One life ends…another begins.①


「ペッパー…別れよう…」
突然切り出された別れの言葉。口をポカンと開けたままのペッパーに対し、トニーは怖いほど真剣な眼差しをしている。
「で、でも…私…」
言葉に詰まったペッパーは、トニーにしがみ付いた。だが、いつもなら抱きしめてくれるのに、トニーは立ち尽くしたままだった。
視線を合わせようとしたが、トニーは目を閉じてしまった。
「君のこと…愛せない…」
苦悶の表情で言葉を絞り出したトニーは目を開けたが、その瞳は潤んでいる。そして相変わらず一度も目を合わせようとしないトニー。
(彼は嘘をついたりやましいことがあると、目を絶対に合わせない。明らかに嘘を付いている…)
長年傍にいたペッパーだからこそ分かるトニーの癖。だからこそ、彼の本心を聞き出そうとペッパーは必死だった。
「トニー!私は嫌!それに…私…」
トニーに話していないことがあった。それは昨日分かったこと。お互い忙しく2日ほど顔を合わせていなかったから、今日会ったら一番に話そうと思っていたこと。この話を聞いたらきっと彼は考え直してくれるはず…。
だが、ペッパーの願いも空しく、トニーは頭を下げた。
「ペッパー…頼むから……。すまない……」
頭を下げたまま動かないトニーの姿に、ペッパーは彼の言葉は本気だと悟った。

「トニー…本気なの?」
しばらくしてようやく言葉を発したペッパーに、トニーは絞り出すような声でつぶやいた。
「あぁ…」
何があったのか分からない。だが、トニーは決して理由を語らないだろう。それならば、時が来るまで待つしかない。それが例え永遠にだとしても…。

「分かったわ…。さよなら…トニー」
涙を隠すように顔を逸らしたペッパーは、部屋を出て行った。
トニーは最後まで目を合わせなかった。

アイアンマンを辞めなければ、彼女を傷つけると言われた。だが、きっとアイアンマンを辞めても、彼女はいつの日か傷つけられるだろう…。四六時中一緒にいることはできないのだ。だから、彼女を守るためには、彼女を自分から遠ざけるしかないのだ。

「すまない…ペッパー…」
眠れないトニーは、酒に溺れ始めた。

『トニー様…よろしいのですか?』
リビングにも寝室にも…ペッパーの痕跡が残る場所へは一切近づかないトニーは、ラボの片隅で酒を飲み続けていた。
部屋の隅から心配そうに見つめるダミーとユーは、何か訴えるようにアームを動かした。
見るに見かねたジャーヴィスが声を掛けるが、トニーは何も言わず、ただ飲み続けた。
「いいか。ペッパーには絶対に言うな。これでいいんだ…。これで彼女は私と無関係だ…。だから…傷つくことはない…」

そうは言っても、あの日以来、一日中危険な任務に身を投じ、帰っても食事もせず眠ることもせず、ただひたすらラボの片隅で酒を飲む主人が心配になったジャーヴィスは、こっそりと主人の最愛の女性に連絡を取った。それは、ペッパーが家を出て7日目のことだった。
話を聞いたペッパーは、あの時強引に聞き出せばよかったと後悔した。
だが…トニーの思いも痛いほど分かるペッパーは、彼の決断を踏みにじることはできなかった。
『ペッパー様…トニー様のそばに戻ってきて頂けませんか?』
「…ジャーヴィス…。ごめんなさい…。私が戻れば、トニーは苦しむことになるわ…。だから、今は戻れない…。ごめんなさい…」

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