③
次第に動かなくなっていく父親。何とか助けようと、モニターをあちこち突き回し、アイアンマンを起動させようとするエストだが、トニーの厳重なセキュリティを突破できるはずがない。
「ジャーヴィス!アイアンマンを動かして!」
悲鳴に近いエストの声にジャーヴィスは申し訳なさそうに返答した。
『申し訳ありません、エスト様。トニー様以外、起動できません』
何度も繰り返し聞かされる言葉に、エストはもうどうしていいのか分からなかった。
(あ!エリは?!)
先ほどまで隣にいたはずの弟の気配を感じられなくなり、慌ててラボを見渡したエストだが、その弟はアーマーの格納庫近くで何やらゴソゴソとしている。
(よかった、エリは大丈夫ね)
弟の無事を確認したエストが再びモニターに目をやると、意識を失っているのだろう、もはや動くことが出来ない父親をドローンがぐるりと取り囲んでいるではないか。
何が始まるのだろうかとエストが注視していると、ドローンはまるで彼女が見ていることを知っているかのように、トニーの頭を掴み身体を持ち上げた。そして腕の機銃の照準を一斉に彼の腹部に合わせた。
「パパ!!」
エストが叫び声を上げると同時に、ぐったりとした父親の身体が数回跳ね上がった。
音声が聞こえない状況でも、彼が撃たれたことは一目瞭然。
真っ青になりその場に座り込んだエストの目からは、涙が次々と溢れ出た。
「どうしよう…パパが…」
膝どころか全身が震え、エストは両腕で身体を抱え込んだ。
「ママ…」
父親が怪我をすると、母親はいつも子供のエストが見ても辛い程、涙を流している。この場にいない母親にも、おそらくジャーヴィスから連絡が入り、どうすることも出来ない母親は泣いているだろう。
「ママ…ごめんなさい…」
父親は今にも命を落としかけているのに、一番近くにいる自分たちは、どうすることもできない。
そうこうしているうちに、ドローンは止めを刺すつもりなのか、トニーの身体を押さえつけるとプールに潜った。
程なくして、プールの水はトニーの血で真っ赤に染まり始めた。そして水面はしばらく泡立っていたが、やがて静かになった。
「大変…」
袖口で乱暴に顔を擦ったエストは、どうにかしなければと、モニターを闇雲に叩いた。するとプールの栓が抜けたのか、水がどんどんと引き始めた。
水面下から父親の姿が現れた。
「ジャーヴィス!パパは?!」
ジャーヴィスが素早く主人をスキャンすると、モニターにトニーのバイタルサインが表示された。だが、ピーという嫌な音がするのみで、一向に動く気配がない。
「ねぇ、どうして動かないの…」
『エスト様、トニー様は…』
幼い子供たちにはっきりと告げていいものか迷ったジャービスがどう伝えようか一瞬迷った時だった。
「ねーね!できた!」
弟の声に振り返ると、エリオットが得意げに隣に立つ数体のアイアンマンを指差している。
これに驚いたのはエストだけではなく、ジャーヴィスもだった。
主人であるトニー・スタークしか起動できないはずのアイアンマン。それを彼の2歳になったばかりの息子が操作しているのだ。だが、この子たちに賭けるという自分の判断は間違っていなかったとジャーヴィスは確信した。
「エリ?!どうやったの?」
弟に駆け寄ったエストは彼の肩を揺さぶった。しばらく頭を捻らせていたエリオットだが、彼自身も直感の導くままにモニターを叩いただけなのだから、どうしてアイアンマンが動き出したのか理解できるはずもなかった。
「うーんとね…わかんない」
口を尖らせる弟だが、今は一刻を争うのだ。
「とにかく、パパを助けて!」
姉の言葉に頷いたエリオットは、アイアンマンを見上げた。
「アイアンマン、パパをたすけて!」
小さな主人の言葉に、ジャーヴィスはすぐさま行動に移した。アイアンマンたちはラボの入り口を蹴破ると、あっという間に姿を消した。
しばらく破壊音や銃声がしていたが、やがて静寂が訪れた。
もう安全だろうと判断したエストは、
「エリ、行くわよ」
と、弟の手を握ると階上へと向かった。
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