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He’ll be with you. (晩年)

「今日はね、私の誕生日だったでしょ?覚えてた?」
クスクス笑い声を上げたペッパーは、ゆっくりと腰を下ろすと、目の前の墓標を愛おしそうに撫でた。
「そうね。あなたが忘れたのは、恋人になって最初の年だけだったわね。それからは毎年毎年、私のことを驚かせてくれたものね」
口元に笑みを浮かべたペッパーは立ち上がると、夕日の沈みかけているマリブの海を見つめた。

「あなたがいなくなって初めての誕生日ね…」
しんみりと呟いたペッパーは1年前を思い出した…。

***

トニーが倒れたのは去年の4月の初めのことだった。病院へ運ばれたトニーだが、病状は思いの外酷く、手の施しようがないため、余命3ヶ月と宣告された。そう宣告されても、トニーは取り乱さなかった。泣き続ける家族を宥めた彼は、最後まで出来る限り家で過ごしたいと希望した。

夏を過ぎても持ち堪えていたトニーだが、9月も終わりになる頃には、彼は1日の殆どをベッドで過ごすようになっていた。発作に襲われる回数も多くなり、入院するよう勧められたが、トニーは頑なに拒否をしていた。
確実に、死はトニーに忍び寄っていた。それでもトニーは必死に死から逃れようとしていた。それは、彼にはもう一つだけやり残したことがあったから…。それをやり遂げるまでは死ねないと、強く願っていたから…。

ペッパーの誕生日の数日前のある日。
夜になり、隣に潜り込んできたペッパーに、トニーは提案した。
「今年は久しぶりに、2人きりで祝わないか?」
家族が増えてからは、それぞれの誕生日はみんなで盛大に祝っていた。だから今年もそうなるだろうと思っていたのにどうしたのかと尋ねると、トニーは寂しそうに笑った。
「一緒に祝ってやれるのは、今年が最後になりそうだから…」
彼の心臓はもう持ち堪えられないところまできている。余命3ヶ月と宣告されたにも関わらず、もう2ヶ月も頑張っているのだから…。が、おそらくもう数日しか猶予はないだろう。それを一番分かっているのはトニー自身。
だからこそ、トニーはペッパーと最後の思い出を…一緒に祝う最後の誕生日を2人きりで祝いたいと望んだ。

誕生日当日。子供たちの協力の元、バルコニーは2人だけのパーティー会場となっていた。
2人きりでディナーを食べ、ダンスを踊り、トニーとペッパーは昔のように甘い夜を過ごした。
「君の誕生日を祝えた…。もう思い残すことはないな…」
ベッドの中でペッパーを硬く抱きしめたトニーは、キスの雨を降らしながらそう囁いた。
「なぁ、ペッパー。約束してくれ。来年の誕生日は、いつものように笑って過ごすと…。君の笑顔…いつだって君の笑顔は私を救ってくれたんだから…」
そう笑ったトニーは、1週間後、家族に見守られ、ペッパーの手を握りしめたまま、眠るように息を引き取った。

***

「子供たちと孫たちがね、盛大にお祝いしてくれたのよ。とっても楽しかったわ。あなたとの約束、ちゃんと守ったわよ。でも…」
言葉を切ったペッパーは、再び墓標の前に座り込んだ。
「あなたがいないと寂しいわ…。みんな言ってたわよ。パパがいないと静かねって…」
ペッパーの目から涙がポロポロ溢れ始めた。
「トニー……会いたい…。昔言ったでしょ?あなたなしじゃ生きていけないのは私も同じよって…」
涙を拭ったペッパーは、石に刻まれたトニーの名をそっとなぞった。
「だからね、今日だけは私のワガママを聞いてくれる?あなたからのプレゼントが欲しいの…。夢の中でいいから、あなたに会いたい…。あなたにキスしてもらいたい…。最近、何に夢中になってるのか知らないけど、ちっとも出てきてくれないでしょ?何度も言うようだけど、今日は私の誕生日よ?だから今日くらい出てきて頂戴」
トニーの名前にキスをしたペッパーは、立ち上がるとその場を後にした。

その夜。
トニーが使っていた枕を抱きしめたペッパーは夢を見ていた。

ペッパー……

懐かしい声がした。そっと目を開けると、会いたくて堪らなかった人がそこにはいた。
「トニー……」
くしゃっと顔を歪めたペッパーは、腕を広げて待っているトニーに飛びついた。
ギュッと抱きしめてもらうと、心にぽっかりと空いていた穴がみるみるうちに埋まっていった。
「私も連れてって」
子供たちも立派に育ち、自分の役目はもう終わった。思い残すこともないのだから、いつお迎えが来てもいいとペッパーはずっと考えていた。そのためここぞとばかりにトニーに提案したのだが、トニーは眉を吊り上げた。
「だめだ。君が泣いて喜ぶようなプレゼントがまだ準備できてないんだ。今年の誕生日に間に合わせようと頑張ったんだが、無理だった。ということは、まだ君はこっちの世界に来ては駄目だということだ。もう少しかかりそうだ。だから…」
そう言うと、トニーはギュッとペッパーを抱きしめなおした。
「今年はハグとキスで我慢してくれ…」

それからトニーは沢山キスをしてくれた。何度も愛してると、そして甘い言葉を囁きながら、沢山沢山キスをしてくれた。
「来年は?」
キスの合間にペッパーが尋ねると、トニーはうーんと何事か考えるふりをした。
「そうだな…。プレゼントが用意できたら、迎えに行く。だが、期待するなよ」
そう言って笑ったトニーは、ペッパーを抱きしめたまま、その場にコロンと横になった。
「だから、来年の誕生日までは、毎日君に夢の中で会いに来る。いや、待てよ。毎日だと新鮮味がないか?困ったな。本当は、君とは1秒たりとも離れたくないんだぞ?」
生きている時とちっとも変わらないトニーに、ペッパーはクスクスと笑いだした。
「トニー、あなたに飽きるなんて有り得ないわよ。あなたはいつも私を驚かせてくれるもの。いい意味でも悪い意味でもね。だから毎日会えるなら、きっと楽しくて仕方ないわ」
ニコニコと笑みを浮かべたペッパーの頬を、トニーは愛おしそうに撫でた。
「その笑顔。私の愛するペッパーは、笑顔が一番似合う。誕生日おめでとう、ハニー。永遠に愛してる…」
そう言うと、トニーは再びキスをし始めた。温かく力強いトニーの腕の中。何よりも安心でき、そして安らぐ最愛の人の腕の中で、ペッパーはそっと目を閉じた…。

「トニー…」
枕に頬を擦りよせたペッパーは幸せそうに微笑んだ。

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He’ll be with you. トニー編

『トニー様、今日のことはお忘れではありませんよね?』
アーマーの整備に明け暮れていたトニーは、J.A.R.V.I.S.の声に顔を上げた。
「は?何かあるのか?」
キョトンとしている主人に、J.A.R.V.I.S.が人間なら溜息を付いただろう。
『本日9月27日はポッツ様のお誕生日です』
5秒ほど静止していたトニーだが、椅子から思いっきり立ち上がると叫び声を上げた。
「何だと?!どうして早く言わないんだ!」
手を振り回し喚くトニーに、J.A.R.V.I.S.はいつものように冷静に告げた。
『トニー様が今年こそはちゃんと覚えておくから知らせなくてもよいと言われたのですよ。ですが、すっかりお忘れのようなので、僭越ながらお伝えすることに致しました』
文句を言おうと口を開けたままのトニーだったが、J.A.R.V.I.S.の言葉は正しかった。今年は恋人になって初めてのペッパーの誕生日。愛するペッパーの誕生日なのだから、覚えているに決まっているだろと豪語していたのは、確かに自分だ。が、忘れていた。すっかり忘れていた。だが、忘れていたとは認めたくないのも事実だ。
バツが悪くなったトニーは、あぁ…と声を出すと、わざとらしく鼻を鳴らした。
「覚えているさ。初めて2人きりで祝うんだぞ?当たり前じゃないか。だが、今日が27日であることを忘れていた。それだけだ」
ベラベラと言い訳したトニーだが、J.A.R.V.I.S.が黙ったままなことに気づくと、口を噤んだ。そして時間を確認しようと腕時計を見たのだが…。
「おい!もう18時じゃないか!!」
もうすぐペッパーが帰宅する。トニーが頭の中で考えていたプランでは、夕食は有名レストランを貸し切り、有名パティシエに頼んだ誕生日ケーキ…もちろん苺はなしだが…で祝い、その後は某ホテルのスイートルームでとびっきりのプレゼントを渡した後は、一晩中愛を囁き合う予定だった。が、何一つ用意できてない。何一つ予約していない。ちなみに今朝もベッドの中でペッパーに誕生日の祝いの言葉一つすら掛けてない…。
つまり、自分は愛する女性の誕生日に何一つ計画も実行もしてない、最低の恋人ではないか。
「大変だ!」
真っ青になったトニーは、先程よりも大声で喚いた。
「J.A.R.V.I.S.!何とかしてくれ!」
何とかしろと言われても、流石に時間を戻せるはずもない。諦めるよう伝えるべきか迷っていると、エントランスにペッパーの車が入ってきた。
『トニー様、ポッツ様が戻られました』
「あぁぁぁぁ!!もう駄目だ!」
頭を抱え込んだトニーはその場に座り込んだ。
下手に嘘は付かず、『ハニー、ゴメンよ。アーマーの開発に夢中で、君の誕生日のことはすっかり忘れていた』と正直に伝えるべきだろうか。だがそんなことを伝えれば、『あなたって最低ね!私よりアーマーが大事なのね!そんなにアーマーが大事なら、アーマーと結婚すればいいのよ!』と平手打ちを喰らい、ペッパーは家を出て行ってしまうかもしれない。せっかく想いが通じ合ったのだから、ペッパーを失うようなことは絶対に避けなければならない。だが、もう時間がない。となると、今できる最高のことをするしかない…。
と、トニーは思い出した。とある物の存在を…。
「そうだ!あれがあるぞ!」
机の引き出しを開けたトニーは、小さな箱を大切そうに取り出した。箱の蓋を開けると、そこにはブルーのサファイアの輝く指輪が入っていた。これは亡き母親の形見の指輪。『あなたが生涯を共にしたいと思う方にあげて』と、生前譲り受けたものだ。本当はいつの日かプロポーズする時に渡そうと思っていた。だが、生涯を共にしたい女性は、これから先も彼女しかいないのだから、彼女の誕生日に渡すにはピッタリの代物なのではないだろうか…。
と、リビングからペッパーの声がした。ポケットに箱を突っ込んだトニーは、ラボを飛び出すと階段を駆け上がった。

「おかえり、ハニー」
リビングではペッパーがソファに座り、ヒールを脱いでいた。
「ただいま、トニー」
立ち上がったペッパーは、トニーに擦り寄ると、強請るように首を伸ばした。チュッと軽く唇を奪ったトニーだが、ペッパーは恋人の頭を抱え込むと、貪るように舌を絡め始めた。いつになく積極的なペッパーに、トニーは目を白黒された。
(先にアレを渡さなければっ!)
このままベッドに向かってもいいが、あの指輪は彼女が感動するようなシチュエーションで渡したい。誕生日の用意をすっかり忘れていたせめてもの報いに…。
そこで唇を離したトニーは、ペッパーの頬を優しく撫でた。
「夜景でも見に行かないか?」
「いいわね」
頷いたペッパーの手を握りしめたトニーは、ラボへと向かった。が、そのまま車へ向かうのかと思いきや、トニーは何故かアーマーを装着し始めた。
「ちょっと待って…。それで行くの?!」
「あぁ。車では行かれない場所だ」
一体どこに行く気なのか知らないが、私はアーマーをもってないのよと反論しようとしたペッパーだが、彼女が何か言う前に…と、ペッパーを抱き上げたアイアンマンはラボを飛び出した。

トニーとはこうやって一度か二度飛んだことはあるが、夜飛ぶのは初めてだ。ふと下を見ると、真っ黒な海が足元に広がっており、飲み込まれそうな暗闇に怖くなったペッパーはトニーの首筋に回した腕にギュッと力を入れた。
「大丈夫だ。もうすぐ着く」
ペッパーの身体を一層ギュッと抱きしめたトニーは、目的地であるとある山頂にゆっくり降り立った。

アイアンマンのリアクターの光を除いては明かり一つない漆黒の闇に、ぶるっと身震いしたペッパーだが、目の前に広がるLAの夜景に感嘆の声を上げた。
「綺麗ね!」
こんな綺麗な夜景は見たことがないと、子供のようにはしゃぐペッパーにトニーは笑みをこぼした。アーマーを脱いだトニーはペッパーの肩を抱き寄せ、頬にキスをした。
「誕生日おめでとう」
そう告げると、ペッパーは驚いたように目を軽く見開いた。
「あら?覚えててくれたの?」
彼女がそう言うのも無理はないだろう。去年までは興味すらも持っていないという素振りを見せていたのだから…。
「当たり前だ。…と言いたいところだが…。白状するよ。実は忘れていた。いや、きみの誕生日が27日だということは覚えていたんだが、今日が27日だということ自体を忘れていた。すまない」
ここ数日、良いアイデアを思いついたとトニーはラボに籠りっぱなしだったことを思い出したペッパーは、クスクス笑いだした。

昔からだが、トニーは一度ラボに籠ると、寝食を忘れてしまう程熱中する。そのため、秘書だった頃のペッパーは、ラボに食事を運んだり、時にはソファで眠ってしまったトニーに毛布を掛けたりと、よくしていたのだ。が、恋人になってからは、どんなに熱中していても、食事は共に食べるようになったし、夜もベッドで抱き合い眠るようになっていた。
彼が変わったのは、全て『ペッパーのため』。以前よりもトニーは自分との時間を大切にしてくれるようになった。勿論恋人なのだから当然のことなのかもしれないが、それでもペッパーは彼の囁かな変化が嬉しくて堪らなかった。
申し訳なさそうにポリポリと頭を掻いているトニーが愛おしくなったペッパーは、彼の肩に頭をもたれかけた。
「いいのよ。あなたらしいわね」
ふふっと笑ったペッパーに、トニーはごほんと咳払いした。
「だが、ちゃんとプレゼントは用意している」
ポケットから箱を取り出したトニーは、ペッパーの目の前で開いた。
「綺麗…」
暗闇の中で光る指輪は美しく、ペッパーは釘付けになった。
「亡き母の形見だ。生涯を共にしたい大切な女性ができたら、渡してくれと、母は常々言っていた。だからもう何十年も机の引き出しに収めていた。そういう女性は現れていなかったから…。だが、今は違う。君がいる」
唇を震わせるペッパーをじっと見つめたトニーは、頬を撫でると甘ったるい声で囁いた。
「ペッパー、君は私が心から愛した初めての女性だ。君なしでは私は生きていけない。だからこの指輪は君に贈る」
そう言うと、トニーは取り出した指輪をペッパーの指にはめた。

トニーは母親の形見…それは彼にとって大切なもの。それを彼は私に託してくれたのだ…。

指輪を見つめたペッパーの目から、涙が次々と零れ落ちた。
「ありがとう、トニー…。嬉しいわ…。私のこと、そう思っててくれて…。私もね、あなたなしじゃ生きていけない…。愛してる…世界で一番愛してるわ…」
トニーに抱きついたペッパーは、彼の唇を奪った。唇を重ね、啄むようにキスを繰り返していると、ペッパーが唇の隙間から甘い吐息を零した。銀色の糸を引きながら唇を離すと、ペッパーはトニーの耳元に口を近づけた。
「もう一つ、プレゼント貰っていい?」
いつになく甘えたように囁いてきたペッパーに、トニーは首を傾げた。
「用意してないぞ?」
トニー・スタークとあろうものが、どういう意味か分からないのかしらと、悪戯めいた笑みを浮かべたペッパーは、彼の耳朶を甘噛みした。
「あなたが欲しいの…」
仕上げにふぅっと息を吹きかけると、トニーは頬を真っ赤に染めた。が、大袈裟に咳払いをすると、これまたわざとらしく鼻を鳴らした。
「お安い御用さ。私は君だけのものだ。君が満足するまで、好きなだけくれてやる」
ニヤッと笑みを浮かべたトニーはアーマーを装着すると、ペッパーを抱き上げ空高く飛び上がった。

***
IM2後の恋人になって初めてのペッパーの誕生日

3 人がいいねと言っています。

He’ll be with you. (ペッパー誕生日 2018年)モーガンおじさん編

「ジニー!おめでとう!!」
帰宅するや否や、ド派手はファンファーレと共にクラッカーのシャワーを浴びたペッパーは、玄関で立ち止まると溜息を付いた。
「来るなら連絡してって、何度も言ってるでしょ?」
紙吹雪を払いながらペッパーは、拍手をしている男性を軽く睨みつけた。彼はペッパーの叔父であるモーガン・ポッツ。風来坊のモーガンは、いつもどこにいるのか分からないのに、ペッパーの誕生日になると、何処からともなくやって来るのだ。それも連絡もなく突然。
「言えばサプライズにならない。知ってるだろ、俺が…」
「おじさんは、三度の飯よりサプライズ好き」
遮るように告げる姪っ子に、モーガンはそうだというように、満足そうに頷いた。

ペッパーが就職してから続くこのサプライズパーティー。内心ペッパーも楽しみにしているので、彼女も誕生日には必ず定時で帰るようにしているのだ。が、それをモーガンに告げると調子に乗るのは目に見えているので、ペッパーは自分だけの秘密にしていた。

「しかし、一体いつになったら、お前と誕生日を祝ってくれる奴が現れるんだろうな」
モーガンの言葉にペッパーは顔を曇らせた。
共に祝いたい相手はただ1人。だが、一番近くにいるのに思いは届かず、もう何年も経ってしまっている。
姪っ子の様子にしまったとモーガンは鼻の頭を叩いた。
「で、あいつは何もくれなかったのか?」
「誰?」
「お前のボスの…」
「トニーのこと?彼は私の誕生日を覚えてないわよ。自分の社会保障番号すら覚えてないような人だから」
と、ペッパーがクスクス笑い出した。
「その代わり、好きなものを買えって言われてるから、彼のお金で欲しい物を買うのよ。今年は今度のパーティで着るドレスを買ったの」
そう言うと、ペッパーは嬉しそうに表情を和らげた。
「形はどうであれ、彼からのプレゼント」
姪っ子の様子からモーガンは悟った。彼女はトニー・スタークのことが好きなのだと。いや、正直なところ、もう何年も前から気づいていた。が、トニー・スタークは女癖が悪いという噂しか聞かない。だから彼女の思いが通じても、彼女は決して幸せにはなれないだろう…。
(どうか来年も、ジニーは俺と誕生日を過ごしていますように…)
モーガンは祈った。可愛い姪っ子が不幸になりませんように…と。といっても、ここ数年の願いは、専ら同じなのだが…。

が、翌年。
誕生日まで数日となったある朝、モーガンの元に、ペッパーから電話がかかってきた。今年は友達と誕生日パーティーを開くことになったというのだ。
「そうか。分かった。だが、機会を伺って突撃するからな」
笑いながら電話を切ったモーガンは、新聞に目を落とした。今朝の一面を飾ったのは、トニーとペッパーが昨晩のパーティーでキスをしている写真と、数ヶ月前から付き合っているという公式のコメント。
「良かったな、ジニー。幸せになれよ」
写真のトニーを指で弾いたモーガンは、先程買ってきた他の新聞もチェックしようと、コーヒー片手に椅子に座り直した。

***
IM1のアフガニスタンの事件前の誕生日設定。モーガンおじさんは、IWでの会話に登場した、あの風変わりなペッパーのおじさん。

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29, May 1970(トニー誕生日2018年)

1970年5月29日。
この日もハワード・スタークは朝から会議に出席していた。
仏頂面で部下の報告を聞いているハワードだが、いつも以上に険しい表情に、社員たちはいつ社長の機嫌を損ねるか戦々恐々としていた。
というのも、ハワードは内心やきもきしていたのだ。胸の内を語る方ではないので、秘書にしか話していないが…。それは、もうすぐ待望の息子が産まれるから。会社に到着するや否や、妻のマリアが産気づいたと連絡があった。仕事なんぞ放っておいて、すぐにでも病院へ向かいたかったのだが、どの会議もすっぽかすことが出来ず、泣く泣くこの場に座っているのだ。
産まれれば連絡が来ることになっている。が、彼此3時間は経ったが、まだ連絡は来ない。
(マリア…頑張ってくれ…)
祈ることしか出来なハワードは、持っていた書類を握りつぶしてしまった。眉間にはどんどん皺が寄っていき、一見不機嫌の頂点に達しているような社長に、社員たちは声にならない悲鳴を上げた。

と、そこへ社長秘書が慌てた様子で会議室に駆け込んで来た。握りしめくちゃくちゃになった紙切れを、息絶えだえにハワードに渡す秘書の様子に、何か緊急事態かと室内は固唾を飲んで見守っていた。異常なまでの張り詰めた空気に、報告を中断すべきか迷いながらも、勝手に中断すればそれこそ雷を落とされるかもしれないと、部下はハワードの顔色を見ながら、何とか報告を続けていた。

と、紙切れを読んだハワードの顔色が変わった。
「…何だと?!!!!」
バンっと机を叩いて立ち上がったハワードに、すわ大事件かと社員たちは静まり返った。
「今日はここまでだ!以上!解散!!」
そう叫んだハワードは、ありえないような早さで会議室を飛び出して行った。
後に残された社員たちはポカーンと口を開けたまま社長を見送ったが、一体何事かと社長秘書に視線を送った。すると秘書は嬉しそうにその場で飛び跳ね始めた。
「お産まれになったんですよ!お子様が!」
ハワード・スタークの第一子。確か予定日は6月に入ってからだったはずだが、ついにスターク・インダストリーズの次期社長となる待望の跡取りが産まれたのだ。
口には出さないが、ハワードが子供を待ち望んでいたのは誰の目から見ても明らかだった。
だからあの喜びようだったのかと、室内の誰しもが納得したように頷いた。そしてこのおめでたい話題を共有しようと、皆それぞれの部署へと戻って行った。

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The Best Birthday.(トニー誕生日2018年)

アベアカ編
***
トニー・スタークは柄にもなく朝からソワソワしていた。というのも、今日は彼の誕生日。それもアカデミーに入学…いや、ペッパーと恋人になってから初めての誕生日なのだ。
が、数日前からそれとなくアピールしているのに、肝心の恋人は何も言ってくれない。朝食を食べている今も、「誕生日おめでとう」の一言もないのだから、トニーは気が気でなかった。
「今日ってさぁ、何かめでたいよな」
仕方なく、わざとらしいくらいの台詞を言ってみたが、ペッパーは怪訝そうな顔をした。
「そう?いつもと変わりないわよ」
「そ、そうだよな…」
しょぼくれているトニーに向かって小首を傾げたペッパーは、何か思い出したのか「あっ!」と声を出した。これはいよいよ誕生日ということに気づいてくれたぞと、トニーは目を輝かせたのだが…。
「そうそう。今日はフューリー校長のお供でDCへ行くことになったの。だから遅くなるから」
(嘘だろ?!)
目を見開いたまま固まってしまったトニーだが、彼女がたまに頼まれるフューリーからの仕事に全力を傾けていることは知っているので、反論することは出来なかった。

結局、ペッパーは祝いの言葉一つ囁いてくれることはなかった。ペッパーだけではない。親友のローディやブルースたちもだ。律儀なスティーブなら覚えてくれているだろうと思いきや、何故か彼はトニーと顔を合わせないようにしているのか、姿を見かけても逃げ出す始末。
「一体何なんだよ!」
ランチも一人きりで食べる羽目になったトニーは、一人浮かれていた自分にとてつもなく虚しさを感じてしまった。

(結局誰も俺のことなんか気にしてないってことか…)
家への帰り道。とぼとぼと歩くトニーのそばには、ペッパーはおろか、誰もいなかった。
両親が健在な頃は、母親がケーキを作り、いつも仏頂面な父親もこの日ばかりは嬉しそうに何かしらのプレゼントをくれた。が、両親の死後は一変した。両親が亡くなった最初の誕生日は一人ぼっちの誕生日だった。誰もいない屋敷で孤独に誕生日を迎えた。もう二度と孤独を味わいたくないと、翌年は盛大なパーティーを開いた。が、誰も心から祝ってくれず、いつも心にはぽっかりと穴が空いたままだった。
大勢の仲間と出会い、そして最愛の人を手に入れた今年こそは、きっと以前のような誕生日を迎えることができると期待していた。それなのに、やはり今年も孤独な日を迎えなければならないらしい…。
期待した自分が情けなかった。寂しさと虚しさに襲われたトニーの目から、涙がポロリと零れ落ちた。こんなことで泣いてはいけないと分かっている。だが、結局自分は一人ぼっちなのだと思うと、涙は止まらなかった。
いつの間にか家へと着いていた。もしかしたらペッパーは帰ってきているかもしれない。それならば泣き顔を見せる訳にはいかないと、トニーは袖口で乱暴に顔を擦ると、エレベーターへと向かった。

エレベーターのドアが開き、頭を垂れたトニーが前へ一歩踏み出した時だった。
「「「Happy Birthday!トニー!!」」」
突然聞こえた大歓声と沢山のクラッカーの音に驚いたトニーはその場に立ち止まった。恐る恐る顔を上げると、目の前には大勢の仲間の顔。
「お誕生日おめでとう、トニー」
立ち竦むトニーに駆け寄ったペッパーは、彼をギュッと抱きしめた。
まだ状況が分かっていないのか、トニーは黙ったままだったが、暫くして彼は震える手でペッパーを抱きしめた。胸元に顔を押し付けられているが、ペッパーはトニーが声を押し殺して泣いていることに気付いた。
「トニー…泣いてるの?」
顔を上げると、トニーの目は真っ赤になっていた。
「泣いてないさ」
目元を拭ったトニーだが頬は濡れており、それを拭ったペッパーは、胸がチクリと傷んだ。
トニーが今までどのような誕生日を送っていたのか、ペッパーは本人の口から聞いて知っていた。だからこそ、初めて一緒に迎える誕生日は彼の思い出に残るものにしたかった。が、逆に何も言わなかったことが彼を不安に陥れていたらしい。後悔の念に襲われたペッパーはトニーの胸元に顔を押し付けた。
「ごめんなさい、トニー。本当はね、朝起きてすぐにおめでとうって言いたかったの。それに今日はずっと一緒にいたかったわ。でも、サプライズパーティーにしたかったの。あなたを喜ばせたくて…。だから皆にも協力してもらって…」
だから誰も近寄って来なかったのだ。恐らく話をするとボロが出て、サプライズかバレると考えたのだろう。

「ペッパーね、1ヶ月以上前から、ずーっと用意してたのよ」
「絶対にトニーにバラすなって誓約書まで書かされたんだぞ」
「今日は大変だったんだ。お前に会えばパーティーのことを話しそうだから、顔を合わせないように必死だったよ」

口々に言う仲間は本当に楽しそうで、今まで形式ばった誕生日パーティーしか経験してこなかったトニーは、再び目頭が熱くなるのを感じた。

そうだ、もう俺は一人ぼっちなんかじゃない。俺には素晴らしい仲間が沢山いるんだから…。それに俺のことを全身全霊で愛してくれる女性も…。

「ありがとう…本当にありがとう…」
ギュッと抱きしめてくるトニーの背中をポンっと叩いたペッパーは、身体を離すとキスをした。
「早くパーティーを始めましょ?」
そう言うとペッパーは、トニーの手を繋ぎ、皆の輪の中へと入って行った。

4 人がいいねと言っています。