※もしCWの空港バトルで、リアクターが破壊されたのがトニーだったら…。
「トニー、お誕生日おめでとう」
ベッドに横たわったままのトニーは、うっすらと目を開けるとペッパーを見上げた。ベッド脇の椅子に腰掛けたペッパーは、トニーの手を握ると傷だらけの頬にそっと触れた。その感触すら痛むのか、眉間にシワを寄せたトニーは苦しそうに小さく息を吐いた。
ベルリンで起こった不慮の事故。
リアクターを破壊され地上数キロの高さから墜落したトニーは、意識不明のまま病院へ担ぎ込まれた。ローディから連絡を受けたペッパーが病院へ駆けつけた時、全身の骨が砕けたトニーは手術中で、ペッパーが面会を許されたのは丸一日にも及ぶ手術が終わった後だった。
今年の5月29日をまさかこのような形で迎えるとは思ってもいなかった。
数か月前までは、2人きりのデートを楽しんでいると想像していたのに…。
数日前までは、互いのことを想いながら一人枕を濡らすのだろうと想像していたのに…。
それが現実は…そばにいるのには間違いないが、下半身麻痺で病院のベッドに寝たきりのトニーに付き添っているとは…。
あの日、『距離を置こう』と告げたのはペッパーの方だった。
マンダリンの事件の後、アーマーを全て破壊したのに、彼は結局止めなかった。
理由は分かっている。全ては『ペッパーを守るため』だ。ワシントンD.C.での事件、そしてウルトロンの事件が起こり、彼はますますアーマー作りにのめり込んでいった。
もう我慢できなかった。トニーのために全てを犠牲にし尽くしてきたつもりだった。結局彼はアーマー作りを止める気なんてさらさらなかったのだ。口約束はもう懲り懲りだった。だから『距離を置こう』と告げた。そう告げた時、彼は見るからに動揺していた。壊れそうなくらい儚く見えたのに、彼は何も言わなかった。ペッパーとて、トニーと別れるつもりはなかった。まだ彼のことを愛しているから。だが、ペッパーは一人の時間が欲しかった。トニーと離れ、今後についてじっくりと考える時間が…。
その矢先に起きた今回の事故。
彼のことを聞き、いてもたってもいられず駆け付けた。何とか一命をとりとめたトニーだったが、脊椎を損傷した彼は一週間経った今でもベッドから起き上がることもできなかった。そして心に傷を負ったこともあり、彼は話すこともままならない状態だった。
「痛み止めが必要?」
脂汗をかいているのに、トニーは小さく首を振った。
「大丈夫?無理しないで」
不安げなペッパーを安心させるように、トニーは何度か瞬きした。
「そうだわ。頼まれていた物、持ってきたわ」
2日前目覚めたトニーが苦しい息の中、必死に口を動かしペッパーに伝えたこと、それは『BARFを持ってきてくれ』ということだった。
ここ数ヶ月、トニーが巨額の資金を投じて開発に没頭していたもの、それがBARFだった。
ウルトロンの事件後、彼は以前にも増して社会奉仕に全力を注ぐようになった。まるで自身の罪滅ぼしのように…。MITでの基金設立もそうだが、このBARFもそうだ。彼自身のトラウマを実演することで、BARFの存在意義を世に示そうとした。それは人には決して自分自身を見せようとしなかった彼自身が下した決断だったが、当初はその場で寄り添い支えるつもりだった。だが、その前日、不幸にもお互い別の道を歩み始めてしまったのだが…。
テーブルの上にBARFを設置したペッパーは、トニーの準備が整うとスイッチを入れた。
すると、病室のソファーとテーブルは、見慣れた風景に差し替わった。
そこはNYの自分たちのペントハウス…そして数週間前の自分たちの姿だった。
しばらく離れようと提案する自分と、黙ってそれを聞いているトニーの姿に、いたたまれなくなったペッパーは、思わず顔を伏せてしまった。
今なら分かる。どうして彼が何も言わなかったのか…。なぜ止めもせずそのまま離れ離れになってしまったのか…。彼は自分の気持ちよりも、私の気持ちを優先してくれたから。それに数週間離れてみて、ようやく分かった。彼が自分にとって何より大切な存在であることが…。彼が約束を破り世界を救うことに没頭していることよりも、彼がただそばにいてくれることの大切さがようやく分かった。
だからこそ、自分は今この場にいるのだから…。
とにかく思いを伝えなければ…と、ペッパーが息を吸い込んだ時だった。あの時は黙ったままだったトニーが口を開いた。
『ペッパー、君がいないと私は何もできないし、ダメなんだ。だが、君の気持ちは分かる。君にばかり負担をかけてきたことも…。君に苦労ばかりかけてきたことも…。すまなかった、ペッパー。10年以上君のことを束縛してしまった…。だが、君のこと、守りたい…、君を傷つけたくない…、それだけが私の願いだ。だからもし私と離れて君が安らかに暮らせるなら…私は身を引こう…。ペッパー…ありがとう。今までありがとう…。本当にすまなかった……。だから…もう…自由になってくれ…。私のことは…気にせず…君の……』
と、映像が止まった。
辛うじて動く右手で取ったのだろう、ベッドの下に音を立てて落ちた装置が光を失うと同時に映像が消えた。右腕で顔を覆ったトニーは、声を押し殺しているが、頬には大粒の涙がボロボロと零れ落ちている。
どうして彼は自分ばかり我慢してしまうのだろう。本心を告げることなく、ただ耐えるだけなのだろう。非難されても彼はただひたすら受け入れるだけなのだろう…。
だがそれがトニー・スタークなのだ。特にこの数年…世のために闘ってきた数年、彼は良い意味でも悪い意味でも変わってしまった。明るく快活で派手なことが好きだった彼は、度重なる心労のためか、いつしか眉間に皺を寄せ、考え込むことが多くなった。人前ではそれなりに振舞っているが、家にいる時は時折別人かと思う程暗い表情をしていることが多くなった。それも全て分かっていたはずなのに…それを全て受け入れていたはずなのに…。どうして彼のことを心から信じることが出来なくなってしまったのだろう。彼はこんなにも一人苦しんでいたのに…。
涙を拭ったペッパーは、トニーの右手を取った。そして涙で濡れた彼の頬を拭うと、手の甲にキスをした。
「トニー…ずっとそばにいていい?」
彼女の言葉にトニーは眉を吊り上げた。正式に別れることが彼女を苦しめずに済む方法だとずっと考えていたのに、彼女はこれからも共にいたいと言うのだから…。
困惑しているトニーに微笑みかけたペッパーは、頭に巻かれた包帯の隙間から見える彼の髪をそっと撫でた。
「あのままあなたを失ってたかもしれないと思うと…今でもゾッとするわ。つまりね…あなたは私にとってかけがえのない存在。あなたがそばにいないと、私も生きていけないの。あなたのこと…心の底から愛してるんだから…。だから…お願い。あなたが良かったらなんだけど…これからもあなたのそばにいさせて…。あなたの支えにならせて…」
髪を撫でる温かな手にトニーはゆっくりと目を閉じた。ペッパーの心からの言葉は、彼女が出て行ってからの数週間、様々な出来事が襲いかかり荒むばかりだったトニーの心を癒してくれた。
ペッパーだけが心の底から自分のことを理解してくれている…。彼女のことを思い、一度は手放そうとしたが、やはり彼女は必要不可欠な存在だ。
再び目を開いたトニーは、口をパクパクと動かした。
(ペッパー……愛してる…)
零れ落ちた涙を拭うように唇を滑らせたペッパーは、彼の額にキスをした。
「えぇ、知ってるわ。あなたが私のことを本当に愛してくれてることは…。トニー、ごめんなさい。あなたが苦しんでいる時、そばにいなくてごめんなさい…」
と、トニーが右手を伸ばした。その手を握ると彼は力強く握り返してきた。そして彼はペッパーをじっと見つめた。以前の彼のように魅力的な煌めく瞳で…。
その力強い瞳を見た瞬間、ペッパーはようやく自分があるべき場所に戻ってきた気がした。
「トニー…愛してる…愛してるわ…。もう…二度と…あなたのそばを離れないから…」
握りしめた手に何度もキスをすると、トニーは『知ってるさ』というように、ニヤっと笑った。
「そうそう、明日ね、コロンビア大へ移るそうよ。あなたの容態が落ち着いて搬送できる状態になったからですって。そこで数回手術をして…」
コロンビア大にはその道の権威がいるらしい。トニーのように重傷を負った者が彼の手術を受け、再び歩けるようになったことがあるらしい。だが、トニーの場合は脊椎を酷く損傷しており、手術が成功しても、以前のように歩けるようになるかは分からないと、ペッパーは先程医師から告げられた。
それでも可能性が0ではない限り、トニーには最善の治療を受けさせたかった。きっと彼はどんなに辛い治療でも諦めないというはずだから…。そしてそれを支えるのが自分の役目なのだから…。
「大丈夫よ、何があっても私はあなたのこと、絶対に支えてみせる。だから安心して…」
ニッコリ微笑んだペッパーに、トニーは嬉しそうに笑みを浮かべた。
と、そこへローディがやって来た。
「トニー…話がある」
トニーの代わりにキャプテン・アメリカとウィンターソルジャーを追いかけシベリアへ向かったローディだが、そのことに関してはここ数日何も語ろうとしなかった。深刻な顔をしているところを見ると、もしかしてその話をしに来たのかもしれない。
「今、このタイミングでお前に話すのも気が引ける。お前はまず身体を治すことが先決だからな。だが、一刻も早く真実を告げるべきだと思ったんだ」
大きく深呼吸をしたローディは、トニーの目を真っ直ぐ見据えると口を開いた。
「お前の両親の死の真相だ」
トニーが目を見開いた。両親は『事故死』だとずっと信じていたからだ。最も両親の葬儀は国葬であったし、検視を行った複数の医師からもそう報告を受けており、疑う余地がなかったのだが…。
「死の真相って…」
困惑するペッパーはトニーを見つめたが、彼は唇を震わせ先程よりも青白い顔をしている。彼を守るように手を握りしめたペッパーは、続きを促すようにローディを見つめた。大きく深呼吸したローディは、声を絞り出した。
「事故じゃなかった…。ウィンターソルジャーに殺されたんだ…」
ローディの言葉にペッパーは息を飲み、そしてトニーは目を閉じた。
20年以上前の出来事とはいえ、やはり相当ショックだったのだろう。そのショックを悟られまいとしているのかトニーは目を閉じたままだが、小さく震えているではないか。
話し始めた以上、真実を告げるのが自分の役目だと、ローディは言葉を選びながら再び話し始めた。
「その時の映像を見た。お前の父親は…ハワードさんは…マリアさんは関係ないから助けてくれと命乞いしたんだ…。だが…ウィンターソルジャーはそれに聞く耳を持たず…2人とも…。悔しかった…。お前の心中を思うと…。それにキャップは…その事実を知ってたんだ…。それなのにお前に話さなかった…。キャップにとってウィンターソルジャーはずっと昔からの親友だ。だが、お前も仲間だったはず…。それに、ハワードさんもキャップとは仲間だったろ?それなのに、あいつは親友を庇ってばかりだった…。だから俺…悔しくて…。ウィンターソルジャーを殴り倒してやろうと思った。例え当時は洗脳されて命令されていたとしても、お前の前に連れてきて、土下座して謝らせてやろうと思った…。だが…すまない…。俺が力不足だった…。ウィンターソルジャーの腕をへし折ってやるところまでは出来たんだが、その後、キャップが死にものぐるいで向かってきた。俺は倒され、あいつらは逃走した…」
ふぅと息を吐いたローディはトニーを見た。
トニーは相変わらず目を閉じたままだった。だが、頬には幾筋もの涙の跡が刻まれており、握りしめた右手は大きく震えていた。
父親とは死ぬまで確執のあったトニーだったが、この数年で彼は父親の愛を知り、そして父親の存在を受け入れてきた。父親はS.H.I.E.L.D.の創設者であり、国家機密にも関わってきた人物だから、もしかしたら暗殺されたかもしれないと、言葉には出さないが彼も多少は感じるところがあったのかもしれない。だがそれ以外に母親のことでショックを受けているに違いない。母親はトニーの最大の味方であり理解者だった。今でもトニーは心底母親のことを愛している。それ故に、父親とは違い、何も関係のない母親が無惨にも殺されたことに、トニーは深い悲しみと怒りを覚えているだろう。
それなのに、自分は何も出来なかった。
ぬけぬけとキャップとウィンターソルジャーを逃がし、トニーと面を割って話をさせることすらできなかった。
静かに涙を流すトニーに、ローディは頭を下げた。
「すまない、トニー…。お前をこんな目に合わせたこと…それにお前の両親のことも…。あいつらに謝らせてやろうと思ってたのに…。それなのにあいつらに謝るよう言っても、キャップは『バッキーはヒドラに洗脳されていたから仕方ない』の一点張りで…。悔しかった…。お前はいつも責められてばかりなのに、お前が被害者の立場になると、何でそんなこと言われるのか…。すまない…本当にすまない…。俺がもっと強かったら…。あいつらを説得できる力があったら…。すまない…」
ローディの言葉はペッパーの胸に重くのしかかった。
今回の一件では、なぜトニーの思いを誰も理解してくれなかったのだろう。結局、彼のことを心から信じ、そして支えていけるのは、自分とそして今、彼のために泣いている彼の親友だけなのかもしれない…。
ボロボロと泣き始めたローディは、ただ『すまない』と繰り返すばかり。ペッパーも動かない左腕に手を添え、涙を流している。
確かにあのウルトロンの一件以降、自分は世間の非難の的となっていた。それは社会的地位や知名度という観点からしても、マスコミや大衆の前に出る機会が一番多いということもあるだろう。だからこそ、自分の地位を利用して、人々の救済に当たってきた。罪滅ぼしと言われても、ヒーローとは別の形で世の中の役に立ちたかった。
世間から非難される辛さは十分分かっている。だからこそ、失態を犯したチームを、そして新たなメンバーを世間の目から守ろうと必死だった。協定が歯止めになると思った。
ウィンターソルジャーのこともそうだ。キャプテンが彼をどんなに大切に思っているかは分かっていた。だが彼が勝手に動けば事態は悪化することも分かっていた。最善を尽くそうと努力したが、事態は予想以上の最悪の方向へと向かってしまった。空港で『敵は他にいる』と言われたが、あの状況で信じろと言われても出来るはずがなかった。案の状、自分は大怪我を負い、どうすることも出来なくなってしまった。
結局スティーブ・ロジャースは自分のことを友達とも仲間とも思ってくれていなかったのだろうか…。父親から憎らしい程聞かされていたキャプテン・アメリカは、ハワード・スタークのことも何とも思っていなかったのだろうか…。父を殺した犯人が、自分の親友だから庇っていたのだろうか。だが、何よりも許せないこと…それは何の関係もなかった母親を殺したことだ。ただ父親と同じ場所にいたという理由だけで、母は殺されたのだ。大好きだった母親を突然奪われた悲しみと怒りを、『仕方ない』の一言で済まされると思っているのだろうか…。
もし自分がシベリアに行っていたら、あいつらが詫びるまで殴っていただろう。自分では敵わない相手かもしれないが、謝罪の言葉を聞くまで、殴り続けていただろう…。
その思いを目の前の親友は分かってくれていた。自分の代わりに、まるで自分のことのように怒ってくれた。
それにペッパーも…。怒りに燃える瞳をした彼女は、先ほどからシーツを硬く握りしめている。
十分じゃないか。自分には、共に泣き、怒り、喜んでくれる大切な存在が2人もいる。
ペッパーとローディがいれば、この先何があっても乗り越えていける…。
目を閉じたまま何度も首を振ったトニーはゆっくりと目を開けた。そして彼は澄んだ瞳でペッパーとローディを順番に見つめた。まるで『君たちがいる…それで十分だ…』と言うように…。
右手を伸ばしたトニーは、ローディの手を握りしめた。そして肩を竦めるとわざとらしくため息を付いた。
『いつまでも泣くな。女々しいぞ』
そんなトニーの軽口が聞こえた気がし、ローディーは涙を袖口で乱暴に拭うと鼻を啜った。
「そうだ。誕生日おめでとう、トニー」
今日ここに来たもう一つの理由を口に出すと、トニーも微かに笑みを浮かべた。
「誕生日はお前と飲み明かそうと思ってたんだが、退院するまでお預けだな」
残念だなと大袈裟にため息を付いたローディが首を振ると、突然音もなくヴィジョンが目の前に現れた。
「きゃ!!」
心底驚いたのだろう、小さく悲鳴を上げたペッパーだが、訪問者がヴィジョンだと分かるとふぅと大きく息を吐いた。
「ちゃんとドアから入ってくれていいのよ?」
大きな箱を抱えたヴィジョンはペッパーに軽く頭を下げると、テーブルの上にそれ置いた。
「ポッツ様、頼まれていた物、受け取って参りました」
「ありがとう、ヴィジョン」
目的の物が届いたと満面の笑みを浮かべたペッパーは、いそいそと何やら用意を始めた。
その隙にヴィジョンはトニーの元へ近寄った。
相変わらず宙に浮かび移動する元A.I.は、壁をすり抜けて現れたらしい。
『それはするなと言っただろ?』と言うように、眉を吊り上げたトニーに、ヴィジョンは深々と頭を下げた。
「トニー様、本当に申し訳ありませんでした…」
ファルコンを止めようと放った光線は、不幸にもトニーのリアクターを直撃した。
コントロールできなかった。他のことに気を取られ、出来ると思っていたことができなかった。そのせいで、トニー・スタークに一生背負っていかねばならぬかもしれない重荷を負わせてしまった。
(これは戦いの最中に起こった事故だ。誰のせいでもない。だから後悔はしていない…)
腕を伸ばしヴィジョンの腕にそっと触れたトニーは、彼の腕を軽く突いた。そして頭を上げたヴィジョンに向かってトニーは笑みを浮かべると大きく頷いた。
『おい、ヴィジョン。二度と謝るなよ』
そんな声が聞こえ、ヴィジョンは頷くとペッパーが準備を終えたのを横目で見ながら話題を変えた。
「ところで本日はあなた様の46回目のお誕生日ですね。おめでとうございます、トニー様」
と、病室の灯りが落とされた。何が始まるんだと目をきょろきょろと動かしていると、ローディがトニーのベッドを起こし始めた。
「トニー、4人しかいないが、誕生日パーティーの始まりだ」
「トニー様のお好きなシャンパンはご用意できませんでしたが、ポッツ様が絶賛される店のケーキはご用意致しました」
と、ペッパーが大きなケーキを抱えて近づいて来た。
4人では食べきれそうにない、3段にも及ぶ大きなケーキは、赤と黄色…つまりはアイアンマンカラーで派手にデコレーションされており、最上段には「46」という数字をした蝋燭が鎮座している。
今年はこんな状況なのだから、まさか祝ってもらえると思っていなかったのだろう。目を潤ませたトニーは嬉しそうに3人を見渡した。
『ありがとう』
口を動かしそう告げたトニーの目の前に、ペッパーはケーキをそっと置いた。
「トニー、あなたは1人じゃないわ。私たち家族がいるわ。あなたのそばにずっといるから…」
そう言うと、ペッパーはトニーの唇にそっとキスを落とした。
46回目の5月29日はいつもと違う祝い方だったが、46年間で最高の5月29日となった。