⑤
それから数日後。トニーのリハビリが始まった。
ベッドの上で腕や足を持ち上げてもらうトニーだが、自力ではいくらやっても動かすことができない。
日々、必死でリハビリを続けるトニーだが、ダラリと下がった腕も足も何一つ感じることはなかった。
早く復帰したい…ペッパーやそして仲間を早く安心させたい…。
願望とは裏腹に身体は言うことを聞いてくれない。
目に見えてイラついているトニーをペッパーは黙って見守るしかなかった。
ある日、ペッパーが病室に戻ってくると、ベッドの上に起き上がったトニーがじっと右腕を見つめていた。
その瞳は暗く、そしていつものような覇気もなく、心配になったペッパーは慌ててベッドに駆け寄った。
「トニー、どうしたの?」
俯いたままのトニーは目をキュッと閉じると、絞り出すような声で呟いた。
「なぁ、ペッパー……もう…無理なのかもしれないな…」
ポツリと呟いたトニーの言葉は、ペッパーの胸に突き刺さった。
そんなことはないから諦めないでと励まそうかと思ったペッパーだが、トニーは必死で頑張っているのだ。
頑張っても何一つ変わらない状況が一番悔しいのはトニーなのだ。
しばらく黙っていたペッパーだが、徐にトニーの動かない右手を取ると親指を口に含んだ。
「ハニー…」
困惑した表情を浮かべたトニーに、指を離したペッパーは静かに尋ねた。
「感じる?」
「…いや…」
首を振ったトニーだが、人差し指を撫でられると、ペッパーが何をしようとしているのか理解したようだ。
「こっちは?」
「ダメだ…」
順番にトニーの指に唇を当てていくペッパー。期待に満ちていたトニーの瞳だが、やはり何も感じることはなく、その目には次第に失望の色が浮かんできた。
(神様…お願いします…)
最後に祈るように小指を口に含んだ時だった。トニーが目を軽く見開いた。
「トニー?」
トニーの表情の変化に気付いたペッパーは、彼の右手を握りしめた。
目を見開いたままのトニーはゆっくりとペッパーに顔を向けたが、その瞳は先ほどまでの暗く淀んだものではなく、希望の欠片が垣間見えた。
「…感じた…。君の唇…感じたんだ…」
震える声でそう呟いたトニーは浮かんだ涙を隠すように何度か瞬きをした。
「ホント?」
微かに笑みを浮かべたトニーの髪を黙って梳いていたペッパーだが、彼の身体が小さく震えていることに気付くと、頭を胸元に引き寄せた。
「ねぇ、トニー。焦らないで。少しずつでいいの。あなたは頑張ってる。だからね、神様はちゃんと見て下さってるわ。それに、私があなたのこと、ずっと支えるから…。何があっても絶対にあなたのそばにいるわ…。だから…」
まるで安らぎを求めるかのように、そしてそばにいてくれと言うように、胸元に顔を埋めているトニーはまるであのクリスマス前の夜のよう。
(大丈夫よ…もう二度と逃げないって決めたんだから…)
頭に軽くキスをおとすと、トニーは左腕をペッパーの身体に巻き付けた。
→⑥へ…