140.Bridge(アベアカAU)

「頼む!ブルース!一生のお願いだ!」
そう叫んだ友人は目の前の地面に土下座した。
ちなみに彼の『一生のお願い』は今週に入ってすでに3回目だけど、人目に付く場所で…それも大声でやられると、流石にNOと言えるはずもなく、僕は盛大なため息を残しながらも了承した。

校内を探す覚悟をしていたのに、お目当ての人物はすぐに見つかった。
「ポッツさん、今、いい?」
ロッカーから荷物を取り出していた彼女は、僕に気付くとふんわりと笑みを浮かべた。
「あら、バナーくん、またスタークくん?」
3日続けてのこのやり取りなのだ。苦笑した僕に、彼女はクスクスとおかしそうに笑い始めた。

彼女の言う通り、この件には僕の友人トニー・スタークが関わっている。金持ちで天才、女性から絶大な人気を誇る彼は、学園一の有名人。そんな彼がある日突然恋をした。相手は今、僕の目の前にいるペッパー・ポッツ。だけど、あれだけ女性の扱いに慣れている彼が、どうしたものか、彼女に話しかける勇気がないと言い出した。いや、正確にはすぐに声を掛けたらしい。『ポッツくん、これから僕の家で朝まで愛を語り合おうじゃないか』と初対面でいきなり家へ誘ったものだから、真面目で優等生な彼女はこっぴどく振ったらしい。あの日のトニーは酷く落ち込んで、そのまま地下深く潜ってしまうのではないかと思うほどだった。何故って、彼は今まで一度も振られたことがなかったから。僕が彼女と生徒会で面識があると知った彼は、翌日から彼女のことを根掘り葉掘り聞きまくった。そして1か月かけて彼女について入念な下調べをした彼は、こうやって僕を使者にして彼女を振り向かせようと必死なのだ。

託された手紙を手渡すと、彼女はそれを大切そうに胸に当てた。正直この反応は意外だった。彼女は今まで見たことがない程幸せそうに笑っていたから。
困惑する僕に気付いたのか、恥ずかしそうに頬を染めた彼女は何度か瞬きをした。
「ねぇ、バナーくん。私ね、スタークくんのこと苦手だったの。だって、彼って派手だし、女の子といっぱい噂になってるし…。私とは住む世界の違う人なんだってずっと思ってた。あなたがこうやって届けてくれる手紙…最初はまた変なことが書いてあると思ったの。でも、スタークくんの気持ちが正直に書いてあったの。それから、私のことも…。彼、私のことをすごくよく見てくれてるんだなぁって感じたわ」
すぅっと深呼吸した彼女は、僕の目を真っ直ぐ見つめた。
「スタークくんに伝えてくれる?今日の放課後、ここで待ってるって…」
それってつまり…と、ポカンと口を開けたままの僕に可愛らしい封筒を押し付けると、彼女はパタパタと駆け出して行った。

しばらくして我に返った僕は、封筒を見た。
『スタークくん』と彼女の字で書かれた名前の後ろには、小さくハートマークが添えられている。
この1か月の僕の仲介人としての苦労が報われた瞬間だった。

トニー、ついにやったぞ!

そう叫びたい気持ちを必死で抑えた僕は、おそらく僕の帰還を今か今かと待ちわびている友人の元へと走って行った。

アベアカAU。Gallery4にある『ある日常』の前のお話。

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