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65. Change

「ねぇ?いつから気持ちが変わったの?」

恋人になり数日後。
腕の中にすっぽりと収まった最愛の女性は悪戯めいた笑みを浮かべトニーに尋ねた。

改めて言われるといつだったのだろうか。
パーティーでドレス姿に惚れ直したからだろうか?そう思ったが、やはり生き方自体を見つめ直したアフガニスタンの洞窟での日々かもしれない。
あの数か月の間、自分の人生を振り返った。そして苦しみしかない日々において、ずっと自分の心の中で支えてくれたのは、他ならぬペッパー・ポッツの姿だった。
その時悟った。彼女は自分にとってかけがえのない存在だと…。

帰国後彼女の涙を見た瞬間思った。
この存在だけは守りたいと。

パーティーでドレス姿を見た瞬間思った。
彼女に触れたいと。

だが、自分に死が押し寄せていると分かった時思った。
彼女を苦しめたくないと。

そしてあの屋上で…。やっとお互いに素直になり思いを伝えることが出来た…。

「君への想いがはっきりしたのは、アフガニスタンから帰った後だ。君だけは失いたくないと思った。だが…」
身体の向きを変えたトニーは、ペッパーをベッドに押し倒した。
「君への想いは出会った時からずっと変わらない。愛してる、永遠に…」
愛しい女性の唇を奪ったトニーは、再び彼女へ愛を囁き始めた。

最初にいいねと言ってみませんか?

64. Mission

正直なところ、ペッパーは苦手だった。トニーがアイアンマンの任務で出かけることが…。
というのも、トニーは必ずどこかしらに怪我を負って帰ってくるから。
かすり傷は日常茶飯事、酷い時には自力で歩けないどころか、そのまま病院送りになることもある。
だが、それでも自分の元に帰ってきてくれるのだからいい…。そう思い始めたのは、あのNYの事件の後だ。
あの時は、一歩間違えれば彼は永遠に帰って来なかったかもしれない。それも何の言葉を交わすこともなく…。
電話に気付かなかったことを、ペッパーは酷く後悔した。だがトニーは笑って言った。『あの時君が電話に出ていたら、本当に帰ってこれなかったかもしれない。君に会いたい一心で帰って来たんだから…』と。
そう笑っていられるのも、彼が傍にいてくれるから…。
だからこそ、次に同じように電話がかかってきたら、何があっても出なくてはならない。例えそれが別れの電話になったとしても…。
そう考えたペッパーは、トニーが任務に出かけると、携帯電話を片時も離さず持ち歩くようになった。

その日、トニーはローディの手伝いで、中東の紛争地帯に出かけていたのだが、ペッパーの電話が突然鳴ったのは、会議に出席している時だった。
着信元を見るとトニーからだ。なぜかは分からないが嫌な予感がする。周囲に断りを入れたペッパーは震える手で電話に出た。
「もしもし?トニー?」
電話の向こうからは、雑音と何かが破壊される音が聞こえてくる。
「トニー!ねぇ、トニー!!」
大声を出したペッパーに、周囲の社員たちもざわつき始めた。
すると、しばらくして微かな声が聞こえてきた。
「はにー……ぺ……ぱ……すまな…い……あいし……」
弱々しいがトニーの声だ。どういうことか問いただそうとしたペッパーだが、電話は嫌な音と共に途切れてしまった。

トニーに何かあったに違いない。

顔色を変え震え始めたペッパーの周りでは、社員たちがトニーの状況を探るべく慌ただしく動き始めた。

どのくらい経っただろうか、ペッパーは携帯が震えていることに気付いた。
慌てて電話に出たペッパーの耳に聞こえてきたのは、トニーと共にいるはずのローディの声。
「何かあったの?」
辛うじて声を出したペッパーに、ローディは切り出した。
「ペッパー、落ち着いて聞いてくれ。実は…」

***
それからのことをペッパーは覚えていない。どうやら周りにいた社員が連れてきてくれたらしいのだが、気がついた時には彼女はトニーが搬送された病院の廊下に座り込んでいた。
「ペッパー……」
聞き覚えのある声に顔を上げると、青い顔をしたローディがいた。
「…何が…あったの…」
囁くような声のペッパーは泣き腫らした顔を恋人の親友に向けた。
「すまない…ペッパー…」
大粒の涙を零したローディは、そう言うと膝を付き頭を下げた。
「トニーに何があったの!ねぇ!何があったの!説明して!」
立ち上がったペッパーは黙ったままのローディにすがりつくと、大きな声で泣き始めた。

ペッパーが落ち着いた頃合いを見計らって、ローディは話し始めた。
任務を終え、LAに向かい帰還、他愛もない話をしながら飛んでいた二人だったが、背後から突然敵の戦闘機が現れた。攻撃を交わしながら飛行を続けた二人だが、攻撃されたローディに一瞬隙が出来た。よろめいた彼を襲ったのはミサイル。当たると思ったその時、横からトニーが飛び出してきた。ローディを庇いミサイルの直撃を受けたトニーは、そのまま地上に落下。ペッパーに連絡を入れたのは、落下している時だったのだろう。幸いと言うべきなのか低空飛行をしていたのだが、強固なアーマーを着ていると言っても、そのアーマーはミサイルで破壊され、その上数キロの高さから落ちたのだ。ローディが駆けつけた時には、全身の骨が砕けたトニーは虫の息だった。
「あいつ、俺を庇ったんだ。俺がこの後勲章を受けるからって…。あのバカ…自分のことも考えろよ…」
目元を乱暴に擦ったローディだが、その目には再び涙が浮かんだ。
ペッパーはローディを責めることはできなかった。いくら自分のせいだと言われても、責めることはできなかった。
トニーとて、危険を承知で任務にあたっているのだ。彼自身もおそらく心のどこかでは死を覚悟して任務にあたっているはずだ。それにきっと彼は助けたかっただけなのだ。自分の親友である相棒を…。
いつかこんな日がくることは覚悟していた。でも、実際きてみると、トニーと永遠に別れるという覚悟は揺らいでしまうほど脆かった。
だから本当は泣き叫びたかった。目の前のローディを責められたらどんなに楽だろうかと思った。だが、トニーが命を懸けてでも守りたかった彼の親友なのだ。それにペッパーは信じていた。彼は必ず自分の元へ帰ってきてくれることを…。
「ローディ、謝らないで。あなたが謝ると、彼の覚悟が無駄になってしまうわ。それに、トニーは頑張ってるのよ。だから祈りましょう…」
悲しみを押し殺したペッパーは、背中を丸め涙を流すローディの手をそっと握りしめた。

二人の祈りが通じたのか、丸1日に及んだトニーの手術は成功した。そして2回目・3回目の手術も成功し、順調に回復していったトニーだが、10日経ってもトニーの意識は回復しなかった。ペッパーは眠り続けるトニーにずっと寄り添っているのだが、さすがに疲労には勝てずベッドサイドの椅子の上でうとうととしていた。

どのくらい経ったのだろうか。小さな唸り声に目を開けたペッパーは、辺りを見渡した。すると、先ほどまでは見られなかった愛する魅力的な茶色の瞳がじっと自分を見つめているではないか。
「トニー…」
頬をそっと撫でると、トニーはペッパーを安心させるかのように何度か瞬きをした。
「帰ってきてくれたわ…。きっと帰ってきてくれるって、信じてた…。ありがとう、トニー…」
トニーの顔に降り注いだペッパーの涙がトニー自身の涙と合わさり流れ落ちていった。
(彼は戻ってきてくれた。約束通り戻ってきてくれた…)
嬉しそうに自分を見つめているトニーの頬を撫でたペッパーは涙を拭うと、彼が大好きだと日頃から言っているとびっきりの笑みを浮かべた。
「おかえりなさい、トニー」

【トニーサイドはおまけ】

「J……繋いでくれ…」
地面へ向かうスピードは緩むどころか加速するばかりだ。
ミサイルの直撃で、スーツは修復不可能なくらい損傷を受け、HUBには警告が鳴り響いている。

『…ニーさ……話く………い』
ジャーヴィスの声も途切れ途切れなのに、ペッパーと会話が出来るのだろうか。いやそれよりも、急降下し続けているためか、攻撃を受けた際の負傷のせいか、トニー自身も意識が遠のき始め、会話が出来るかどうかも怪しくなってきた。それでも聞こえてきたのは愛する女性の声。
「……ニー……トニー!」
NYでは繋がらなかった電話が、やっと繋がった。
今度こそ伝えなければ…。最期に伝えなければ…。
君だけを愛しているということを…。
君を遺していかねばならないことを謝らなければ…。
「はにー……ぺ……ぱ……すまな…い……あいし……」
『愛している、永遠に』
その言葉を伝え切る前に、トニーは地面へ叩きつけられ、意識を失った。

***
『……にー………トニー……』

あの日以来、何度も何度も呼ばれる名前。
最初は手術台の上にいる自分を見ている時だった。警告音が鳴り響き、医師たちが自分を懸命に蘇生させようとしている姿を、トニーは手術室の隅からボンヤリと見つめていた。
(あぁ…私は死ぬんだ…)
そう思った瞬間、彼女に呼ばれた気がした。
(ペッパー…)
目を閉じ、彼女の顔を思い浮かべていたトニーが再び目を開けると、彼は自分の身体の中に戻っていたのだ。

それから、彼女の声は絶えず聞こえていた。そして夢心地に聞こえていた声は、日に日にハッキリと聞こえてきた。
だが、目を開けることが出来ない。身体を動かすことも出来ない。
ただ呼ばれ続ける名前にトニーは必死に答えようとしていた。
(ペッパー………)
彼女の名前を呼ぼうとした。なぜならそこに彼女の存在を感じるから…。
だが、指先さえも動かない状況で、トニーは何も出来なかった。

任務に向かう時、彼女はいつも傷ついた顔をしていた。理由は分かっている。それは、自分が二度と帰って来ないかもしれないという不安と恐怖が原因だ。
あの時…NYでの闘いの後、彼女は泣きながら謝罪した。電話に出られなくてごめんなさい…と。そして感謝した。戻ってきてくれてありがとうと…。
自分たちがお互いに一番怖いこと。それは何も言わず突然目の前から消えることだ。
だからこそ、あの日以来、誓った。
何があっても、必ず彼女の元に帰ってくると…。例えそれが、彼女に温もりを与えられなくても…。

トニーの耳に、誰かの話し声が聞こえてきた。ボソボソと囁くような声は、聞き覚えのない声と、そして…。
(…ペッパー……)
いつも温かくそして優しく包み込んでくれる声にトニーは笑みを浮かべようとした。チューブが挿管された口元は彼女から見れば変わることはないだろうが…。

しばらくしてベッドサイドの椅子に腰掛けたのだろうか。彼女の存在をより身近に感じ、トニーの動かぬ右手を柔らかな温もりが包み込んだ。
「トニー、順調に回復してるそうよ。あとはあなたが目覚めるのを待つばかりね。あなたが頑張ってくれたおかげよ。でも、無理はしないでね。私はいつまでも待ってるから…」
嬉しそうなその声に、トニーは彼女の手を握り返そうとした。だが、やはり動かすことは出来ない。
(ハニー……)
早く伝えたい…。君の元に戻ってきたと伝えたい。
そうだ、目が覚めたら、ただいまのキスをしよう。たくさんしよう…。彼女の顔中に刻みつけ、愛していると伝えよう…。

やがて、右腕に微かな重みを感じ、彼女の寝息がはっきりと聞こえてきた。
瞼の裏に明るさを感じたトニーは、ずっと閉じていた目をゆっくりと開けた。
久しぶりに見る眩い光に一瞬目が眩んだトニーは、何度か瞬きをした。すると朦朧としていた頭と視界がはっきりし始め、目の前に見慣れた赤毛が現れた。
(ペッパー……)
彼女のことだ。おそらくずっと付き添っていたため、疲れて眠ってしまったのだろう。
(おい、ハニー…目が覚めたぞ)
真っ先に伝えたいのに、ギブスで固定された身体は動かすことは出来ない。声を出したいのに、喉元に入ったチューブのせいで声が出ない。
どうしたものかと考えたトニーだが、良いアイデアが浮かぶ訳でもなく、小さく呻き声を上げた。
だが、それで十分だった。
「ん……」
小さく声を上げたペッパーは、いつの間に眠ってしまったのかしら…と、頭を軽く振った。そして、キョロキョロと辺りを見渡したペッパーの瞳が、彼女の様子をじっと見ていたトニーのものと交錯した。
「トニー……」
目を見開いたペッパーのオーシャンブルーの瞳はあっという間に涙の海ができ、やがて大きな雫となり頬を伝わった。
(ペッパー…ハニー……約束通り、戻ってきたぞ…)
言葉にする代わりに何度か瞬きをしたトニーだが、彼の想いは彼女にきちんと伝わったようだ。
抱きつくように身を寄せた彼女の涙が顔中に降り注いだ。冷たくそして温かい感触に、トニーは自分が生きているということを実感し、何度も何度も頷いた。
「帰ってきてくれたわ…。きっと帰ってきてくれるって、信じてた…。ありがとう、トニー…」
涙を拭い笑みを浮かべたペッパー。その輝くばかりの笑顔は、トニーの愛するペッパーの笑顔だった。
(ただいま…ペッパー…)
目を細め瞬きすると、彼女は額に甘い口付けを贈ってくれた。
「おかえりなさい、トニー」
ペッパーの手が頭から頬を何度も往復する。その温かく柔らかな感触にトニーはくすぐったそうに目を閉じた。

【ローディ】

「トニー、本当にすまなかった」
頭を下げたまま動かない親友の姿に、トニーの胸がチクリと痛んだ。

意識が戻り一週間経った。ずっと面会謝絶だったトニーだが、今日ようやくICUから一般病棟…と言っても、病院一の特別室だが…に移り、面会第一号としてやって来たのがローディだった。

ノックの後、遠慮がちに部屋に入ってきた彼の親友は、全身ギブスでベッドに横たわり動けないトニーの姿を見ると、目から大粒の涙を零した。そしてベッドに駆け寄った彼は、その場に跪き頭を下げた。
「トニー…すまなかった。お前を巻き込んでしまった…。ペッパーもすまなかった。君とトニーを永遠に引き裂くところだった…。本当にすまない…。トニー、謝って済む問題ではないかもしれない…。許してくれ…」
正直なところ、トニーは困惑していた。確かに今自分がこのような状態、すなわち全身の骨が砕け、内臓にも大きな損傷を負い、3週間近く経っても指先ですら動かすことができないのは、あの時親友を身を呈して守ったからだ。だが、あの時、トニーは親友を守りたかっただけなのだ。攻撃を受け傷ついた親友を、さらなる攻撃から守りたかっただけだった。それに、ミサイルを弾き飛ばす自信があったのだ。だから彼の盾となった。実際のところ、トニーの目論見は失敗し、この有様なのだが…。つまり、この怪我は自分の責任なのだ。そう思っていたのに、肝心のローディは全て自分の責任だと感じているらしい。どうしてここまで彼が今回の件に責任を感じているのか、トニーには分からなかった。いや、もし自分が彼の立場なら、自分もやはり彼のように頭を下げ続けるのかもしれない…。
そんなことをぼんやり考えていたトニーだが、親友の嗚咽に我に返ると、わざと明るい口調で言った。
「よせよ、相棒。お前のせいではない。頼むから謝らないでくれ」
ニヤっと笑おうとしたトニーだが、腹部の傷が痛み顔を顰めた。
「だか…」
辛そうなトニーに再び目に涙を浮かべたローディは何か言おうとしたが、それをトニーは制した。
「待て。今度『すまなかった』と言ってみろ。部屋から叩き出すぞ。おい、ペッパー、今度こいつが謝ったら、尻を蹴飛ばして部屋から追い出してくれ」
トニーの言葉にクスっと笑ったペッパーは
「分かったわ」
と言うと、ローディを立ち上がらせ、ベッドサイドの椅子に座らせた。
椅子に座ったはいいものの、俯いたままの親友にトニーは何から話そうかとしばらく思案した。チラリとペッパーを見ると、彼の気持ちを理解してくれている彼女は、小さく頷いた。自分が言葉足りなくても彼女がサポートしてくれると確信したトニーは、深呼吸すると目の前の男に静かに呼びかけた。
「ローディ。今回の件はお前のせいではない。私はそう思っている。あの時、私はお前を助けたかった。それだけだ。だから後先のことは考える前に行動に出ていた。それと、ここだけの話だが…正直、ミサイルなんか跳ね飛ばせると思っていた。だが、目測を誤った。つまりは私のミスから起こったことだ。いいな?そういうことだ」
「トニー……」
トニーの言葉に顔を上げたローディは、真っ赤になった目元を擦ると少しだけ笑った。
「ありがとう、トニー」
そう言うと手を差し出したローディだが…。
「すまんな。握手でもしたいが、あいにく動くのは口だけなんだ」
残念そうに口を尖らせたトニーに、ようやくローディにも笑顔が戻った。久しぶりに見る親友の笑顔。胸にあったもやもやとしたものがなくなったトニーは、照れくささを隠すかのようにわざとらしく顔を顰めた。
「いつまでも泣くな。女々しい奴だな。この話は終わりだ!それより、何か面白い話はないか?さっきも言ったが、身体は動かないが頭はしっかりしてる。つまり、暇なんだ。暇つぶしに面白い話を聞かせろ」

その日、病室からは久しぶりに笑い声が聞こえ続けた。

2 人がいいねと言っています。

63. Hero

「ねぇねぇ、ヒーローランキングですって!」
ペッパーの言葉に読んでいたPC雑誌から顔を上げたトニーは眉を潜めた。
「どうしたんだ、急に?」
そんなランキング、いつの間にしたのだろう…と首を伸ばしたトニーに、ペッパーは自分が読んでいた雑誌を差し出した。
それは女性向けの雑誌なのだが、様々な分野の人がランキング形式で紹介されており、もちろんアベンジャーズのランキングも掲載されていた。が、数分後にはトニーはその特集を見たことを後悔した。と言うのも…。
「まずは、『恋人にしたいランキング』ですって」
意気揚々とページを捲ったペッパーだが、その眉間には次第に皺が寄り始めた。
「アイアンマンが1位よ。お金持ちだから何でも買ってくれそう…って…何よこれ!」
頬を膨らませたペッパーだがトニーは苦笑い。世間の意見なんてそんなものだと彼女を宥めたトニーは、次のランキングを指さした。
「ほら、まだあるぞ。『キスが上手そうなランキング』…」
読まずとも分かっている。順位を目で追った二人は、1位の欄に燦然と輝くアイアンマンの文字にため息をついた。
「次…読む?」
「もう何個か見てみるか…」
次に二人が見たのは、『肉体美ランキング』。
「肉体美…」
ちらりとトニーを見たペッパーは、1位から順番に追っていくが、キャプテン・アメリカ、ソーの後に続いていたのは、ブラック・ウィドウとホークアイ。お目当てのアイアンマンは5位という順位だ。
「5位?!」
別にキャプテンや神様に勝てるとは思っていないが、まさか5位、それも自分より下は2票差でハルクことブルース・バナーしかいないとは…と内心ショックを受けたトニーにペッパーの言葉が突き刺さった。
「理由はね…【アーマーを脱いだらただのおじさんだから】…って、酷いわ!確かにスティーブやソーに比べると…だけど、トニーだって脱いだら凄いんだから!みんな知らないからこんなこと言うのよ!」
自分の裸を見れる唯一の女性に『脱いだら凄い』と言われたトニーは機嫌を直すと、次の項目を指さした。
「私の裸は後で存分に見てくれ。ほら、次だ。『抱かれたいヒーロー』か…」
ちらりと紙面に目を向けると、1位に欄には自分の名前。しかも【あれだけ遊んでたし、凄いテクニシャンらしいから】という理由までも見てしまった。ランキングはまだまだ続いている。もっとまともな物だと思っていたが、どうやらそうでもなさそうだ。
ペッパーから雑誌を奪い取ったトニーは遠くへ放り投げると、彼女を膝の上に乗せると首筋にキスを刻み始めた。
「どうしたの?」
擽ったそうに身をよじったペッパーだが、トニーは腕の中に彼女を閉じ込めた。
「世間のランキングよりも、私は君のランキングを聞きたい。君にとってキスが上手いのは?抱かれたいヒーローは誰だ?」
不機嫌そうに小さく唸ったトニーに苦笑したペッパーは、彼の髪を優しく梳くと額にキスをした。
「もちろん1位はアイアンマンよ。アイアンマんはみんなのヒーローだけど、私だけのヒーローでもあるもの…」
ペッパーの言葉ににんまりと笑ったトニーは、彼女の耳たぶを甘噛みすると、立ち上がり寝室へと向かった。

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62. Identity

「パパ、ママ…ぼくってへんなの?」
小学校へ通い始めたエリオット。トニーに似たのかペッパーに似たのか、幼稚園では同じ年頃の子供たちとなかなか馴染めなかったエリオットだが、小学生になり学校へ毎日楽しそうに通う息子に、トニーもペッパーも胸を撫で下ろしたのだった。だが、現実はやはりそううまくはいかないらしい。
「変?お前は別に変じゃないぞ?」
首を傾げる父親をチラリと見たエリオットは、口を尖らせ俯いた。トニーに似て内に溜め込みがちな息子なのだから、こうやって話始めたということは、彼の中で我慢できなくなっていることがある違いない。ため息をついたペッパーは、隣に座る夫を肘で突つくと、息子を手招きし自分とトニーの間に座らせた。
「エリ?パパの言うとおりよ。どうしてそう思ったのか、パパとママに話してくれない?」
相変わらず俯いたままのエリオットは黙ったままだが、ペッパーが小さな背中を撫でると、ポツリポツリと話し始めた。
「あのね…学校でね…みんながぼくに言うの。スタークくんはお金もちだし、パパはアイアンマンだし…。それからね、みんなが分からないもんだいもね、ぼくはいつも分かるから…。ぼくはみんなとちがうって言うんだ…。だからぼくと遊ばないって…。ぼくはみんなとなかよくしたいから、同じがいいのに…」
エリオットの声は段々と小さくなり、ついにはその目から大粒の涙が零れ始めた。
「エリ…」
話を聞いたペッパーの目からも涙が零れている。
二人の涙を見たトニーは思い出した。自分も幼少時にいつも仲間外れにされていたことを。今考えれば実に子供らしい理由で仲間外れにされていたと思う。だからこそ、子供たちには『普通に』育って欲しかった。まるで敵から守るように両親は自分が14歳になるまで乳母をつけ、学校は運転手の送迎付きだった。そんな自分を反面教師にするかのように、トニーとペッパーは子供たちを育てていた。だが、明るく活発な長女と違い、大人しい長男はどうやら自分と同じように仲間外れのターゲットにされたようだ。
やがて声を上げて泣き始めた息子をペッパーは抱きしめた。
「エリ…我慢してたのね…。ごめんなさい、気づいてあげれなくて…。でもね、我慢しないで?パパとママはあなたを守るためにいるんだから…」
母親の肩に顔を埋めていたエリオットっだが、しばらくすると顔を上げた。
「ごめんなさい…。おはなししたら、パパとママがかなしくなると思ったの…」
申し訳なさそうに言う長男の涙を拭ったペッパーは、小さな頭を優しく撫でた。
「あなたはパパに似て賢いのよ?それは誇るべきこと。だから…」
ペッパーの言葉に頷いたトニーは、息子の背中に触れた。
「それにママに似て、優しくて思いやりがある。なぁ、エリオット。人間はみんな違うんだ。自分にしかない物は誰にでもある。パパを見てみろ」
そう言うと、トニーはTシャツ越しにリアクターに触れた。
「パパにはリアクターがある。お前たちにはないだろ?これはパパにしかない特別な物だ。どうしてこれがあるか話しただろ?」
「うん」
父親の話を思い出したエリオットは頷くと、父親をじっと見つめた。母親に似た聡明な瞳に見つめられたトニーは思わず口元を緩めた。
「パパはリアクターがないと生きていけない。この光はパパが生きている証だ。でもこれがあるからアイアンマンにもなれたし、ママと結婚してお前たちが生まれた。つまり、これはパパの大切な物だし個性でもあるんだ」
「こせい?」
聞きなれない言葉に首を傾げた息子に、トニーは分かりやすく説明し始めた。
「あぁ、パパにしかない物だ。だからパパはこれがあることを誇りに思っている。エリオット、人間はみんなそれぞれ違う。だから面白いんだ。それから、お前はこれからいろんな人に会う。お前にとって逃げたくなることを言う人間もいるかもしれない。だが、負けるな。負けずにお前らしく生きてみろ。そうしたら、お前もきっと見つけれるはずだ。仲間やお前にとっての特別な人を。パパがママに出会ったように…」
ペッパーに視線をやったトニーは、妻の頬を撫でた。父親も母親もお互いかけがいのない大切な人であるということ、そんな相手がいつの日か自分にも見つかるのだということを幼いながらに感じ取ったエリオットは、にっこり笑った。
「うん!ぼく、まけないよ!だって、大きくなったら、パパみたいにアイアンマンになるんだもん!」
いつもの元気を取り戻した息子を抱き上げたトニーはペッパーの手を取ると立ち上がった。
「天気もいいし、ビーチへ散歩に行こう」
「そうね。子供たちを呼んでくるわね」
キスをし立ち去ったペッパーの後を追いかけるように、トニーも息子を抱えてリビングを後にしたのだった。

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61. Weather

スターク邸のあるマリブは年間を通して天気も良く過ごしやすいのだが、どうしたものか、この日ばかりは違っていた。

「ねぇ…どうしてこんなに急に嵐になってるの?」
いつもは真っ青な太平洋も真っ黒な雲と荒波が渦を巻いており、大きな窓は暴風のため騒々しい音をたてている。
「私に聞くな、ペッパー。いくら私でも天候を操ることはできない」
ソファーに腰を下ろしたトニーは不機嫌そうに唸り声を上げた。その唸り声に、トニーの膝の上に座ったエストは父親の顔をじっと見つめていたが、まるで父親の真似をするかのように口を尖らせた。
口を尖らせたまま父親と母親を交互に見つめたエストは、まだぶつぶつと文句を言っている父親に同意するかのように声を上げた。
「ぶー!」
その可愛らしい仕草に苦笑いしたペッパーは、窓辺から離れるとトニーの隣に腰を下ろした。
「仕方ないわよ。このお天気ですもの。ディ○ニーランドデビューはお預けね」
ダッ○ーの着ぐるみを着たエストは、母親に頭を撫でられると嬉しそうに笑った。
そう、今日は6か月になったエストを連れて初めてディ○ニーランドへ行くはずだったのだ。ダッ○ーが大好きなエストのために、ペッパーの母親は着ぐるみを作る張り切りようだったのに、この時期にしては珍しい嵐のせいで計画は全てご破算だ。
「そうだな、別の日に行こう」
ため息をついたトニーがエストを抱き直しソファーに座らようとしたその時だった。
『トニー様、ソー様がいらっしゃいました』
予定外の来客に、トニーとペッパーは思わず顔を見合わせたが、件の人物はズカズカとリビングに姿を現した。
「久しぶりだな!鉄の男!!」
立ち上がったトニーとペッパーの肩を叩いたソーは、トニーの腕の中のエストの頬を擽ると、ソファーへ腰を下ろした。
「どうしたんだ、急に?」
ペッパーに娘を手渡したトニーが尋ねると、ソーは満面の笑みを浮かべた。
「この間奥方が食べさせてくれたのは、ピザの上にカルボナーラだったか?あの味がどうしても忘れられないんだ。ジェーンに作ってもらおうと話したが、断られた。だからお前に食わせてもらおうと来た」
ペパロニピザにカルボナーラを乗せて食べる…トニーの大好物なのだが、先日の雨の日にやってきたソーが『美味い』と連呼し全て食べてしまったことをトニーは思い出した。
外は嵐なのだ。どうせ出かけることはできない。それならエストは大好きなソーおじさんに遊んでもらった方が喜ぶだろう。と、ここでトニーは思い出した。目の前の男が雷神であることを…。
「おい…まさか…この嵐はお前のせいか?!」
身を乗り出して声を上げたトニーに面喰ったソーは、肩を窄めると豪快に笑った。
「あぁ、そうだ。分かりやすいだろ?」
要するに、自分が来る合図だと言いたいのだろう。トニーにじろりと睨まれたソーが顔を上げると、嵐はすっかり成りを潜め、外はいつものように平穏な風景が広がった。
「いい天気になったぞ!」
得意げに言い放ったソーだが、トニーはペッパーに向かって頷くと立ち上がった。
「悪いがペパロニピザのカルボナーラ乗せはまた今度だ。それより、面白い所へ連れて行ってやる。どうせ暇だろ?一緒に来い」
どうやら鉄の男は自分の知らぬミッドガルドの面白い場所へ連れて行ってくれるらしい。
立ち上がったソーは、腕を伸ばしてきたエストを抱くとトニーとペッパーの後についてガレージへと向かった。『ディ○ニーランドはコスプレとハンマー持ち込みはOKだったか?』と二人が話しているのを知らずに…。

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