早いものでトニーとペッパーの娘のエステファニアももうすぐ1歳。
仕事に復帰したペッパーのために、社内の託児所を充実させたトニーは、他の子供を抱える女性社員から感謝されると同時にますます人気となり、ペッパーは日々エストだけではなく、トニーにまで目を光らせることとなった。(トニーの場合はペッパー以外目に入らないので、要らぬ心配と言えばそうなのだが…)
ハイハイとつかまり立ちができるようになったエストは、少しでも目を離すとものすごいスピードで移動し、イタズラをしようとする。まだ1歳にもならないのに、誰に似たのがイタズラに関しては才能を発揮する彼女(ペッパーに言わせれば、「スターク家の血筋」)。お気に入りの本を何冊もダメにされても、「かわいい娘のイタズラだから…」と苦笑いしていたトニーだが、先日はとうとうダミーが犠牲となり、これにはトニーも我慢できなかったらしく、エストに雷を落としたのだった。
だが、さすがトニー・スタークの娘。そんなことには屈せず、今日も部屋の中を走り回っていた。と言うわけで、ペッパーは毎日エストの後ろを追いかけ回す日々が続いていた。
すっきりとまとめられていたリビングもいつの間にかおもちゃやぬいぐるみが散乱し、昔の雰囲気は程遠いが、それでもトニーとペッパーは毎日幸せだった。
今日も離乳食を食べさせようと格闘した戦場の跡のような食卓をペッパーが片付けるのを横目に、トニーはエストを膝の上に乗せ、絵本を読み聞かせていた。
「おひめさまはおうじさまとなかよくくらしました…」
「まー、まー!」
絵本のお姫様を指差すエストにトニーは
「おい、エスト。このお姫様はキレイだが、ママではないぞ。ママの王子様はパパなんだからな。こんな知らない奴にペッパーは渡せない…」
とブツブツ独り言。
「あう?」
不思議そうな顔をしてトニーを見上げたエスト。
さすがトニー・スタークの娘と言うべきか、エストは物覚えが早く、こちらが話すこともどうやら理解しているよう。
「ぱー?」
自分の世界に入り込んでしまった父親の膝から降りると、キッチンにいるペッパーの元へハイハイして向かった。
「まー、あーあー!」
片付けが終わり、紅茶を入れていたペッパーは、足元で聞こえる声に振り返った。
「あら?エスト。パパに本を読んでもらってたんじゃないの?」
両手を振り抱っこをねだるエストを抱き上げたペッパーは、リビングのトニーの元へ向かった。
「トニー?何してるの?」
「ペッパー!あれ?エストは?」
いつの間にか膝の上から脱走していた娘の姿を求めてキョロキョロするトニーに、ペッパーに抱かれたエストはきゃっきゃっと笑った。
「何だ、ママのところに行ってたのか?」
本を片付けながらトニーが笑うと、エストはトニーを指差しながら
「ぱぁぱ」
と微笑んだ。
「おい!ペッパー!今、『パパ』と言わなかったか?」
「え?!エスト!もう一回言って?」
「あー」
「さっき『パパ』って言っただろ?ほら、もう一回言ってごらん?」
「だー。まぁま。うーうー。ぱぁぱ。あーあー」
「キャー!!トニー!『ママ』も言ってくれたわ!」
「ジャーヴィス!今の撮ってるだろうな?!今の決定的瞬間を!」
『トニー様。もちろん録画させて頂いております』
やれやれ…トニー様はすっかり変わられました。ご結婚される前…いえ、ペッパー様と出会われる前は、このような生活をされるとは思いもしませんでした。それにエスト様がお生まれになってからは…。きっと全米一の親バカなのではないでしょうか…。
何度も娘に「パパ」「ママ」と言わせてはしゃぐ両親といいかげんにしてよ…とあくびをする娘を横目に、ジャーヴィスは先ほどの決定的瞬間の映像をこの1年で莫大な量に増えたエスト成長記録専用フォルダに収めた。
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初めての言葉は『パパ』