I want to live a second life with you.⑩

エレベーターを降りたペッパーは、ロビーを小走りで進んだ。一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
が…。

「ヴァージニア!!」

背後からポールの声が聞こえ、ペッパーは立ち止まった。するとポールは走って近づいてくると、腕を掴んだ。
「ヴァージニア、待ってくれ。君の気持ちは分かった。もう一度話をしよう」
何度話しても同じなのだから、ペッパーは首を振った。
「ポール、私の気持ちは話したわ。中途半端な気持ちのまま結婚して、あなたを傷つけたくないの」
が、ポールは諦めなかった。
「だけど、急におかしいじゃないか!今までそんなこと一言も言わなかっただろ?何かあったんだろ!話してくれ!力になる!」
ペッパーの腕を痛いほど掴んだポールは、必死だった。いっその事、トニーが生き返ったと告げた方が良かったのかしら…と一瞬考えたペッパーだが、そんなことを告げても信じて貰えないに決まっている。
「離して…お願いだから…」
必死で手を振り切ろうとしたが、ポールは離してくれない。
2人に気づいた人々で、周囲はざわめき始めた。

が、突然、ざわめきが収まった。そして誰かが悲鳴を上げた。
何事かと顔を上げたポールは、何かを見つけたのか、ペッパーの腕を離した。まるで幽霊でも見たかのように、真っ青な顔をした彼はそのまま後ずさりした。
何が起きたのだろうか…。
ペッパーが振り返ろうとしたその時…。
「妻を返してもらおうか?」
トニーの声が聞こえた。振り返ると、モーガンが選んだネクタイを締め、スーツを着たトニーがすぐ後ろに立っていた。
まだ会見を開いていないのに、こんな所にいたら、大騒ぎになるじゃないのと、妙に冷静に考えてしまったペッパーだが、案の定、周囲にはどんどんと人が増えているではないか。
騒つく周囲を見渡したトニーは、肩を竦めた。
「この5年間、いつも妻のそばにはいたんだが、姿が見えないと分かってもらえないだろ?それに、妻と娘が心配になりすぎて…。今更だが墓から蘇ってみた」
真顔でそう告げたトニーを、ポールは震えながら指差した。
「う、嘘だ!これは夢だ!あんたは5年前に死んだんだ!」
「だから、墓から蘇ったと言っただろ?蘇ったからといっても、ゾンビじゃない。ちゃんとした人間だ。ほら、足もあるだろ?」
足を指差したトニーは明らかに面白がっているが、ポールはまるで死人のように真っ青な顔をしているではないか。必死で言葉を探していたのか、暫く黙ったままのポールだったのが、頬を何度か叩くと、ペッパーに向かって叫んだ。
「わ、分かったぞ!スターク・インダストリーズのホログラムか何かだろ!それか、トニー・スタークのそっくりさんだな!ヴァージニア!僕と別れたいから、そっくりさんを用意したんだろ!」
すると、目を三角にしたペッパーは頬を膨らませた。
「そっくりさん?!そんな手の込んだこと、私がするわけないでしょ!」
キィッと叫んだペッパーを落ち着かせるように、肩に手を乗せたトニーは、ウンウンと頷いた。
「そうだ。こんないい男のそっくりさんなんているわけないだろ。ついでに言うと、ホログラムでもない。その証拠に……」
ペッパーの腰を抱き寄せたトニーはキスをした。
それは、どう見てもホログラムには見えず、目の前の現実が受け入れられていない野次馬から、次々と小さな悲鳴が上がった。
唇を離したトニーは、ペッパーを抱きしめるとポールを見つめた。
「正真正銘のトニー・スタークだ。奇跡が起こって生き返った。神様や宇宙人がいる世界だ。死人が一人くらい生き返っても不思議じゃないだろ?」
ニヤッと笑ったトニーは静まり返った野次馬に向かって手を振ると、ペッパーを抱き寄せたまま歩き始めた。
奇跡を目の当たりにした野次馬は、まるで某映画のワンシーンのようにサッと避け、2人は行く手を遮られることもなく出口に向かって歩き続けた。

「と、トニー、バレちゃったわよ…」
「いいさ。会見を開くよりも早い」
痛いほど視線を浴びながら車に戻ると、後部座席から身を乗り出したモーガンは、トニーに尋ねた。
「パパ、ママは取り戻せた?」
「勿論」
ふふっと笑ったモーガンの髪を撫でたトニーは、湖畔の家に向かうとペッパーに告げた。
「週末だろ?だから思い出の家で過ごそう」
先程の『奇跡』は、今頃SNSなどで拡散されているだろうし、そうなると今の家にはパパラッチが押しかけてくるに決まっている。
「そうね。あの家の方が落ち着くわ」
頷いたペッパーにキスをしたトニーは、車を走らせ始めた。

5年ぶりの家は、最後に過ごした時と何の変わりもなかった。敢えて言うなら、トニーの写真があちこちに飾られており、暖炉のそばの椅子の上に、アイアンマンのヘルメットが置かれていることだろうか…。
トニーが懐かしそうに家の中を見渡していると、懐かしい声が響き渡った。
『ボス、おかえりなさい』
F.R.I.D.A.Y.だ。ペッパーの今の家にはシステムは組み込まれていないため、5年ぶりに聞くA.I.の声に、トニーは目を潤ませた。
「ただいま、F.R.I.D.A.Y.」

ラボも何もかもがそのままになっていた。
作りかけだったアーマーもだが、もうすぐ完成しそうだったモーガンのおもちゃもそのまま残してあった。
綺麗に掃除はしてあるが、自分の存在を残してくれていたペッパーに、トニーは心の中で感謝した。

⑪へ…

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