳をした。
「着替えを…取りに…」
そうか…と呟いたハッピーは、ベッドサイドの小さな椅子に身体を押し込んだ。
酷く顔色の悪いトニーはじっと友人を見つめた。
「…彼女は?」
昨日まで意識が朦朧としていたトニーは、事件のその後を聞いていなかった。この後、警察がトニーに事情を聞きに来る。その時、エミリーのことはトニーの耳にも入るだろうが、友人としてハッピーは先に知らせようと思いやって来たのだった。
何度か深呼吸したハッピーは、トニーの手を握りしめると話し始めた。
「取り調べも終わった。彼女、本気だったらしい。彼女のアパート、ボスの写真や記事だらけだったぞ?別れても忘れられなかったそうだ。必死で忘れようとしていたらしいが、何をやってもトニー・スタークを思い出してしまい、上手くいかず自暴自棄になっていた。そんな時、ボスとペッパーが結婚し、子供が生まれたと知ったんだ。一人だけ幸せになっているボスが許せなかった反面、会いたい思いは限界だったそうだ。直接会いに行っても会えないだろ?だからエストを誘拐することにしたそうだ。娘を人質にとればトニーは必ず自分に会ってくれると考えたんだ。その時、ボスを殺して自分も死ぬつもりだったらしい。そうすれば 永遠に一緒にいられると思ったと言っていた」
エミリーの部屋を思い出したハッピーは身震いした。部屋中にトニーの記事や隠し撮りした写真が貼られ、トニーの行動を詳細にメモしたノート、トニーの足取りを追った地図、そしてペッパーとエストの写真に刺さったナイフ…。その中で異彩を放っていたのが、数々の拷問器具。聞けば、トニーを捕まえた後、この道具でいたぶりながらゆっくり殺していくつもりだったとか…。
笑いながら話すエミリーを、ハッピーは思わず平手打ちしてしまった。
もう少しでトニーは命を奪われ、トニーとペッパーは永遠に引き裂かれるところだったのだ。ハッピーにとって、二人はボスであり、大切な友人だ。ペッパーよりも長くトニーのそばにいるハッピーにとって、ペッパーは彼の友人を暗く狭い世界から救ってくれた恩人でもあるわけだ。
『二人を悲しませるヤツは絶対に許さない。今度二人に近づいてみろ。逆に俺がお前を追い詰めるからな』
そう捨て台詞を吐いたハッピーは、初めて怯えた表情を浮かべたエミリーを睨みつけると取調室を後にしたのだった。

目を閉じ何やら考えていたトニーだったが、ゆっくりと目を開くとため息を付いた。
「昔の…ツケだな…」
確かに今回の事件は、彼の昔の恋人が引き起こした事件だ。
トニーにとって一番辛いのは、彼女たちが直接にしろ間接的にしろ、ペッパーとエストを傷付けることだ。
今の彼は二人を心から愛している。今まで愛してきた誰よりも心から…。それに彼は変わった。それはペッパーのおかげだ。それなのに、いつまで彼は昔の行いのせいで苦しめられなければならないのだろう…。
思わず天を仰いだハッピーだが、
「そうかもしれない。だが、もう終わりだ、トニー。あんたが苦しむのは終わりにしよう。つまり……そうだな…。よし!警備をもっと強化しよう!不審者は二度と近づけさせない!俺は決めたぞ、トニー。これからも一生あんたたちを守ると!」
と言うと、にやっと笑いトニーの手を力強く握った。
ハッピーの言葉に一瞬目を丸くしたトニーだが、笑みを浮かべると目を潤ませた。
「お前がか?…私の方が…強い…」
照れ臭そうに言ったトニーは何度か瞬きしたが、辛そうに息を吐いた。
「もう休め。ペッパーが戻るまでそばにいるから…」
毛布を掛け直すと小さく頷いたトニーは目を閉じたが、聞こえるか聞こえないかくらいの小声で囁いた。
「ハッピー…ありがとう…」
その声を聞こえないふりをしたハッピーだったが、無言でトニーの腕に触れるとそっと涙を拭ったのだった。

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