The best thing my dad ever made.⑨

2人はロンドンにある病院に運ばれた。トニーはすぐに手術室に運ばれ、ペッパーも診察を受けた。
ローディとピーターは犯人たちの正体を掴んだと、ハッピーの操縦するジェットで出かけ、病院にはモーガンが一人残っていた。
廊下の硬い椅子にポツンと座ったモーガンは、震える手を膝の上で握りしめた。
母親は大丈夫だ。精神的にはかなり参っているだろうが…。だが、父親は…。救出した時には既に心肺停止状態だった。病院へ搬送する飛行機の中でも…。手術は難航しているのか、手術室にはひっきりなしに医師たちが出入りしている。が、誰も何も教えてくれない。それだけ状況は厳しいということなのだろうか…。
「パパ……」
膝を抱えたモーガンは、涙を拭った。
11年前も、父親は何度呼びかけてもずっと眠ったままだった。先程、飛行機の中で触れた父親の左手は、11年前と同じく、冷たく反応がなかった。
「パパ…お願い……頑張って……」
モーガンには祈ることしかできなかった。

「スタークさん、どうぞ」
ペッパーを診察した医師に声を掛けられ、モーガンは立ち上がった。
「母は大丈夫ですか?」
すると医師は、モーガンを安心させるように笑顔で頷いた。
「お母様は大丈夫ですよ。脱水状態になっているので、点滴中です」
父親のことが心配でたまらなかったが、まずは母親の無事を確認しようと、何度か深呼吸をしたモーガンは、病室に入った。

娘の姿を見たペッパーは、開口一番尋ねた。
「トニーは…パパは?」
「まだ手術中よ」
モーガンも詳しいことは知らないため、そう答えると、
「そう…」
と呟いた母親は、悲しそうに顔を歪めた。
椅子に腰掛けたモーガンは、そんな母親の手をそっと握りしめた。するとペッパーは、その手を握り返すと、娘に顔を向けた。
「モーガン、ありがとう」
母親に礼を言われ、モーガンは首を振った。
「私は何もしてないわ。ママが追跡装置を起動してくれたから、居場所が分かったの」
するとペッパーは、もう片方の手を重ね、娘の手を包み込んだ。
「そんなことないわ。助け出された時、あなたの顔を見た瞬間、ママはすごく安心できたの。あの場にあなたがいてくれて、本当にありがたかったわ。それにね、パパのおかげよ。ママのネックレスに追跡装置を仕込んでいたのも、装置を起動してくれたのも、トニーだから…」
あの閉じ込められていた時を思い出したペッパーの手が震え始めた。
「ママは…何の役にも立たなかったわ。パパが…トニーが目の前で苦しんでいるのに……何もできなかった…」
ポツリポツリと涙が溢れ落ちた。母親の苦しみがヒシヒシと伝わってきたモーガンは、自分も泣きたくて堪らなかったが、グッと涙を堪えた。
「ママがいたから、パパは追跡装置を起動できたのよ。それにママがそばにいてくれたから、パパは頑張れたんだと思うわ。ママ、パパは大丈夫よ。パパはアイアンマンよ。パパは強いんだから。11年前のあの時だって、パパは頑張ってくれたもの。だから大丈夫」
目に涙を浮かべながらも、気丈にも励まそうとしてくれている娘に、ペッパーの心は少しだけ軽くなった。
そこでペッパーは、話題を変えようと、明るめの声で告げた。
「そうだわ。モーガン。ママに隠してたことがあるわよね?」
悪戯めいた笑みを浮かべたペッパーに、モーガンは気不味そうに瞬きした。
「アーマーのこと…よね?ごめんなさい。パパにもママにも秘密にしてて…」
モジモジとしたモーガンは、伏目がちに言葉を続けた。
「アーマーを作ってるって、パパとママに言ったら、反対されると思ったの。だって、パパはママにはアーマーを作ったけど、私には作ってくれないでしょ?きっと危険だからダメだって怒られると思ったの。でも、私、パパみたいになりたいの。アイアンマンになりたいとかじゃないの。パパみたいに、世界の役に立つものを作りたい。だからまずはアーマーを作ってみようって…」
ゴニョゴニョと言い訳する娘の姿は父親そっくりで、ペッパーは思わずクスッと笑ったが、真実を知った時の娘の反応を想像した彼女は、必死で笑いを堪えようと、コホンと咳払いをした。
「知ってたわよ。あなたがアーマーをこっそり作っていることは」
思わぬ言葉に、モーガンは椅子の上で飛び上がった。
「どうして?!!完璧に隠してるって思ってたのに!」
想像通りの反応に、ペッパーは声を出して笑った。
「パパはとっくに気づいてたわよ。あなたがアーマーを作り始めたその日から。ママもパパから聞いたの。モーガンがアーマー作りを始めたって…」
クスクス笑ったペッパーは、呆然としている娘にウインクをした。
「すぐに止めさせた方がいいかしら…ってママは言ってみたのよ。でもね、パパは何て言ったと思う?モーガンのやりたいようにやらせてみようって。もしアーマーが完成しても、戦いの場には絶対に向かわせない。危険な目には絶対に合わせないから、モーガンの好きにさせてやってくれって…」
優しい瞳で娘を見つめたペッパーは、トニーのことを思い返した。
「パパはずっとチェックしていたわよ。もっとこうすればいいのに…って、ママにいつもブツブツ言っていたの。直接モーガンに言えばって言ったら、あの子が助けを求めてくるまでは口を挟まないと決めたって言ってたわ」
まさか父親にバレていたなんて…。F.R.I.D.A.Y.が何も言わなかったのも、父親が口止めしていたのだろう。だが、モーガンには思い当たる節があった。父親のアーマーの設計図を分析すると、やけに分かりやすく解説が付いていたのだ。それは父親が陰ながら助けてくれていたから…。父親は黙ってずっと支えてくれていたのだ。

「そうなんだ」
神妙な顔で頷いた娘に、ペッパーは一際優しい笑みを向けた。
「でも、おかげでママたちは助かったわ。あなたがアーマーを作っていたおかげね。パパもきっとあなたのこと、誇りに思うわ…」
「うん…」
母親に抱きついたモーガンは、祈った。
パパが無事に戻ってきますように…と。

***

それから半日後。
ようやくトニーの手術が終わり、トニーはICUに運ばれた。手術は成功したと告げられ、ペッパーとモーガンはようやく安心することができた。
全身包帯だらけの父親と対面したモーガンは、またあの時の父親を思い出した。が、左手をそっと握ると、父親の手は温かかった。11年前とは違い、温かかった。
(パパは大丈夫…。きっと元気に目を覚ましてくれる…)
そう確信したモーガンは、母親と共に父親に寄り添い続けた。
翌日、ローディとピーターが犯人たちを捕まえたと報告に来た。そしてトニーの付き添いをハッピーが交代してくれることになり、ペッパーとモーガンは病院近くのホテルで暫しの休息を取ることにした。
シャワーを浴び戻ってくると、母親がルームサービスを頼んでくれていた。
「お腹空いたでしょ?」
「うん」
正直、空腹感は覚えていなかったが、いざ食べ始めるとやはり相当空腹だったらしく、2人とも黙々と食べ続けた。
食べ終わったモーガンは、ソファにコロンと横になった。母親と話をしようと思っていたのに、疲れ切っていたモーガンは、そのまま眠ってしまった。
「お疲れ様…」
グッスリと眠っているモーガンの頬を撫でたペッパーは毛布をかけると、小さい頃のように頭にそっとキスをした。

⑩へ・・・

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