ポールを見送ったペッパーが戻ってくると、トニーはまだソファに座ったままだった。が、先程とは違い、隣にはモーガンが座っており、父と娘は何やら話し込んでいた。
「何話してるの?」
母親に気づいたモーガンは、ふふっと笑うと立ち上がった。
「ナイショ!」
「そうだ、ママには内緒の話だ」
顔を緩めながら頷いたトニーの隣に、ペッパーは首を傾げながら腰掛けた。するとモーガンは両親に向かって笑みを浮かべると、階段へ向かった。
「私、宿題してくるね!パパ、約束忘れちゃダメだよ!」
そう叫んだモーガンは、パタパタと2階へと上がって行った。
娘が姿を消すと、トニーはペッパーの肩を抱き寄せた。
「明日は水族館に行くことになった」
「え?!!!」
世間はまだトニー生還のニュースで大騒ぎなのだから、人前にノコノコ出かければ、どれだけ騒ぎになるか分かりそうなものだ。目を白黒させているペッパーに、トニーは肩を竦めた。
「いつまでも隠れている訳にはいかないだろ?出歩いていれば、そのうち騒ぎも収まるさ」
そう言われればそうかもしれない。それに、マスコミやファンに囲まれるのは、今始まったことではないし、そういう意味では騒がれる状況に慣れていると言えるだろう。
「久しぶりに3人で出掛けるから嬉しそうなの?」
「それもそうだが、モーガンに言われた。『パパがいない5年間、パパはずっとそばにいてくれてるって思ってたけど、それはあの時、パパが私とママのことを考えてくれていたからなんだね。ありがとう、パパ。パパは私が生まれた時からたった一人のヒーローだよ』と」
先程のやり取りをモーガンは2階からこっそり聞いており、彼女なりに父親の思いを受け止め、それを父親に伝えたのだろう。それはトニーにとって何より嬉しい言葉だったに違いない。
嬉しそうに目尻を下げているトニーの頬にキスをしたペッパーは、甘えるように抱きついた。妻の髪を撫でたトニーは、そっと髪にキスをすると口を開いた。
「正直、ビクビクしていた。あいつに何を言われるのか…それから、自分の気持ちをどう伝えたらいいのかと…。だが、君は私が心のどこかでずっと思っていたことを全て伝えてくれた。君は私のことを私以上に理解してくれている。5年前、背中を押してくれたこと、本当に感謝してる。君の言葉がなかったら、きっと今でも悪夢に怯える日々を過ごしていただろう。ペッパー、ありがとう。君は私にはもったいないくらいの完璧な妻だ」
「そうよ、今更気づいたの?」
クスクス笑ったペッパーに、トニーは楽しそうに小さく首を振った。
「いや、君が完璧なのは出会った頃から知ってるさ。私にとって完璧な女性…それはペッパー、君しかいないんだから…」
トニーはペッパーを見つめた。その瞳は吸い込まれそうなくらい優しく、ペッパーは見惚れてしまった。
(トニー……私のたった一人の愛する人…)
手を伸ばしトニーの頬に触れたペッパーは、そのまま彼の唇を奪った。
暫くお互いの唇を味っていた2人だが、唇を離すとトニーはペッパーの頬を撫でながら甘ったるい声で囁いた。
「週末は久しぶりに2人きりでデートしないか?」
「モーガンは?」
「モーガンのアイデアなんだ。ローディおじさんの家で泊まりがけのピザパーティーをすると、約束しているらしい」
おそらくその約束は、今からする約束なのだろうが、娘の気遣いは嬉しくもあり、そして遠慮なく甘えることにした。頷いたペッパーの頬にもう一度キスをしたトニーは、妻の手を優しく取ると微笑んだ。
「それからもう一つ。ペッパー、もう一度結婚してくれ」
「私たち、もう結婚してるじゃないの?」
首を傾げたペッパーに、トニーはわざとらしく眉を吊り上げた。
「ハニー、私は一度死んだんだ。だから生き返った私と結婚して欲しいんだ」
そう言いながら、トニーはポケットから何か取り出すと、ペッパーの手の上に置いた。視線を向けたペッパーは、それが指輪であることに気づくと、トニーの顔と何度も見比べ始めた。妻の手を両手で包み込んだトニーは、蕩けるような笑みを浮かべた。
「5年前の結婚記念日に渡すつもりだったんだ。だが、あの任務を終えたら渡そうと考えて、記念日には渡さなかった。タイムトラベルから無事に帰還したら、アイアンマンとしてではなく、一人の男としてこれからは生きる…だからずっとそばにいてくれと渡すつもりだった」
指輪を見つめたペッパーは、内側に文字が刻まれていることに気づいた。”I love you 3000.”と…。
が、トニーの遺品を整備した時に、この指輪は見当たらなかった
「で、でも…あなたの遺品に、この指輪はなかったわ…」
震える声で告げたペッパーに、トニーはニヤっと笑った。
「隅から隅まで探したのか?実は、誰にも見つからない場所に隠していた。生き返らなかったら、この指輪は永遠にその場に埋もれていたということになるな。そうなると、指輪に申し訳なかった。生き返ってよかったよ」
笑みを浮かべたトニーは指輪を手に取ると、ペッパーの左手を取った。そして結婚指輪のはまった薬指にその指輪をはめた。キラリと光った指輪にキスをしたトニーに、ペッパーは泣きながらギュッと抱きついた。
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