「長編」カテゴリーアーカイブ

The best thing my dad ever made.⑧

その頃、モーガンたちは目的地へと到着した。だが、辺り一面、建物の残骸があるだけだ。
「パパ!!ママ!!!」
大声で呼びかけたが、物音一つ聞こえない。何かに遮られているのか、生命反応も探知できない。
間に合わなかったのかと、モーガンは唇を噛み締めた。
と、その時だった。
『モーグーナ………』
どこからともなく父親の声が聞こえた。
「パパ…」
パパとママは、きっと何処かにいるはずだ。私のことを待っているはず…。

ピーターとローディは捜索の範囲を広げようと、建物の残骸から離れていった。
だが、追跡装置が示しているこの場所に両親は必ずいると、モーガンは信じていた。
「…もしかして……」
瓦礫の山に降り立ったモーガンは確信した。
(きっとパパとママはこの下にいる)
そう考えたモーガンは、瓦礫を退かし始めた。大きな瓦礫はリパルサーで吹き飛ばしたが、が、数が多く、なかなか全てを退かすことが出来ない。
こうしている間にも両親は苦しんでいるかもしれないのに、一向に減らない瓦礫の山に、涙が出てきた。
「早く…早くしないと!」
急げば急ぐほど、瓦礫は粉々になって散らばっている気がする。
「ローディおじさん!ピーターお兄ちゃん!」
モーガンが何度か叫ぶと、辺りを捜索していたローディとピーターが戻ってきた。
「きっとこの下よ!」
瓦礫を吹き飛ばしながら叫んだモーガンに、2人は大急ぎで加わった。3人だと作業も進み、あっという間に地面が見えた。すると、大きな鉄の板が見えてきたではないか。その鉄の板を動かすと、階段が現れた。急いで階段を降りると、溶接された鉄の扉が目の前に立ち塞がった。
「どけ!」
一言叫んだローディは、リパルサーを放った。

***

外から微かに音がする。
もしかしたらあいつらが戻ってきたのかもしれない。
起き上がったペッパーがトニーを守るように身体を伏せた瞬間、扉が吹き飛び誰かが入ってきた。
「ペッパー!」
聞き覚えのある声に顔を上げると、ウォーマシーンとスパイダーマンが姿を現した。
「ローディ!ピーター!」
助かった。助かったのだ。
安心したペッパーの目からは涙が次々と溢れ落ちた。
が、よく見ると彼らの後ろに誰かいるではないか。それは…。
「ママ!」
アーマーに身を包んだモーガンだった。
「モーガン!」
母親に駆け寄ったモーガンは抱きついた。
「ママ…無事でよかった」
泣き出したモーガンは、母親をギュッと抱きしめると、声を上げて泣き始めた。

「トニー!」
「スタークさん!!」
ペッパーをモーガンに任せたローディとピーターは、トニーの元に向かった。ローディはトニーをスキャンした。が、生命反応がない。つまりトニーは…。
「諦めてたまるか…」
トニーの身体をそっと抱き上げたローディは、立ち上がった。

「パパ……」
しゃくり上げながら、ローディが父親を運び出すのを見た、モーガンは小さく悲鳴を上げた。父親は血塗れだった。それに顔は青白く、まるで死人のようだった。
モーガンの脳裏に、11年前のあの時の父親……サノスとの戦いで、瀕死の重傷を負い、何週間も意識不明だった父親の姿が蘇った。当時はまだ4歳だったので、詳細は覚えていない。だが、父親を失うのではという恐怖だけは鮮明に覚えている。
(パパが……パパが死んじゃう…)
ガタガタ震え出した娘の背中をペッパーは優しく撫でた。

「早く逃げましょう」
ピーターが辺りを警戒しながら、2人を部屋から連れ出した。モーガンに支えられながらジェットに乗り込んだペッパーだが、彼女自身も限界だったので、その場で気を失ってしまった。

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The best thing my dad ever made.⑦

ここに閉じ込められ、丸1日経っただろうか。
それまで細々とだが話ができていたトニーだが、次第にそれすらも困難になってきた。
腹部の傷からの出血は止まらず、部屋中の床は真っ赤に染まっている。
肩で息をし、痛みがあるのに泣き言ひとつ言わないトニーの額に浮かんだ汗を拭ったペッパーは、唇を噛み締めた。
トニーはもってあと半日。あの若者が言ったように、苦しむトニーに何もしてあげることができない。手を握りしめることしかできない。
分け合い飲んでいた水も残り少なくなってきた。
室内もムンっと熱気が漂い始めた。おそらく酸素もじきに尽きるだろう。

「お水飲む?」
虚な目をしたトニーは小さく首を振った。最早彼の瞳の焦点は合っていなかった。ここまで彼を生かしていたのは、ペッパーをここから脱出させる…その思いだけだった。
きっとモーガンが追跡装置に気づいてくれる…。
そうすれば、ローディたちが助けに来てくれるだろう…。
ペッパーは助かる…。
自分はもう助からないが…。
何も見えないし、何も聞こえなくなってきたから……。

青白い顔をし、唇まで青白くなってきたトニーの身体は、段々と冷たくなっていた。
迫り来る死から彼を守るためには、どうすればいいのだろう…。どうすることもできない悔しさから、ペッパーの目から涙が溢れ落ちた。
すると、トニーが震える手を伸ばした。その手を掴むと、彼は声を絞り出した。
「ぺ……ぱ………あい……し…て……」
「私も愛してるわ…」
にっこり微笑んだペッパーに、トニーも笑みを浮かべようとした。
が、心臓を鷲掴みにされたような痛みが全身を貫き、トニーは叫び声を上げた。苦痛に満ちた声に、ペッパーは顔色を変えた。
「トニー!」
トニーの身体が震え、咳き込んだ彼は血を吐き出した。
「トニー!トニー!しっかりして!」
手を握り呼びかけたが、ブルッと大きく身体を震わせたトニーの手から力が抜けた。
「トニー……」
半分開いたトニーの瞳には、もう何も写っていなかった。首元にそっと指を触れたが、何も感じなかった。胸元に耳を当てても、何も聞こえなかった

震える手で瞼を閉じたペッパーは泣いた。
冷たくなり始めたトニーの身体に縋りつき泣いた。
そして覚悟を決めた。トニーと共に、ここで永遠の眠りにつく覚悟を…。
だが、心に浮かぶのは、娘のこと…モーガンのこと。最後に言葉一つ遺すことも出来なかった。
「モーガン…ごめんね…。パパとママは……最期にあなたに…会いたかった……」
トニーの隣に横たわったペッパーは、まだ微かに温もりの残る夫の手を握りしめると目を閉じた。

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The best thing my dad ever made.⑥

シクシク泣き続けるモーガンを宥めながら、ローディはF.R.I.D.A.Y.に映像を分析させたが、犯人の正体はおろか、その後の足取りは分からなかった。
ローディは軍に掛けあい、2人の行方を探した。
ニュースを聞いたピーター・パーカーもやって来て、モーガンのそばにいてくれた。
1日経っても何一つ手掛かりが掴めず、どうすればいいのかと3人が頭を抱えていた時だった。
『ミス・スターク、ミセス・スタークの追跡装置が起動しました』
というF.R.I.D.A.Y.の声と共に、モニター上の地図に青い光が点滅し始めたではないか。
ローディとピーターはすぐに地図を確認した。場所はイギリスの北部を示しており、ローディは何かあればすぐに飛び立てるようにと、飛行機で待機しているハッピーに連絡をした。
(パパとママが…見つかった!)
涙を拭ったモーガンは、ゆっくり立ち上がると、地図を見つめた。
この青い光の場所に、両親はいるのだ。父親は酷い怪我をしているようだし、母親も怪我をしているかもしれない。
一刻も早く2人に会いたかった。会って無事を確認したかった。だが、敵が待ち構えているかもしれない。そうなると、戦ったことなどない自分は、ローディとピーターの足手纏いになり、迷惑をかけるだろう。
家で待つべきか、それとも共に行くべきか、モーガンは一瞬迷ったが、『モーガン、迷った時はあなたの心に従うのよ』と言う母親の言葉を思い出した。
心に従うのならば、選択肢は1つしかない。それは…。

「モーガン、危険だからここで待ってろ。すぐに……」
ローディの言葉に我に返ったモーガンは、ラボを後にしようとしている2人を追いかけた。
「私も行く!私にもアーマーがあるの!」
モーガンの言葉に立ち止まったローディとピーターは、彼女を見つめた。
「え?」
「トニーが作ったのか?」
トニーはモーガンには絶対にアーマーは作らないと常々言っていたのに、一体どういうことなのだろうかと、ローディは目を白黒させ始めた。するとモーガンは、バツが悪そうに頭を掻いた。
「…自分で作ったの。パパとママには内緒で作ってたの」
ポカンとしている2人に了承を得ようと、モーガンは必死で食いついた。
「お願いします!連れて行って下さい!迷惑は掛けませんから!私のパパとママなの!私が助けに行く!」
その決意に満ちた瞳は、父親であるトニーと同じで、彼女の意思は決して曲げられないと感じたローディは、頷いた。
「分かった。危険なことは絶対にしないと約束してくれ。モーガンに何かあったら…俺がトニーにぶっ殺される」
ローディから許可が出たと、モーガンは胸を撫で下ろした。
「うん、約束する」
大きく頷いたモーガンは、F.R.I.D.A.Y.にアーマーを出すよう告げた。

まだモーガンの理想通りのアーマーではないが、レスキューアーマーのようなデザインで、アイアンマンと同じ色合いのアーマーは、15歳の少女が一人で作ったとは思えないような出来だった。
「モーガンが一人で作ったの?!」
感心したように唸ったピーターに向かってモーガンが頷くと、
「凄いな。さすがスタークさんの娘」
と、ピーターはますます感服したが、アーマーの感想は後からにしろとローディに小突かれると、3人は急いで家を後にした。

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The best thing my dad ever made.⑤

夢心地に聞こえていたペッパーの声がハッキリと聞こえ始め、トニーはゆっくりと目を開けた。
「気がついた?」
声の方に視線を向けると、ペッパーが左手を握りしめていた。何度か瞬きをしたトニーだが、身体中に襲いかかる痛みに小さく悲鳴を上げた。痛みは次第に激痛へと変わっていき、息も満足に出来ず、指先ひとつ動かせない。
何が起こったのだろうか…。ペッパーを守ろうとミサイルが直撃して、そのまま地面に墜落した記憶がある。即死しなかっただけマシなのかもしれないと無理矢理考えたトニーだが、いずれにせよ酷い状態に違いはない。

「けが……ないか……」
「えぇ、私は大丈夫よ」
涙の浮かんだ目元を拭ったペッパーは、トニーを安心させるようにニッコリと笑った。
ペッパーが無事だと知り、トニーは安心したように息を吐いた。次に考えねばならないのは、ここから逃げる術だ。
トニーは様子を探ろうと、視線を動かした。するとペッパーが首を振った。
「残念ながら逃げ道はないの。窓もないし、ドアも向こう側から溶接されてる。それに…部屋ごと生き埋めになったみたい」
「さいあくの…きゅうかだ…」
顔を顰めると、ペッパーは調子を合わせるように
「本当ね。2人きりには変わりないけど」
と、肩を竦めた。いつものようなやり取りにトニーは小さく口の端を上げたが、ペッパーは既に逃げることを諦めたのだろう。
「でも、最期の瞬間まで、あなたと一緒にいられるわ…」
と、大粒の涙を溢した。

自分はもう長くもたない。
だが、ペッパーだけでも逃さなくては…と、ぼんやりする頭で必死に考えたトニーは、ペッパーが自分が贈ったネックレスを身につけていることに気づいた。トニーとペッパーとモーガンの3人のイニシャル、そしてリアクターと同じ色のサファイアをあしらったネックレスは、先月のペッパーの誕生日にトニーが贈ったものだ。ペッパーには話していないが、このネックレスには秘密があった。
「ペッパー……」
「どうしたの?」
顔を近づけてきたペッパーに、トニーはゆっくりと左手を伸ばした。そしてネックレスのサファイアに触れた。するとピッっという小さな音と共に、サファイアが青く光り出したではないか。
「え……」
トニーの顔を見つめたペッパーは、すぐさま状況を把握した。
「もしかして………追跡装置を仕込んでたの?」
眉を吊り上げたペッパーに、トニーは気まずそうに瞬きをした。

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The best thing my dad ever made.④

「パパとママ、無事に着いたかな?」
予定では、休暇先のホテルにとっくに到着している時刻なのに、珍しく両親からは連絡ひとつない。
余程2人で仲良くしているのかと思ったモーガンだが、『今から移動するわね』と母親からメールが届いたきりだったため、些か心配になり、電話を掛けてみようかと携帯に手を伸ばした時だった。
ローディから電話が掛かってきた。父親の親友からの電話に、何かあったのかと、不安になりながらモーガンは電話に出た。
「ローディおじさん、どうしたの?」
「モーガン、落ち着いて聞いてくれ…。実は…」
ローディの話に、顔色を変えたモーガンは、その場に座り込んだ。

『トニーとペッパーが行方不明になった』

その言葉が頭の中でぐるぐると回り、身体が震え始めた。
「ど、どうしよう……パパと…ママが………」
ガタガタ震える身体を両腕で抱きかかえたモーガンは、F.R.I.D.A.Y.にTVを付けるよう告げた。するとTVからは速報だと、スターク夫妻が行方不明になったと流れてた。破壊された車と戦いの跡の映像も流れたが、ニュースではそれ以上の情報は何も流れてこない。
チャンネルを次々変えても、同じ映像しか流れてこない。そうこうしているうちに、ローディがやって来た。
泣きながらチャンネルを変えているモーガンに、ローディは声をかけた。
「モーガン…」
振り返ったモーガンは、ローディの姿を見ると、ポロポロと大粒の涙を流しながら抱きついた。
「お、おじさん……パパとママが………」
声を上げて泣き始めたモーガンを、ローディは守るようにぎゅっと抱きしめた。

「F.R.I.D.A.Y.、映像はあるか?」
少し落ち着いたモーガンの背中を撫でながら、ローディはA.I.に尋ねた。
『通信が妨害されていたため、映像はございません。ですが、ミセス・スタークの音声の一部は何とか受信できました』
ローディが聞かせてくれと告げると、ザーーっという雑音が聞こえてきた。そして、爆発音と共に『トニー!!!!!!』というペッパーの悲鳴も…。
『申し訳ございません。これ以上の受信は不可能でした』

間違いない。トニーに何かあったのだ。
それだけはあの音声から判断できた。
ローディは言葉を失ない、モーガンは震え始めた。
「早く…早く見つけないと……パパが…パパが…死んじゃう…」
モーガンは、一刻も早く両親を見つけたかったが、今の彼女には祈ることしかできなかった。

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