「Pepperony 100」カテゴリーアーカイブ

85. Busy

目の前の香しい紅茶を啜ったナターシャは、頬杖を付くと目の前の戦場を観察し始めた。
バタバタと動き回るペッパーの動きには隙がない。それは敏腕スパイとして名高いナターシャから見ても見事だ。
手伝った方がいいかしら…と何度か声を掛けたナターシャだが、ペッパーに『大丈夫よ、いつものことだから』と言われ、動けずにいた。
「忙しいわね」
「えぇ、双子は大変よ」
大変だと言うが嬉しそうなペッパーは、同時にこの状況を楽しんでいるようだった。

歩き始めたスターク家の双子は、目を離すとあっという間に姿を消してしまう。一人捕まえたかと思えば片方がいないということもざらではない。

「ママ、ルーカスをつかまえたよ!」
と、今もエストが双子の一人を抱きかかえ戻って来たのだが…。
「あー!!ママ!アビーが!」
エリオットの声に振り返ると、ペッパーが目を離した一瞬の隙をついて、アビーはテーブルクロスを引っ張ろうとしているではないか。
「ダメよ、アビー」
アビーはナターシャが抱きかかえ、間一髪のところで難を逃れたのだが、これではいつ何が起こってもおかしくない。思う通りにならなかったアビーは、泣き始めたのだが、それに連鎖するようにルーカスも泣き始めた。
「トニーはね、子守を雇おうって言ってるの。私は自分たちでできるって思ってたけど…」
双子をあやしながらペッパーはため息をついた。
実はナターシャが今日来たのもそのことなのだ。
『ペッパーが疲れている。子供の世話で忙しすぎるんだ。それに加えて家でも仕事をしている。私がいない時は修羅場らしい。だから子守を雇おうと提案したが、なぜか頑なに拒否するんだ。あれではいつ倒れるか分からない。ロマノフ、すまないがペッパーを説得してくれ』
昨晩、トニーから電話が掛かってきたため、今日こうしてやって来たのだが、状況は思った以上に深刻らしい。
「ペッパー、頼れる人間がいるなら手助けしてもらうのも一つの選択よ」
「そうねぇ…」
ナターシャの助言に、ペッパーはトニーが帰ったら話し合おうと決めたのだった。

※で、雇われたのが79. Mettler のメトラーさんです

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84. Relax

二人が婚約を発表してから、スターク邸は毎週のように二人を祝う客が訪れていた。
今週はペッパーの妹であるミアとリリーが泊まりに来たのだが、生憎トニーは仕事で留守だった。

夕食を食べ終わりリビングでくつろいでいると、ようやくトニーが帰って来た。
玄関まで出迎えていたペッパーと連れだって戻ってきたトニーは、将来の義妹2人に出迎えられて頬を緩めた。
「おかえりなさい!」
「お邪魔してます」
駆け寄ってきた二人とハグをしたトニーは、隣に立つペッパーの腰に手を回すと2人に笑いかけた。
「よく来たな。ゆっくりしていってくれよ」

一人遅めの夕食を済ませたトニーがペッパーと共にリビングへ戻ってくると、ミアとリリーはソファーで眠っていた。
「あら、この子たちったら…」
二人に毛布を掛けたペッパーは、困ったようにトニーを見つめた。
「ごめんなさいね。あなたに会うの、すごく楽しみにしてたのに」
ペッパーの手を取ったトニーは楽しそうに笑った。
「いいじゃないか。それだけ心を許してくれてるってことだ」
「それもそうね」
笑いあった二人は自然と唇を近づけると、手を取り寝室へと向かった。

2 人がいいねと言っています。

83. Home

「あなたにとって私ってどういう存在?」
一度聞いてみたかった。あなたにとって私がどういう存在なのか。
しばらく考えていた彼は、いい言葉を思いついたのか、私の背中をすっと撫でた。
「一言で言うならば…君は私の『家』だ」
「家?」
予想外の答えに首を傾げると、彼は力強く頷いた。
「あぁ、君といると心が安らぐ。君は何があっても帰るべき場所。君が私の『家』なんだ」
長年何かを求めるように彷徨っていた彼が辿り着いた場所が私。
そう思うと無性に彼が愛おしくなり、私は彼の逞しい胸元に顔を摺り寄せた。

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82. Work

「あんたがあの有名なペッパー・ポッツでしょ?あんた、こんな仕事させられて嫌じゃないの?」
自分はトニー・スタークと関係を持ったのよと無言で語った女性は、迎えの車に押し込まれる前にペッパーを威圧的に睨み付けた。
「仕事ですから」
そう答えてみたものの、ペッパーの心には虚しさしか残らなかった。

トニーは毎回のように彼女に『一夜の後始末』を頼んでいた。

情事の後の残る寝室に入ったペッパーは、窓を開けると、ほんのり湿ったシーツを取り払った。
「これも仕事のうちだから仕方ないわね…」
洗濯したばかりのシーツを張り替え、散らかった部屋を片付ける。
これは秘書の仕事ではないのでは…と何度も自問した。だが、自分はトニー・スタークの『個人的な秘書』なのだ。だからこれも立派な仕事だと思い取り組んでいたが…。
「私だって本当はしたくないわよ…」
ベッドの端に座り込んだペッパーは、そっと目を閉じた。
浮かんできたのは、トニーと愛し合う見知らぬ女性。だがよく見ると、その女性はペッパー・ポッツではないか。
「や、やだ!!!」
赤面したペッパーは頭を乱暴に振ると立ち上がった。
「仕事しなきゃ!」
どうしてそんな情景が浮かんだのか分からない。だが、今の自分の仕事はトニー・スタークと愛し合うことではないのだ。
「もう…」
頬を軽く叩いたペッパーは、シーツを丸めると部屋を後にした。

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81. Gamble

『跪け』
聞き覚えのある声に目を開けたトニーはため息をついた。
目の前にいたのは、あの神様。仲間の雷神の弟…つまり、悪戯好きなロキだったからだ。
「またお前か。まだ地球を征服しようと思ってるのか?」
肩を竦めたトニーは、ロキを追い払うように手を振った。
トニーの態度にムッとしたロキは、足を踏み鳴らした。
『またとはなんだ。いつも兄が世話になっているから礼をしようとやって来たんだ。このロキ様が下等な人間のためにわざわざだぞ?ありがたく思え!』
(要するに、暇なんだろ?)
先ほどよりも盛大にため息をついたトニーは思った。絶対にロクなことにならないと。
「なるほど。だが遠慮しておく。お前に関わると厄介だ」
そう言い放ち立ち去ろうとしたトニーだが、どういう訳だか身体が動かない。いや、そもそもトニーは立ち上がっても座ってもいなかった。つまり、ベッドに寝たままだったのだ。しかも隣に眠るはずのペッパーの姿は見えず、いつの間にかトニーは真っ白な空間に浮かんでいた。
状況が分からず焦るトニーに、ククっと笑ったロキは近づいてくる。
『そう遠慮するな、鉄の男よ。お前の望みを叶えてやろう。数日前、お前はあのオンナに言っていたな。その望みを叶えてやる。それと、お前は常日頃言っている。『人生はギャンブルだ。ハプニングがあるから面白い』と。だからお前に選ばせてやる。①あの女がお前の元から消え去る ②人生はギャンブルだ!と二度と言えない出来事が起こる。さぁ、どちらか選べ!』
あのオンナ、つまりペッパーがいなくなるという選択肢がトニーにあるはずがないのだから、答えは必然的に②になるわけで…。
文句の一つでも言ってやろうとしたトニーだが、そばに立ったロキに頬を撫でられ悲鳴を上げそうになった。
『私には分かるぞ?お前の答えはただ一つ。②だ…』
トニーの考えを読んだのか、楽しそうに笑ったロキはトニーに向かって杖を向けた。途端に眩い光に辺りは包まれ、トニーのリアクターを青白い光が襲った…。

「わ~ぁぁぁ!!!!!!!!」
自分の悲鳴で飛び起きたトニーだが、自分がいつもの寝室にいると気付くと額の汗を拭った。
「何て夢なんだ…」
ペッパーは先に起きたのか隣はもぬけの殻。何度か深呼吸したトニーは、昨晩脱ぎ散らかした下着を拾うとバスルームへ向かった。
まだぼんやりする頭を覚醒させるかのように冷水で顔を洗うと、トニーは髭を整えようと鏡を見た。が…。
「ひ、髭がない!!!!!!」
理由は分からない。だが、昨夜はあったはずの髭が一晩で綺麗さっぱりなくなっているではないか。
「な、なぜだ…」
呆然とするトニーだが、髭以外にも鏡に映る自分に違和感を覚えた。顔が若いのだ。目尻の皺もなく、そこにいるのは20代の自分なのだ。
「ロキの魔法は夢ではなかったのか?」
今朝方見たのは夢だと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。
確かに数日前に言った。小さな娘を甲斐甲斐しく世話するペッパーに『子供になったら君の胸に思う存分顔を埋められるのに…』と。
『あなたは大人だけどいつもしてるじゃないの』とペッパーに苦笑され、二人で笑いあったのも事実だ。だが、あれは冗談だ。誰がどう考えても冗談だ。おそらくその場にキャプテン・アメリカがいても、冗談だと受け止めてくれる程の冗談だ。
「おい、あの神様は本気にしたのか?!」
若返るのはいいが、このままでは娘と同年代の子供になってしまうかもしれない。現に先ほどから身長はどんどん縮んでいるのだから…。
「大変だ…」
真っ青になったトニーは甲高い声を出すと、ぶかぶかのTシャツを頭から被った。

「ペッパー!!ペッパーーーー!!!!」
ハイチェアに座らせた娘に朝食を食べさせていたペッパーは、どこからともなく聞こえる子供の声に辺りを見渡した。
「何で子供の声がするの?」
この家の唯一の子供である娘はまだロクに言葉を話せない。
「エスト…じゃないわよね?」
念のため娘に確認してみたが、小首を傾げたエストはキッチンの入り口に視線を向けると何かを指さし叫んだ。
「だー!」
エストの言う『だー』は『パパ』、つまりトニーのこと。やっと起きてきたわね…とおはようのキスをしようと立ち上がったペッパーだが、そこには夫の姿はない。
「トニー?」
すると足元で可愛らしい声が聞こえた。
「ペッパー、ここだ」
視線を下に向けたペッパーは飛び上がった。なぜならそこには3歳くらいだろうか、小さな男の子がいたのだから…。
ペッパーはパニックになった。どうして見知らぬ子供がいるのかと。
だがよく見ると、その子供はトニーのTシャツを着ている。そして大きな琥珀色の瞳、長い睫、胸には青白い光…つまりそれは…。
「と、トニー?!」
大声を出したペッパーに、男の子は指輪を差し出した。それは自分たちの結婚指輪。
「ど、どうしたの?!何があったの?!」
昨晩愛し合った大人のトニーがどうして子供になっているのか見当もつかない。いや、そもそもこんな非現実的なことが起こるのだろうか…。
目を白黒させているペッパーに抱き着いたトニーは、胸元に顔を埋めた。
「ぼくもわかんない…。でも、ロキのせいなんだよ。ロキがね、まほうをかけたんだ。だから、ソーをよんでほしいんだ。ソーならきっとどうすればいいかしってるもん!」
事情はよく分からないが、とにかくソーを呼べば解決するらしい。
「分かったわ。すぐに連絡してみるわね。でもお腹すいたでしょ?ご飯にしましょ?」
「うん」
言葉遣いも子供のようになっているトニーの頭を撫でたペッパーは、トニーを抱き上げた。

「1時間後に来るそうよ」
ソーに連絡を取ったペッパーは、リビングで娘と遊ぶトニーに告げた。
「わかった」
トニーがタワーのようにおもちゃのブロックを積み上げると、傍に座っていたエストは手を叩いて大喜び。
「だーだっだっだ!!!」
目の前の男の子が自分の父親と分かっているのか、はたまた良い遊び相手ができたと思っているのか、エストは先ほどからトニーのそばを離れようとしないのだ。
「えちゅと、つぎはくるまをちゅくるぞ」

(男の子がいたらこんな感じなのかしら…)
エストはトニーにそっくりなのだから、二人が並ぶとまるで兄妹のよう。楽しそうに遊ぶ二人の写真をこっそり撮っていたペッパーだが、あることに気が付いた。
「トニー、さっきより小さくなってない?」
「うん…」
口を尖らせたトニーは、手に持っていたブロックを放り投げた。
(一体いつになったら元に戻るんだ。このまま永久に戻らなかったらどうすればいいんだ…)
トニーの小さな胸は不安で押しつぶされ破裂しそうだった。つまり彼は限界だった。
「トニー?」
「だぁ…」
心配そうな妻と娘を交互に見たトニーだが、大きな目から涙が零れ落ちた。
「ぺ、ぺっぱー…。ぼ、ぼく…ぼく…」
ひくひくと鼻を動かしていたトニーだが、やがて大きな声を上げて泣き始めた。
「トニー、大丈夫。大丈夫だから…」
小さな身体を抱き締めたペッパーは、いつもトニーが娘にするように頭に何度もキスをした。
突然泣き始めた男の子。知らない男の子なのにどうしてか一緒にいると安心する。それは父親から感じるものと同じもの…。エストはこの男の子のことが一目見た時から大好きになっていた。だからその子が泣いていると、自分も泣きたくなってくるわけで…。
「うぇぇぇーーーん」
つられるように泣き始めたエストをペッパーはトニーを抱きかかえていない手で抱き締めた。

1時間後…。
「鉄の男よ!遅くなってすまない!」
トニーが義弟のせいでとんでもないことになっていると聞き、慌ててやって来たソーだが、目の前の出来事に絶句してしまった。
「やっと来てくれたのね!」
ペッパーのそばではスターク家の長女が遊んでいる。そしてペッパーの腕の中では見慣れない赤ちゃんが眠っている。
「いつの間に二人目が生まれたんだ?」
ポカンと口を開けているソーにペッパーは子供を起こさないように小声で言った。
「違うわよ!トニーよ、トニー!!あなたの弟の魔法のせいで、子供になっちゃったの!子供ならいいけど、どんどん小さくなって、今じゃこの有様よ!どうにかして!!!」
小さく金切り声を上げたペッパーに、腕の中のトニーが目を覚ましたのか泣き出した。
「しー…大丈夫よ、トニー。びっくりさせてごめんなさいね…」
小さな背中を摩ると、トニーは安心したのか再び目を閉じた。
見様によっては微笑ましい光景だが、いつまでも鉄の男がこの状態では大変だと、ソーは慌てて義弟を探しに行った。

その後、ソーにこっ酷く叱られたロキがトニーを元の姿に戻してくれたが、幸か不幸かトニーは子供になっていたことは覚えていなかった。
だがペッパーは覚えていた。そして写真という証拠まで残っていたため、その時の写真をこっそり見るのがペッパーの楽しみになっていた。そしてエストも…。突然いなくなった大好きな男の子。あの時の男の子はどこに行ったのだろうかと、エストはしばらく捜していたとか…。

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