④
『パパ!たすけて!』
暗闇の中から子供たちの助けを求める声が聞こえる。
(エスト、エリ……待ってろ……パパが…助けに…)
遠ざかる声に必死に手を伸ばすが届かない。そればかりか、子供たちの声はどんどん遠ざかって行く。
(エスト!エリオット!)
手を伸ばしたトニーの手を、誰かが力強く握り返した。
***
トニーが病院へ担ぎこまれ3日。
今朝になりトニーは麻酔から覚醒したのだが、痛みがあるのだろう、ずっとうなされている。
子供たちも汗を拭ったり手を握ったりと、父親のそばをずっと離れようとしないのだが、さすがに疲労は蓄積しており、先程からベッドの脇で丸くなって眠っている。
「トニー…」
ペッパーが額の汗を拭い落ちた前髪を梳くと、うなされているトニーは何かを探すように手を伸ばした。
「トニー、そばにいるわよ…」
ペッパーが両手でぎゅっと握り返すと、彼はパっと目を見開いた。そして何度か瞬きをしたトニーは、何かを探すように視線を動かした。
「トニー、大丈夫よ…」
視線が交錯し、ペッパーに気付いたトニーは小さく頷いた。
「エストとエリは無事よ。怪我もしてないわ」
子供たちが無事と聞き、トニーは安心したように小さく息を吐いた。そして両脇の重みに視線をやると、果たして自分はどうやって助かったのか気になり、ペッパーに視線を移した。
「この子たちがあなたを助けたのよ」
自分は子供たちを車に押し込んだのに…と、眉間に皺を寄せたトニーにペッパーは困ったように肩を竦めた。
「そうね、あなたはこの子たちを逃がそうとしたのよね?でも、誰に似たのかしら。子供たちは言うことを聞かなかったの。ジャーヴィスがその時の映像を見せてくれたわ。あなたを助けたい一心だったわよ。信じられないんだけど、エリがね、アイアンマンを操作したんですって」
アーマーは安全性の面から自分しか操作できないように、子供たちが生まれて以来セキュリティを強化してきたのだ。それをどうして2歳になったばかりのエリオットが突破できたのかと、トニーは目を白黒させている。
「…えり…が…?」
やっとの思いで一言声に出したトニーは、軽く咳き込んだ。
「えぇ。本人もどうやったか分からないですって。でも、さすがあなたの息子ね。それにエストも。いつまでも小さいと思ってたけど、こんなに機転が利くようになってるなんて…」
ふふっと笑ったペッパーを眩しそうに見つめたトニーは、
「…君の娘だ…」
と、ポツリと呟いた。その言葉にわざとらしく眉を吊り上げたペッパーは
「そうかしら?言われたことを守らないのは、あなたのDNAかもよ」
と、おかしそうにクスクスと笑った。
「でも、そのおかげで、あなたは助かったんですもの。感謝しなきゃ」
子供たちが機転を利かしていなければ、今ここで、そしてこれからも自分は子供たちの成長を見届けることはできなかっただろう…。
何度も頷いたトニーは、子供たちに再び視線を移した。
「起こす?」
ペッパーの言葉に首を振ったトニーは笑みを浮かべると、
「パパが…助けられた…ありがとう…」
と言いながら、眠る子供たちの頭をそっと撫でた。
【END】