「other」カテゴリーアーカイブ

Pillow

広いベッドに横たわり目を閉じるが、すでに数時間がたっている。
「眠れない…」
いつからだろう。隣に温もりがないと眠れなくなったのは…。
誰でもいいわけではない。この世で唯一の存在を抱き締めていないと眠れなくなったのは…。
身体を反転させ、大きめの枕を抱き寄せる。ふわふわのその枕は、彼女の柔らかな存在を思い出させた。

残り香を味わうように思いっきり息を吸い込んだトニーは、彼女の代わりのように枕を抱き締めた。

「早く帰ってきてくれ…ペッパー…」

トニーは彼女の胸元に顔を埋めるように枕に顔を押し付けた。

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得意分野(ホームズ×ワトソン)

「僕は今手掛けている事件で動けないんだ。それに今回は君の得意分野だからね」

そう言われて来たものの…依頼者は明らかに不満げな顔をしている。
当然だろう。
依頼先は、あくまであのシャーロック・ホームズ。
それなのに現れたのは、ホームズの助手であるジョン・ワトソンなのだから…。

「ホームズさんは?」
あからさまに嫌悪感を見せる依頼者にワトソンは内心舌打ちしながらも笑顔を向けた。
「ホームズは別件ですぐには動けないんです。取り急ぎということでしたので、先に私の方でお話を…と思いまして…」
愛想笑いを浮かべるワトソンに依頼人は『本当は不本意だが仕方ないから話す』とまるで顔に書いてあるかのように渋々話し始めた。
依頼内容はこうだ。ここ数週間、依頼人の年頃の一人娘の様子がおかしい。どこか上の空で、窓の外ばかり眺めている。日が暮れる前には必ず帰宅していたのに、夜遅く帰ってくるようになった。問いただそうとしても『何でもない』の一点張りだという。

「娘は私の知り合いのご子息と結婚させるつもりなんです。娘にはまだ言っていませんが、先方は娘のことを気に入っておりましてな。明日の夜、対面させる予定なんです。ですから、あの調子では明日上手くいくか心配で…」
一気に捲し立てた小太りな依頼人は、肩で息をしていたが、額の汗を胸元のハンカチで拭った。

(なるほど。ホームズの奴…私の得意分野とはそういうことか…)

「そうですね…ご依頼の件ですが、娘さんの話をしっかり聞いてあげてください。何があっても最後まで…。それからこれは依頼の内容とは直接関係ないことですが、あなたを病院へ連れて行かなくてはなりません」
「び、病院?!何故だ!私を病人扱いするのか!」
顔を真っ赤にした依頼人は、猫脚の見るから高そうな椅子を蹴散らし立ち上がった。だが、立ち上がった瞬間、胸を押さえ顔をしかめたのをワトソンは見逃さなかった。
「落ち着いて下さい。血圧が上がると危険です。最近息苦しかったり、胸が痛むことはないですか?先程からあなたの様子を伺っていましたが、医者の目から言わせて頂くと、心臓が弱っておいでです。このままではいつ倒れるか時間の問題です。お嬢様のこともですが、まずはあなたが健康でいることが一番ですよ」
ワトソンの言葉に真っ青になった依頼人は、床に座り込んでしまった。
「わ、私は死ぬのですか?!」
ガタガタと震える依頼人のそばに跪いたワトソンは、労わるように背中を撫でた。
「大丈夫です。きちんと治療を受ければ良くなります。知り合いの心臓の医者に手紙を書きましょう。今日の午後からでも行ってみて下さい」
迎え入れられた時には嫌悪感丸出しだった依頼人だが、今やワトソンを見つめる瞳は感謝の言葉しかなかった。
床に這いつくばるように頭を下げる依頼人は、帰り支度をし帽子を頭に乗せたワトソンに声を掛けた。
「あなたは、ホームズさんの助手の探偵ではないんですか?」
振り返ったワトソンは、口の端を上げた。
「私は医者です」

数日後、件の依頼人から届いた礼状には、発見が早かったため重篤にはならなかったこと、娘には恋人がおり婚約したことなどがつらつらと書かれていた。
「ほら、君の得意分野だっただろ?今回の事件は僕の出る幕はなかった」
ホームズは、礼状に書かれた『Dr.ジョン・ワトソン』という宛名を指差しながら楽しそうに笑ったのだった。

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Dependence

「君を抱くのだけはやめられないな…」
身体が離れ、いつものようにまどろんでいたペッパーは、トニーの言葉に飛び上がった。
「な、何言ってるのよ?!」
目を白黒させるペッパーを悪戯っ子のように見つめると、トニーは彼女の背中に指を這わせた。
「君の身体は最高だ。相性がいいということは素晴らしい。こんなに気持ちいいと思ったのは君が初めてだ。君だって分かってるだろ?」
「そ、そうだけど……」
そんなにあからさまに言われると、はっきり言って恥ずかしい。真っ赤になったペッパーをニヤニヤと見つめていたトニーだったが、何とも可愛らしい姿に我慢できなくなり、腰をグッと押し付けた。先程まで繋がっていた身体はすんなりとトニーを受け入れ、ペッパーは甘い声を上げた。
「ほら…こんなにもピッタリじゃないか。それとも、君の中が私のモノの形を覚え込んだのか?」
「い、言わないで…」
耳元で甘い声で囁かれ、顔をさらに真っ赤にしたペッパーは、トニーの胸元に顔を押し付けた。
「いいじゃないか。それにもう私以外受け入れられないだろ?私じゃないと満足できないんだよ、君は。それは私も同じだ。君以外に満足させてくれるオンナは後にも先にもいないんだから…」
『ペッパー以外にオンナはいらない』と言ってくれているのだろうが、トニーらしい言葉にペッパーはただ恥ずかしがるだけ。
「そ、そうだけど…ん…」
奥に押し付けるように腰を動かしたトニーは、ペッパーの足を腰に巻きつけさせると、背中をぎゅっと抱きしめた。
「あぁ…と、とにー……もっと…」

その舌足らずな声も、全身から醸し出される甘い香りも…君を抱くことが出来るのは、私だけの特権。
(だからやめられないんだ…)
縋り付く身体をギュッと抱きしめたトニーは、愛する女性の身体に再び溺れていった。

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Proposal

プロポーズから数日後のある夜。
ベッドの中でペッパーを抱きしめていたトニーがおもむろに口を開いた。
「なぁ、ペッパー。ここに引っ越して来ないか?」

ほぼ毎日トニーの家にいるのだから、事実上同棲しているのに変わりはない。だが、改めて言われると結婚に向けて着々と準備は進んでいるのだと感じ、急に恥ずかしくなったペッパーはトニーの胸元に顔を埋めた。
そんなペッパーの様子にトニーはニヤニヤと笑いながら髪を弄び始めた。
「どうした?」
トニーの逞しい胸板に顔を押し付けたペッパーは、くぐもった声で答えた。
「だって…あなたのお嫁さんになると思うと…嬉しくて…」
ペッパーがグスンと鼻を啜るが聞こえ、トニーは彼女の身体に回した腕に力を入れた。
「なぁ、ペッパー。私が帰る場所は君なんだ。これからはこの家を二人が帰る場所にしよう」
「えぇ…」
次々と溢れる嬉し涙を隠すように、抱きついてきたペッパーをトニーは力強く抱きしめ続けた。

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A little white lie(グレエイ@ゾディアック)

「やっぱりここだったか」
聞き慣れた声に振り返ったエイブリーの目に映ったのは年下の元同僚。
「久しぶりだな、ロバート」
隣に腰をおろしたグレイスミスは、エイブリーの横顔を盗み見しながらバーテンダーに言った。
「彼と同じものを…」
しばらく見ないうちに、痩せたか?
顔色の悪いエイブリーの横顔をじっと見つめていると、エイブリーはゴホゴホと苦しそうに咳き込んだ。
大きく息をしたエイブリーは、グレイスミスの視線に気づくと、からかうように言った。
「なんだ。見惚れてるのか?」
その言葉を無視したグレイスミスは、手元のグラスをじっと見つめた。
「ポール…聞いたぞ。体、壊したんだってな…」
どこで聞いたんだ…という様に目をぐるりと回したエイブリーは口の端を少しだけ上げた。
「あぁ…大したことではないんだ。心配するな」
グレイスミスの泣き出しそうな瞳を捉えたエイブリーは、グラスの中身を煽ると、ニヤっと笑った。
その笑顔にグレイスミスも頬を緩めた。

嘘を付いた。
本当は助からないんだ。
だが、彼を傷つけたくなかった。
あの笑顔を守るためなら、俺はどんな嘘でもついてみせるさ…。

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