「Pepperony 100」カテゴリーアーカイブ

40. Water

待望の息子が生まれて早半年。
小さな息子を水着に着替えさせたトニーは、自身も水着を履くとプールへと向かった。
プールでは最近泳げるようになった娘がペッパーに泳ぎを披露していた。
「あら?そんなに泳げるようになったの?」
「あのね!パパとれんしゅうしたの!」
最初は顔を水に漬けるのも泣いていたエストだったが、今ではすっかり泳ぐことに夢中になっている。
得意げにバタ足をする娘をプールサイドに座ったペッパーの背後から、二人に声を掛けた。
「ママを驚かせるんだってエストの奴、張り切ってたんだ」
「パパ!」
大好きな父親の声が聞こえ、顔を上げたエストは頭をブルッと振った。
ペッパーの隣に腰を下ろしたトニーは、息子を膝の上に乗せると足を水につけた。
「エスト、ママを驚かせる作戦は成功だな」
ニヤッと笑った父親に、エストも同じようにニヤニヤと笑った。
「うん!だいせいこうね」
同じような顔をしているトニーとエストにペッパーは苦笑い。そんな様子を見つめていたエリオットだったが、「あーあー」と声を出すと、水に触ろうとトニーの膝の上で暴れだした。
「何だ?入りたいのか?」
父親の問いかけにエリオットは、「うーうー」と不満げに声を上げると手足をばたつかせた。
「分かった分かった。だから暴れるな!」
息子を抱きなおしたトニーは、ゆっくりとプールの中へ入った。
初めてのプールにエリオットは大喜び。
まだ歯の生えてない口をいっぱいに開け笑みを浮かべた彼は、小さな手足を思いっきり動かした。途端に辺り一面水しぶきがたち、トニーもペッパーも思わず顔を背けた。だが、弟に負けじとしているエストに水を掛けられると、二人も子供たちに向かって水をかけ始めたのだった。

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39. Sharp

国家のために働き数十年。
社を発展させていくと同時に、S.H.I.E.L.D.という組織に関わるうちに、ハワード・スタークは命を狙われているのを感じ始めた。

「マリア、話がある…」
いつになく真剣な表情の夫に、マリアは姿勢を正した。見えざる脅威が迫ってきていることは知っている。もしもの時のために自分たちがすべきことも二人は幾度となく話し合ってきた。
そしてついにその時が来たのだと感じたマリアは、微かに目を潤ませた。
「あの子と…離れなければならないのね…」
二人にとって何よりも大切なもの…それは一人息子であるトニーだ。自分たちが狙われているとなると、トニーはそばにいれば巻き込まれることになる。何よりも大切な息子を守るためには、彼を自分たちから遠ざける以外に方法はないと、二人は考えたのだった。だがそれは、家族がバラバラになるということであり、息子の成長を見届けることができないということ。
「トニーを守るためだ」
ハワードも息子を手放したくないに決まっている。だが、彼は息子には自分の人生を生きてほ欲しかった。自分たちの犠牲になって欲しくなかった。だからこそ、この計画はトニーには話していない。
「あなた…。トニーに話したら?あの子は賢いから、きっとあなたの気持ちも…」
夫の思いを痛いほど理解しているマリアは、彼の腕にそっと触れた。だが、ハワードは辛そうに顔を歪めた。
「あいつには、重荷を背負わせたくない…。自由に生きて欲しい…。だから話せない…」
急に離れ離れになっても辛くないよう、ハワードはここ数年、トニーに対して厳しく接してきた。急に冷たくよそよそしくなった父親の不平をトニーが母親に零していたのは知っている。もしかしたら本音を話せぬまま、永遠の別れを迎えるかもしれないのだ。それが分かっているからこそ、マリアは息子に父親のことを誤解して欲しくなかった。
「ハワード…本当にいいの?」
最後に確認するように、マリアはハワードの顔をじっと見つめた。妻の頬を撫でたハワードは寂しそうに笑った。
「恨まれてもいい…。酷い父親だと思われても…。きっといつか分かってくれる…。あいつのことを何よりも愛していることは…」
ハワードの目から涙が一粒零れ落ちた。

***

親父とお袋はただの事故死ではなかった。殺された…。
あの事故の真相が分かったのは、20数年後のことだった。

「もしかしたら、私を守るためだったのか?私を寄宿舎に入れ家から遠ざけたのも、急に厳しくなったのも…」
両親の資料を見ていたトニーがポツリと呟いたのに気付いたペッパーは、背後から彼の背中を抱き締めた。
「トニー…」
胸元に回されてペッパーの腕を握りしめたトニーは、絞り出すように言葉を続けた。
「そう考えれば辻褄が合うんだ。全てが理解できるんだ。親父もお袋も、私を守るために必死だったんだ。それなのに私は…親父のことを恨んで…」
言葉に詰まったトニーは俯いてしまった。その背中が小さく震えていることに気付いたペッパーは、彼の体にギュッと抱きついた。
「トニー、大丈夫よ。お父様もお母様も分かっていらっしゃるわ。あなたの思いはきちんとお二人に伝わってるから…」
何度か頷いたトニーを、ペッパーは黙って抱き締め続けた。

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38. Sweet

夕食後、リビングのソファーに座り込んだトニーは、ドーナツを食べ始めた。
「あなたって本当に甘いものが好きね」
コーヒーを入れたペッパーはお揃いのカップの一つを手渡すと、隣に腰を下ろした。

ペッパーと暮らすようになってから、タバコはやめ、酒も時折嗜む程度となった。その代わりに、彼は甘い物を以前よりも好むようになった。
幸せそうにドーナツを食べるトニーのヒゲには、砂糖が付いている。それを拭ったペッパーは、指先をぺろっと舐めた。
「一番好きなものって何?」
小さな舌で指先を舐めるペッパーの仕草は酷く卑猥なものに見え、ごくりと唾を飲み込んだトニーは、心の内を悟られないように咳払いをした。
「甘いものでか?そうだな、これだ」
そう言うと、トニーはペッパーの唇を奪った。
「君に勝る甘いものはないだろ?」
真っ赤になったペッパーの頬を撫でたトニーは、残りのドーナツにかぶりついたのだった。

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37. Spice

「ママのおなまえは、ヴァージニアでしょ?どうしてみんな、ペッパーってよぶの?」
ある日、娘に尋ねられたペッパーは、自分がそう呼ばれるようになった経緯を思い出した。
『ヴァージニア』という生まれもった名前があるのに、今では『ペッパー』の方が公にも知れ渡っており、今では本来の名前よりもペッパーの方が好きになっているくらいだ。
「ペッパーっていうのはニックネームよ。パパが付けてくれたの」
そう、『ペッパー』というのは、トニーが付けてくれたのだ。だからこそ余計に愛着があるのかもしれないが…。
父親が母親の愛称を付けたと知ったエストは、目を輝かせた。そうなると、ますます理由が知りたい。
「パパが?どうして?」
父親譲りの大きな目には抑えられない好奇心が溢れ出ており、ペッパーは娘を膝の上に乗せると遠い昔を思い出すように語り始めた。
「ママがね、パパと初めて出会った時よ。それまでママは違うお仕事をしていたんだけどね、パパに秘書になってくれって頼まれたの。その時に、パパはママにニックネームを付けてくれたの。そばかすが可愛いと言われてね、『ペッパー』はどう?って提案されたのよ」
「ふーん、そうなんだ」
物心ついた時から母親は『ペッパー』と呼ばれていたため、その名前が本名だと思っていた。だが、両親の出会いにそんな話が隠されていたのだと、小さいながらにエストは感心したのだった。
そこへ
「何だ?女同士で密談か?」
と言う父親の声が聞こえ、エストは母親の膝の上から飛び降りると、父親に飛びついた。
「あ、パパ!あのね、どうしてママのこと、ペッパーってよぶの?」
急にどうしたんだと首を傾げながらも娘を抱き上げたトニーは、ペッパーの隣に腰を下ろした。
「ママはパパの人生に刺激を与えてくれるスパイスなんだ」
母親の話とは違うようだと気付いたエストだが、当の本人であるペッパーも少々驚いていた。
「スパイス?」
首を傾げた娘の頭を撫でたトニーは、隣に座るペッパーの肩を抱き寄せた。
「あぁ、そうだ。ペッパー…つまり胡椒は、世界三大香辛料の一つで、スパイスの王様とも言われている。胡椒は同じ料理に三度使えるほど何にでも使えるし、昔は薬としても使われていた。つまり、胡椒は偉大なスパイスだ。ママもそうだ。ママはいつもパパのことをドキドキさせてくれる。人生に刺激を与えてくれるんだ。それにいつもパパのことを愛し支えてくれる。ママだけはパパのことを何があって信じてくれるんだ。つまり、ママはパパにとって完璧な存在だし、パパの人生を変えてくれた大切な人なんだ。だからママのことをペッパーと呼ぶんだ」

最初は違ったかもしれない。でも彼が『ペッパー』と呼ぶのには、そんな理由があっただなんて…。

「ママ?どうしたの?」
母親が泣いていることに気付いたエストは、小さな手で母親の頬に触れた。不安の色を隠しきれない娘を安心させるように、涙を拭ったペッパーはにっこりと笑みを浮かべた。
「ママ、嬉しくって…」
そう言うとペッパーはトニーの手をそっと掴んだ。
「あなたがそういう思いで『ペッパー』と呼んでくれてたんですもの。私、ますます『ペッパー』って呼び方が好きになったわ」
口元を緩めたトニーは、ペッパーと娘の額にキスをすると、彼にとって欠かせない存在を抱き締めた。

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36. Love

あのスティーブ・ロジャースから内密に話があると言われ、トニーは一瞬戸惑った。と言うのも、彼が話があると言う時は、いつだって真面目な話。チームの在り方や戦法についてなら、延々と話を聞かされるだろう。何を言われるのかとトニーは身体をビクつかせた。だが、取調室へ連れて行かれ、腰を下ろすや否や、彼は思いもよらぬことを口に出した。
「なぁ、スターク。君にとっての愛とはなんだ?」
「は?どうしたんだ、そんな哲学的な話を急に…」
てっきり小難しい話とばかり思っていたのに、愛について…しかも元プレイボーイな百戦錬磨のトニー・スタークに向かって何を言い出すんだと、トニーは拍子抜けした。
「だから、君にとっての愛とは何かを聞きたい」
身体を乗り出し両手を掴んだスティーブは、もっと重大な話をする時以上に真面目な顔をしている。
えらく真剣なのだから、真面目に答えるしかないだろう…と、トニーは手を振り切ると咳払いをした。
「私にとっての愛か…。昔は愛の本質は分からなかった。オンナはみんな同じだと思っていたし、その場の欲求が満たされればいいと思っていた。だが、違っていた。私が語っていた愛は偽物だった。それを気づかせてくれたのがペッパーだ。彼女は愛すること、愛されることの素晴らしさを私に教えてくれた。つまり、ペッパーこそが私の愛だ」
そう言うと無意識のうちに左手の指輪に触れたトニーは、笑みを浮かべた。
おそらく彼女のことを思い起こしているのだろう。普段は見ることのないトニーの表情で、スティーブは彼の彼女への愛の深さを感じた。
「で、どうしてこんなことを聞くんだ?」
自分ばかりが答えるのはつまらないと、今度はトニーが身を乗り出した。真っ赤になったスティーブは何か言おうとしたが口ごもった。その様子からトニーはピンときた。そういうことは彼の得意分野だったから…。
「何だ?気になる女でも出来たのか?」
さりげなく言ったその一言に、スティーブは過剰に反応すると、椅子の上で飛び上がった。
「な、なぜ知っているんだ!!」
慌てふためくスティーブにトニーはやけに芝居がかった声で言った。
「私は適当に言った………おい、本当なのか?!もうすぐ100歳になろうという男が!とうとう童貞を捨てる時が来たのか!キャプテン!相手は?相手の女は誰だ!!」
この調子だと、5秒後には面白い話が聞けるぞ…と思ったトニーだったが、相手があのスティーブ・ロジャースということを忘れていた。これ以上ないほど真っ赤な顔をしたスティーブだったが、5秒後にはその場に倒れてしまい、トニーは結局何も聞けなかったのだった。

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