「Pepperony 100」カテゴリーアーカイブ

50. Light

身体が離れた後、ベッドサイドの灯りを付けようとした時だった。
「灯りはつけなくていいわ」
シーツの中に潜り込んだ彼女は、恥ずかしそうに頬を染めながら呟いた。
「だが、暗いぞ?」
いつの間にか外は闇に閉ざされ、灯りの落とされた室内は薄暗く、お互いの顔もはっきり見えないくらいだ。
「ううん、いいの…。何だか恥ずかしくって…」
真っ赤な顔をしているであろう彼女は、そういうと腕を伸ばした。
共に眠るようになり数日。まだ恥じらいがあるのだろうか、彼女はコトに及ぶ時は灯りを消すことを望む。私としては一秒たりともその瞬間を見逃したくないのだが…。
そんなことを考えながら、彼女を抱きしめ顔にキスをすると、彼女はくすぐったそうに笑った。そして嬉しそうに私の胸元に顔を摺り寄せてきた。
「私ね、この光が好きなの…。あなたが今ここに…私と一緒に生きているという光が…」
そう言うと彼女はリアクターにキスをおとした。
一人だと無機質に感じる青白い光も、不思議なことに彼女がそばにいると暖かいものに変わってくる。それは、彼女自身が私を導く光だからだろうか…。
青い光に照らされた彼女の横顔は美しく、その存在を逃がさぬよう、ぎゅっと抱きしめ眠りについた。

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49. Explosion

「エリ、なかないの!おとこのこでしょ!」
手を腰に当てたエストは頬を膨らませているが、彼女の小さな弟は真っ赤な顔をして泣き続けている。
「エリ…もう泣くな」
泣き続けている息子を抱いているトニーのTシャツも、彼の涙で濡れている。
「まま!ままぁー!!」
父親のTシャツをギュッと握ったエリオットは、母親のことを呼び続けている。
母親であるペッパーは、昨晩から不在。というのも、彼女の両親が揃って風邪で倒れてしまい、昨晩遅く彼女は実家へと飛んで帰ったのだ。
朝になり起き出してきた娘に話をすると、娘は祖父母のことを心配しつつも胸を叩いて言ったのだった。
「パパ!だいじょうぶよ!あたしがママのかわりをするから!」
と言って、エプロンを取り出したエストは、料理が苦手なトニーを手伝い朝食作りから掃除洗濯と手伝ってくれたのだった。だが問題は、母親が大好きな息子の方だった。一応母親が不在である事情を話してみたが、まだ1才にならない彼に理解できるはずもなく、しばらくは父親と姉とご機嫌で遊んでいたエリオットだったが、早めのランチを食べ終わり昼寝から起きだした頃から雲行きが怪しくなってきた。
そして今に至るわけだ。おもちゃもダメ、本もダメ。気晴らしに外へ連れて行こうとするのだが、エリオットは車のチャイルドシートに座るどころか、外へ出ることさえ嫌がる。
「おい、泣いているところを見られるのが嫌なのか?変なところでお前もプライドを持ってるんだな」
何をしても泣き続ける息子の小さな背中を撫でたトニーは、助けを求めるように娘に視線を向けた。エストも姉として何とか弟を泣き止ませようと必死なのだが、父親ですら無理なのだから自分に出来るはずがない。だが頭を捻らせた彼女は、とある名案を思いついた。
「パパ、ママにおでんわしてみたら?ママのこえをきいたら、エリもなかなくなるかもしれないよ」
先ほどペッパーから電話が掛かってきた時、エリオットは昼寝中だったのだ。それはそれで母親に触れることができず余計に泣く可能性もないわけではないが、もしかしたら…という淡い期待をかけて、トニーは娘の言葉に従うことにした。
「J、ペッパーに電話を」
『かしこまりました、トニー様』

しばらくすると、目の前に現れたモニターにペッパーの姿が映し出された。
「トニー、大丈夫…じゃなさそうね」
泣き叫ぶ息子の声と姿にペッパーは眉を潜めた。
ずっと泣いているのだろう、真っ赤な顔をしたエリオットは母親の声に気が付くと、モニターに向かって腕を伸ばした。
「まま!まま!ままぁぁぁ!!!」
だが、目の前に母親はいるのに、触れることができないに気づいたエリオットは、トニーの腕から落ちそうなくらい激しく泣き叫び始めた。
まさに逆効果。
やれることは全てやった、だがどうすることもできないと同じように頭を抱える夫と娘を見たペッパーは、すぐに戻ると電話を切った。

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48. Shock

「元カレだと?」
手を差し出した商談相手は、決まりきった挨拶の後に衝撃的な言葉を口にした。
「えぇ。あなたの奥さま…ヴァージニア・ポッツさんと付き合ってました。学生時代の話ですから、かれこれ15年以上前ですが」
自分とペッパーの間くらいの年だろう、目の前の男はニコニコと笑みを浮かべているが、引きつった笑いを浮かべたトニーはソファーにペタンと座り込んだ。
「そ、そうか…」
やっとの思いでそう呟いたトニーだが、幸か不幸か相手は全く気付いてない。
「3年間付き合ってました。結婚も考えていたんですが、私のヨーロッパへの転勤が決まってしまい…。彼女はLAに残る道を選んだんです。でも結果的に良かったようですね。あなたのような素晴らしい男性と出会えたんですから」
相手は共通の話題であるペッパーの話をして場を和らげようとしているのだろう。だが、相手はトニー・スタークだ。元プレイボーイで百戦錬磨のトニー・スタークには何ともない話だと考えているようだが、嫉妬深く独占欲の固まりの彼に、自分の知らない妻の昔の男の話など逆効果に決まっている。案の定、トニーの眉間の皺は深くなる一方。彼の背後からどす黒いオーラが漂い始めたのに気付いた社員は、慌てて話を変えようとしたが遅かった。
「いやー、それにしても懐かしい。彼女にも会ってみたいですねぇ。スタークさん、どうです?この商談の後、奥さまと一緒にディナーで…も……」
そこまで言って相手はようやく気付いた。この話題は地雷だったと。
青筋を立てながらも怖いほどの笑みを浮かべたトニーは、机の上のファイルを物凄い勢いで閉じると立ち上がった。
「申し訳ないが、この話はなかったことに。君たちの方針と我が社の方針は大きく違うようだ。残念だな」
ニッコリ笑ったトニーだが、その目はちっとも笑っていない。逆に物凄い目力に、商談相手は悲鳴を上げると頭を下げて部屋を飛び出して行った。

その後、裏で密かに出回っている『トニー・スターク攻略法~商談編~』には、『トニー・スタークの前でペッパー・スタークの話は厳禁!』という一文が最重要事項として書かれたとか…。

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47. Still

帰宅したトニーは玄関をくぐるとため息をついた。いつも飛び出してくる子供たちも、おかえりなさいとキスをしてくれる妻もいない。というのも、ペッパーの母親が体調を崩したため、彼女は子供たちを連れて昨日から実家へ戻っているのだ。
出迎えてくれるのはJ.A.R.V.I.S.しかおらず、しーんと静まり返ったリビングをトニーは見渡した。
「静かすぎる…」
ソファの上にカバンを放り投げたトニーは、キッチンに向かうと冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しリビングへと戻って行った。すると、テーブルの上の携帯電話が軽快な音を立てているではないか。
「もしもし」
慌てて電話に出ると、画面いっぱいに映し出されたのは愛しの子供たちの顔。
「パパ!おかえりなさい!」
「だっだー!!!だー!」
娘が電話を持っているのだろう。画面いっぱいに映し出された彼女の顔の隙間から、必死で映ろうと手を伸ばしているのは息子だ。そしてその後ろでにこにこと眩いばかりの笑みを浮かべているのは最愛の妻。
「ただいま。エストもエリもママの言うことを聞いていい子にしてるか?」
機関銃のように今日の出来事を話す娘と、まだ言葉にすることができないのに何とか注意を引こうと喚く息子の声で、静かだったリビングは一気に明るさを取り戻した。
そのつかの間の賑やかさは、トニーの心の侘しさをすーっと溶かしてくれたのだった。

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46. Fear

ペッパーが仕事で海外に行くことになったのは、エストが8ヶ月になった頃だった。今までも二人で留守番はしたことがある。だが、それはほんの数時間であり、今回のように5日間も二人きりとなるのは初めてだ。そのためトニーは内心不安で仕方なかった。
だが…。
「大丈夫よ、あなたは世界一立派な父親ですもの」
そう言われれば不安だとは言えない。
一方のペッパーも、そうは言ってもやはり不安だった。父親であるトニーと留守番するのだから、そのことに関しては全く不安に思っていない。何だかんだ言っても、トニーは上手くやってくれると信じているからだ。問題は5日間もトニーと離れること、そして娘と離れ離れになる自分だった。産まれてから長く離れていたことはないのだから、おそらく娘が恋しくなり泣きたくなるのは目に見えている。だが、小さな娘を長時間飛行機に乗せ、慣れない異国の地で世話する訳には行かないのだ。

という訳で、トニーが買ってきたエストのお気に入りのうさぎのぬいぐるみをスーツケースに忍ばせたペッパーは、夫と娘にキスをすると、5日間の海外出張へと出掛けて行った。

ペッパーが出掛けて一日が終わる頃。パパが大好きなエストは二人きりということが分かっているのか、愚図ることもなくご機嫌だ。お腹がいっぱいになった彼女は、寝室の大きなベッドに寝かせてもらいご満悦。すぐに寝息を立て始めた娘に彼女お気に入りの毛布を掛けたトニーだが、格別何かする気にもならず、自分もベッドに潜り込んだ。いつもそばにいるペッパーがいないため眠れるか心配だったトニーだが、四六時中小さな娘の世話をしていた疲れもあってか、すぐに眠ってしまった。

翌日も、エストはよく食べよく遊びよく眠り、全く手が掛からなかった。いつもは嫌いだと食べない人参も、自ら率先して食べるし、逆にトニーが食べていないのに気づくと頬を膨らませて不満げに唸るのだ。
「おい、将来はママと二人でパパのことを責めるんだろ?」
ふとした仕草は母親にそっくりな娘の鼻をつつくと、彼女は満面の笑みを浮かべ、小さな手でトニーの頬に触れた。その仕草も母親であるペッパーを彷彿させ、トニーはふと先程掛かってきた電話を思い出した。
「そういえば、ママは大丈夫かな?さっきの電話…パパが『さみしい、会いたい』と言ったら、ママは『そんなことないわ!あと3日よ!』と慌ててただろ?ああいう時のママは我慢しているんだ。きっと今夜にも…」
「だぁ…」
『泣きながら電話が掛かってくるぞ…』と言おうとしたトニーだが、母親を思い出したのか目に薄っすらと涙を浮かべた娘に気づくと、彼女をハイチェアから抱き上げた。
「ほら、エスト。お風呂に入ろう!」
お風呂と聞いて顔を輝かせたエストが再び母親を思い出す前に…と、トニーは大急ぎでバスルームへ連れて行った。

その夜…。トニーの予想通り、ペッパーから電話が掛かってきた。エストのうさぎのぬいぐるみを抱きしめたペッパーは、いつの間に入れていたのか、トニーのシャツを着て、画面越しに声を上げて泣いている。
『さみしくて死にそう』とか『あなたとエストに抱きしめてもらいたい』とか『会いにきて』など、昔の彼女からは想像も出来ないような台詞を喚き散らすペッパーだが、画面越しではさすがのトニーもどうすることもできない。『さみしいのは一緒だ。あと3日だ。空港に迎えに行くから、帰ってきたら思いっきり甘えてくれ』と、彼にしては珍しく泣き喚く妻を何とか宥めたトニーだが、結局我慢できなかったペッパーは、出張を早々に切り上げ、翌日二人の元へ戻ってきたのだった。

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