サイエンス・フェアの日がやって来た。
トニーとペッパーは『ロボットと友達になれるか』というテーマで挑んだ。
トニーは感情を持ったA.I.やロボットを作りたいらしく、その試作品として、”D”という小型のロボットを作り出した。Dは言葉を喋ることは出来ないが、ピーという電子音を出した。そして数人の生徒に協力してもらい、Dの前で話をしてもらった。するとDは相槌を打つように、アームを動かしたり、電子音を出したのだ。
ロボットの出来栄えもだが、ペッパーが行ったデータのまとめ方も群を抜いており、2人は見事優勝することができた。
「スタークくん!やったわ!」
見たことがない程嬉しそうに飛び跳ねているペッパーに、トニーは釘付けになったが、それを隠すようにわざとらしく首を振ってみせた。
「俺を誰だと思ってるんだ?」
そしてフンっと鼻を鳴らすと、得意気にニヤっと笑ってみせた。するとペッパーは、上目遣いでトニーを見つめると、何度か目を瞬かせた。
「ねぇ、優勝のお祝いをしましょ?」
(それって……2人きりでってことだよな?!)
実はトニー、出会った時からペッパーのことが気になって仕方なかったのだ。どうも気恥しくて、いつもからかってばかりだったが、この1ヵ月、彼女のことを知っていくうちに、彼女に恋をしてしまったのだ。
彼女の気持ちは分からない。彼女の態度から考えると、自分は嫌われていると思っていたが、案外そうでもないのかもしれない。
そこでトニーはペッパーを連れて、サンタモニカにやって来た。ありきたりのデートスポットなので、文句の一つでも言われるかと思ったが、彼女は子供の頃に来て以来だと、珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡しており、トニーは気づかれないように息を吐いた。
ヘルシー志向のペッパーのために、オーガニックカフェに入った2人は、ジュースとピザで祝杯を上げた。そして食事を終えると、サンタモニカピアへ向かった。
沈みゆく夕日を黙ったま眺めていた2人だが、こんなロマンティックな場面でどうして黙っていなきゃいけないんだと思い直したトニーは、ゴホンと咳払いした。
「そういえばさ、ポッツさんってさ、放課後は何してるの?」
「家に帰って勉強してるわ」
まずは差し障りのないことから…と、無難な質問をぶつけてみたが、ペッパーの答えにトニーは目を丸くした。
「遊びに行かないの?」
「そうね、ほとんど行かないかも…」
「真面目なんだな」
感心したように唸ったトニーだが、ペッパーは寂しそうに微笑んだ。
「真面目というか…そういう友達はいないから…」
黙ったままのトニーに、ペッパーはチラリと視線を送ったが、俯き加減に言葉を続けた。
「私ね、こんな性格だから、仲のいい友達って小さい頃から殆どいないの。色々なことを相談できるような友達もいないわ」
(あなたのことを好きっていう相談も…)
トニーは相変わらず黙ったままだ。もしかしたら、あまりに堅物すぎて呆れられているのかも…と、正直に話したことをペッパーは後悔した。
が、何度か深呼吸をしたトニーは何か意を決したように顔を上げた。
「俺じゃダメ?」
「え…」
どういうことなのかと、目をぱちくりさせるペッパーを、トニーはじっと見つめた。
「俺が友達になる」
「またからかってるの?」
どう見ても彼がふざけて言っている様子はないのだが、今までの経緯から素直に受け止められないペッパーは、念の為そう聞いてみた。が、トニーは乱暴に頭を振ると、ペッパーの手を握りしめた。
「違う!からかってなんかない!お、俺……ポッツさんのこと…」
真っ赤な顔をしたトニーは、いつになく真剣な顔をしている。それはロボットを組み立てている時の彼と同じくらい真剣な眼差しだった。
「スタークくん…」
トニーの真っ直ぐな瞳に、ペッパーの胸は高まり、今にも心臓は飛び出してしまいそうだ。何度も深呼吸をしたトニーは、ペッパーにぐっと顔を近づけた。
「好きだ。ポッツさんのこと、好きなんだ」
その瞬間、2人の周りは時が止まったように静まり返った。
(スタークくんが……私のことを……好き…?)
にわかに信じられなかった。あのトニー・スタークがペッパー・ポッツのことを好きだというのだ。
「でも…でも…私…」
唇を震わせるペッパーに、トニーは何度も瞬きすると、優しく尋ねた。
「俺のこと、嫌い?」
嫌いだなんてとんでもない。彼を好きという気持ちは、もはや抑えることが出来なくなっているのだから…。
首を振ったペッパーだが、ポロっと涙が零れた。そして必死な思いで自分の気持ちを口に出した。
「私も…スタークくんのこと……好きなの…」
が、ペッパーは不安だった。トニー・スタークに地味で何の取り柄もない自分が釣り合うはずがない…と。
「でも…でも…私……」
しくしく泣き始めたペッパーに、トニーは戸惑った。お互い同じ気持ちなのに、どうして彼女は泣いているのか理解できないトニーは、不安げにペッパーを見つめたが、その視線に気づいたペッパーは、しゃくりあげながら蚊の鳴くような声で囁いた。
「あなたに相応しくないわ…」
ペッパーは涙に濡れた瞳でトニーを見上げた。そんな泣き腫らした顔でさえ可愛いと感じたトニーは、堪らずペッパーを腕の中に閉じ込めた。
「君は世界で一番素敵な女性じゃないか。完璧で、俺にはもったいないくらいの女性だ」
耳元で囁かれたペッパーは、トニーの言葉とそして彼の腕の力強さに、心がすぅと落ち着くのを感じた。
彼の気持ちをようやく素直に受け止めることができたペッパーは頷くと、嬉しそうにトニーの胸元に顔を押し付けた。
しばらくそのまま抱き合っていた2人だが、顔を上げたペッパーがトニーをじっと見つめた。
「ねぇ、誰にも言わないでね」
「何で?」
ペッパーは自分たちの関係を秘密にしておきたいらしい。彼女の意図が分からず首を捻ったトニーに、ペッパーは唇を尖らせた。
「だって、あなたのことを好きな女の子って、山ほどいるの。だから私があなたと付き合い始めたって皆が知ったら…」
モゴモゴと口を噤んだペッパーだが、トニーは所謂『女の事情』というやつなのだろうと、納得したように唸った。
「そうだな。それに、俺たちって、ほら、犬猿の仲だからさ」
学園内ではどう見ても仲が良いとは言えない関係なのだから、突然キスなどし始めれば、何があったのかと詮索されるに決まってる。それはそれで、追いかけ回され面倒だと考えたトニーは、目をくるりと回した。
「そのかわりさ、2人の時は名前で呼んでいいか?」
「うん」
嬉しそうに頷いたペッパーは、トニーの胸元に顔を押し付けた。
「君もだぞ。俺のこと、名前で呼べよ、ペッパー」
「分かったわ…スタ……じゃなくて……トニー」
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