ボスの日 (2017年)

ホムカミ直後のトニーとハッピー

***

「ボス、よかったですね」
婚約会見の翌朝。
顔を合わせるなり、満面の笑みのハッピーは抱きつかんばかりの勢いで私の両手を握りしめた。
「10年近く、持っていた甲斐がありました」
うんうんと大袈裟に頷いたハッピーは、昨日のことを思い出したのか、急に笑い始めた。
「あの後、ピーター・パーカーに車中でずっと聞かれたんです。本当に会見の準備なんかしていたのかと。だから、彼が車から降りようとしている時に言ったんです。テレビを見てみろと。そうしたら…」
言葉を切ったハッピーはくくっと笑った。
「ものの5分も経たないうちに、メールが届きました。いつもの如く大量に。最初は驚きの言葉ばかりでしたけど、最後はボスへの祝福の言葉が書いてありました。『スタークさんに伝えて下さい。ご婚約おめでとうございます。直接お伝えできればよかったんですけど…。今度お会いした時に、もう1度言わせて下さい』と」
そう言いながらハッピーは携帯を差し出した。画面には一方的なパーカーくんからの大量のメッセージ。そして最後には、先程ハッピーが口に出した祝福の言葉が添えられていた。

昨日の会見以降、名前も知らないような知人から祝福の言葉は数多く届いていた。が、ハッピーとローディ以外は親しい友人と言えるような仲間はいないのだから、どれも形式ばったものにしか見えなかった。そのローディからは、昨夜、ようやく言えたのかと揶揄い混じりの祝電があり、今夜はペッパーとハッピーも交え、4人で祝杯を上げることになっている。
その輪の中に、パーカーくんも加えてもいいかもしれない、彼は今や立派な仲間なのだから…と一瞬思ったが、彼は未成年であることを思い出した私は、その考えを追い払うように頭を振った。

「ところで、ハッピー。よく指輪をなくさなかったな」
律儀なハッピーは、私のそばにいる時は、本当にポケットに入れ持ち運んでいたらしい。
「当たり前です!大切なボスの頼みですから!何があっても死守しましたよ」
胸を叩いたハッピーは、相変わらずニコニコと笑っているが、その目は僅かに涙ぐんでいた。

そうだな、ハッピー。
お前は誰よりも私とペッパーのことを見守り、応援してくれていた。お前が大切に指輪を…私の心を持っていてくれたからこそ、彼女に伝えることができたんだ…。

だが、ありがとうと言葉に出すのは照れくさく、ハッピーの肩をポンっと叩いた私はサングラスを掛けると、先立って歩き始めた。

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