ここに閉じ込められ、丸1日経っただろうか。
それまで細々とだが話ができていたトニーだが、次第にそれすらも困難になってきた。
腹部の傷からの出血は止まらず、部屋中の床は真っ赤に染まっている。
肩で息をし、痛みがあるのに泣き言ひとつ言わないトニーの額に浮かんだ汗を拭ったペッパーは、唇を噛み締めた。
トニーはもってあと半日。あの若者が言ったように、苦しむトニーに何もしてあげることができない。手を握りしめることしかできない。
分け合い飲んでいた水も残り少なくなってきた。
室内もムンっと熱気が漂い始めた。おそらく酸素もじきに尽きるだろう。
「お水飲む?」
虚な目をしたトニーは小さく首を振った。最早彼の瞳の焦点は合っていなかった。ここまで彼を生かしていたのは、ペッパーをここから脱出させる…その思いだけだった。
きっとモーガンが追跡装置に気づいてくれる…。
そうすれば、ローディたちが助けに来てくれるだろう…。
ペッパーは助かる…。
自分はもう助からないが…。
何も見えないし、何も聞こえなくなってきたから……。
青白い顔をし、唇まで青白くなってきたトニーの身体は、段々と冷たくなっていた。
迫り来る死から彼を守るためには、どうすればいいのだろう…。どうすることもできない悔しさから、ペッパーの目から涙が溢れ落ちた。
すると、トニーが震える手を伸ばした。その手を掴むと、彼は声を絞り出した。
「ぺ……ぱ………あい……し…て……」
「私も愛してるわ…」
にっこり微笑んだペッパーに、トニーも笑みを浮かべようとした。
が、心臓を鷲掴みにされたような痛みが全身を貫き、トニーは叫び声を上げた。苦痛に満ちた声に、ペッパーは顔色を変えた。
「トニー!」
トニーの身体が震え、咳き込んだ彼は血を吐き出した。
「トニー!トニー!しっかりして!」
手を握り呼びかけたが、ブルッと大きく身体を震わせたトニーの手から力が抜けた。
「トニー……」
半分開いたトニーの瞳には、もう何も写っていなかった。首元にそっと指を触れたが、何も感じなかった。胸元に耳を当てても、何も聞こえなかった
震える手で瞼を閉じたペッパーは泣いた。
冷たくなり始めたトニーの身体に縋りつき泣いた。
そして覚悟を決めた。トニーと共に、ここで永遠の眠りにつく覚悟を…。
だが、心に浮かぶのは、娘のこと…モーガンのこと。最後に言葉一つ遺すことも出来なかった。
「モーガン…ごめんね…。パパとママは……最期にあなたに…会いたかった……」
トニーの隣に横たわったペッパーは、まだ微かに温もりの残る夫の手を握りしめると目を閉じた。