そろそろ戻って来る頃だろうと、トニーはリビングへ向かったが、そこはもぬけの殻だった。
「F.R.I.D.A.Y.、ペッパーは?」
有能なA.I.に尋ねると、彼女はフライトプランを表示させ説明をし始めた。
『ポッツ様は先程定刻通り到着されました。後15分でお戻りになられます』
15分後には数日ぶりにこの腕で彼女を抱きしめられる。そう思うと、いても経っても居られなかった。だが彼はトニー・スタークだ。最愛の女性が相手と言えども、女性に現を抜かしている姿を見せる訳にはいかないのだ。いや、これがこの場に自分一人ならそうは考えないのだが…。
「スタークさん!」
背後から嬉々とした声が聞こえ、トニーはため息を付いた。
頭を抱えているトニーに気付いていないのか、声の主…つまりはスパイダーマンことピーター・パーカーはトニーの周りをまるでウサギかバッタのように飛び回っている。
このピーター・パーカ、あの一件以来なぜかトニーに懐いていた。最初は憧れと尊敬の念が勝っていたのだろうが、PCや機械弄りの好きなこの少年をトニーもいつしか可愛がるようになっており、数か月経った今では、用もないのに顔を出すようになっていた。
「スタークさん!ポッツさんが帰って来るんですか?!それは楽しみですね!だってポッツさんの料理っておいしいですから!何日ぶりです?5日ぶり?楽しみだなー!」
相変わらずベラベラと話すピーターをトニーはジロリと睨み付けた。
(久しぶりに戻ってくるのだから、ペッパーと何がしたいか分かるだろ?さっさと退散しろ、スパイダー坊や!)
と、内心苛立ったトニーだが、自分の子供程の年の少年に告げる程、彼も野暮ではなかった。
だが、このままだと彼はいつまでも居座るだろう。そうなると、2人きりの『大人の時間』がどんどん減ってしまう訳で…。
どうしようかと思案していると、目の前のエレベーターが開いた。
「ただいま、トニー」
まだドアが開き切っていないのに飛び出してきたペッパーは、トニーの腕の中に飛び込んで来た。
と、トニーの思考は腕の中のペッパーに集中した。つまりは、後ろにいるピーター・パーカーの存在は忘れてしまったということだ。
ペッパーを抱きしめたままくるりと一回転したトニーは、そのまま彼女の頭を抑え込むと、濃厚なキスをし始めた。
唇の隙間から舌を侵入させると、ペッパーは待ち構えていたようにトニーを迎え入れた。
2人の息遣いと時折聞こえる水音が静まり返ったリビングに響き渡っている。
「ん…ぁぁ…」
唇を離した隙に漏れ出たペッパーの甘い吐息に、息を潜めて見守っていたピーターは飛び上がった。
大人なキスは高校生であるピーター・パーカーには少々刺激が強すぎたのだろうか。真っ赤に顔を染めたピーターは、慌てて窓から帰って行った。