その日から、トニーは何かとペッパーにちょっかいを出てきた。そして同じクラスということもあり、トニーの素行は否応がなしにペッパーの目に付いた。遅刻常習犯でサボり魔のトニーに、ペッパーは目くじらを立てて注意したが、トニーはヘラヘラするだけで、逆にからかわれる始末。
が、その性格故か、1週間もすると彼には大勢の友達ができた。1番の親友になったのは、ジェームズ・ローディだった。ブルース・バナー、クリント・バートン、そしてソー・オーディンソンという、学園内でもかなり個性的な面々とも意気投合していた。それにペッパーと同じくらい真面目で堅物なスティーブ・ロジャースも、気づけばトニーたちの仲間に入っていた。
放課後になると、彼らは楽しそうに話をしたり、街へ遊びに行った。そしてトニーはいつもその輪の中で笑っていた。
1ヶ月後。
学園内は来月に迫ったサイエンス・フェアの話題でもちきりだった。パートナーは教師が決定するので生徒達に選択の余地はないのだが、今年はあの天才トニー・スタークがいるのだ。誰しもが彼とペアになりたいと切望していたのだが、何と彼のパートナーに選ばれたのは、ペッパー・ポッツだった。
「何で私があなたなんかと…」
周囲からの嫉妬じみた声に耳を塞いだペッパーは、ブツブツと文句を言ったが、トニーは嬉しそうだ。
「いいじゃん。この機会にさ、仲良く…」
「あなたなんかと仲良くしたくないわ」
ツンっと不機嫌そうな顔をしたペッパーだが、トニーは一瞬寂しそうな顔をした。
「じゃあさ、俺が全部やっておくよ。適当にロボットを作って、適当にまとめて。で、君の名前も書いておく。完璧だろ?」
確かにそういう手もあるかもしれない。が、真面目なペッパーはそんなことは許せなかった。
「それじゃあ、ズルしてるようなものよ。ダメ」
トニーを睨みつけたペッパーだが、当のトニーは何故か頬を赤らめた。
その日から、放課後になると2人は実験室に篭もり始めた。
ロボット開発がトニーの得意分野ということもあり、学園内で使えるロボットを作ることになった。ペッパーが出したアイデアをトニーが形にする…。そこでペッパーは、トニー・スタークが天才と呼ばれる所以を身をもって体感した。何気なく出したアイデアも、トニーの手に掛かれば一つの形となってすぐに完成するのだ。そして彼はペッパーが思い付かないようなことを次々とやってのけた。そんなトニーと接することが、ペッパーは次第に楽しくなっていた。
1週間後。
約束の時間よりも遅れたペッパーが急いで実験室へ向かうと、トニーは先に作業を開始していた。
ロボットを組み立てるトニーは真剣そのもので、初めて見る彼の眼差しにペッパーは胸がドキドキし始めた。
暫くその横顔に見とれていたペッパーだが、我に返るとわざと足音を立ててトニーに近づいた。
「ポッツさん、遅かったな」
顔を上げたトニーは鼻の頭を擦ったが、手に油が付いていたらしく、真っ黒になってしまった。子供のような仕草に小さく笑みを浮かべたペッパーは、
「差し入れよ」
と、買ってきたサンドイッチを差し出した。
「俺、ハンバーガーが好きなんだよな」
そう言いつつも、受け取ったトニーは、美味しそうに頬張った。
と、ペッパーは気づいた。そういえば、お互いのことは何も知らないと…。
ただの同級生なのだから、別に彼のことなど知らなくてもいいのだが、何故か分からないがトニーのことが気になって仕方ない。
そこで、トニーが2つめのサンドイッチに手を伸ばしたところで、ペッパーは彼に提案してみることにした。
「ねぇ、ちょっとは仲良くならない?」
手を止めたトニーはペッパーを見つめた。
「どういう風の吹き回し?」
目をぱちくりさせている彼に、ペッパーは軽く微笑んだ。
「折角ペアになったのに、私ってあなたのこと、名前しか知らないから…」
ダメかしら…と小首を傾げたペッパーに、真っ赤な顔になったトニーは首を乱暴に振った。
「いやなことあるもんか!お、俺も…その…ポッツさんの好きな物とか知りたいし…。いや…その………あれだよ。今日はポッツさんが差し入れを持ってきてくれただろ?明日は俺が持ってくるから。でも、君のことだ。嫌いな物を持ってきたら、怒るだろ?」
どうして彼は真っ赤な顔をして慌てているのだろうかと、ペッパーは首を傾げた。だが、その時のペッパーは彼は急な提案に驚いているのだろうと思うことにした。
その日からの2人は、放課後に準備をしながら様々な話をした。好きな食べ物、好きな音楽、好きな本…。
1週間もすると、人前では以前と同じような手厳しい態度なのだが、2人きりの時のペッパーは、トニーに対してあまりつっけんどんな態度をしなくなった。
そんなある日のこと。
「なぁ、メガネ外してみて?」
データをパソコンに入力しているペッパーを見つめていたトニーが、不意にそんなことを口に出した。
「どうして?」
彼の真意が分からず、眉を顰めたペッパーだが、トニーはニコニコ笑うばかり。首を傾げながらもペッパーがメガネを外すと、トニーはパッと顔を輝かせた。
「やっぱり!ポッツさん、メガネ姿もいいけど、外すと断然カワイイよ!」
思いがけない言葉に、ペッパーは頬を赤らめた。
「からかってるでしょ?」
頬を膨らませそう告げると、トニーは不思議そうな顔をした。
「どうしてそんなこと思うんだよ。ポッツさんって、カワイイじゃん」
本気で言っているのかもしれないが、トニーにはいつもからかわれているのだから、素直に受け取れなかった。
「ふざけてないで、さっさと終わらせるわよ」
そう突き放したペッパーはメガネを掛けると、再びパソコンに向かった。
帰宅したペッパーは部屋に入るとベッドに寝転んだ。
『ポッツさんって、カワイイじゃん』
トニーに言われた言葉が頭から離れない。
初めてだった。家族以外の人にカワイイと言われたのは…。
(スタークくん…)
彼のことを考えると、胸がドキドキする。正直、恥ずかしくてまともに顔を見れない。
真剣な眼差しも、おちゃらけている顔も、時折見せる寂しそうな顔も…。
最初は嫌な奴という印象しかなかった。が、この1ヶ月、彼のことを知れば知るほど、もっと知りたいと思うようになっていた。どうしてこうも彼のことが気になるのだろう…。どうして彼のことを考えると、胸が苦しくなるのだろう…。
誰かに相談したいが、ペッパーには相談できるような友達はいなかった。そこで、携帯を取り出したペッパーは、『男性 胸がドキドキする』と入力し、検索してみることにした。
すると…。
「え………恋してるの……私…」
まさかこの自分が恋をするだなんて…。今まで一度も恋したことなどない。それがまさかあのトニー・スタークが相手だなんて…。
「スタークくんに恋?私が?そんなの…」
『間違ってる』と言おうとしたペッパーだが言えなかった。というのも、彼女は本当の自分の気持ちに気づいてしまったから…。
(私…スタークくんのことが…好き……)
トニーを思い出したペッパーは、真っ赤になった顔を隠すように、枕をぎゅっと抱きしめた。
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