「完成だ…」
数日前から作っていた物がついに完成したと、トニーはその場で大きく伸びをした。
「よし、J.A.R.V.I.S.、早速動かしてみよう」
『了解しました』
トニーの忠実なA.I.は、主人に言われた通りに起動した。するとトニーの目に前のモニターに、街の光景が映し出された。
トニーが作っていたのは、G●▲gleでお馴染みのストリートビュー。
それもリアルタイムで更新できるというハイテク機能付きだ。
「これがあれば、現場の様子もすぐに確認できる」
トニーが適当に地図を選択すると、サンタモニカの通りが現れた。
と、トニーが見慣れた後ろ姿に気付いた。
「あれは…ペッパーか?!」
見間違えるはずがない。それは彼の最愛の女性、ペッパー・ポッツだったのだから…。
「J.A.R.V.I.S.、ペッパーの後を付けろ」
『了解しました』
今日は友達とショッピングに行くと出掛けたペッパーだが、その友達の姿は見当たらない。この後待ち合わせしているのかもしれないが、何故か胸騒ぎがして仕方ない。
数分後、某高級ジュエリーショップに入って行ったペッパーだが、あろうことか見知らぬ男と店を出て来たではないか。
「なぁ…J…。あれはどう見ても男だよな…」
『はい、トニー様。生物学的にも立派な男性でございます』
友達と言うのだから、てっきり女友達と出掛けていると思っていたのに、どうして男と一緒にいるのだろうか。
しかも2人は随分と親し気だった。腕こそ組んでいないが、男性はペッパーよりも背が高く、傍から見れば恋人のように見える。と、男性がペッパーに何か囁いた。すると頬を真っ赤に染めたペッパーは嬉しそうにクスクス笑い出したではないか。
モニターを呆然と見つめるトニーの目の前で、2人はそのまま近くのホテルへと消えて行った。
「・・・・・・・・」
今からホテルの部屋に乗りこんで、どういうことだと問い詰めるべきなのかもしれないが、そんなことをすれば後をつけていたことがペッパーにバレてしまう。
絶句したまま椅子に倒れ込んだトニーに、ホテルの宿泊名簿を調べたJ.A.R.V.I.S.が声を掛けた。
『トニー様、ポッツ様とご一緒だった男性ですが…』
「いや、J…いいんだ…」
これ以上聞きたくないというように首を振ったトニーは、うなだれるとモニターを消すよう命じた。
***
その日の夜遅く、ペッパーが戻って来た。
いつもなら出迎えてくれるトニーなのに、今日は姿が見えない。それならまたアーマーの整備に熱中しているのかと思ったが、ラボにもその姿はなかった。
「J.A.R.V.I.S.、トニーは?」
『トニー様は部屋でお休みになられています』
そんなに遅くなったかしら…と時計を見たペッパーだが、時計の針は21時前を指している。こんな早い時間からトニーが眠ることなど、1年に1度あるかないかなので、体調でも悪いのかと、ペッパーは慌てて寝室へと向かった。
寝室をそっと覗くと、トニーはベッドに潜り込んでいた。
「トニー?」
そっと覗き込むと、もそもそとシーツの山が動き、トニーが顔を出した。
「遅かったな…」
声に全く覇気のないトニーに、ペッパーはやっぱり何かあったのかと心配になり始めた。
「遅くなってごめんなさい。それより、大丈夫?熱でもあるの?」
本気で心配してくれているようだが、例の映像が頭を過ったトニーは、首を振るとそっぽを向いた。
「私なんかより、デート相手のところに行けばいいだろ」
どうしてトニーがふさぎ込んでいるのかさっぱり分からないペッパーだったが、彼の言葉でようやく合点がいった。
「トニー。またつけてたの?」
眉を吊り上げたペッパーに、相変わらず視線を合わせずトニーは告げた。
「つけてはない。例のストリートビューを試していたら、偶然君を見つけただけだ」
ふぅとため息を付いたトニーは、起き上がるとペッパーを睨みつけた。
「で、あいつは誰だ」
不機嫌そうに唸ったトニーだが、何度か瞬きしたペッパーは、あろうことかクスクス笑い出した。
「トニーったら、彼はね、私のいとこよ!ジョン・ポッツ!」
「親戚なんかいたのか…」
今まで聞いたことのない存在に、トニーはポカンと口を開けたままだ。
というのも、ペッパーは一人っ子で両親は数年前に亡くなっているので、親戚どころか両親の話も殆ど聞いたことがなかったのだ。
そういえば話したことなかったわね、と目をくるりと回したペッパーは、靴を脱ぐとベッドの上に上がった。そしてトニーの隣に座ると、彼の手を取った。
「父方の親戚なの。父の父…つまり祖父の兄弟の息子さん。小さい頃に祖父の葬儀で一度会ったことがあるんだけど、顔も思えてなかったの。彼、IT関係の会社を経営しているらしくて、先日の会議で偶然再会したの。ほら、ポッツという苗字って珍しいでしょ?だからもしかしたら…と話をしていたら、親戚だと分かったの」
それがどうして今日の『デート』に繋がるのかと聞き出そうとしたトニーだが、彼の不安に気付いたペッパーが先に切り出した。
「彼、恋人にプロポーズするんですって。それで、エンゲージリング選びを手伝って欲しいと頼まれて…。そのお礼に、ディナーをご馳走してもらったの」
そう言って笑ったペッパーの左手には、先日トニーが贈ったエンゲージリングが光っていた。
つまり嫉妬していたのはお門違いだった訳で…。
「そうか、そういう理由だったのか」
安心したようにホッと息を吐いたトニーは、ペッパーの肩を抱き寄せた。彼の胸元に顔を押し付けたペッパーは、不安にさせてしまったことを謝罪しようと顔を上げた。
「あなたに話しておくべきだったわ。ごめんなさい」
いいんだと首を振ったトニーの頬を撫でたペッパーは、首を伸ばすとキスをした。
「トニー、私はあなたしか愛せないの。あなた以外の男性は、男として見てないから安心して…」
婚約者の可愛らしい言葉に気をよくしたトニーは、ペッパーを抱きしめると、嫉妬させた埋め合わせをしてもらおうと、そのままベッドに押し倒した。
最初にいいねと言ってみませんか?