あのスティーブ・ロジャースから内密に話があると言われ、トニーは一瞬戸惑った。と言うのも、彼が話があると言う時は、いつだって真面目な話。チームの在り方や戦法についてなら、延々と話を聞かされるだろう。何を言われるのかとトニーは身体をビクつかせた。だが、取調室へ連れて行かれ、腰を下ろすや否や、彼は思いもよらぬことを口に出した。
「なぁ、スターク。君にとっての愛とはなんだ?」
「は?どうしたんだ、そんな哲学的な話を急に…」
てっきり小難しい話とばかり思っていたのに、愛について…しかも元プレイボーイな百戦錬磨のトニー・スタークに向かって何を言い出すんだと、トニーは拍子抜けした。
「だから、君にとっての愛とは何かを聞きたい」
身体を乗り出し両手を掴んだスティーブは、もっと重大な話をする時以上に真面目な顔をしている。
えらく真剣なのだから、真面目に答えるしかないだろう…と、トニーは手を振り切ると咳払いをした。
「私にとっての愛か…。昔は愛の本質は分からなかった。オンナはみんな同じだと思っていたし、その場の欲求が満たされればいいと思っていた。だが、違っていた。私が語っていた愛は偽物だった。それを気づかせてくれたのがペッパーだ。彼女は愛すること、愛されることの素晴らしさを私に教えてくれた。つまり、ペッパーこそが私の愛だ」
そう言うと無意識のうちに左手の指輪に触れたトニーは、笑みを浮かべた。
おそらく彼女のことを思い起こしているのだろう。普段は見ることのないトニーの表情で、スティーブは彼の彼女への愛の深さを感じた。
「で、どうしてこんなことを聞くんだ?」
自分ばかりが答えるのはつまらないと、今度はトニーが身を乗り出した。真っ赤になったスティーブは何か言おうとしたが口ごもった。その様子からトニーはピンときた。そういうことは彼の得意分野だったから…。
「何だ?気になる女でも出来たのか?」
さりげなく言ったその一言に、スティーブは過剰に反応すると、椅子の上で飛び上がった。
「な、なぜ知っているんだ!!」
慌てふためくスティーブにトニーはやけに芝居がかった声で言った。
「私は適当に言った………おい、本当なのか?!もうすぐ100歳になろうという男が!とうとう童貞を捨てる時が来たのか!キャプテン!相手は?相手の女は誰だ!!」
この調子だと、5秒後には面白い話が聞けるぞ…と思ったトニーだったが、相手があのスティーブ・ロジャースということを忘れていた。これ以上ないほど真っ赤な顔をしたスティーブだったが、5秒後にはその場に倒れてしまい、トニーは結局何も聞けなかったのだった。