39. Sharp

国家のために働き数十年。
社を発展させていくと同時に、S.H.I.E.L.D.という組織に関わるうちに、ハワード・スタークは命を狙われているのを感じ始めた。

「マリア、話がある…」
いつになく真剣な表情の夫に、マリアは姿勢を正した。見えざる脅威が迫ってきていることは知っている。もしもの時のために自分たちがすべきことも二人は幾度となく話し合ってきた。
そしてついにその時が来たのだと感じたマリアは、微かに目を潤ませた。
「あの子と…離れなければならないのね…」
二人にとって何よりも大切なもの…それは一人息子であるトニーだ。自分たちが狙われているとなると、トニーはそばにいれば巻き込まれることになる。何よりも大切な息子を守るためには、彼を自分たちから遠ざける以外に方法はないと、二人は考えたのだった。だがそれは、家族がバラバラになるということであり、息子の成長を見届けることができないということ。
「トニーを守るためだ」
ハワードも息子を手放したくないに決まっている。だが、彼は息子には自分の人生を生きてほ欲しかった。自分たちの犠牲になって欲しくなかった。だからこそ、この計画はトニーには話していない。
「あなた…。トニーに話したら?あの子は賢いから、きっとあなたの気持ちも…」
夫の思いを痛いほど理解しているマリアは、彼の腕にそっと触れた。だが、ハワードは辛そうに顔を歪めた。
「あいつには、重荷を背負わせたくない…。自由に生きて欲しい…。だから話せない…」
急に離れ離れになっても辛くないよう、ハワードはここ数年、トニーに対して厳しく接してきた。急に冷たくよそよそしくなった父親の不平をトニーが母親に零していたのは知っている。もしかしたら本音を話せぬまま、永遠の別れを迎えるかもしれないのだ。それが分かっているからこそ、マリアは息子に父親のことを誤解して欲しくなかった。
「ハワード…本当にいいの?」
最後に確認するように、マリアはハワードの顔をじっと見つめた。妻の頬を撫でたハワードは寂しそうに笑った。
「恨まれてもいい…。酷い父親だと思われても…。きっといつか分かってくれる…。あいつのことを何よりも愛していることは…」
ハワードの目から涙が一粒零れ落ちた。

***

親父とお袋はただの事故死ではなかった。殺された…。
あの事故の真相が分かったのは、20数年後のことだった。

「もしかしたら、私を守るためだったのか?私を寄宿舎に入れ家から遠ざけたのも、急に厳しくなったのも…」
両親の資料を見ていたトニーがポツリと呟いたのに気付いたペッパーは、背後から彼の背中を抱き締めた。
「トニー…」
胸元に回されてペッパーの腕を握りしめたトニーは、絞り出すように言葉を続けた。
「そう考えれば辻褄が合うんだ。全てが理解できるんだ。親父もお袋も、私を守るために必死だったんだ。それなのに私は…親父のことを恨んで…」
言葉に詰まったトニーは俯いてしまった。その背中が小さく震えていることに気付いたペッパーは、彼の体にギュッと抱きついた。
「トニー、大丈夫よ。お父様もお母様も分かっていらっしゃるわ。あなたの思いはきちんとお二人に伝わってるから…」
何度か頷いたトニーを、ペッパーは黙って抱き締め続けた。

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