「未来編」カテゴリーアーカイブ

It’s a little baby.

その日エストは母親であるペッパーに連れられ、見覚えのない場所にやって来た。
「ママ、ここ、どこ?」
キョロキョロと辺りを見渡したエストは、隣を歩く母親を見上げた。
「病院よ。今日はね、新しいお友達に会いに行くの」
病院と聞いたエストは顔色を変えた。父親同様、エストは病院が大の苦手。だが『新しい友達』に会えるらしいのだから、エストは何度か首を振ると『新しい友達』のことだけを考えることにした。

とある病室に入ると、エストの大好きな『ナターシャおばさん』が、何かを腕に抱えてベッドに座っていた。
「ナターシャ、おめでとう」
母親であるペッパーはナターシャに駆け寄ると、大きな袋をベッド脇の椅子の上に置いた。
「洋服よ。沢山枚数があった方がいいから。後ね、トニーが監視システムは任せろって意気込んでたわ」
ふふっと笑ったナターシャの笑みは、どうしてか分からないが今までエストに見せていたものよりも柔らかく温かいものだった。
「ありがと、ペッパー。助かるわ」
と、ペッパーがナターシャの腕の中を覗き込んだ。
「かわいい!ナターシャ、あなたにそっくりじゃない!」
声を潜めてキャーキャー騒ぐ母親を見上げたエストは、『新しい友達』はどうやらナターシャおばさんが抱っこしているらしいと気付いた。
腕の中の存在を覗き込もうと興味津々のエストに、ナターシャは身を屈めると、背の小さなエストにも見えるように腕の中の赤ん坊を見せた。
「エストちゃん、アレックスよ。仲良くしてあげてね」
スターク・インダストリーズのキッズパーティーで、自分より小さな『お友達』と遊んだことはある。だが、ナターシャおばさんが抱っこしている子供は、今まで見たどんな子供よりも小さかった。恐る恐る手を伸ばしたエストは、壊れそうな程小さな小さな手にそっと触れた。と、アレックスがエストの指を握りしめた。
「アレックスったら、エストちゃんのこと、気に入ったみたいね」
ぱっと顔を輝かせたエストは、小さな友達の柔らかな頬に触れると、感心したように頷いた。
「ちいさいおててねぇ」
「すぐに大きくなって、エストちゃんと一緒に走り回るわよ」
ふにふにと顔を緩めたアレックスの頬にキスするナターシャは神々しく、エストは眩しそうに目を細めた。

***
帰宅すると夕食の準備をし始めたペッパーのそばで、エストは赤ちゃん人形で遊び始めた。2歳の誕生日プレゼントに貰った人形は、今ではアイアンマンの人形と共にエストの親友になっていた。
人形にミルクを飲ませあやしていたエストはふと思った。家にも本物の赤ちゃんがいれば、お世話したり遊んだりできるのではないかと…。
「あかちゃん…どこにいるの?」
必死で考えたが、どうやったら赤ちゃんがやって来るのか全く分からない。こういう時は両親に聞くのが一番だと、立ち上がったエストはパタパタと母親の元へと向かった。
「ママ、えすともね、あかちゃんほしいの。あかちゃん、どこにいるの?」
2人目が早く欲しいのは、トニーもペッパーも同じだった。だが朗報はなかなか訪れないのが現状な訳で…。
「そうね…。パパもママも頑張ってるんだけど…」
と、娘の前で思わず零してしまったペッパーだが、その言葉にエストは目を光らせた。
『赤ちゃんはパパとママが仲良く頑張ればお家に来てくれるらしい』と悟ったエストだが、両親の仲が良いのは周知の事実なのだ。それなのに赤ちゃんが来ないのは、きっとパパとママの頑張りが足りないのだろう。となれば、ここはパパにより一層頑張ってもらわなければと、エストは口を尖らせた。
と、そこへトニーが帰ってきた。
「どうだった?ミニホークアイは?」
駆け寄ってきたエストを抱き上げたトニーは、ペッパーの唇にキスをした。
「ナターシャにそっくりな可愛い男の子だったわよ」
「今日も任務中、レゴラスくんはチビの話ばかりだ。鼻の下を伸ばしていたせいで、あいつの矢が私のスーツに刺さったんだぞ」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーだが、娘が自分をじっと見つめているのに気づくと、頬にキスをした。
「どうした、エスト」
父親の注意がようやく自分に向いたこのタイミングを逃す訳にはいかない。父親の頬をペチペチ叩いたエストは、いつもお願いをする時のように、上目遣いに父親を見つめた。
「パパ、あのね…おねがいがあるの。えすともね、あかちゃんほしいの。だからね、パパ、もっとママとがんばって!!」
「え…」
思わず言葉を失い妻の方を見たトニーだが、彼女の方も頬を真っ赤に染め見返してきた。
キラキラと目を輝かせている娘と、ますます顔を赤らめる妻を交互に見たトニーだが、ニンマリ笑うとペッパーの耳元でそっと囁いた。
「ペッパー、カワイイ娘の頼みだ。今日も頑張ろうな」

※エスト2歳

4 人がいいねと言っています。

A Little Help②

トニー・スターク髭喪失事件の翌朝。
起床後すぐにバスルームへ向かったトニーは、鏡を覗き込むと顎下のキャプテン・アメリカのバンドエイドを剥がした。
「しばらく髭はなしか…」
昨晩、ベッドの中でペッパーに『髭がないあなたも素敵よ。それにチクチクしないもの』と何度もキスされ、髭がないのもたまにはいいのかもしれないと思ったが…。
「だが…どうも居心地が悪い…」
まだらに生え始めた髭は白いものも多く混じっており、まだまだ生えそろうには時間がかかるなと、トニーはため息を付いた。

キッチンに向かうと、妻と娘がテレビを見入っていた。トニーが入って来たことに気付いた娘は、手に持っているスプーンを振り回しながら叫んだ。
「パパのおひげ、テレビにでてる!」
一挙一動が全てニュースになるのはいつものことだが、どうして髭を剃ったくらいでトップニュースになっているのだろう。
他に報じるような重大なニュースがないのか、はたまた自分のゴシップがそんなに視聴率を取れるのか…。だが、そんなことはどうでもよかった。全世界の人々に髭を剃り落としたことを知られる方が、トニーにとっては一大事件だった。
「…世間に知られた…」
椅子に座るや否や頭を抱えたトニーにペッパーは首を傾げた。
どうしてそこまで髭がないことを気にするのかさっぱり分からない。自分も一度髪形をボブにした時は『ペッパー・ポッツ、トニー・スタークと破局!』とえらく騒がれたことがあるが、トニーが『髪の短い君も素敵だ』と喜んでくれたので、世間体は気にしなかったが…。
「いいじゃないの、別に」
チラリと妻を見上げたトニーは、差し出されたコーヒーを一口飲むと、口を尖らせた。
「あいつらには知られたくない…。からかわれるに決まってる」
そう言われ思い浮かべた顔は、ナターシャ・ロマノフとクリント・バートン。
(確かに、あの二人なら…)
ため息をついたペッパーは
「でもトニー、呼び出されるとは限らないんだから…」
とフォローしようとしたが…。
『トニー様、スティーブ様より、至急来て欲しいとご連絡が…』
無情にも呼び出しがかかってしまった。
「何だと?!」
椅子の上で飛び上がったトニーは、頬を膨らませた。
「嫌だ!行きたくない!」
行きたくないとごねるトニーは、腕組みをしてそっぽを向いてしまった。
「パパ、あいあんまんのおしごと?」
トニーの腕をペチペチと叩くエストにも、トニーは膨れ面をしたままだ。
「今日は休む!」
「ダメ!あいあんまん、みんなまってるの!」
言い合いをする父娘を呆れたように見ていたペッパーだが、なかなか動こうとしないトニーに痺れを切らしてしまった。
「アンソニー・エドワード!子供みたいなこと言わないの!」
とペッパーに一喝されたトニーは、渋々立ち上がった。

アーマーを装着したトニーは、見送りに来た妻と娘を振り返った。
「トニー、気を付けてね」
優しく微笑んだペッパーにキスをしたトニーは、彼女のお腹にそっと手を置いた。
「エスト、行ってくるよ」
そして娘の頭に手を置いたトニーは、彼女の頭をくしゃっと撫でた。
「パパ、いってらちゃい」
ペッパーに抱かれた娘からいつものように頬にキスをしてもらおうと首を伸ばしたトニーだが…。
「いやん、パパ、チクチクする」
どうやら無精髭がエストはお気に召さなかったらしい。
キスを拒む娘にトニーは大ショック。
「え、エスト?!」
どうにか娘からキスをしてもらおうとするトニーだが、彼女は首をブンブンと振るとペッパーの肩に顔を埋めた。
「パパ、バイバイ!いってらちゃい!」
ショックに打ちひしがれ動こうとしないトニーに、今日何度目かのため息をついたペッパーは、苦笑しながらも夫に何度もキスをした。

集合場所に降り立ったトニーを迎えたのは、やはりこの男の第一声だった。
「お、髭なしスタークが来たぞ。おい、昨日アーマーを脱がなかったのは、髭がなかったからなのか?」
愉快そうに笑ったクリントは、トニーの背中を叩いた。
(やっぱり…)
げんなりとしたトニーが黙っていると、ソーがずかずかと近寄って来た。
「鉄の男よ、髭仲間がいなくなってしまったではないか!」
と、ソーに思いっきり背中を叩かれたトニーは、転倒しそうになりながらも、反論しようと二人を睨み付けた。
「それくらいにしときなさい、二人とも。かわいそうでしょ、スタークが」
白けた声に振り返ると、ナターシャ・ロマノフが呆れた顔をしてこちらに近づいて来た。
「かわいそうとは何だ。別にかわいそうではない。ただのイメージチェンジだ」
どうせ事実は知らないんだ…とふんっと鼻を鳴らしたトニーだが、ナターシャはにんまりと笑っている。
「イメージチェンジ?違うでしょ。娘にやられたんでしょ?トニー・スタークがねぇ…」
おかしそうに笑うナターシャだが、トニーは青ざめた。
「ど、どうして知ってるんだ?!」
あたふたとするトニーに畳みかけるようにナターシャは肩を竦めた。
「ペッパーに聞いたの。昨日のあなた、様子がおかしかったから心配になって」
(ペッパーの奴!どうして話したんだ!)
この場にいない妻に八つ当たりしても仕方ないが、ナターシャに知られたということは、おそらくアベンジャーズのメンバーに髭を剃った経緯は知れ渡っているということだろう。現に、クリントとソーだけではない、ブルース・バナーまでもがニヤニヤとこちらを見ているではないか。
あっけらかんと答えるナターシャに、わなわなと震えるトニー。
その場の空気が険悪なムードになり始めた時だった。遅れてやって来たのはキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャーズ。
「スターク、君もついに髭を剃り落としたんだな。そうだ、剃り残しなく綺麗に剃れるクリームがあるんだ。持ってきたから是非使ってみてくれ」
いい加減スタークの髭トークはお開きにした方がいいと思っていたのに、よりによってまた振り出しに戻るような展開に…と、ナターシャ以下全員が頭を抱えた。
当人であるトニーは、怒りを通り越して呆気に取られているのか、差し出された袋を受け取ると「あぁ…」とようやく一言声を発した。
気まずそうにするトニーと、にこにこと笑みを浮かべるスティーブ。
この二人は永遠に馬が合いそうにないと、その場の皆が思ったのか思わなかったとか…。

4 人がいいねと言っています。

Stark’s gene⑤

『パパ!たすけて!』
暗闇の中から子供たちの助けを求める声が聞こえる。
(エスト、エリ……待ってろ……パパが…助けに…)
遠ざかる声に必死に手を伸ばすが届かない。そればかりか、子供たちの声はどんどん遠ざかって行く。

(エスト!エリオット!)
手を伸ばしたトニーの手を、誰かが力強く握り返した。

***

トニーが病院へ担ぎこまれ3日。
今朝になりトニーは麻酔から覚醒したのだが、痛みがあるのだろう、ずっとうなされている。
子供たちも汗を拭ったり手を握ったりと、父親のそばをずっと離れようとしないのだが、さすがに疲労は蓄積しており、先程からベッドの脇で丸くなって眠っている。
「トニー…」
ペッパーが額の汗を拭い落ちた前髪を梳くと、うなされているトニーは何かを探すように手を伸ばした。
「トニー、そばにいるわよ…」
ペッパーが両手でぎゅっと握り返すと、彼はパっと目を見開いた。そして何度か瞬きをしたトニーは、何かを探すように視線を動かした。
「トニー、大丈夫よ…」
視線が交錯し、ペッパーに気付いたトニーは小さく頷いた。
「エストとエリは無事よ。怪我もしてないわ」
子供たちが無事と聞き、トニーは安心したように小さく息を吐いた。そして両脇の重みに視線をやると、果たして自分はどうやって助かったのか気になり、ペッパーに視線を移した。
「この子たちがあなたを助けたのよ」
自分は子供たちを車に押し込んだのに…と、眉間に皺を寄せたトニーにペッパーは困ったように肩を竦めた。
「そうね、あなたはこの子たちを逃がそうとしたのよね?でも、誰に似たのかしら。子供たちは言うことを聞かなかったの。ジャーヴィスがその時の映像を見せてくれたわ。あなたを助けたい一心だったわよ。信じられないんだけど、エリがね、アイアンマンを操作したんですって」
アーマーは安全性の面から自分しか操作できないように、子供たちが生まれて以来セキュリティを強化してきたのだ。それをどうして2歳になったばかりのエリオットが突破できたのかと、トニーは目を白黒させている。
「…えり…が…?」
やっとの思いで一言声に出したトニーは、軽く咳き込んだ。
「えぇ。本人もどうやったか分からないですって。でも、さすがあなたの息子ね。それにエストも。いつまでも小さいと思ってたけど、こんなに機転が利くようになってるなんて…」
ふふっと笑ったペッパーを眩しそうに見つめたトニーは、
「…君の娘だ…」
と、ポツリと呟いた。その言葉にわざとらしく眉を吊り上げたペッパーは
「そうかしら?言われたことを守らないのは、あなたのDNAかもよ」
と、おかしそうにクスクスと笑った。
「でも、そのおかげで、あなたは助かったんですもの。感謝しなきゃ」
子供たちが機転を利かしていなければ、今ここで、そしてこれからも自分は子供たちの成長を見届けることはできなかっただろう…。
何度も頷いたトニーは、子供たちに再び視線を移した。
「起こす?」
ペッパーの言葉に首を振ったトニーは笑みを浮かべると、
「パパが…助けられた…ありがとう…」
と言いながら、眠る子供たちの頭をそっと撫でた。

【END】

1人がいいねと言っています。

Stark’s gene④


リビングへたどり着いた二人は、跡形もない程破壊された部屋に唖然としてしまったが、外を見るとドローンを倒したアイアンマンがプールを覗き込んでいるではないか。あちこちに倒れるドローンの残骸を避けプールサイドに駆け寄った二人が覗き込むと、水の引いたプールの底に父親が倒れているのが見えた。
「パパ!」
何度呼びかけても反応しない父親。間に合わなかったのかと、泣き出した弟をエストが抱きしめた時だった。
「二人とも大丈夫か?!」
聞きなれた声に顔を上げると、青い顔をしたクリントとナターシャがいた。
「ナターシャおばさん……」
エストの目にはみるみるうちに涙が溜まり始め、声を上げて泣き出した彼女とエリオットをナターシャは両腕で抱きしめた。
そして二人をナターシャに任せると、クリントはプールへ向かった。
「よかった…。エストもエリも、よく頑張ったわね」
何度か首を横に振ったエストは、ナターシャの服をぎゅっと掴んだ。
「でも…パパが…パパが…死んじゃう…」
しゃくり上げながら二人はプールに視線を送った。

急いでプールへ向かったクリントは、倒れたままのトニーを抱き起こした。
「スターク、しっかりしろ!」
首元に指を当てたが、脈を触れない。おそらく大量に水を飲んだのだろう、トニーはぐったりとしたままだ。
急いでトニーを寝かせたクリントは、心臓マッサージを始めた。
そして何度目かの息を吹き込んだ時だった。
トニーの身体がピクッと動き、彼は咳き込みながら口から大量に水を吐き出した。
「ナット!スタークが生き返ったぞ!」
プールの底から聞こえてきた声に、ナターシャは立ち上がると子供たちを抱き上げた。
「スタークは…あなたたちのパパは、大丈夫よ。すぐに病院へ向かいましょうね」

トニーが運び込まれたヘリに子供たちを乗せると、二人は横たわったままのトニーにキュッと抱き付いた。

⑤へ…

最初にいいねと言ってみませんか?

Stark’s gene③


次第に動かなくなっていく父親。何とか助けようと、モニターをあちこち突き回し、アイアンマンを起動させようとするエストだが、トニーの厳重なセキュリティを突破できるはずがない。
「ジャーヴィス!アイアンマンを動かして!」
悲鳴に近いエストの声にジャーヴィスは申し訳なさそうに返答した。
『申し訳ありません、エスト様。トニー様以外、起動できません』
何度も繰り返し聞かされる言葉に、エストはもうどうしていいのか分からなかった。
(あ!エリは?!)
先ほどまで隣にいたはずの弟の気配を感じられなくなり、慌ててラボを見渡したエストだが、その弟はアーマーの格納庫近くで何やらゴソゴソとしている。
(よかった、エリは大丈夫ね)
弟の無事を確認したエストが再びモニターに目をやると、意識を失っているのだろう、もはや動くことが出来ない父親をドローンがぐるりと取り囲んでいるではないか。
何が始まるのだろうかとエストが注視していると、ドローンはまるで彼女が見ていることを知っているかのように、トニーの頭を掴み身体を持ち上げた。そして腕の機銃の照準を一斉に彼の腹部に合わせた。
「パパ!!」
エストが叫び声を上げると同時に、ぐったりとした父親の身体が数回跳ね上がった。
音声が聞こえない状況でも、彼が撃たれたことは一目瞭然。
真っ青になりその場に座り込んだエストの目からは、涙が次々と溢れ出た。
「どうしよう…パパが…」
膝どころか全身が震え、エストは両腕で身体を抱え込んだ。
「ママ…」
父親が怪我をすると、母親はいつも子供のエストが見ても辛い程、涙を流している。この場にいない母親にも、おそらくジャーヴィスから連絡が入り、どうすることも出来ない母親は泣いているだろう。
「ママ…ごめんなさい…」
父親は今にも命を落としかけているのに、一番近くにいる自分たちは、どうすることもできない。
そうこうしているうちに、ドローンは止めを刺すつもりなのか、トニーの身体を押さえつけるとプールに潜った。
程なくして、プールの水はトニーの血で真っ赤に染まり始めた。そして水面はしばらく泡立っていたが、やがて静かになった。
「大変…」
袖口で乱暴に顔を擦ったエストは、どうにかしなければと、モニターを闇雲に叩いた。するとプールの栓が抜けたのか、水がどんどんと引き始めた。
水面下から父親の姿が現れた。
「ジャーヴィス!パパは?!」
ジャーヴィスが素早く主人をスキャンすると、モニターにトニーのバイタルサインが表示された。だが、ピーという嫌な音がするのみで、一向に動く気配がない。
「ねぇ、どうして動かないの…」
『エスト様、トニー様は…』
幼い子供たちにはっきりと告げていいものか迷ったジャービスがどう伝えようか一瞬迷った時だった。

「ねーね!できた!」
弟の声に振り返ると、エリオットが得意げに隣に立つ数体のアイアンマンを指差している。
これに驚いたのはエストだけではなく、ジャーヴィスもだった。
主人であるトニー・スタークしか起動できないはずのアイアンマン。それを彼の2歳になったばかりの息子が操作しているのだ。だが、この子たちに賭けるという自分の判断は間違っていなかったとジャーヴィスは確信した。
「エリ?!どうやったの?」
弟に駆け寄ったエストは彼の肩を揺さぶった。しばらく頭を捻らせていたエリオットだが、彼自身も直感の導くままにモニターを叩いただけなのだから、どうしてアイアンマンが動き出したのか理解できるはずもなかった。
「うーんとね…わかんない」
口を尖らせる弟だが、今は一刻を争うのだ。
「とにかく、パパを助けて!」
姉の言葉に頷いたエリオットは、アイアンマンを見上げた。
「アイアンマン、パパをたすけて!」
小さな主人の言葉に、ジャーヴィスはすぐさま行動に移した。アイアンマンたちはラボの入り口を蹴破ると、あっという間に姿を消した。

しばらく破壊音や銃声がしていたが、やがて静寂が訪れた。
もう安全だろうと判断したエストは、
「エリ、行くわよ」
と、弟の手を握ると階上へと向かった。

④へ…

1人がいいねと言っています。