※トニー1歳。
1971年5月29日。NYのスターク邸には、朝からハワード・スタークの怒声が響き渡っていた。
「スマッシュケーキは用意しただろうな?!」
「ご指示の通り用意いたしましたが…」
ジャーヴィスが閉口したのも無理はない。彼の目の前には、超巨大なケーキが置かれているのだから…。
キャプテン・アメリカのシールドを模したそのケーキは、長身の自分と同じくらいの大きさをしている。1歳になったばかりのトニー様がかぶりつくには少々…いや、大きすぎるのでは…と思ったジャーヴィスだが、相手はハワード・スタークだ。可愛い愛息子 アンソニー・エドワード・スタークことトニー・スタークの1歳の誕生日なのだから、豪勢にしようと張り切ったのだろう。そうなるともう誰もハワードを止められないことは、トニーが誕生し1年経った今、誰しもが知っている事実だった。
今日のパーティーもLA中の著名人が招待されたのかと思うような人数なのだから、スターク家の使用人たちは朝から大忙しだった。が、それもスターク家のアイドルである可愛いトニー坊ちゃまのためだと、皆一堂に張り切っていた。
「ハワードったら…相変わらずやりすぎなんじゃない?」
ハワード・スタークに物言える人間は、この世に数えるほどしかいない。妻のマリアとそして…。
「いいだろ。一生に一度しかない一大イベントなんだぞ、ペギー!」
声の主…つまりはペギー・カーターはやれやれというように肩を竦めた。
と、可愛らしい声が聞こえ、ペギーもハワードも頬を緩めた。
「あら、トニーったら!男前ね!」
母親であるマリアに抱かれやって来たのは、本日の主役であるトニー・スタークだ。大好きなペギーおばさんを見たトニーは満面の笑みを浮かべ、ペギーに手を伸ばした。
「スマッシュケーキの時間には、全部脱がせないと大変なことになっちゃうわ」
ペギーに息子を渡しながら、マリアはくすくすと笑みを浮かべた。一人前にスーツを着こなしネクタイを締めたトニーは、ペギーに抱かれご満悦だ。
「それにしても大きすぎるわよね。トニーが溺れなきゃいいけど」
「ハワードの方が溺れるかもしれないわよ」
顔を見合わせた2人はクスクスと笑った。
ハワードの挨拶で始まったパーティーは、1時間もすると本日の一大イベント、スマッシュケーキの時間へとなった。
おむつにネクタイという恰好のトニーをハワードが抱いてステージに上がると、客からは盛大な拍手が送られた。
ステージの中央にはあの巨大なケーキ。その前にトニーを座らせたハワードは、頭に王冠を被らせると息子に声高々と告げた。
「さぁ、トニー!男らしく思いっきりかぶりつけ!」
目の前には大きすぎて見えないが、何やらカラフルなものがある。目を輝かせたトニーは、確認するように父親を見上げた。
「いいぞ!いけ!トニー!」
と、一斉にカメラのフラッシュがたかれた。その光景に一瞬驚いたトニーだったが、幼いながらに場をわきまえている彼は、カメラに向かいニッコリと微笑んだ。
そして巨大ケーキに向かって思いっきりダイブした。
顔面からケーキに突っ込んだトニーはしばらくして顔を上げたが、頭の先から足の先まで全身真っ青に染まっていた。ケーキの上に座り込み指先を舐めたトニーは、初めて食べるケーキの味に顔を輝かせると、足元のケーキを掴み頬張った。
何とも可愛らしい姿に、客からは惜しげもない拍手が送られたが、気をよくしたハワードは飛び散ったケーキを避けながらトニーに近づいた。
「さすがはわが息子!」
流石にケーキだらけの息子を抱き上げるのは躊躇したのだろう。頭を撫でようとハワードが手を伸ばした時だった。
あろうことか、トニーがハワードの手を引っ張ったのだ。
「わぁぁ!!!」
足を滑らせたハワードは、悲鳴と共に顔面からケーキに突っ込んでしまった訳で…。
その瞬間、屋敷中がシーンと静まり返った。顔を上げたハワードに、何が悪かったのか状況が理解できないトニーは、とにかく美味しい食べ物を父親にも分けてあげようと、掴んだケーキを差し出した。
「そうか、そうか。美味かったからパパにもくれるのか!」
ははっと笑ったハワードは、ケーキの上に座り込むと、息子の差し出したケーキをぱくりと口にした。
幼い息子同様、全身ケーキだらけになり笑っているハワード・スターク。そんなハワードの姿は今まで一度も見たことがないが、愛に溢れた家族の瞬間には違いない。再び惜しげもない拍手が送られ、トニーを抱き上げたハワードは立ち上がった。
ちなみに、ステージの裾では、マリアとペギーが『やっぱりこういう展開になったわね』と微笑んでいたとか…。