ハッピーは面食らった。というのも、あのトニー・スタークが赤ん坊を抱いていたのだから…。
「ぼ、ボス…もしかして…」
ペッパーが妊娠したという話は聞いていない。となると、トニーの隠し子だろうか…。が、その割には子供の年齢が小さすぎる。そうなると、トニーの隠し子の子供…つまり、トニーの孫だろうか…。
あたふたしているハッピーの考えが分かったのか、顔を顰めたトニーは首を振った。
「違う。隠し子でも孫でもなければ、私とペッパーの子供でもない」
となると、この子は誰の子なんだ…。
ますますパニックになっているハッピーに、トニーは説明し始めた。
今朝早く、社員がタワーの入口に大きな箱が置かれているのに気づいた。子猫か何かだろうかと箱の中を覗いた社員は面食らった。というのも、箱の中には首が座ったばかりの生後4ヶ月くらいの赤ん坊がいたのだから…。
身元が分かるような物は一切入ってなかった。ただ『よろしくお願いします』と書かれた手紙だけが入っていた。
トニーとペッパーの元にも連絡が行き、警察が到着する前に2人は赤ん坊と対面した。
社員に抱かれた赤ん坊は大粒の涙を流し泣いていたが、栗毛色の髪をした可愛らしい女の子に、ペッパーは一目で魅了されてしまった。
「あらあら、泣かないで…」
社員から赤ん坊を受け取ったペッパーは、小さな頭をそっと撫でた。すると赤ん坊は安心したのかピタリと泣き止んだ。そしてペッパーの髪の毛を掴んだ彼女はそのままスヤスヤと眠り始めた。
「気に入られたみたいだな」
柔らかな頬をトニーがつつくと、赤ん坊はふにゃふにゃと顔を緩めた。
「…という訳だ。警察には届けたが、手掛かりが何もない。ジャーヴィスにも調べさせているが、名前も身元も分かるまで時間が掛かりそうだ。可愛いだろ?だから暫く預かることになった」
赤ん坊に魅了されたのは、ペッパーだけでなくトニーもだった。スヤスヤ眠る赤ん坊を見つめるトニーの瞳は見たことがない程優しく、彼もこんな表情をするのだなとハッピーは心の中で思った。
「で、ペッパーは?」
ボスの恋人はどこかへ出掛けたのか姿が見えない。
「買い物に行った。この子の物を買いに」
確かに子供のいないこの家には、赤ん坊に必要な物は何もないのだ。納得したように頷いたハッピーは、赤ん坊の頬をつついてみた。すると眠っていた彼女は目を覚ましてしまった。
「すみません…」
起こしてしまったと頭を下げたハッピーを、赤ん坊はじっと見つめていたが、ぱっと満面の笑みを浮かべると嬉しそうに手足を動かした。
「お前も気に入られたみたいだぞ?」
二やっと笑ったトニーは彼女をソファーに寝かせた。そして何やら訴えるように言葉を発した赤ん坊に、アイアンマンのぬいぐるみを渡すと、彼女はぬいぐるみを抱きしめた。
「かわいいですね」
一目で虜になってしまったハッピーは、ニコニコと赤ん坊を見つめたが、トニーは小さくため息を付いた。
「事情があるんだろうが、こんなに可愛らしいのに、手放さなければならないなんて…。辛いな…」
ポツリと呟いたトニーの表情は暗く、そんな辛そうなトニーの様子に気づいたのか、赤ん坊はじっと彼を見つめた。
「あー」
可愛らしい声を出し腕を伸ばした赤ん坊をトニーが抱き上げると、彼女は目を閉じトニーの胸元に顔を埋めるように擦り寄った。
「どうした?」
彼女の意図することが理解出来ず首を傾げたトニーだが、赤ん坊は次第にぐずり始めたではないか。
と、そこへ戻ってきたのはペッパー。
「ただいま」
トニーの腕の中でぐずっている赤ん坊を見たペッパーは、荷物の中から哺乳瓶を取り出すと不安げなトニーに向かって頷いた。
「もしかしたら、お腹が空いてるのかもしれないわ。待ってて、すぐにミルクを作ってくるから」
ミルクを飲んだ赤ん坊はオムツを替えてもらうと、満足したのか指をしゃぶり始めたが、その目は半分閉じている。それでも起きておこうとしているのか、必死で睡魔と戦おうとしている彼女は可愛らしく、そっと抱き上げたトニーは寝室へと連れて行った。
ベビーベッドはまだ届いていないため、トニーは眠ってしまった赤ん坊を自分たちのベッドの真ん中に寝かせた。
「可愛いな…」
トニーの指を握りしめたまま眠る赤ん坊の頬をつついたペッパーは、つかの間の母親気分を楽しんでいるのか、ふふっと嬉しそうに笑った。そんなペッパーを眩しそうに見つめていたトニーだったが、彼女が不在の間考えていたプランを打ち上げることにした。
「名前、ジニーにしないか?」
「え?」
赤ん坊の本当の名前は分からないが、いつまでも呼び名がないのは可哀想だ。だから早く決めてあげなければと思っていたのだが、まさかトニーがそう考えているとは思いもしなかった。
唇を震わせているペッパーの手をそっと取ったトニーは、手の甲にキスをすると今度は『ジニー』と名付けた赤ん坊の頬にキスをした。
「ジニー、大丈夫だ。私の愛するジニーはな、世界一素敵な女性なんだ。だから君もきっと世界一素敵な女性になれるぞ…」
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