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ハロウィン(2017年)

今日はハロウィン。
アカデミーでも今夜は仮装パーティーが開催されるため、黒猫のコスチュームに着替えたペッパーは、リビングでトニーが降りてくるのを待っていた。
しばらくして、大欠伸をしながらトニーがやって来たのだが、彼は仮装どころかいつもと変わらぬ格好をしているではないか。
「トニーったら、まだ用意してないの?」
時計を見ると、パーティーの開始まであと30分しかない。間に合わなくなると目くじらを立てるペッパーに、トニーは肩を竦めた。
「用意も何も…俺はこれで行くから」
「え?!何も用意してないの?!」
トニーの言葉に飛び上がったペッパーだが、当の本人は面倒臭そうに頷いているではないか。

こういうイベント事は率先して楽しむトニーなのに、一体どうしたというのだろう。トニーはハロウィンが嫌いだったかしら…と頭を捻ったペッパーだが、去年は『キャップのコスチュームが買えなかった』と、段ボール製のアイアンマンを自作して楽しんでいたのだから、嫌いという訳ではないだろう。それに2週間前までは、今年はどんな仮装にしようかと話していたのだから…。となると、この2週間で、何かあったに違いない。
「どうしたの?」
回りくどく聞くのもまどろっこしいため、ストレートに尋ねると、トニーは鼻の頭を掻くと目をくるりと回した。
「だってさ、スティーブとソーがヘビメタのぶっ飛んだ格好するんだぞ?あの2人が…だぞ?俺が張り切って仮装しても、あの2人が目立つに決まってるじゃないか」
そう言うと、トニーはぷぅっと頬を膨らませたが、まるで子供のような理由にペッパーは盛大に溜息をついた。だが、いかにも彼らしい理由なのだから、トニーのことが愛おしくなったペッパーは、まだ口を尖らせ拗ねている彼をぎゅっと抱きしめた。
「あなたがどんな格好をするつもりだったのかは知らないけど、スティーブやソーよりもカッコいいに決まってるわ。見たかったわ、トニーの仮装」
後髪を撫でながらそう囁くと、頭を上げたトニーは顔を輝かせた。
「ペッパーがそう言うなら、仕方ないな。着替えて見せてやるよ」
ニコニコ笑みを浮かべ立ち上がったトニーは、ペッパーの唇にキスをすると、足取り軽く寝室へと向かった。

その後ろ姿を見送ったペッパーは、これでようやくパーティーに行けるわねと、バックを手に取った。が、しばらくトニーは降りてこないだろうと考えると、『少し遅れるわ』と、ナターシャにメールを送信した。

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バレンタイン2013②親子編

「ママ?今日ね、せんせいがおしえてくれたの。『ばれーたいん』ってなぁに?」
幼稚園からの帰り道。後部座席のチャイルドシートに座ったエストが、身を乗り出すようにして運転席のペッパーに尋ねた。
「え?『バレンタイン』のこと?バレンタインはね、大切な人や大好きな人に好きよって伝える日なのよ」
「ふぅ~ん。すきなひと…。ママはパパに、なにあげるの?」
エストの言葉にペッパーは固まった。
毎年トニーは薔薇の花束とジュエリー(加えてエストが生まれるまでは、ホテルでディナーを食べてそのままお泊まりコースだったが…)をプレゼントしてくれ るため、ペッパーもいろいろと趣向を凝らしてトニーを楽しませているのだが…ここ数年は、セクシーな下着に身を包み、そのまま朝まで楽しむ…というのが定番コース。だが、そんなことをエストに言うわけにもいかず…。
そして今年は…。
(この体型じゃ無理よね…)
ペッパーは大きくなったお腹を触ると苦笑した。
「そうねぇ…今年は何がいいかしら…。そうだわ、エスト。ママと一緒にチョコレートとクッキー作らない?」
「うん!つくる!」
母親の言葉にエストは大喜び。チャイルドシートの上で飛び跳ねる娘を見たペッパーは、買い物をすべくスーパーへと車を走らせた。

♥︎ ♥ ♥
「ママー!できた!」
ハートや星などたくさんの形のクッキー生地を天板の上に並べたエストは、チョコレートを溶かしていたペッパーに得意げに言った。
「あら、上手にできたわね。じゃあ、これはオーブンに入れましょうね」
天板をオーブンにセットしたペッパーはスイッチを入れた。
「後は焼けるのを待ちましょうね。今度はこっちのチョコレートね」
丸や四角やハートのシリコンの型にチョコを流し込んだペッパーは、アラザンやナッツや砂糖菓子を取り出した。
「ママ?どうするの?」
不思議そうな顔をしているエストにペッパーは
「こうするのよ。見ていてね」
と言いながら、チョコレートにトッピングをし始めた。
「すごい!ママ、じょうず!!」
手を叩いて喜ぶエストにペッパーは微笑んだ。
「さぁ、エストもやってみて」
「うん!」

しばらくチョコ作りに夢中になっていたエストだが、香ばしい香りがキッチンに漂い始め、椅子から飛び降りるとオーブンの前へ走った。
「ママ!いいにおいよ!」
「そろそろ焼けたみたいね…」
オーブンからクッキーを取り出したペッパーは、皿の上に並べた。
「冷めたらラッピングしましょうね」

ちょうどその時、帰宅したトニーがキッチンへ顔を覗かせた。
というのも、いつも走って出迎えてくれるエストの姿が見えず、うろうろ探しているうちに、キッチンから何やらいい香りがするのに気付いたからだ。
「ただいま…。二人で楽しそうだな?」

キッチンへ入ろうとするトニーに気付いたエストは、トニーの足元へ走り寄ると、両手を広げ立ちはだかった。
「パパ!ダメ!!はいらないで!!」
「え⁈パパは入っちゃダメなのか?」
「そうよ!あっちいって!」
妻そっくりの膨れっ面で自分を睨む娘。助けを求めるように妻を見ると、ペッパーは苦笑い。
「トニー、晩御飯ができたら呼ぶから…」

ペッパーの言葉に肩を落としたトニーは、すごすごと寝室へあがって行った。
その後ろ姿をじっと見つめたエストはつぶやいた。
「パパ…ごめんちゃい…」
去っていくトニーの後姿に、一応ぺこりと頭を下げたものの、顔を上げた瞬間には笑みを浮かべたエストはペッパーの元へ駆け寄り、作ったクッキーとチョコをラッピングし始めた。

♥︎ ♥ ♥

後で渡しましょうねとペッパーに言われたエストは、小さな箱を宝物のように大切そうにキッチンの棚に隠した。
「うん。ねぇ、ママ?パパ、よろこんでくれるかなぁ?」
「きっと大喜びするわよ。さぁ、晩御飯にしましょ?」
「えすとがパパ、よんでくる!」

寝室へ向かったエストだが、トニーの姿はない。
「パパ?」
キョロキョロと探し回るも気配すらない父親。
「パパ、いない…」
父親がいるとすれば、あの場所しかない…そう思ったエストは、地下のラボへと向かった。
ドア越しにラボを覗くと、父親が机に座って何かしている。
「パパ、いた!」
残念ながらエストは安全上の問題で、ドアを開けることができないので、ガラスを叩いてトニーの気を引こうとした。

「ん?」
かすかに聞こえる音にトニーが振り返ると、エストが必死でガラスを叩いているではないか。

慌ててドアを開けると、エストはトニーに抱き着いた。
「パパ!ごはんできたよ!」
(わざわざ呼びに来てくれたのか?)
かわいい娘にトニーの目じりは下がりかけた。
だが、先ほどの仕打ちを思い出したトニーは、口を尖らせた。
「パパは仲間外れなんだろ?」
二人が何をしていたかということくらい、今日が何の日か考えれば予想は付くのだが…。我ながら大人げないな…と思ったが、どうも素直になれないトニー。
大好きな父親の機嫌が悪いは、先ほどの自分の発言だと気付いたエストは、トニーの脚にしがみ付き、上目遣いでじっと見上げた。
「ごめんちゃい…パパ。えすとね、パパがいちばんすきよ」
ペッパーそっくりの表情で言われれば、トニーも悪い気がしない。
エストを抱き上げ頬にキスをすると、
「そうか、パパもエストが大好きだ」
と、耳元でささやいた。
くすぐったそうに身をよじったエストを床に降ろしたトニーは、頭をくしゃっと撫でた。
「エスト、先に上がっていてくれ。すぐに行くから…」

♡ ♡ ♡
トニーがキッチンへ向かうと、テーブルにはペッパーの手料理が並んでいた。
「あ!パパ!あのね…あのね…」
椅子から飛び降りたエストは、カウンターに向かうと何やら背中に隠しながらトニーの元へやって来た。
「パパ、あのね、きょうはね、『ばれんたいん』でしょ?えちゅとね、パパがだいすきだから、これパパにあげる!」
満面の笑みで差し出したのは、小さな箱と折りたたまれた画用紙。
「何だろう?見ていいか?」
膝の上にエストを乗せ、箱を開くと中にはクッキーとカラフルにトッピングされたチョコレート。そして画用紙には、エストが描いたトニーの似顔絵。”Dad”と書かれた文字の周りは、たくさんのハートが描かれていた。
「この絵は、パパにそっくりだ!パパは絵になっても男前だな!それに、美味しいそうなクッキーとチョコレートじゃないか。エストが作ったのか?」
「ママとつくったの。たべてもいいのよ」
クッキーを一つ摘まんだエストは、トニーの口元に近づけた。大きな口を開けてパクリと食べたトニーが
「美味い!こんなに美味しいクッキーは食べたことないぞ!」
と、大げさに喜ぶと、エストは恥ずかしそうに笑った。
「そうだ、パパもエストにプレゼントがあるんだ…」
エストを膝から降ろしたトニーは、リビングへ向かった。

しばらくして戻ってきたトニーの手には小さなバラの花束。
「エスト、パパからのバレンタインのプレゼントだ」
記念日には、いつも大きなバラの花束をプレゼントされている母親を見ていたが、実際花束をもらうのは初めてのエストは、目を丸くした。
「すごい…ママといっしょ!」
ペッパーがするように花束を顔に近づけたエストは、息を吸い込んだ。
「いいにおいね…」
まるでペッパーのようなセリフに、トニーとペッパーは顔を見合わせて笑った。

♡ ♡ ♡
「トニー、あの子ったら大喜びよ」
エストを寝かしつけ寝室に戻ってきたペッパーは、ベッドに仰向けになっているトニーに声をかけた。
「それはよかった。だが、きちんと準備しておけばよかった…。君への花束から数本抜く羽目に…」
頭をかきながら話すトニーの言葉を聞きながら、ペッパーはベッドサイドに置かれた毎年恒例の花束とジュエリーを手にとった。
「ううん…。私こそ、毎年ありがとう。今年はごめんなさい…。いつもみたいにしてあげられないわ…」
はちきれそうになっている大きなお腹をさすりながら、ペッパーはトニーのとなりに横になった。
「いや、今年は最高のプレゼントがもうすぐもらえるんだ。この子が元気に産まれてきてくれるのが、一番のプレゼントだ」
お腹を優しく撫でたトニーは、愛おしそうにキスをおとした。
「そうね…もうすぐ会えるわね…」
何度もキスをするトニーの頭をペッパーは愛おしそうに撫で続けた。

エスト3歳

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もしもスティーブが生きていたら…(スティーブ×トニー)

「スティーブおじさん!」
可愛らしい声と小さな足音に振り返ると、親友の息子が駆け寄って来た。
「やぁ、トニー。元気だったか?」
胸に飛び込んできたのは、ハワード・スタークの息子であるトニー・スターク。
確かもうすぐ4歳になるはずの彼は、年齢よりも賢くそして大人びている。
手を伸ばしたトニーを抱き上げると、彼は手足をばたつかせた。
「うん!ねぇ、早くお話聞かせてよ!どこに行ってきたの?」
トニーの楽しみ…それは、キャプテン・アメリカであるスティーブの冒険談を聞くこと。
「今回は、南米に行って来たんだ。そうだ、地図を見ながら話してあげるよ。さぁ、行こう」
小さな腕でしがみついてきた身体を抱きしめると、あの緊迫した日々から抜け出し、現実に戻って来たと実感できる。

トニー、君は僕の小さな天使だ。

***

『ぼくね、大きくなったらスティーブおじさんのお手伝いをしたいんだ!』
小さい頃はそう言っていたトニーなのに、あれから10年。
14歳になったトニーは反抗期なのか、僕と顔を合わせてもちっとも喋ろうとしてくれない。
それは父親であるハワードに対してもそうだった。
「なぁ、スティーブ。私はトニーに厳しくしすぎたようだ…。小さい頃は『パパ大好き』と言っていたのに、私がおもちゃで遊ぶな勉強しろと言い続けたせいで、最近では口を利いてくれないんだ…。マリアの言うとおりだ。もっと一緒に遊んでやればよかった…」
目の前の親友はしょぼくれて、昼間から酒を飲んでいる。
ハワード。君が昼間から酒に溺れているからトニーが余計に反抗していると聞いたぞ?
「寄宿学校にいれずに、手元においておけばよかったんじゃないか?」
ずっと疑問に思っていた。そんなに恋しいなら一人息子のトニーをなぜ手放したのだと。
一度トニーが言っていた。『父さんは僕の事が邪魔だから寄宿学校に入れたんだ』と。
だが、ハワードは机を叩き立ち上がった。
「私の跡取りだぞ?わが社を率いていかなければならないんだ!立派な男になって欲しいからこそ、あの学校に入れたんだ!」
それならきちんとトニーに説明すればいいのに…。
ため息を付いた僕は椅子から立ち上がった。
「おい、スティーブ!どこへ行くんだ!」
「散歩だよ。少し遠出してくる」
やれやれ、あの二人は似たもの親子なんだよな…。
外に出た僕は、とある場所を目指した…。

僕が足を延ばしたのは、トニーのいる寄宿学校。
確か、この寮のはず…とキョロキョロしていると、トニーの友達で僕も顔馴染みの連中がやって来た。
「あ、ロジャースさん。トニーなら部屋にいますよ」
いつ来ても、礼儀正しくて気持ちがいいな。でも、この堅苦しさがトニーには辛いのかもしれないな…。
そんなことを思いながらも、僕はトニーの部屋に向かった。

「トニー?僕だ。スティーブだ。入るよ?」
ノックした僕は、いつものように了解を得ずドアを開けた。
が、ドアを開けた瞬間、僕は固まってしまった。
部屋の隅のベッドでは、トニーが見知らぬ女性―明らかに年上の…おそらく教師だろう…と愛し合っている最中だった。
「と、と、と…」
真っ赤になり動けない僕をトニーは女性に腰をぶつけながら睨みつけた。
「何だよ。勝手に入ってくるな」
トニーに睨まれた僕はしばらく動けなかったけど、女性の大きな声に我に返ると、慌てて部屋を飛び出した。

「しまった…僕としたことが…」
寮の外のベンチに座った僕は、頭を抱え込んだ。よりによって、あんな場面に遭遇するなんて…。
後悔に襲われた僕は、そのまましばらく立ち直れなかった。

「…おじさん」
どのくらいたっただろうか。呼ばれる声に顔を上げると、目の前にトニーがいた。…もちろん服は着ている。
「トニー…その…ごめんよ。勝手に入って…」
トニーも赤い顔をしているが、きっと僕はもっと赤い顔をしているはず。
「別に…」
気まずそうにそっぽを向いたトニーは、ベンチの隅に腰を下ろした。
聞きたいことは山のようにある。でも、どこから話を切り出していいものやら…。
微妙な空気に耐えきれなくなったのか、先に口を開いたのはトニーだった。
「別に彼女じゃないから…」
「え?」
彼女じゃないってことは…と、昔気質な僕は一瞬戸惑ってしまった。
「ただの遊び相手。俺の事好きなんだってさ。一度抱いてくれってしつこくって」
顔を上げたトニーは、微かに口の端を上げて笑った。でも、その瞳は悲しみとそして寂しさで溢れていた。
「トニー…」
強がっているけど、彼はまだ14歳。僕の14歳の頃に比べると、数段大人びているトニーだけど…。僕は彼の心の闇に気付いてしまった。
「生徒だけじゃなくて、先生まで寄って来るんだ。でも…みんなが好きなのは、俺の名前だよ。『スターク』って名前だから…」
俯いた彼は、膝の上で拳を握りしめた。小さく震える背中を見た僕は、彼の事を思わず抱きしめてしまった。でも、トニーは抵抗しなかった。そればかりか、僕の背中に腕を回し抱きついてきた。それはまるで…小さい頃のように…。
「おじさん…僕…」
僕の胸元に顔を埋めてるけど、トニーが泣いていることは分かっていた。泣き顔を隠すように、抱きしめる腕に力を込めた。
「トニー、そんなに強がらなくてもいいんだ。君は君らしく生きればいいんだ。名前がなんだ?君には君のことを愛してくれるご両親がいるじゃないか?それに、いつかきっと現れる。そのままの君を受け止めて愛してくれる人が…」
小さく頷いたトニーは顔を上げると袖口で乱暴に顔を拭った。その瞬間、真っ赤な目をしているけれども、そこにいるトニーはいつものトニーだった。
「ところで、何しに来たんだよ?」
「久しぶりに君に会いたくなったんだ。いいだろ?」
笑顔を向けると、トニーは恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。
「せっかくだから、冒険談を聞いてやるよ。それと…」
「分かってる。君が知らない女性と遊んでいたことは黙っておくよ」
トニーを制するように先手を打って言ったのに、彼は眉間に皺を寄せた。
「いや、そこじゃない。俺が泣いたこと、父さんと母さんには言うなよ」
何だ、そっちか。確か、ここの学校は恋愛禁止だったはずだから、てっきり校則違反を気にしているのかと…。いや、付き合っているわけじゃないから、違反じゃないのか?いや、でも…。
ぶつぶつと独り言を言っていたらしい。
「おじさん、早く話してよ」
小さい頃から変わらない好奇心旺盛な瞳に見つめられた僕は、あの頃のように冒険談を話し始めた…。

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You’re my Angel(ハワード×トニー)

マリアが熱を出した。

「ごめんなさい…」
ベッドの中でなぜか謝る妻に私は顔をしかめた。
「なぜ謝るんだ?疲れているんだ。ゆっくり休め」
汗ばんだ額を拭うと、妻は安心したように目を閉じた。

「トニー。ママは風邪を引いたんだ。今日はパパと一緒だ」
ベビーベッドから抱き上げると、トニーは「だぁ」と返事をした。…いや、返事ではないのかもしれないが、私の息子は天才なんだ!きっと返事だ!

それはさておき、3か月になったトニーはよく泣くようになった。とにかく母親が大好きなトニーは、マリアの姿が見えなくなると泣いた。四六時中トニーの世話をしているマリアは、私を起こさないように夜泣きをするトニーを連れて、毎晩のようにバルコニーに出ていたのだが、9月になり少し肌寒くなり始めたNYの夜は思いのほか寒かったらしい。そのため風邪をひいてしまったのだが…。

ゲストルームへ向かった私は、ベッドの上にトニーを寝かせた。
「いいか。今日はここで寝るんだ。分かったな?」
眠たくなったのか、指をしゃぶりだしたトニーだが、きょろきょろと辺りを見始めた。
(まずい。これはマリアを探している…)
案の定、トニーの大きな目に涙が溜まり始めた。
「ふぇ…」
あと3秒で泣き始める…。何か気を紛らわす物は…と、とある人形を手に取った。
「トニー!ほら!お前の好きなキャプテン・アメリカの人形だ!今日はキャプテンとキャプテンの友人だったパパがそばにいるぞ!」
人形を必死で振ると、トニーは手足をばたつかせ笑顔を浮かべた。
キャプテンを抱きしめさせると、トニーは人形の持っているシールドをしゃぶり始めた。

そうだ。スティーブが今、この光景を見たら何と言うだろう。
あいつも生きていたら息子か娘がいただろう…。

「スティーブ…」
思わず口から出た旧友の名前。私の声の変化を感じ取ったのだろうか、気付くとトニーが心配そうな顔で見つめていた。
「大丈夫だ。さぁ、トニー、もう寝よう」
小さな身体を抱きしめると、トニーは小さなあくびを一つした。
「そうだ、もう少し大きくなったら、お前にキャプテンの話をしてやるからな」
天使のような寝顔を突くと、息子はすぐに寝息を立て始めた。

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Farther’s Love(ハワード×トニー+トニペパ)

―今日は何の話を?
…そうだった。息子の話だったな。息子の名前は、アンソニー・エドワード・スタークだ。名前の由来?私のミドルネームが『アンソニー』なんだ。だからそう名付けた。そうだな、トニーと呼んでくれ。
やっとできた跡取りだからな。それは可愛くて仕方ないさ。私と妻の良い所を受け継いでいて、産まれた時も病院一の美男子だったんだ。それに、私に似て頭もいいんだ。生まれてまだ一か月だが、私たちの話していることを全て理解しているんだぞ!…え、気のせいだと?!そんなことはない!一度会えば分かるぞ!

おい!マリア!トニーを連れて来てくれ!

―トニー、かわいいトニー。パパでちゅよ~!見ろ!この賢そうな瞳と顔だち!かわいいだろ?将来が楽しみだ!
…どうした?トニー?なぜ泣くんだ?どこか痛いのか?…!!大変だ!おむつが濡れている!おい!替えをすぐに持ってこい!いや、その前に、カットだ!カット!トニーの泣き顔は世界一カワイイんだ。私とマリア以外の人間が見るのは許さない!もう一度撮り直しだ!!

フューリーが残していった『親父の箱』。
二重になった底からペッパーが見つけたのは、『極秘!見るな!』と書かれた8㎜フィルム。
『見るな』と言われれば見たくなるのは人間の心理。
早速見始めたのだが…。

フィルムを見終わった私たちは顔を見合わせた。これがハワード・スタークか?!
記憶の中の親父とはかけ離れた映像に、何と言っていいか分からず頭を抱え込んだ私に、ペッパーがぽつりと呟いた。
「…ねぇ…。何だかイメージが違うんだけど…」
イメージも何も…。もの心ついた頃には、親父は厳しかったから、こんなデレデレした親父は私ですら見たことない。
「…そうだな…」
何とも言えない顔をして一言発した私だが、ペッパーはニッコリ笑うと私に抱き着いてきた。
「でも、お父様はあなたのことを愛してたのね?よかったわね、トニー」
あぁ、親父は私のことを愛していたさ…。
胸に光る真新しいリアクターにそっと触れた私は、隣に寄り添う最愛の女性を抱き締めた。

2 人がいいねと言っています。