184. Fork

「トニー、私たちはね、分岐点に来てるの」
腰に手を当てているペッパーだが、その声は震えており今にも泣き出しそうだ。
「そうだな。分岐点だ。このままお互い別の道を歩むか、それとも同じ道に戻るか…」
私は気づかれないように深呼吸した。
距離を置いて早半年。あれから色々なことがあり過ぎた。そして気づいた。彼女がそばにいないことの虚しさに…。あの事件の後、彼女と本気で話した。お互いまだ思い合っていることは分かったが、彼女は言った。『あなたのことは愛してる。おそらく私はこれからもあなたしか愛せないわ。でもね、トニー。まだ自信がないの。あなたの側であなたを支えていく自身が…。だからもう少しだけ時間を下さい』と…。あれから数ヶ月経った。だが、未だ彼女との関係は修復できていない。悶々と日々を過ごしていたが、今日が彼女の誕生日であることを思い出し、プレゼントを渡すという口実で、彼女の住むアパートへ押しかけてみた。そして今後のことを話していたのだが、話し合いは平行線を辿り、結局いつものように『もう少し時間が欲しい』という話になった。だが、これでは解決にはならない。それならば、ここでハッキリさせようと言うことになったのだが…。

『離れていると恋しくてたまらない。何をしても君のことを思い出すんだ、ペッパー…。だからもう一度チャンスをくれ…』
そう伝えることができれば、どんなに楽だろうか…。だが、結局のところ、私自身は変わることができないのだ。だからまた彼女を苦しめることになるだろう…。そう思うと、『戻ってきて欲しい』と口に出すことはできなかった。
だから、卑怯だとは思ったが、言葉を濁して伝えることにした。
「ペッパー。これだけは言わせてくれ。この数ヶ月、君との距離を置いてみて分かったことがある。それは、私たちは何度も道を違えることはあっても、最後はきっと同じ道に向かって歩むということだ」
「トニー…」
ペッパーが表情を崩した。彼女の涙腺は今にも決壊しそうだ。だが、今までとは違い、彼女の瞳に迷いや葛藤はなかった。
「ペッパー…愛してる…。世界一愛してる…。だから…もう一度やり直さないか?」
気がついた時には、本音を口に出していた。そして次の瞬間、彼女は私の腕の中にいた。
「…トニー…愛してる…。あなたのこと、どうしようもないくらい愛してるの…」
大粒の涙を流す彼女の温もりに、心にぽっかりと空いていた穴がみるみるうちに塞がっていった。
(あぁ、ペッパー…。君の存在がこんなにも大きくなっているなんて…)
言葉に出す代わりに、彼女をぎゅうっと抱きしめた。腕の中の存在は、二度と絶対に離してはいけない存在なのだ。耳元でもう一度告げた。愛していると。そしてそのまま唇を頬に滑らせ、唇を奪った。
半年ぶりのキスに、パッと目の前が明るくなった。そうだ。これを欲していたんだ。もっと深く感じようと、彼女の腰を引き寄せた。求めていたのは彼女も同じだったようで、ペッパーは私の髪の毛を梳くように頭を引き寄せた。途端に口づけは深くなり、お互いの舌が絡み合った。下半身が熱くなり始めた。身体中が彼女を求め始めた。
「ペッパー…」
銀色の糸を引きながら唇を離すと、ペッパーは熱っぽい視線を向けた。
「トニー…あなたが欲しいわ…」
ペッパーが私に抱きついた。貪るようなキスを繰り返しながら、彼女は両脚を私の身体に巻き付けた。尻をギュッと掴むと彼女が身悶えた。
もう我慢の限界だ。寝室へ向かおうと思ったが、どの部屋か分からない。どうせ誰もいないのだ。この場で押し倒してしまえ…と、ソファーにペッパーを押し倒した。彼女の服を脱がせ、私自身も服を脱いだ。私の胸板に指を滑らせたペッパーは、そのまま下腹部にまで進めると、下着越しに私に触れた。
「あぁ…トニー……お願い……」
唇を舐めたペッパーは、妖艶な笑みを浮かべた。

あぁ、ハニー、君が欲しいのは私も同じだ。今日は最高の一日にしてみせるよ…。

待ちきれないとばかりに腰を振るペッパーの両脚を割り、半年ぶりに彼女を味わおうとしたその時だった。

「スタークさん!スタークさん!捕まえましたよ!」
聞き覚えのある声と共に、赤い何かが窓から飛び込んできた。乱入者の正体を探るべく振り返ると、そこにいたのはあのスパイダー坊やだった。私たちが何をしようとしているのか気づいていないのか、蜘蛛の坊やはベラベラ喋りながら近づいてくるではないか。
「もー、スタークさん、大変ですよ。スタークさんの車を盗もうとしてる奴がいたんです!だから、僕、そいつを捕まえましたよ!スタークさんも運がいいですね!僕、3ブロック先に住んでるんです!あ、ご存知ですよね、僕の家に来られたことありますし。そうそう、スタークさん!あんな高級車をこんな所に停めてたらダメですよ。それと、あの場所は駐車禁止です。切符切られる前に、ちゃんと駐車場に停めた方がいいですよ。ついでに……」
目の前までやって来てようやく気づいたのか、スパイダーマンは立ち止まった。
「ぼ、僕!お、お、お邪魔ですよね!すみません!」
マスクを被っていたから確かではないが、おそらく真っ赤な顔をしたスパイダーマンことパーカーくんは、目にも止まらぬ早さで窓から飛び出していった。

何と言えばいいか分からず、思わずペッパーと顔を見合わせると、耳まで赤く染めたペッパーは、小さく頷いた。
「あなたの家に行きましょ?」
「そうしよう」
我が家にはF.R.I.D.A.Y.という監視役がいるから、乱入者も追い返してくれるだろう。
急いで身支度を整えた私たちは、キスをしながらパーカーくんが死守してくれた車へと向かった。

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