62. Identity

「パパ、ママ…ぼくってへんなの?」
小学校へ通い始めたエリオット。トニーに似たのかペッパーに似たのか、幼稚園では同じ年頃の子供たちとなかなか馴染めなかったエリオットだが、小学生になり学校へ毎日楽しそうに通う息子に、トニーもペッパーも胸を撫で下ろしたのだった。だが、現実はやはりそううまくはいかないらしい。
「変?お前は別に変じゃないぞ?」
首を傾げる父親をチラリと見たエリオットは、口を尖らせ俯いた。トニーに似て内に溜め込みがちな息子なのだから、こうやって話始めたということは、彼の中で我慢できなくなっていることがある違いない。ため息をついたペッパーは、隣に座る夫を肘で突つくと、息子を手招きし自分とトニーの間に座らせた。
「エリ?パパの言うとおりよ。どうしてそう思ったのか、パパとママに話してくれない?」
相変わらず俯いたままのエリオットは黙ったままだが、ペッパーが小さな背中を撫でると、ポツリポツリと話し始めた。
「あのね…学校でね…みんながぼくに言うの。スタークくんはお金もちだし、パパはアイアンマンだし…。それからね、みんなが分からないもんだいもね、ぼくはいつも分かるから…。ぼくはみんなとちがうって言うんだ…。だからぼくと遊ばないって…。ぼくはみんなとなかよくしたいから、同じがいいのに…」
エリオットの声は段々と小さくなり、ついにはその目から大粒の涙が零れ始めた。
「エリ…」
話を聞いたペッパーの目からも涙が零れている。
二人の涙を見たトニーは思い出した。自分も幼少時にいつも仲間外れにされていたことを。今考えれば実に子供らしい理由で仲間外れにされていたと思う。だからこそ、子供たちには『普通に』育って欲しかった。まるで敵から守るように両親は自分が14歳になるまで乳母をつけ、学校は運転手の送迎付きだった。そんな自分を反面教師にするかのように、トニーとペッパーは子供たちを育てていた。だが、明るく活発な長女と違い、大人しい長男はどうやら自分と同じように仲間外れのターゲットにされたようだ。
やがて声を上げて泣き始めた息子をペッパーは抱きしめた。
「エリ…我慢してたのね…。ごめんなさい、気づいてあげれなくて…。でもね、我慢しないで?パパとママはあなたを守るためにいるんだから…」
母親の肩に顔を埋めていたエリオットっだが、しばらくすると顔を上げた。
「ごめんなさい…。おはなししたら、パパとママがかなしくなると思ったの…」
申し訳なさそうに言う長男の涙を拭ったペッパーは、小さな頭を優しく撫でた。
「あなたはパパに似て賢いのよ?それは誇るべきこと。だから…」
ペッパーの言葉に頷いたトニーは、息子の背中に触れた。
「それにママに似て、優しくて思いやりがある。なぁ、エリオット。人間はみんな違うんだ。自分にしかない物は誰にでもある。パパを見てみろ」
そう言うと、トニーはTシャツ越しにリアクターに触れた。
「パパにはリアクターがある。お前たちにはないだろ?これはパパにしかない特別な物だ。どうしてこれがあるか話しただろ?」
「うん」
父親の話を思い出したエリオットは頷くと、父親をじっと見つめた。母親に似た聡明な瞳に見つめられたトニーは思わず口元を緩めた。
「パパはリアクターがないと生きていけない。この光はパパが生きている証だ。でもこれがあるからアイアンマンにもなれたし、ママと結婚してお前たちが生まれた。つまり、これはパパの大切な物だし個性でもあるんだ」
「こせい?」
聞きなれない言葉に首を傾げた息子に、トニーは分かりやすく説明し始めた。
「あぁ、パパにしかない物だ。だからパパはこれがあることを誇りに思っている。エリオット、人間はみんなそれぞれ違う。だから面白いんだ。それから、お前はこれからいろんな人に会う。お前にとって逃げたくなることを言う人間もいるかもしれない。だが、負けるな。負けずにお前らしく生きてみろ。そうしたら、お前もきっと見つけれるはずだ。仲間やお前にとっての特別な人を。パパがママに出会ったように…」
ペッパーに視線をやったトニーは、妻の頬を撫でた。父親も母親もお互いかけがいのない大切な人であるということ、そんな相手がいつの日か自分にも見つかるのだということを幼いながらに感じ取ったエリオットは、にっこり笑った。
「うん!ぼく、まけないよ!だって、大きくなったら、パパみたいにアイアンマンになるんだもん!」
いつもの元気を取り戻した息子を抱き上げたトニーはペッパーの手を取ると立ち上がった。
「天気もいいし、ビーチへ散歩に行こう」
「そうね。子供たちを呼んでくるわね」
キスをし立ち去ったペッパーの後を追いかけるように、トニーも息子を抱えてリビングを後にしたのだった。

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